黒猫館 〜愛欲の狂宴〜

翔田美琴

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第三十七夜 彼らの過去の精算

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 集落に住む作家見習いの海堂かいどうに、鳴川、唐島、小杉は『黒猫館』にて今まで受けた性的な虐待と肉体的な虐待の話をする。
 この話は恥ずかしいと共に彼らにとってはさっさと記憶の彼方に置き去りたいくらいに屈辱的な内容だ──。
 その屈辱的な行為を一つ一つ、彼らは吐き出すように海堂に話した。
 その間、海堂は笑い者にせずに雑記帳ノートにしたためる事に集中していた。
 『黒猫館』の噂は海堂にとっては魅力的な話に見えた。だが、あの洋館からは一切の情報が漏れないので不思議に思っていた。
 その矢先に彼らが来たのは海堂にとっては幸運だった。

 最初に口火を切ったのは唐島だった。
 この面子の中では、監獄に入れられていた古参の人物なのだ。
 唐島は特に印象に残った話を海堂にする。
 
「鮎川家の女主人の鮎川直美に犯されたのは数十回はくだらないけど、その中でも印象に残ったのがいくつかあったね」
「どんな風に印象的でしたか?」
「正直に言って異常な世界だった──。世の貴婦人を変な目で観てしまうくらいにだ」
「そこはどんな世界だったのでしょうか?」
「あの時は両方の腕に鉄の手枷を着けられて、鮎川直美に案内されたが、地下の部屋にドレスの貴婦人が何十人と周りを囲っていてね──。俺は台座みたいな場所に連れられて、全裸になれと脅迫されたんだ。あの時は歯向かったら鞭とかで殴られるから服を脱いだ。そうしたら奴等、どんなことをしたと思う?」
「──何をされてしまったのですか?」
「妙な音楽がかかって、それに合わせて下半身のモノを見せびらかして踊れって騒いで、仕方ないから踊った。そうしたら──貴婦人達が俺のモノを我先にと口に咥えたり、俺にも接吻キスしたり──最後には様々な貴婦人達を相手に乱交をしたよ──」
「貴婦人達はどんな様子でしたか?」
「狂っていると思ったね。欲求不満が更に重症化して──ドレスを自分から剥ぎ取って、俺との性行為に溺れていた」

 唐島は身震いをしながら振り返る。

「男に飢えていたんだと思うよ。彼女達は──」
「それがいやに記憶に残っているな、俺は」
「──ありがとうございました。辛かったでしょう?」
「それ以上に女の見え方が変わっていないかが心配だな」
「俺の話はこれでいいかい?」
「──はい。唐島さん、ありがとうございました」

 次は小杉が話した。彼は雄犬時代から監獄に入れられていたので自然と話は雄犬扱いの話になった。
 唐島や鳴川から見れば、その雄犬扱いという最低の中の底辺さは悲惨の一言に尽きる。

「僕は実は、鮎川直美や雪菜に構って頂いたのが雄犬扱いからなんですが、あの扱いは人間扱いでは無かったですね──」
「──大変聞きにくいですがどのような扱いを受けてしまいましたか?」
「──あそこはまずトイレが無かったんです。だから皆でまずどこで用を足すかを決めていたような。だけどそんな余裕も無いんで皆、様々な所で漏らしたのが現実。身体的な暴力も数知れずですよ。革の鞭で嫐られるのは当たり前だし、時には鉄の枷で両手両足を拘束されて、同性同士でヤリ合うのもありました……」
「小杉……その……男同士でヤルのはどうだったんだ?」
「気持ち悪いです。男同士だから入れるのは肛門だし、痛いの何のって。しかも汚れているから、ヤッた後は胃の中のものが戻ります……」
「……それを鮎川家の女達は──」
「愉悦に浸っていた──心底楽しそうに嘲笑っていて……自然と殺意が湧きますよ」
「しかも奴等が現れる時は下半身は常に勃たせないとならない。どうしても勃たない時はお互いにその……」
「──想像はつきます。言い方が悪くて申し訳無いですが……口とかで……」
「……はい。本当にあいつらは快楽の事しか考えていない色情狂ですね」
「──小杉。どうやってあの監獄に格上になれたんだ? そんな最悪の所から?」
「運が良かったんです。直美と雪菜を下半身のモノで満足させたら、監獄へ格上げしてやるって。まあ、その時は一晩で三十回はヤッたんで、呆れてました。自分自身の精力ってやつに」 
「桁違いだな──回数が」

 鳴川と唐島はその回数に驚愕する。
 つまり雄犬はまさに性の奴隷で、下半身のモノだけが物を言う世界なんだ──と鳴川と唐島は思い至る。
 それにしてもそんな不清潔極まりない場所で直美も雪菜も楽しむとは好き物にも程がある……。
 あいつらの感覚は壊れているんじゃ無いかという疑惑が浮上した。

「あいつらの嗅覚はもう壊れているんじゃ無いか? あいつらの口から臭いの話は聞かなかったぜ」
「それなぁ。確かにそうかも知れないぜ」
「鼻が壊れているなら、どんな場所でしても関係無いよな──」
「大迷惑な話だけどな」

 鮎川家の呪縛から解き放たれた彼らは、それぞれが本音を暴露しあっていた。
 海堂はその本音の暴露話も興味深いと考えている。そこから話される言葉は嘘の欠片もないのでその人柄も如実に出るのだ。
 彼らは本命の話から外れると、また自分達を振り返る為に鳴川へ話を振る事にした。

「鳴川はどうなんだ? 何かあいつらとの絡みで印象的なものはあったか?」

 話を振られた鳴川は微かに頷くと彼自身が体験した話を海堂にした。

「そうだな──。俺が印象的に思ったのは結構色々だな」
「色々と言うと?」
「鮎川直美とか雪菜とか変態ではあったが、どうも愛情も求めていたのではないかなと」
「あいつらが?」
「ああ。接吻キスを交わす時はそれなりに上手いし、愛液をぶっかけた時も悦んでいやがった。ああやって汚されても意外と良いんだな……って、そこが意外なんだよな」
「直美とか雪菜を汚した事があるのか……?」
「向こうがやってくれって懇願するんだぜ。意外だよな、ホント。ここからが難しいんだが、逆に俺を痛めつける時の直美とかは下半身を踏みつけたり、縛り上げたり──」
「気分次第なんだよな──そこらへん」
「ムカつくよな」
「俺はやたらと雪菜に呼ばれていた事が多かったね」
「鮎川雪菜さん──どのような方ですか?」
「鮎川直美の娘ですね。若い見た目の十代くらいの女性に見えます」
「雪菜の周りにも沢山の雄犬扱いされた男達がいて、鞭で嬲る、足で蹴りを入れるは日常茶飯事。向こうはまさに雄犬みたいに騒ぎ立てるから、彼女達は面白がって助けない──って最低の人間だよ」
「ただ……別れ際の雪菜さんは優しかったね。きちんとおにぎりと水筒を持たせて、用済みの俺達が殺される前に逃してくれた」
「用済み──ですか?」
「『黒猫館』に残っている仲間が、形式的なのか、本当なのかは判らないけど、鮎川家の当主になってしまったと言っていたよ」

 思っていた以上に歪んだ資産家一家の話を一通り耳にした海堂は、最後に御礼を言って、取材した事を早速まとめる作業へと入るようだだった。

「ありがとうございました。皆さんの話を聞いて何か閃く事が出来たかもしれません」
「こっちもスッキリしたよ。ありがとう!」
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