オー・マイ・メサイア ~バタフライ~

ほだか

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11.自由なんかいらない

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 気持ちの落ち着いた樹が渡辺から体を離し、二人は食事を始めた。

「冷めちゃったね。ごめん」
「樹のせいじゃないだろう。レンジで温めようか?」
「大丈夫」
「樹。先日も言ったけど…お互い一人で暮らした方がいいと思う」
「え?」
「同じ建物内に住むと言うのはどうだ?そうすれば樹が必要な時に助けてやれる」
「ヤダよ!」
「別々に暮らしても、俺の気持ちは変わらない。樹を想う気持ちは誰にも負けない」
「じゃあ、このままでいいじゃん」
「縛りたくないんだよ。蝶の羽をもぎたくない」

 自由でいたいのは確かだ。だけど、それは渡辺が傍にいるというのが大前提だ。
 渡辺が望むならセフレなんかいらない。ヌードも撮らない。

 でも…渡辺さんが僕以外の人を好きになっちゃうことは…ないのかな…

「渡辺さん…彼女いたじゃん」
「あれは…自分の気持ちを樹から反らしたかったから。でも俺の中で一番は樹だから…いつも相手に愛想を尽かされた。男とも付き合ったことがあるんだぞ」
「そうかもとは思ってた」

 最初に抱かれた時、初めてとは思えなかったから。

「ただ、男と付き合っていると、よけいに樹を思い出して…樹が誰かとこうしていると思うと耐え切れなくて…縫うほど深く足を切ってしまってからは、マズいと思ってやめた」

 あの傷は…その時の傷だった。
 樹は胸が切られるような痛みを感じた。

 渡辺さんは何度こんな思いをしてきたんだろう…

「こんな恐ろしい男と一緒にいたら、羽どころか触覚も足ももがれてしまうぞ。樹はまだ自由に飛び回っていたいだろう。いつか…そうだな…あと20年もして樹が飛べなくなったら、俺が迎えに行く。そしたら俺だけのものになってくれ」
「あと…20年も待つの?」
「20年でも30年でも40年でも待つさ。だから、一度じっくり考えてみろ」

 どんなに考えても結論は同じだろうと思いつつも、黙ってお粥を食べていると樹のスマホが鳴った。

「もしもし」
『樹?今日、来いよ』

 セフレの隆志からだった。何でこんな時に…と、樹は隆志を恨んだ。

「それは…ちょっと…」
『1ヶ月以上、俺としてないじゃん。樹も俺のが欲しくない?』
「野村隆志!」

 渡辺が樹の手からスマホを奪った。

「樹はもうおまえとは会わない。樹は俺のものだ。誰にも触らせない。もう電話してくるな!」

 そのまま通話終了ボタンを押す。

「渡辺さん…」
「俺と暮らすとこういうことになる。それでいいのか?」

 再び電話が鳴った。

「電話するなと言っただろう!今度かけてきたら、家に押しかけてぶった切りにしてやる。おまえの住所は割れてるからな」

 再び電話を取った渡辺が、最後は地を這うような低い声で言って電話を切った。

「よく考えろ。俺はもう自分の衝動を抑えられない。待ってるから。何十年でも待つから、今は自由でいた方がいいだろう」

 そう言って渡辺が席を立つ。

「おかわりいるか?」
「えっ、うん」
「野村に電話して、さっきのは同居人の冗談だと言ってやれ」

 苦笑を浮かべた渡辺はキッチンへ消えた。

 …渡辺さんは何十年でも待つと言ってくれる…でも…

 でも自分は待てない。今すぐにでも渡辺に抱かれたい。愛されたい。一緒にいたい。
 はっきりしているのは渡辺と離れたくないということ、職業の転換を迫られているということ、そして誰かに愛されたいということ。
 それなら渡辺と暮らせば2つは解決できる。

 “愛されてもいないのに、抱かれることがどんなに切ないことか知らなかった”

 他の誰と寝ても心が満たされなかった。だから満たされたくて、ひたすら体を求めた。だけど愛されていなければ切なくなるだけだったんだ。
 愛してもいない相手と寝ても切なくなるだけだったんだ。

 …勝の言葉は正しい。

 渡辺に抱かれて満たされた気持ちになったのは、幸せで涙が出たのは、意識が飛ぶほど気持ちよかったのは、自分が渡辺を愛してるから。渡辺が自分を愛してくれているから。
 それなら…セフレと遊ぶ自由なんかいらない。

 キッチンから戻ってきた渡辺がお粥の器をテーブルに置いた。その目の前で樹がスマホを手に取る。
 一瞬、渡辺の表情が強張った。

「もしもし」
『樹!何だよ、あれ。おまえ変なヤツに監禁されてるのか!?』
「違う。そうじゃなくて、さっきのは本当だから。僕はもう隆志とは寝ない。っていうか、たった一人の人を見つけたから。自分が何より欲しいものを見つけたから。だからもう隆志とは会わない。電話も出ないから」
『おい!樹!』
「隆志も気持ちが満たされる相手を早く探して」

 樹は電話を切り、隆志の番号を着信拒否リストに入れてアドレス帳から消した。

「あとの二人は、僕から電話しない限り連絡してこないから」
「樹…」
「渡辺さん。僕、渡辺さんが好き。だから束縛していいよ。束縛されたい」
「後悔するぞ」
「先のことは分からないけど、はっきりしてるのは…僕が渡辺さんを好きってことと、ギュっと抱きしめて欲しいってこと」

 満面の笑みでそう言われ…渡辺は力いっぱい樹を抱きしめた。



Fin

オー・マイ・メサイア ~バタフライ~ その後に続く
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