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12話 闇夜の追撃戦
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人質にしたメイドを解放して、アトランティカ帝国の黒の部隊が撤退を決定した矢先に、パトリス帝国は攻勢に出た。
「ここは一時撤退する!」
「逃がすものですか! ドラグーンフレア!」
「アネット、ドラグーンフレアを使ったか」
ドラグーンフレアとは火炎呪文の中でも最強の攻撃呪文だ。触れるものを一切合切白骨に変える恐ろしい呪文の一つである。
パーティ会場は木製のテーブルや椅子が燃え移り火の海へ変えている。
黒の部隊の撤退もあり、パトリス帝国は地の利を活かし彼らを捕らえようと攻勢に出た。帝国中に配備した兵士達の出番は図らずとも来たのだ。
「アルファ1! シータ3とデルタ4に伝令。首都出入り口を全て封鎖しろ! 地下水路も忘れるな!」
「了解!」
「剣士隊員! 突撃せよ!」
「行くぜ!」
その場にはライトニング兄弟の片割れ、ジョニーもいた。
近衛騎士団のライトニング兄弟はいわゆるエースと呼ばれる騎士団の先鋒役として有名で誰よりも真っ先に敵陣に突っ込む。
怯まないその勇敢な心から、”勇者”と呼ばれる。また、時に無謀なカミカゼ精神を発揮するので、カミカゼボーイとも呼ばれる。黒の部隊は撤退しようにも暴風のような炎の魔法と剣士隊員の登場で、パーティ会場は最早混乱の極みだった。
「ちいっ! 奴ら、確保すべき人間を守れたから攻勢に出たな!」
「ヤバいな。このままでは殺られる!」
「煙玉で撤退する」
ボワッ。突如として白い煙が展開された。煙には実は神経系の毒が仕込まれている。まともに吸い込めば、身体が麻痺してしまう。
「野郎…! 煙を拡げたか!」
「エリオット! 後は頼むわよ」
「任せろ! シータ3、奴らは煙幕で姿をくらました! 何処から出てきても慌てるな! 確実に捕らえるのだ!」
「了解!」
「城に残る兵士たちは消火作業をしろ!」
黒の部隊め。生きてこの首都から出られると思うなよ。
このパトリス帝国に襲撃した事を後悔させてやる…!
宰相エリオットは伝令役と連絡を取りながら事態の収拾を図る。的確な伝令で黒の部隊が何処にいるかわかる。
「奴らはどの辺りにいる?」
元の作戦会議室へと戻る宰相エリオットはアルファ1と連絡を取る。
「デルタ4の報告では、宮殿の外の森へと撤退を開始したとの事です」
「宮殿の外にはオメガ8が居るはずだな。それにしても、今回のアトランティカ帝国の敵は恐るべき特殊部隊だ…」
「奴らは今、宮殿の外の森だな。立ち去られるのは危険だ。一人も逃がすな。捕らえるのだ」
パトリス帝国の宮殿の側に佇む森は通称、沈黙の森。沈黙の森と呼ばれる由縁は夜になると精霊と呼ばれる者達が月夜の晩にパーティを開いているというまことしやかな噂がある。それを目撃できた者は精霊から何か加護を与えられるという。
ただし、実際に精霊のパーティを目撃した者は大抵が心の澄んだ子供の場合が多い。子供たちはそんな素敵なパーティが大人によって汚されると思うので沈黙で守る。故に沈黙の森という通称が与えられたのだ。
その沈黙の森に黒の部隊が戻ってくる。そして任務失敗を受けて、アトランティカ帝国へ帰投する事になったが、パトリス帝国は追撃戦を仕掛けて来た。
追撃戦の指揮を執るのはグリンウッド将軍。隻眼の将軍として有名な常勝将軍だ。近衛騎士団のジョニー、ユーマのライトニング兄弟も最前線に来ている。
「この沈黙の森に黒の部隊が潜伏しているはずだな。仔猫一匹たりとも逃すな! ただし、焼き討ちは厳禁とする! ここは精霊が住まう森だ。何としても自らの目で見つけ出せ!」
「黒の部隊は闇夜に溶け込む部隊。きっと不意討ちを狙ってくる筈だ。そこがチャンスかな」
沈黙の森はかなり深い森だ。
国境を跨いで存在している。
何処からくる?
緊張感は隠せない。全ての五感を使って黒の部隊を捜す。
沈黙の森はさざ波のように葉が擦れ合うとまるで波のような音がする。
精霊が住まう聖なる森。
奥へと歩くジョニー・ライトニングの前に風の精霊シルフが現れた。
「風の精霊シルフか。怪しい奴らを見かけ無かったかい?」
「こっち。別の精霊仲間をいじめる奴らがいるよ」
「行こう」
傍らにはユーマ・ライトニングがいた。
ユーマも頷き、風の精霊シルフの後に続いた。すると、誇り高き一角獣ユニコーンが黒の部隊に襲われているではないか。
大方、ユニコーンの額の角を目当てに襲ったのだ。
「お願い。助けてあげて!」
「あれは黒の部隊か。どうする? グズグズしている暇は無さそうだ」
「シルフ。俺達の仲間が森の入口で待っている。報せに行ってくれないか? 俺達は先にあのユニコーンを助けるから」
「わかった!」
「これは神の思し召しかも知れない。今の内に叩くぞ!」
「お前ならそう言うと思った!行こう!」
剣を鞘から引き抜き彼らは疾風の速さで黒の部隊へ先制攻撃を仕掛ける。
「パトリス帝国のライトニング兄弟、必殺のコンビネーションアタックを喰らえ!」
「何!? 敵か!」
「桜花緋炎斬!」
桜花緋炎斬とはジョニー、ユーマのコンビネーションアタックだ。双子騎士の特徴を活かした二人で一人を攻撃する戦法。または複数いる場合は更に分身技を使い敵を殲滅するライトニング兄弟の専売特許の技である。
使用するのは剣のみなので、森を傷付ける心配も要らない。
森の入口で指揮を執るグリンウッド将軍の下に風の精霊シルフが飛んでくる。
「風の精霊シルフ。こんな場所まで来るとは? どうした?」
「ジョニーとユーマの二人がユニコーンを助けてくれたの! 敵は真っ黒な服を来た怖い人達! ここに二人の仲間がいるって」
「黒の部隊か! 何処にいるのか教えてくれるか?」
「着いてきて!」
ライトニング兄弟はユニコーンを守りながら黒の部隊と戦っている。真夜中の戦闘に馴れている様子の黒の部隊。
ライトニング兄弟も中々は強さに苦戦している。
「中々手強い! 闇夜の戦闘には馴れているということか!」
「こちらも打開策を考えないと厳しいな」
しかも飛び道具が得物だった。まるでブーメランのように回転する刃が襲ってくる。
小型のクロスボウを使用する隊員もいた。闇夜の森の中で彼らは確実にライトニング兄弟を追い詰めていく。
ライトニング兄弟も黙っていない。何処で編み出したのか分身技を使い得意のコンビネーションアタックを繰り出す。
二人が四人に増えて、剣による暴風の嵐の剣技が炸裂する。
「ダンシングソード!」
仲間内では”剣の舞”という渾名が付けられた剣技だ。発想の元はたまたま夜会に訪れた踊り娘が剣を片手に奉納の舞を踊ったのを観たライトニング兄弟が剣技として使えないかと研究を重ねたという逸話がある。
四方八方から剣技の暴風が来る!
黒の部隊は深い傷を負う。
「なんて剣技だ。あれがパトリス帝国で有名な双子騎士の剣技か!」
「撤退するか?」
「捕まる訳にはいかない。撤退する!」
「そういう訳にはいかんわ! 黒の部隊共!」
「グリンウッド将軍!」
「この森から一歩も外に出す訳にはいかん。その姿からただの雑兵では無いようだ。我々の首都を襲撃したツケは払って貰うぞ」
黒の部隊の周囲は既にパトリス帝国の兵士達による包囲網が敷かれていた。
周囲を囲まれた黒の部隊はリーダーを除き他の人間は捕縛されたのであった。リーダーは完璧と思われた包囲網を潜り抜け地下を通りアトランティカ帝国へ帰投を果たした。
こうして、闇夜の追撃戦は終わりを迎えた。
「ここは一時撤退する!」
「逃がすものですか! ドラグーンフレア!」
「アネット、ドラグーンフレアを使ったか」
ドラグーンフレアとは火炎呪文の中でも最強の攻撃呪文だ。触れるものを一切合切白骨に変える恐ろしい呪文の一つである。
パーティ会場は木製のテーブルや椅子が燃え移り火の海へ変えている。
黒の部隊の撤退もあり、パトリス帝国は地の利を活かし彼らを捕らえようと攻勢に出た。帝国中に配備した兵士達の出番は図らずとも来たのだ。
「アルファ1! シータ3とデルタ4に伝令。首都出入り口を全て封鎖しろ! 地下水路も忘れるな!」
「了解!」
「剣士隊員! 突撃せよ!」
「行くぜ!」
その場にはライトニング兄弟の片割れ、ジョニーもいた。
近衛騎士団のライトニング兄弟はいわゆるエースと呼ばれる騎士団の先鋒役として有名で誰よりも真っ先に敵陣に突っ込む。
怯まないその勇敢な心から、”勇者”と呼ばれる。また、時に無謀なカミカゼ精神を発揮するので、カミカゼボーイとも呼ばれる。黒の部隊は撤退しようにも暴風のような炎の魔法と剣士隊員の登場で、パーティ会場は最早混乱の極みだった。
「ちいっ! 奴ら、確保すべき人間を守れたから攻勢に出たな!」
「ヤバいな。このままでは殺られる!」
「煙玉で撤退する」
ボワッ。突如として白い煙が展開された。煙には実は神経系の毒が仕込まれている。まともに吸い込めば、身体が麻痺してしまう。
「野郎…! 煙を拡げたか!」
「エリオット! 後は頼むわよ」
「任せろ! シータ3、奴らは煙幕で姿をくらました! 何処から出てきても慌てるな! 確実に捕らえるのだ!」
「了解!」
「城に残る兵士たちは消火作業をしろ!」
黒の部隊め。生きてこの首都から出られると思うなよ。
このパトリス帝国に襲撃した事を後悔させてやる…!
宰相エリオットは伝令役と連絡を取りながら事態の収拾を図る。的確な伝令で黒の部隊が何処にいるかわかる。
「奴らはどの辺りにいる?」
元の作戦会議室へと戻る宰相エリオットはアルファ1と連絡を取る。
「デルタ4の報告では、宮殿の外の森へと撤退を開始したとの事です」
「宮殿の外にはオメガ8が居るはずだな。それにしても、今回のアトランティカ帝国の敵は恐るべき特殊部隊だ…」
「奴らは今、宮殿の外の森だな。立ち去られるのは危険だ。一人も逃がすな。捕らえるのだ」
パトリス帝国の宮殿の側に佇む森は通称、沈黙の森。沈黙の森と呼ばれる由縁は夜になると精霊と呼ばれる者達が月夜の晩にパーティを開いているというまことしやかな噂がある。それを目撃できた者は精霊から何か加護を与えられるという。
ただし、実際に精霊のパーティを目撃した者は大抵が心の澄んだ子供の場合が多い。子供たちはそんな素敵なパーティが大人によって汚されると思うので沈黙で守る。故に沈黙の森という通称が与えられたのだ。
その沈黙の森に黒の部隊が戻ってくる。そして任務失敗を受けて、アトランティカ帝国へ帰投する事になったが、パトリス帝国は追撃戦を仕掛けて来た。
追撃戦の指揮を執るのはグリンウッド将軍。隻眼の将軍として有名な常勝将軍だ。近衛騎士団のジョニー、ユーマのライトニング兄弟も最前線に来ている。
「この沈黙の森に黒の部隊が潜伏しているはずだな。仔猫一匹たりとも逃すな! ただし、焼き討ちは厳禁とする! ここは精霊が住まう森だ。何としても自らの目で見つけ出せ!」
「黒の部隊は闇夜に溶け込む部隊。きっと不意討ちを狙ってくる筈だ。そこがチャンスかな」
沈黙の森はかなり深い森だ。
国境を跨いで存在している。
何処からくる?
緊張感は隠せない。全ての五感を使って黒の部隊を捜す。
沈黙の森はさざ波のように葉が擦れ合うとまるで波のような音がする。
精霊が住まう聖なる森。
奥へと歩くジョニー・ライトニングの前に風の精霊シルフが現れた。
「風の精霊シルフか。怪しい奴らを見かけ無かったかい?」
「こっち。別の精霊仲間をいじめる奴らがいるよ」
「行こう」
傍らにはユーマ・ライトニングがいた。
ユーマも頷き、風の精霊シルフの後に続いた。すると、誇り高き一角獣ユニコーンが黒の部隊に襲われているではないか。
大方、ユニコーンの額の角を目当てに襲ったのだ。
「お願い。助けてあげて!」
「あれは黒の部隊か。どうする? グズグズしている暇は無さそうだ」
「シルフ。俺達の仲間が森の入口で待っている。報せに行ってくれないか? 俺達は先にあのユニコーンを助けるから」
「わかった!」
「これは神の思し召しかも知れない。今の内に叩くぞ!」
「お前ならそう言うと思った!行こう!」
剣を鞘から引き抜き彼らは疾風の速さで黒の部隊へ先制攻撃を仕掛ける。
「パトリス帝国のライトニング兄弟、必殺のコンビネーションアタックを喰らえ!」
「何!? 敵か!」
「桜花緋炎斬!」
桜花緋炎斬とはジョニー、ユーマのコンビネーションアタックだ。双子騎士の特徴を活かした二人で一人を攻撃する戦法。または複数いる場合は更に分身技を使い敵を殲滅するライトニング兄弟の専売特許の技である。
使用するのは剣のみなので、森を傷付ける心配も要らない。
森の入口で指揮を執るグリンウッド将軍の下に風の精霊シルフが飛んでくる。
「風の精霊シルフ。こんな場所まで来るとは? どうした?」
「ジョニーとユーマの二人がユニコーンを助けてくれたの! 敵は真っ黒な服を来た怖い人達! ここに二人の仲間がいるって」
「黒の部隊か! 何処にいるのか教えてくれるか?」
「着いてきて!」
ライトニング兄弟はユニコーンを守りながら黒の部隊と戦っている。真夜中の戦闘に馴れている様子の黒の部隊。
ライトニング兄弟も中々は強さに苦戦している。
「中々手強い! 闇夜の戦闘には馴れているということか!」
「こちらも打開策を考えないと厳しいな」
しかも飛び道具が得物だった。まるでブーメランのように回転する刃が襲ってくる。
小型のクロスボウを使用する隊員もいた。闇夜の森の中で彼らは確実にライトニング兄弟を追い詰めていく。
ライトニング兄弟も黙っていない。何処で編み出したのか分身技を使い得意のコンビネーションアタックを繰り出す。
二人が四人に増えて、剣による暴風の嵐の剣技が炸裂する。
「ダンシングソード!」
仲間内では”剣の舞”という渾名が付けられた剣技だ。発想の元はたまたま夜会に訪れた踊り娘が剣を片手に奉納の舞を踊ったのを観たライトニング兄弟が剣技として使えないかと研究を重ねたという逸話がある。
四方八方から剣技の暴風が来る!
黒の部隊は深い傷を負う。
「なんて剣技だ。あれがパトリス帝国で有名な双子騎士の剣技か!」
「撤退するか?」
「捕まる訳にはいかない。撤退する!」
「そういう訳にはいかんわ! 黒の部隊共!」
「グリンウッド将軍!」
「この森から一歩も外に出す訳にはいかん。その姿からただの雑兵では無いようだ。我々の首都を襲撃したツケは払って貰うぞ」
黒の部隊の周囲は既にパトリス帝国の兵士達による包囲網が敷かれていた。
周囲を囲まれた黒の部隊はリーダーを除き他の人間は捕縛されたのであった。リーダーは完璧と思われた包囲網を潜り抜け地下を通りアトランティカ帝国へ帰投を果たした。
こうして、闇夜の追撃戦は終わりを迎えた。
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