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第一夜 吹雪の向こう
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ディーゼル機関車の汽笛が白銀の雪の舞う平原にこだまする。
私は今、とある求人広告を観て、そこへ向かっていた。
求人広告は新聞の三面に掲載されており、内容はこんな感じだ。
『書生求む。月給300円(今の価値に直すと300万円)。求人元、鮎川家』
今の時代、日本は第二次世界大戦中であり、近々には真珠湾と呼ばれる所へ攻め込もうとしている。
私、松下は戦争の徴兵を免れる為に書生──つまり大学生となり、そして機関車に乗車して、雇い主の下へ向かっている。
雪はますます酷くなる一方で、まるで吹雪だった。
駅に着くと私は雇い主の鮎川家を目指して歩いた。
足首までどっぷり浸かってしまう程に降り積もった雪の冷たさに、今頃は爪先が霜焼けになっているのだろうな──と考えた。
鮎川家。戦争が始まる前は資産家として有名だった一家だが、何故か最近になり行方をくらましたという。
そんな一家が書生を募集している。怪しいとは思ったが、一方で美しい女達が待っていると聞いて考えは軽く吹き飛ばされてしまった。
彼女らの住む館は『黒猫館』という俗称がついている。
私が体験してしまった耽美的な物語の幕は、黒猫館の門に来た事で始まりを告げる。
門に固く閉ざされた洋館。
黒猫館と呼ばれる館の庭では可愛げのある少女が黒猫と共に雪と戯れている。
私が門に手をかけると黒猫が気付いて威嚇するような鳴き声を上げた。
それに気付いて、少女も門の前に佇む私の姿を観て近寄ってくれた。
「どなたでしょうか?」
「松下直樹です。こちらの鮎川家の出した求人広告を拝見して参りました」
「まぁ、それはご苦労さまです。今、門を開けますね」
淡い桃色の薔薇が描かれたドレスの女性が待ちかねたように門を開けてくれ、そして客人が来た事を告げる為に洋館へと導いてくれた。
黒猫館の言う通り、真っ黒な煉瓦でおおわれた二階建ての館だ。
中へ入ると、まるで時が止まっているような錯覚に陥る。
その洋館の空気は、まるで俗世を知らない世界のような空気に包まれている。
正面には二階へ上がる為の階段があり、左右対象に廊下が繋がっていた。
その二階の廊下から、雇い主であろう奥様が姿を現す。紫色の裾が長めのドレスを身に纏い、手には華美な扇子を持ち、艶やかに私を迎えてくれた。
「ようこそ、鮎川家へ。わたくしはこの館の主、鮎川直美と申します」
「初めまして──。松下直樹です」
「松下様。歓迎致しますわ。どうぞ、奥へお揚がりになって?」
黒髪の長髪が風もないのに艶やかになびいた。
そうして私はこの黒猫館へ住み込みで、働く事になった。何の仕事かは解らない。解らないが、この館には男性の姿は見えない──。
まさかとは思うが、夜の相手でもさせられるのであろうか?
個室を与えられ、そこで列車の旅の疲れを癒していた。
この黒猫館にいる人達は、私を除くと、女主人の直美様、そして恐らく娘であるあの少女に、先程、紅茶を届けにきたメイドの女性。
一体、私は、何をここでするのだろう。
一月で300円も貰えるその仕事とは一体──。
「失礼致します」
ドアをノックして入って来たのはメイドの女性。黒髪のショートに、潤んだ黒い瞳が男の保護欲を刺激する姿だった。
服装はメイド服と呼ばれる、黒のベースに真っ白なエプロン。エプロンの下にはフリルがあしらわれた可愛らしい服だ。
「松下様。奥様がお呼びになっております。私の後に着いてきて下さい」
廊下に出ると館の薄暗さを感じる。
照明という照明はなく、メイドが手に持つローソクの灯りだけが前を照らす。
このような館ならシャンデリアを飾ることなど造作もないのに、何故、それをしないのだろうか?
やがて、女主人の個室に案内された私はそこに入るよう促される。
奥様はゆったりとしたバスローブを纏い、リラックスした感じでソファにて座って、酒を楽しんていた。
「松下様。あなたをここに連れてきた理由を知りたいのではなくって? 私達も意味もなくあの求人広告を出した訳では無いから」
「仕事の内容の説明でしょうか?」
「ええ。その前にこのワインをお飲みになって? とっても美味なワインですのよ?」
グラスに注がれた赤い液体を私は飲んだ。
こ、これは──。
美味しい──とても舌触りの良いワインだ。
「それはわざわざ西洋から取り寄せた美酒ですのよ?」
「何杯でもいけそうですね──」
奥様は同じソファに私を座らせて、美酒を馳走してくれた。
三杯程、飲んだ時に──何か身体が熱く感じた。内側から熱が炎のように湧き、下半身は焼け付くような興奮に晒されている──!
「酔ってきた様子ね──。この黒猫館でのあなたの仕事を教えてあげる──」
「この私を愉しませてくれる事。あなたの素敵な身体を存分に使ってね──」
私はしどろもどろで答える。
「そ、そんな……! 私が奥様を愉しませるなんてとても──!」
「そうかしら? 顔が真っ赤になって、息も荒いですわよ? 私を抱きたくてウズウズしていらっしゃるのね」
ソファの上で迫られる私は、ワインの効能なのかは解らないが、身体が言う事を聞かない状態だった。
逃げようにも、異様に身体が重くて、動けない。なのに下半身だけは異様に興奮している。
奥様はそこで紫色のバスローブを脱ぎ捨てる。
豊満な身体が一糸まとわぬ恰好で露わになっている。
「松下様──!」
次は口を貪るように重ねて唾液を絡める。
舌と舌を絡ませ、その手は私の纏う洋服を脱がしていく。
この身体に触れるべきなのか、どうなのか、解らないままに、上着を脱がされ半裸になってしまった。
奥様は手馴れた手付きで盛り上がる下半身へ擦るように手を絡め、更に欲望を刺激してくる──。
そのまま、ズボンを履かせたまま、私自身を取り出すと奥様は熱烈な奉仕をする。
魅惑的な唇で含み、舌で細かく、緩急を付けて裏側を舐めたり、袋を舐めたり、激しく私を愛した。
だ、駄目だ──。
抗えない興奮が、快楽が、私を支配していく──。
有耶無耶な微睡みの中で感じていたのは、あの奥様が私のそれを花びらへ入れて、淫らに腰を振って、私の身体の上で踊るように、欲望を晴らす女性がいた──。
奥様の淫らな言葉も、遠くに聞こえる。
「アアッ、あハァ! イイッ! いいのぉ! これ! 硬くて、衰える事を知らないわ! もっと──突き上げて──!」
ほぼ一晩中、私は奥様の愛欲の罠に嵌まり、瞳に映っていたのは、奥様の素敵な肌の色だけが焼き付いていた。
だが、この黒猫館での出来事はこれで終わった訳では無い、むしろ──はじまりに過ぎないのだ。
私は今、とある求人広告を観て、そこへ向かっていた。
求人広告は新聞の三面に掲載されており、内容はこんな感じだ。
『書生求む。月給300円(今の価値に直すと300万円)。求人元、鮎川家』
今の時代、日本は第二次世界大戦中であり、近々には真珠湾と呼ばれる所へ攻め込もうとしている。
私、松下は戦争の徴兵を免れる為に書生──つまり大学生となり、そして機関車に乗車して、雇い主の下へ向かっている。
雪はますます酷くなる一方で、まるで吹雪だった。
駅に着くと私は雇い主の鮎川家を目指して歩いた。
足首までどっぷり浸かってしまう程に降り積もった雪の冷たさに、今頃は爪先が霜焼けになっているのだろうな──と考えた。
鮎川家。戦争が始まる前は資産家として有名だった一家だが、何故か最近になり行方をくらましたという。
そんな一家が書生を募集している。怪しいとは思ったが、一方で美しい女達が待っていると聞いて考えは軽く吹き飛ばされてしまった。
彼女らの住む館は『黒猫館』という俗称がついている。
私が体験してしまった耽美的な物語の幕は、黒猫館の門に来た事で始まりを告げる。
門に固く閉ざされた洋館。
黒猫館と呼ばれる館の庭では可愛げのある少女が黒猫と共に雪と戯れている。
私が門に手をかけると黒猫が気付いて威嚇するような鳴き声を上げた。
それに気付いて、少女も門の前に佇む私の姿を観て近寄ってくれた。
「どなたでしょうか?」
「松下直樹です。こちらの鮎川家の出した求人広告を拝見して参りました」
「まぁ、それはご苦労さまです。今、門を開けますね」
淡い桃色の薔薇が描かれたドレスの女性が待ちかねたように門を開けてくれ、そして客人が来た事を告げる為に洋館へと導いてくれた。
黒猫館の言う通り、真っ黒な煉瓦でおおわれた二階建ての館だ。
中へ入ると、まるで時が止まっているような錯覚に陥る。
その洋館の空気は、まるで俗世を知らない世界のような空気に包まれている。
正面には二階へ上がる為の階段があり、左右対象に廊下が繋がっていた。
その二階の廊下から、雇い主であろう奥様が姿を現す。紫色の裾が長めのドレスを身に纏い、手には華美な扇子を持ち、艶やかに私を迎えてくれた。
「ようこそ、鮎川家へ。わたくしはこの館の主、鮎川直美と申します」
「初めまして──。松下直樹です」
「松下様。歓迎致しますわ。どうぞ、奥へお揚がりになって?」
黒髪の長髪が風もないのに艶やかになびいた。
そうして私はこの黒猫館へ住み込みで、働く事になった。何の仕事かは解らない。解らないが、この館には男性の姿は見えない──。
まさかとは思うが、夜の相手でもさせられるのであろうか?
個室を与えられ、そこで列車の旅の疲れを癒していた。
この黒猫館にいる人達は、私を除くと、女主人の直美様、そして恐らく娘であるあの少女に、先程、紅茶を届けにきたメイドの女性。
一体、私は、何をここでするのだろう。
一月で300円も貰えるその仕事とは一体──。
「失礼致します」
ドアをノックして入って来たのはメイドの女性。黒髪のショートに、潤んだ黒い瞳が男の保護欲を刺激する姿だった。
服装はメイド服と呼ばれる、黒のベースに真っ白なエプロン。エプロンの下にはフリルがあしらわれた可愛らしい服だ。
「松下様。奥様がお呼びになっております。私の後に着いてきて下さい」
廊下に出ると館の薄暗さを感じる。
照明という照明はなく、メイドが手に持つローソクの灯りだけが前を照らす。
このような館ならシャンデリアを飾ることなど造作もないのに、何故、それをしないのだろうか?
やがて、女主人の個室に案内された私はそこに入るよう促される。
奥様はゆったりとしたバスローブを纏い、リラックスした感じでソファにて座って、酒を楽しんていた。
「松下様。あなたをここに連れてきた理由を知りたいのではなくって? 私達も意味もなくあの求人広告を出した訳では無いから」
「仕事の内容の説明でしょうか?」
「ええ。その前にこのワインをお飲みになって? とっても美味なワインですのよ?」
グラスに注がれた赤い液体を私は飲んだ。
こ、これは──。
美味しい──とても舌触りの良いワインだ。
「それはわざわざ西洋から取り寄せた美酒ですのよ?」
「何杯でもいけそうですね──」
奥様は同じソファに私を座らせて、美酒を馳走してくれた。
三杯程、飲んだ時に──何か身体が熱く感じた。内側から熱が炎のように湧き、下半身は焼け付くような興奮に晒されている──!
「酔ってきた様子ね──。この黒猫館でのあなたの仕事を教えてあげる──」
「この私を愉しませてくれる事。あなたの素敵な身体を存分に使ってね──」
私はしどろもどろで答える。
「そ、そんな……! 私が奥様を愉しませるなんてとても──!」
「そうかしら? 顔が真っ赤になって、息も荒いですわよ? 私を抱きたくてウズウズしていらっしゃるのね」
ソファの上で迫られる私は、ワインの効能なのかは解らないが、身体が言う事を聞かない状態だった。
逃げようにも、異様に身体が重くて、動けない。なのに下半身だけは異様に興奮している。
奥様はそこで紫色のバスローブを脱ぎ捨てる。
豊満な身体が一糸まとわぬ恰好で露わになっている。
「松下様──!」
次は口を貪るように重ねて唾液を絡める。
舌と舌を絡ませ、その手は私の纏う洋服を脱がしていく。
この身体に触れるべきなのか、どうなのか、解らないままに、上着を脱がされ半裸になってしまった。
奥様は手馴れた手付きで盛り上がる下半身へ擦るように手を絡め、更に欲望を刺激してくる──。
そのまま、ズボンを履かせたまま、私自身を取り出すと奥様は熱烈な奉仕をする。
魅惑的な唇で含み、舌で細かく、緩急を付けて裏側を舐めたり、袋を舐めたり、激しく私を愛した。
だ、駄目だ──。
抗えない興奮が、快楽が、私を支配していく──。
有耶無耶な微睡みの中で感じていたのは、あの奥様が私のそれを花びらへ入れて、淫らに腰を振って、私の身体の上で踊るように、欲望を晴らす女性がいた──。
奥様の淫らな言葉も、遠くに聞こえる。
「アアッ、あハァ! イイッ! いいのぉ! これ! 硬くて、衰える事を知らないわ! もっと──突き上げて──!」
ほぼ一晩中、私は奥様の愛欲の罠に嵌まり、瞳に映っていたのは、奥様の素敵な肌の色だけが焼き付いていた。
だが、この黒猫館での出来事はこれで終わった訳では無い、むしろ──はじまりに過ぎないのだ。
応援ありがとうございます!
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