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対決 1
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三人は息を潜め、急ぎ宴会の開かれる広間へと向かう。
テオドルの様子は気になったが、詳しく聞いている時間はなかった。
「クラウス陛下にお任せして大丈夫なのか? 疑っているわけではないのだ。ただ少数の手勢ではいくら帝国の威光があろうと、難しいのではと…」
テオドルが不安に思うのも無理はない。
確かに人数では不利だけれど、クラウスは竜だ。
たとえ竜に変身できなくても、剣も魔法も使える。
「なんとかするってクラウスは言ってたから、きっと平気です」
「君は番を深く信頼しているんだな」
「クラウスが大雑把なのは相変わらずですが、騎士団で鍛えなおしたと手紙にありましたから、信頼はできますよ」
その時だった。廊下の角を曲がった先から、男たちの話し声が聞こえてきた。
三人は息を呑み、すぐさま壁際に身を寄せる。
声の主は、バリエ公爵とその取り巻きらしい。
「まさか竜帝が乗り込んでくるとは」
「捕まえて王族と一緒に処刑してしまえばいい」
「無茶だ! あの伝説の竜ですぞ」
「なに、魔法使いの結界内では竜の姿にはなれない。いくら人より優れていようと、こちらは魔物狩りに長けた騎士もいる」
「確かに……護衛を含めても十人程度の手勢。そのうち一人はオメガの妃」
「あのオメガだけは生け捕りにしろ。顔は見えなかったが、美しい金髪のオメガだった。トカゲの番には勿体ない」
そう言って卑しく笑ったのはバリエ公爵だった。
「捕まえましたら、是非私どもにも味見を。オメガは生粋の淫乱と聞きますから、今から楽しみですな」
「あのリュカとか言う貧相なオメガは抱く気が起きなかったが、美姫ならば話は別だ」
「トカゲの死体の前で犯してやるのはどうですかな? 我らでなぶりつくしてやりましょう」
「それは良い余興となりますな。では早速、兵を広間の周囲に潜ませましょう」
聞くに堪えない下品な会話に、リュカは青ざめる。テオドルも眉を顰め、ウルリヒに到っては無言で剣の柄に手をかける。
「待って。いま騒ぎを起こせば、帝国が不利になる」
慌てて彼の腕に縋り、リュカは小声で止めた。主を貶められたのだから怒る気持ちは分かる。
しかしここでバリエ公爵達を殺してしまったら、帝国が一方的に王国の貴族を殺めたと誤解されてしまう。
「堪えてくれウルリヒ」
リュカの意図を察したのか、テオドルもウルリヒを止めてくれる。
「申し訳ございません」
「いや、お前の気持ちは良く分かる。あのような者が公爵など王国の恥だ。すまない、リュカ殿」
「謝らないでください。それと僕のことはリュカでかまいません」
「では私の事も、『殿下』ではなく名で呼んでくれ。陛下の番であるなら、君は皇妃なのだろう? 問題はあるまい」
「それはそうかも知れませんけど……」
王太子自らの申し出に、リュカは慌てる。
リュカ自身、まだ皇妃だという自覚がないのだ。
「お二人とも、バリエどもは行ってしまいました。クラウス陛下の元へ急ぎましょう」
ウルリヒに促され、リュカとテオドルは再び歩き出した。
テオドルの様子は気になったが、詳しく聞いている時間はなかった。
「クラウス陛下にお任せして大丈夫なのか? 疑っているわけではないのだ。ただ少数の手勢ではいくら帝国の威光があろうと、難しいのではと…」
テオドルが不安に思うのも無理はない。
確かに人数では不利だけれど、クラウスは竜だ。
たとえ竜に変身できなくても、剣も魔法も使える。
「なんとかするってクラウスは言ってたから、きっと平気です」
「君は番を深く信頼しているんだな」
「クラウスが大雑把なのは相変わらずですが、騎士団で鍛えなおしたと手紙にありましたから、信頼はできますよ」
その時だった。廊下の角を曲がった先から、男たちの話し声が聞こえてきた。
三人は息を呑み、すぐさま壁際に身を寄せる。
声の主は、バリエ公爵とその取り巻きらしい。
「まさか竜帝が乗り込んでくるとは」
「捕まえて王族と一緒に処刑してしまえばいい」
「無茶だ! あの伝説の竜ですぞ」
「なに、魔法使いの結界内では竜の姿にはなれない。いくら人より優れていようと、こちらは魔物狩りに長けた騎士もいる」
「確かに……護衛を含めても十人程度の手勢。そのうち一人はオメガの妃」
「あのオメガだけは生け捕りにしろ。顔は見えなかったが、美しい金髪のオメガだった。トカゲの番には勿体ない」
そう言って卑しく笑ったのはバリエ公爵だった。
「捕まえましたら、是非私どもにも味見を。オメガは生粋の淫乱と聞きますから、今から楽しみですな」
「あのリュカとか言う貧相なオメガは抱く気が起きなかったが、美姫ならば話は別だ」
「トカゲの死体の前で犯してやるのはどうですかな? 我らでなぶりつくしてやりましょう」
「それは良い余興となりますな。では早速、兵を広間の周囲に潜ませましょう」
聞くに堪えない下品な会話に、リュカは青ざめる。テオドルも眉を顰め、ウルリヒに到っては無言で剣の柄に手をかける。
「待って。いま騒ぎを起こせば、帝国が不利になる」
慌てて彼の腕に縋り、リュカは小声で止めた。主を貶められたのだから怒る気持ちは分かる。
しかしここでバリエ公爵達を殺してしまったら、帝国が一方的に王国の貴族を殺めたと誤解されてしまう。
「堪えてくれウルリヒ」
リュカの意図を察したのか、テオドルもウルリヒを止めてくれる。
「申し訳ございません」
「いや、お前の気持ちは良く分かる。あのような者が公爵など王国の恥だ。すまない、リュカ殿」
「謝らないでください。それと僕のことはリュカでかまいません」
「では私の事も、『殿下』ではなく名で呼んでくれ。陛下の番であるなら、君は皇妃なのだろう? 問題はあるまい」
「それはそうかも知れませんけど……」
王太子自らの申し出に、リュカは慌てる。
リュカ自身、まだ皇妃だという自覚がないのだ。
「お二人とも、バリエどもは行ってしまいました。クラウス陛下の元へ急ぎましょう」
ウルリヒに促され、リュカとテオドルは再び歩き出した。
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