いつかあなたに刃を向けるとき

泥んことかげ

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第1章【咲き誇れ儚き命の灯火よ】

第20輪【いつだってあなたが私を強くする】

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 鬼灯がここへやって来る以前は、周囲にある村の人口は、現在の倍以上も居住していた。

 森の中にある複数の村は、〝花の都〟から遥か遠方に位置し、花の守り人の〝重要監視下〟から外れている。

 それ即ち、

 討伐出来ずに狩りそびれた〝植魔虫等が多く生息〟――――いわば無法地帯と呼べる場所。

 そんな状況下で、風の知らせにより森の奥では『孫と暮らす老人が植魔虫と渡り合っている』……と言う情報も聞く。

 老人……もとい〝雅流風がるふ〟の元には、各村から3人一組の交代制で頼み込む事になっていた。

 しかし、それは多くの犠牲者が出る原因の1つとなる。

 村人達は藁にもすがる思いで『どうか、私達を救ってください』と懇願し、雅流風がるふに幾度と無くも助けを求め続けた。

 しかし、彼にも生活があり幼い桜香を背負いながら

『今日も来たのか!?、いい加減にしろ、出ていけ!!』と、鬼の形相で追い返えされる事が日常茶飯事の出来事。

 その都度『今日も駄目だった。明日は○○が行ってくれ』と、言わなければいけない。

 力のない女子供は問わず、平等かつ冷酷な判断で順番は回っていた。

 村から出る度に帰りの道中で、植魔虫の餌食となる者も少なからず存在しており、気が気ではなく。

 もはや、雅流風がるふの元へ行くのは死刑宣告にも等しく、いつしか誰も頼ろうとはしなくなった。 

 自分の番がいつ来るか?
 今日は誰が亡くなったのか?
 家族は?生活は?一体どうなってしまうのか?

『次は、自分が殺られる。寄生される位なら、自害するしか方法はないんだ……』

『平穏や自由は、元から無かった。異形となって人を襲うなら、せめて人のまま死にたい』

 耳を澄まさずとも乾いたため息と共に、そんな声もしばしば聞こえる日々。 

『助けて下さい。お願いします!!』と、言われる度に怒鳴り散らす雅流風がるふの言い分は、至極正しいものだった。

 『明日をも分からぬ世界の中で、一体誰が?』

桜香おうかはまだ幼い……今、家族は儂一人だけだ。この子を失う位なら、他人をも平気で切り捨てる覚悟じゃ!!』

 みなみな――――誰かの為に生きている事を自然と思っている。

 視界に映る生命だけを救っても、知らぬ所では救えない命があり、感情任せの行動は自己満足でしかない。

 対抗手段が無く非力な村人達は、結束を固める事で、独自の生活環境を整えながら日々の生活にいそしむだけ。

 だが、〝花輪刀〟の持たない人間等、自由に漂う〝塵屑えさ〟も同然。

 必死の抵抗虚しく、無情にも植魔虫の襲撃に合うと、徐々に村数むらすうは減少の一途を辿っていく。

 寝ても覚めても生きた心地がしない――――正に〝一寸先は闇〟。

 どんな凄惨な環境でも、自分の命は自分で守らなければいけない。

 闘う術を持たぬ現状では、精神的にも肉体的にも限界を越えて疲弊していくばかり。

 人々の恐怖や怯え苦しむ様が、絶望の声となったある時――――

 一人の女性が村へとやって来た事により、一筋の光明が小さいながらも、よどんでいた心を明るく照らす。

 その者、自身が産まれた故郷を守るために『〝花の守り人〟となって舞い戻ってきました』と、答えた。

 名を〝浜悠はまゆう〟と言い、〝百合ゆり〟の様に白い内巻きな髪と同色の瞳。

 それに加えて、一切の曇りやけがれのない笑顔が特徴的な――――青葉の姉だった。

 花の守り人としての位は、最高位の〝四季折々しきおりおり〟と準最高位の〝花鳥風月かちょうふうげつ〟を除く、次点の〝未蕾めぶき〟である。

 真の実力者しか持てない〝花輪刀かりんとう〟に成り得る刀――――

 柄から刀身の半分は色鮮やかな〝みどり〟に染まり、そこから切先までは淡く輝きを放つ白。

 次代の最高位候補である〝未蕾刀《めぶきとう》〟を所持していた。

 1度でも姿を見た者は、素人目でも〝何れ花を咲かすとなる日もそう遠くない〟……と感じる程。

 〝人を守るための誇り〟に加えて、気高き美しさと心の強さが彼女には宿っていた。

 その実力は折り紙付きであり、次々と〝単身〟で植魔虫を討伐していく。

浜悠はまゆう〟の帰還と共に、村人達は安堵と普段の生活を取り戻しつつあった。

 帰郷した彼女の活躍により徐々に日常が戻りつつあるのに対して、少数派だが良く思わない人間も少なからずいる。

 植魔虫に怯えたり命を落とす事態も減り、血を流す機会が減った事が主な原因だった。

 やり場のない怒りや、当たり所のない気持ちを抱える村人達。

 必然的に〝守られている〟と言う、認識が薄れ始めていく。

 そのせいか誹謗中傷を伴う陰口は、日常茶飯事に行われていた。

 同じ村内の互いに見知った顔でありながら、故意で本人に聞こえる様な声でだ。

 村長の前では口を慎みつつも、他の人目や老若男女は一切問わない。

『あぁ、村長の孫娘か。数年振りに戻ったと思えば、〝花の守り人〟になった位で何を偉そうに……』

『この辺り一帯を1人で守る何て絶対に無理よ。いざとなったら、自分の命欲しさに切り捨てるに決まってるわ』

『刀の所持を認められているからこそ、〝暴徒〟になったら恐くて外も歩けないな』

 平和ボケに慣れ〝安全圏〟で胡座あぐらをかいた人間は、本当に好き放題に言い散らかす。

 他より秀でた数少ない才能の持ち主は、多数派である周囲の理解を得にくい。

 帰郷以前よりも被害人数を最小限に抑えながらも、浜悠への非難は鳴り止まぬ声となって耳に届く。

『大した実力もないのに、口だけのホラ吹きも良い所だわ。だからっていい気にならないことね』

『どうせ守ってもらうなら、準最高位の〝花鳥風月〟が良かったぜ!!』

『あぁそうだな。小娘如きの中途半端な実力じゃ、明日も生きられるか分からねぇからな?』

 虚ろな目でそう言った人間達は、決まって昼夜問わず酒を飲み干し、目的なく1日を過ごす。

 働きもせず愚痴を四六時中溢し、貴重な作物を私欲がために消費するばかり。

 まるで、己が世界の中心であるかのように、大手を振るう日々の繰り返しだった。

 それでも村を守るための努力を惜しまない浜悠は、文句の1つも口に出さず心穏やかに日々の〝狩り〟に励む。

 〝植魔虫〟が活発になる朝では、温かな陽光を待たずして誰よりも早く起き。

 月夜の森が静まり返った時でさえ、〝夜型の個体〟を探しに森中を駆け。

 生憎の荒天になろうとも一睡もせず、食糖も口にしない日等ざらにあった。

 疲弊しきった体に鞭を打ちながらも、休む暇なく〝他のため〟に命を賭す日々。

 それに伴い、生傷絶えぬ肉体と磨り減る精神と、幼い弟を一人にする後ろめたさ。

 まだ齢16前後の少女にかかる〝命〟の重圧は、淡々と過ごす人々には誰も計り知れない。

 想い半ばに救えない命あれば、自身を攻め立てる事も心内であった。

 私に〝才能〟がないために――――
 私に〝勇気〟がないために――――
 私が〝力不足〟がために――――
 私が〝帰ってきた〟がために――――

 百合の様な白き髪色は、極度の疲労と緊張で、その美しい輝きを失いつつあった。

 自宅へ帰るのは昼夜問わずの不定期であり、〝家族とも顔を合わしたのはいつ振りか〟……と考える事もしばしば。

 まだ幼い弟は村長である祖父に見守られながらも、姉の知らないうちに元気に成長をしている。

 初めて顔を見た日から、この世の癒しを凝縮した様な弟の虜になり、両親亡き後も頼りになるただ一人の姉であり続けた。

 一度ひとたび手の平をみれば、刀を握り続けたせいで岩の様に皮膚は堅く。

 とてもじゃないが〝理想〟とは駆け離れている

 もし、願うならば――――命懸けの戦場で刀を振るわない〝普通の女性〟でありたかった。

 だが、それは叶わぬ夢であり〝花の守り人〟としての責務は、己を犠牲にしてでも他を守る事。

 どんなに辛く、苦しくとも、心の拠り所は実の弟である〝青葉〟の存在が大きく。

 体の傷は治癒せずとも、病んだ心を少なからず癒してくれた。

 弱い部分を外へらけ出す事もせず、弟の青葉の前では笑顔を絶やすことはなかった浜悠。

 彼女の原動力……全ては生まれ育った地を守りたいがためでしかなかった。

 ☆
 
 毎日変わり栄えのない天上から、温かな陽が顔を出す。

 森を優しく吹き抜けた〝風〟は、まるで悪戯っ子の様に予想できない動きをしていた。 

 ふと、耳を澄まして聞こえてくるのは、今日と言う1日の始まりを告げる家畜達の鳴き声――――

〝牛〟の低くうなる物から、〝豚〟の様に鼻を鳴らす物。

 いては、喉を使う〝鶏〟の甲高い声まで……三重奏となる音が奏でられている様。

 視界ボヤける眠気眼を擦りながらも、敷地奥に位置する住まいへと向かう道中。

 家畜小屋前を通りすがる際に、愛想良く手を振りながら話し掛ける。

『やぁ、今日も伸び伸び元気かいみなの諸君!?御待ちかねの私が帰ってきたよっ!』

 常に笑顔満点で、〝御転婆娘おてんばむすめ〟顔負けの、元気一杯に振る舞う浜悠。

 どんなに辛いことがあったとしても、いつだって決まってする恒例行事。

 〝植魔虫狩り〟が一段落して帰って来た際に、必ずしてきた彼女なりの愛情表現である。

 久方振りの浜悠を見た家畜達は、いつも以上に元気良く動き回り声を張り上げた。

 一言で表せば〝懐いている〟――――否、が正しい答えである。
 
 しかし……意地悪で嫉妬深い人間は、動物と違ってそうはいかない。

 付近の住民は、音に釣られて〝植魔虫〟が来ないか、鬼の形相で室内から外を見回す。

 何処からともなく、鳥のさえずりにも負けそうな小さな声で

『たまに帰ってきたと思えば家畜は騒ぐし、おちおち眠れもしないから本当に迷惑だわ』

『いっその事、居ない方が平和だったりしてな……』

 悪口が聞こえてないと思っているのか、次々と出る罵詈雑言の雨嵐。

 当の本人は〝我関せず〟なのか……
 全くもって動じず臆せず、常に笑顔じぶんを貫き通す。

 実は――――一字一句を洩らす事なく〝しっかり〟〝ちゃっかり〟聞こえていた。

(あ、いつも笑顔で挨拶してくれる彼処の夫婦、私の悪口言ってるな~。もう、何回目だろうね?)

 心に溜まった物を吐き出す事はなく、その場でしゃがみこむ。

 慣れた手つきで腰袋から何かを取り出して、それらをゆっくりと地面に転がす。

 開かれた手からは、多彩な色が互いにぶつかり合いながら、小さく広がる木の実の姿だった。

『ここの人は、正直じゃなくてあまり好きじゃないな。けど、この森には良い子達も居る。さぁ、皆おいで……?』

 すると直ぐ様に、平等の優しさを振り撒く彼女の元へと、森に生息する小動物達が
 足元に集まり出す。

 小鳥や栗鼠りすと言った小さな生き物から、猪等の大きめの動物まで周りを囲うように沢山やって来た。

『今日は少ししか持ってこれなかったけど、取り合わないで食べなね~?!』

 その一言で、小動物達を含む〝成体おとな〟は後方へと下がる。

 まだ未熟な子達は我が子を思う親に後押しされて、瞳を輝かせながら餌へとありつく。

 仕舞いには、服の裾を引っ張られたり複数匹も体に登られ、追い駆けっこをして遊び場にされる始末。

 狩りから帰ってきて早々、疲れた顔を微塵も感じさせる事なく戯れ始めた。

 自分の周りへと集まる小さな背中を、頬杖をついてとても嬉しそうに眺める浜悠。

〝こんな世界〟ながらも、人と違って自由奔放なその姿に対して、ふと……羨ましくなったのか

『はぁっ……。本当にこの子達は、〝汚れが無くて〟可愛いなぁ~』

 と、頬を緩ませながら至極の笑みを浮かべた。

 両者の間で一切の言葉は通じずとも、〝感情〟は表情と〝声色〟で十二分に伝える事が出来る。

 浜悠を中心に、小動物達の嬉しさを〝行動〟で、将又はたまた〝声〟で

 まるで〝心が1つ〟になったかの様な、優しくて温かな時間が、辺りを包み込むように流れていった。



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