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25話 反乱の狼煙
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エミールは訝しげにファーランドの顔を見つめる。俺のことをこの人は知っているのか? そんな感じだ。
「俺に頼みたい事?」
ファーランドはこのエミールが最近評判の夜伽である事を知っているように声をかける。
「君、最近評判の女帝キリー様の夜伽だろう?」
「ああ。そうだけど…」
「なら君を見込んで頼みたい事がある」
「どんな事? 話の内容では協力しないよ」
ファーランドはエミールが本来の彼自身を態度に出したので信頼はできると思ったのか、このような話を彼にした。
「実はこのアトランティカ帝国では水面下で議会の連中がキリー様暗殺を提案する者がかなりいてね。隣国パトリス帝国と和平交渉の席に立ちたいがキリー様は反対している」
「何故なんだよ?」
「パトリス帝国は潤沢な人員がいるが、キリー様はパトリス帝国の男達が目当てで、とある泉の力も求めている」
泉と聞いてエミールが思い浮かべたのは『浄化の泉』だ。あの泉には穢れを祓う女神が住まう泉である、という説明を宮廷魔導師アネットから聞いたのだ。
欲張りな女帝らしい。男達だけでは飽きたらず美貌まで手に入れたいなんて。
それに、これはパトリス帝国にとってはチャンスなのではと思う。こちらのアトランティカ帝国は和平交渉の席に立ちたい。パトリス帝国はなるべくならアトランティカ帝国とは戦いたくはない。
その橋渡しが俺にならできるかも知れない。
「だけとな。キリー様を女神のように奉る信者共が和平交渉を望む議員達を裏で暗殺して回っている。お陰でこちらは黙って彼女に従っていたのだ。だけど夜伽の君がいるなら、もしかしたら彼女を亡き者にする事ができるのでは? そう想って声をかけたのだ」
「つまりは──殺せって事?」
「単刀直入に言うとそうだ」
「本気なの?」
「そうでなければこんな話はしない」
一国の女皇帝を俺が殺す?
俺が人殺しをする?
国の為に殺す?
どのように殺すつもりなのか聞く必要がある。
「どうやって殺すの?」
「毒を盛れ。何もナイフを突き立て殺せとは言わない。毒殺するんだよ」
毒殺か。まあ確かにナイフを突き立てて殺すよりかはマシに見えるけど。
だけど──。
エリック陛下やエリオット宰相はこの事態をどう見るのかな。
一度確認を取った方がいいかな。
毒殺よりも穏便に片付ける方法がもしかしたらパトリス帝国なら持ち合わせているかも知れない。
パトリス帝国に連絡を入れたい。
「ファーランドさん。あなたも反乱を起こしたいと思う一派なのですか?」
「私も和平には賛成派だよ。鉱石の産出が芳しくないのは事実なのだ。このままではどちらにせよパトリス帝国との戦争が待つなら回避したい」
「戦争に巻き込まれたら一般市民が苦しむのは明白だ。これは戦争を止める為の作戦なんだよ」
戦争を止める。
無駄な血を流さない為にする。
俺にそれをする手助けできるかも知れない。
「あの。だったら一つ頼みたい事があります。パトリス帝国と何とか連絡を取りたいんです。だけど。夜はキリー様の夜伽をしなければ怪しまれてしまう。どうにかなりませんか?」
「──判った。こちらで裏でパトリス帝国に諜報部員を向かわせよう」
「それまで俺は夜伽としてキリー様の気を引きます」
こうしてしばらくの間はパトリス帝国からの連絡が取れるまで、エミールは引き続き夜伽としての任務に当たる事になった。
反撃の狼煙は、密かに上がる。
そして時代の大きなうねりも、そこまで迫っていたのであった。
「俺に頼みたい事?」
ファーランドはこのエミールが最近評判の夜伽である事を知っているように声をかける。
「君、最近評判の女帝キリー様の夜伽だろう?」
「ああ。そうだけど…」
「なら君を見込んで頼みたい事がある」
「どんな事? 話の内容では協力しないよ」
ファーランドはエミールが本来の彼自身を態度に出したので信頼はできると思ったのか、このような話を彼にした。
「実はこのアトランティカ帝国では水面下で議会の連中がキリー様暗殺を提案する者がかなりいてね。隣国パトリス帝国と和平交渉の席に立ちたいがキリー様は反対している」
「何故なんだよ?」
「パトリス帝国は潤沢な人員がいるが、キリー様はパトリス帝国の男達が目当てで、とある泉の力も求めている」
泉と聞いてエミールが思い浮かべたのは『浄化の泉』だ。あの泉には穢れを祓う女神が住まう泉である、という説明を宮廷魔導師アネットから聞いたのだ。
欲張りな女帝らしい。男達だけでは飽きたらず美貌まで手に入れたいなんて。
それに、これはパトリス帝国にとってはチャンスなのではと思う。こちらのアトランティカ帝国は和平交渉の席に立ちたい。パトリス帝国はなるべくならアトランティカ帝国とは戦いたくはない。
その橋渡しが俺にならできるかも知れない。
「だけとな。キリー様を女神のように奉る信者共が和平交渉を望む議員達を裏で暗殺して回っている。お陰でこちらは黙って彼女に従っていたのだ。だけど夜伽の君がいるなら、もしかしたら彼女を亡き者にする事ができるのでは? そう想って声をかけたのだ」
「つまりは──殺せって事?」
「単刀直入に言うとそうだ」
「本気なの?」
「そうでなければこんな話はしない」
一国の女皇帝を俺が殺す?
俺が人殺しをする?
国の為に殺す?
どのように殺すつもりなのか聞く必要がある。
「どうやって殺すの?」
「毒を盛れ。何もナイフを突き立て殺せとは言わない。毒殺するんだよ」
毒殺か。まあ確かにナイフを突き立てて殺すよりかはマシに見えるけど。
だけど──。
エリック陛下やエリオット宰相はこの事態をどう見るのかな。
一度確認を取った方がいいかな。
毒殺よりも穏便に片付ける方法がもしかしたらパトリス帝国なら持ち合わせているかも知れない。
パトリス帝国に連絡を入れたい。
「ファーランドさん。あなたも反乱を起こしたいと思う一派なのですか?」
「私も和平には賛成派だよ。鉱石の産出が芳しくないのは事実なのだ。このままではどちらにせよパトリス帝国との戦争が待つなら回避したい」
「戦争に巻き込まれたら一般市民が苦しむのは明白だ。これは戦争を止める為の作戦なんだよ」
戦争を止める。
無駄な血を流さない為にする。
俺にそれをする手助けできるかも知れない。
「あの。だったら一つ頼みたい事があります。パトリス帝国と何とか連絡を取りたいんです。だけど。夜はキリー様の夜伽をしなければ怪しまれてしまう。どうにかなりませんか?」
「──判った。こちらで裏でパトリス帝国に諜報部員を向かわせよう」
「それまで俺は夜伽としてキリー様の気を引きます」
こうしてしばらくの間はパトリス帝国からの連絡が取れるまで、エミールは引き続き夜伽としての任務に当たる事になった。
反撃の狼煙は、密かに上がる。
そして時代の大きなうねりも、そこまで迫っていたのであった。
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