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しおりを挟む「我が王家はグラッセン帝国の力を借り、新たな道を歩もうと思う。不甲斐ない王ではあるが、どうか信じ支えて欲しい。そして下らぬ争いを起こした者、民を虐げた者。その心に覚えがあるなら、頭を垂れよ」
澄んだ声が広間に響き渡る。
威厳のあるテオドルの声に、多くの貴族や兵士がその場に膝を付き項垂れた。
アルファの持つ威厳だけでなく、王としての覚悟が人々を動かしたのは明白だった。
だがごく少数だが、テオドルに剣を向けたままの騎士もいる。
「オメガに逃げられた偽アルファのくせに! 国民を謀った罪は消えないぞ!」
苛立ちを隠さないバリエ公爵の怒号が飛ぶ。
その声に、再び場の空気がぴんと張り詰めた。
「それは僕に運命の番がいたから」
リュカは怯むことなくバリエに向かい、皆に真実を受け止めるように言葉を返す。
しかし追い詰められた公爵は聞く耳を持たない。
「私は知っているぞ! オメガは項を噛まれていなければ、たとえ運命の番がいても手込めにすることは可能だ。それをせずテオドルは、このオメガを前にして背を向けたと聞いている!」
その叫びは暴露というよりも攻撃だ。
「…腐っても王族の血が混じっているか」
クラウスが呟く。
アルファの声にも動じないのは、バリエ公爵家には過去何人も王家の姫が降嫁しているからだ。
広間にいた者たちの視線が一斉にテオドルへと集まる。
テオドルは唇を噛みしめていた。怒りか、悔しさか、それとも別の感情か。
肩を震わせて、しかし何もバリエに言い返そうとしない。
(どうして思い人の事を言わないの?)
リュカの胸が焦りでざわめく。
彼の部屋に忍び込んだときから、テオドルの様子は変だった。でも公の場に立てば、きっと真実を話すだろうと思っていたのだ。
彼が沈黙する理由が分からない。
「全くもって、人とは面倒な生き物だ。本能に従えばよいものを」
低く呟いたその声とともに、クラウスの手が剣にかかる。
静かに、だがはっきりと、銀の刃が鞘を抜ける音が響いた。
「お前の判断で血が流れる。どうするのだ、新たな王よ」
その言葉は、テオドルに対する問いであり、試練でもあった。
「そのトカゲもろとも偽りの王を殺せ!」
バリエの声に扇動され、クラウスへと迫る騎士たちが少数ながらも現れる。
「クラウス…」
「力を見せれば簡単なのだが。結界が邪魔だ。リュカ、俺の側から離れるなよ」
冷静に状況を見極めながら、クラウスがリュカを庇うように片腕で抱き込む。
その時だった。
奥の扉が開き、複数の人影が走り込んでくる。
灰のようなローブを羽織った魔法使いたちだった。その中の一人を、竜騎士が背負っている。
白髪をひとつに結った老齢の男がリュカの前に下ろされると、深々と頭を垂れた。
「あなたがリュカ殿……アレオン男爵家のご子息でいらっしゃいますね? 母上の名はレヴィで相違ありませんな?」
「はい」
戸惑いつつ頷くと、老魔法使いは顔を綻ばせた。
「魔法使い一同、あなたの命に従いましょうぞ。この方の母上は王都を覆う結界を作った御方。若くして城を辞するまで、我らを導いた偉大なる魔法使い。リュカ殿のお言葉はレヴィ様の言葉と思え」
(……お母さん、王都で働いていたのは知ってたけど。そんなすごいお仕事したなんて初めて聞いた)
母は父に一目ぼれして、男爵領に押しかけたとだけ聞いていた。
「クラウス、どうしたらいい?」
「では結界を解いてもらおう。こればかりは、竜の力を持ってでもすぐに壊す事ができない」
「えっと、じゃあ結界を解いてください。お願いします」
リュカが声を掛けると、魔法使いたちは円陣を描くようにして並び、静かに呪文を唱え始めた。
しばらくして、遠くでガラスが砕けるような音が響いた瞬間――クラウスの周囲で風が渦を巻くように立ち上った。
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