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24話 アトランティスの現実
そうして夜伽として信頼も高いエミールは自由にアトランティスの城の中を歩き回る権利を得られた。
彼はその権利を利用してパトリス帝国に土産になりそうな軍事的な話を聞こうと武官と思われる者達に声をかける。
武官達は彼が女帝の夜の相手をしている人物というのは知っていて、だが邪険に扱う事は無かった。何故ならキリーは己が可愛がる物を傷つけられるのが我慢ならない女性だからだ。
エミールは世間話をするその流れで何気なくこの帝国の状況を知ろうとする。
この日はとある武官に書簡を届ける仕事をしているエミール。
このアトランティスの文官の服を纏うエミールは城の内装を見ながら、その武官がいる部屋を目指す。
帝国アトランティカはパトリス帝国とは雰囲気がまず違う。パトリス帝国は平和な大帝国で基本的に優雅な世界だが、帝国アトランティカは常に緊張感が漂う雰囲気だ。所々には見張りの兵士。
兵士達の鎧は鉄製が多い。それなりに工業が発展している国柄である事はわかる。鉄製だが動きやすいよう改良は施されている。
彼ら兵士達には確かに温度差みたいなものを感じる。いわゆる奴隷兵士として連れてこられた兵士は女帝に対する忠誠心は無いが、進んで兵士になった者はキリーを女神として崇めている節がある。
書簡を届けに向かうエミールはその武官がいる部屋に辿り着く。ノックをして部屋に入った。
「失礼致します。キリー様からの書簡を届けに参りました」
「御苦労。君がエミールか。我が女帝、キリー様の夜伽を務めている美しい少年と聞いたが」
「は、はい」
「構えなくていい。私はキリー様が幸せならば相手が誰であろうと非難はしない」
その武官は爽やかな笑みを浮かべた。
そして書簡を開く。何やら頷いている。
一体、その手紙には何が書かれているのか。気になって仕方ない。
しかし、あまり深く切り込むと怪しまれる。世間話の何気ない流れで聞き出すのが安全確保に役に立つ。
エミールはオリハルコンの製造に成功したという話をだしに何気なく話した。
「あの──オリハルコンの製造に成功したって皆さん嬉しそうにしてますけど、どうしてですか?」
「オリハルコンは、製造するのは不可能と言われた魔法金属なのだ。ありとあらゆる魔法を無効化して、硬さもダイヤモンドを超えると言う。そんな夢の金属が製造ラインに乗れば、確かに隣国のパトリス帝国も占領する事は可能だろうな」
「どうやってその魔法金属を作ったのですか?」
「古い文献を解読して製造法を確立させたそうだ。このアトランティカは錬金術師も多数抱えているからね」
返事を返しながらその武官は手紙を書いている。そして書簡に入れるとエミールに武官は頼む。今度は女帝に渡して欲しいとの事だった。
「今度はこれをキリー様に届けて欲しい。大事な書簡だから早めに届けるように」
「は、はい。失礼致しました」
そうしてまた城を散策するエミール。
周囲には様々な兵士達が色々な場所で噂話をしていたり、世間話に花を咲かせたり、熱狂的なキリー信者はどうにかしてキリーの護衛兵士になりたいと常日頃から話している。
しかし。女帝キリーは何かと好き嫌いが激しく男性をただの欲望を満たす為の道具のようにしか想っていない節がある。
とりあえず持っている書簡を届けないと。
彼はキリーの待つ女帝の間へと向かった。
「キリー様」
「エミール。無事に書簡を届けたかしら?」
「はい。例の武官殿から返事が来たようです」
と、先程の書簡をキリーに渡した。
その書簡を開けて中の手紙を読む彼女の顔がみるみる厳しいものになっていく。
持っている手紙をぐしゃぐしゃにして、思わず毒を吐いた。
「オリハルコンの生産が間に合わないだと!?」
「いかがされましたか? キリー様」
「ええい! 錬金術師共め! オリハルコンの全身鎧騎士団を一刻も早く製造すればパトリス帝国なぞ、赤子をひねるも同然なのに! 何故、やらないのだ!」
オリハルコンの生産が間に合わない?
何故だか判ればパトリス帝国にも有利になる情報が得られるかな?
エミールは気を利かすように申し出た。
「キリー様。俺が理由を聞いてきましょうか? キリー様は女帝の責務を果たしてください」
「エミール。優しいのね」
「キリー様の為なら」
「エミールに何かしたら私が守ってあげる」
「どの部署でオリハルコンの生産をしているのですか?」
「この宮殿の一階の西側の一角が金属加工の部署よ。錬金術師達も大概はそこにいるわ」
「わかりました。そこで何があったのか話を聞いてきますね」
「お願いね」
エミールは一階の西側区画の金属加工区画へと向かう。文官の服を纏い、女帝からはある名前を聞いた。ファーランドという人物が現場の指揮を執っているのでその人物から話を聞くといいらしい。
西側区画に足を踏み入れるとそこは少し冬にしては温かい空気が流れている。
この区画ではアトランティカ帝国の騎士達の鎧や盾や武器を製造している工場もある。そこは年中夏のような熱が流れているので冬でもストーブがあるように気温が高めなのだ。
「どうした? 文官殿」
「あ、こんにちは。俺、エミールといいます。この辺にファーランドさんという責任者の方はいますか?」
「ファーランドに会いにきたのか。何故、君が?」
「キリー様の命令です」
「なるほど。判った。着いてきなさい」
見張りの兵士が案内してくれた。
西側区画の一室にファーランドがいた。
調度品はごく普通で、少し部屋が暗いのか照明が多めに飾られている。
その部屋の木製机の前の椅子にファーランドが書類を確認している姿があった。しっかりとした造りの白い魔導師の服を纏う男性だ。
「どうした?」
「女帝キリー様の遣いがきました」
「エミールと申します。ファーランドさんは──」
「私のことだが……何の用件かね」
「すいません。席を外して貰いませんか?」
エミールはここを案内してくれた兵士に外して欲しいと頼む。
ファーランドも工場で働く奴隷達の様子を見てこいと兵士を出て行かせた。
ファーランドは椅子から立つとドアの内鍵を閉めて、ごくごく内密な話を出来る状況にする。
「ファーランドさん。オリハルコンが製造ができないと書簡が届いた様子ですけど」
「オリハルコンの材料が足らないんだ」
「材料……ですか?」
「錬金術師と言えど材料が無ければ何にもならない。オリハルコンは無敵の魔法金属だが材料は全て既存の鉱石を使用しているのだ」
「しかし、その既存の鉱石の産出がここの所、あまり良くない。彫り尽くした鉱山も徐々に出てきている。今の状況ではとても一般兵士達までにオリハルコンの鎧を回すのは困難だ」
ファーランドは腕を組んでまた木製の机の前の椅子に座る。
書類には本日入荷した鉱石の量が書かれているが、軒並み減って来ているのだ。
「キリー様は全ての兵士をオリハルコン軍団にしたいらしいがとても出来ない状況だな」
とため息をついた。
エミールは少し踏み込んだ質問をしてみた。
「ファーランドさんはパトリス帝国に対してどのように感じますか?」
「隣国パトリス帝国か。先代の獅子王を親に持つ双子の兄弟。あれは只者ではないね。明らかに物量だけで言えば我が帝国より下回る筈なのに、奴等の強さは恐らく士気だろうな」
「どういう意味ですか?」
「このアトランティカ帝国は奴隷兵士が実に多い。不満を募らせる人々も多いのだ。しかし、パトリス帝国は奴隷とかでも人権は尊重する。だからあの国へ働きに行く人々も多い。ある意味では安全な帝国だからな。物騒な所で働くより安全な場所で働く方が家族に日々の糧を渡す者にとっては大事な事だよ」
「故に進んで兵士になりたがる者も多い。それが士気の高さに繋がるのだ」
ファーランドはそう説明するとエミールにある提案を持ちかけた。
「君を見込んで頼みがある」
その頼みとは何か?
エミールはさらなる流れにのみ込まれる。
彼はその権利を利用してパトリス帝国に土産になりそうな軍事的な話を聞こうと武官と思われる者達に声をかける。
武官達は彼が女帝の夜の相手をしている人物というのは知っていて、だが邪険に扱う事は無かった。何故ならキリーは己が可愛がる物を傷つけられるのが我慢ならない女性だからだ。
エミールは世間話をするその流れで何気なくこの帝国の状況を知ろうとする。
この日はとある武官に書簡を届ける仕事をしているエミール。
このアトランティスの文官の服を纏うエミールは城の内装を見ながら、その武官がいる部屋を目指す。
帝国アトランティカはパトリス帝国とは雰囲気がまず違う。パトリス帝国は平和な大帝国で基本的に優雅な世界だが、帝国アトランティカは常に緊張感が漂う雰囲気だ。所々には見張りの兵士。
兵士達の鎧は鉄製が多い。それなりに工業が発展している国柄である事はわかる。鉄製だが動きやすいよう改良は施されている。
彼ら兵士達には確かに温度差みたいなものを感じる。いわゆる奴隷兵士として連れてこられた兵士は女帝に対する忠誠心は無いが、進んで兵士になった者はキリーを女神として崇めている節がある。
書簡を届けに向かうエミールはその武官がいる部屋に辿り着く。ノックをして部屋に入った。
「失礼致します。キリー様からの書簡を届けに参りました」
「御苦労。君がエミールか。我が女帝、キリー様の夜伽を務めている美しい少年と聞いたが」
「は、はい」
「構えなくていい。私はキリー様が幸せならば相手が誰であろうと非難はしない」
その武官は爽やかな笑みを浮かべた。
そして書簡を開く。何やら頷いている。
一体、その手紙には何が書かれているのか。気になって仕方ない。
しかし、あまり深く切り込むと怪しまれる。世間話の何気ない流れで聞き出すのが安全確保に役に立つ。
エミールはオリハルコンの製造に成功したという話をだしに何気なく話した。
「あの──オリハルコンの製造に成功したって皆さん嬉しそうにしてますけど、どうしてですか?」
「オリハルコンは、製造するのは不可能と言われた魔法金属なのだ。ありとあらゆる魔法を無効化して、硬さもダイヤモンドを超えると言う。そんな夢の金属が製造ラインに乗れば、確かに隣国のパトリス帝国も占領する事は可能だろうな」
「どうやってその魔法金属を作ったのですか?」
「古い文献を解読して製造法を確立させたそうだ。このアトランティカは錬金術師も多数抱えているからね」
返事を返しながらその武官は手紙を書いている。そして書簡に入れるとエミールに武官は頼む。今度は女帝に渡して欲しいとの事だった。
「今度はこれをキリー様に届けて欲しい。大事な書簡だから早めに届けるように」
「は、はい。失礼致しました」
そうしてまた城を散策するエミール。
周囲には様々な兵士達が色々な場所で噂話をしていたり、世間話に花を咲かせたり、熱狂的なキリー信者はどうにかしてキリーの護衛兵士になりたいと常日頃から話している。
しかし。女帝キリーは何かと好き嫌いが激しく男性をただの欲望を満たす為の道具のようにしか想っていない節がある。
とりあえず持っている書簡を届けないと。
彼はキリーの待つ女帝の間へと向かった。
「キリー様」
「エミール。無事に書簡を届けたかしら?」
「はい。例の武官殿から返事が来たようです」
と、先程の書簡をキリーに渡した。
その書簡を開けて中の手紙を読む彼女の顔がみるみる厳しいものになっていく。
持っている手紙をぐしゃぐしゃにして、思わず毒を吐いた。
「オリハルコンの生産が間に合わないだと!?」
「いかがされましたか? キリー様」
「ええい! 錬金術師共め! オリハルコンの全身鎧騎士団を一刻も早く製造すればパトリス帝国なぞ、赤子をひねるも同然なのに! 何故、やらないのだ!」
オリハルコンの生産が間に合わない?
何故だか判ればパトリス帝国にも有利になる情報が得られるかな?
エミールは気を利かすように申し出た。
「キリー様。俺が理由を聞いてきましょうか? キリー様は女帝の責務を果たしてください」
「エミール。優しいのね」
「キリー様の為なら」
「エミールに何かしたら私が守ってあげる」
「どの部署でオリハルコンの生産をしているのですか?」
「この宮殿の一階の西側の一角が金属加工の部署よ。錬金術師達も大概はそこにいるわ」
「わかりました。そこで何があったのか話を聞いてきますね」
「お願いね」
エミールは一階の西側区画の金属加工区画へと向かう。文官の服を纏い、女帝からはある名前を聞いた。ファーランドという人物が現場の指揮を執っているのでその人物から話を聞くといいらしい。
西側区画に足を踏み入れるとそこは少し冬にしては温かい空気が流れている。
この区画ではアトランティカ帝国の騎士達の鎧や盾や武器を製造している工場もある。そこは年中夏のような熱が流れているので冬でもストーブがあるように気温が高めなのだ。
「どうした? 文官殿」
「あ、こんにちは。俺、エミールといいます。この辺にファーランドさんという責任者の方はいますか?」
「ファーランドに会いにきたのか。何故、君が?」
「キリー様の命令です」
「なるほど。判った。着いてきなさい」
見張りの兵士が案内してくれた。
西側区画の一室にファーランドがいた。
調度品はごく普通で、少し部屋が暗いのか照明が多めに飾られている。
その部屋の木製机の前の椅子にファーランドが書類を確認している姿があった。しっかりとした造りの白い魔導師の服を纏う男性だ。
「どうした?」
「女帝キリー様の遣いがきました」
「エミールと申します。ファーランドさんは──」
「私のことだが……何の用件かね」
「すいません。席を外して貰いませんか?」
エミールはここを案内してくれた兵士に外して欲しいと頼む。
ファーランドも工場で働く奴隷達の様子を見てこいと兵士を出て行かせた。
ファーランドは椅子から立つとドアの内鍵を閉めて、ごくごく内密な話を出来る状況にする。
「ファーランドさん。オリハルコンが製造ができないと書簡が届いた様子ですけど」
「オリハルコンの材料が足らないんだ」
「材料……ですか?」
「錬金術師と言えど材料が無ければ何にもならない。オリハルコンは無敵の魔法金属だが材料は全て既存の鉱石を使用しているのだ」
「しかし、その既存の鉱石の産出がここの所、あまり良くない。彫り尽くした鉱山も徐々に出てきている。今の状況ではとても一般兵士達までにオリハルコンの鎧を回すのは困難だ」
ファーランドは腕を組んでまた木製の机の前の椅子に座る。
書類には本日入荷した鉱石の量が書かれているが、軒並み減って来ているのだ。
「キリー様は全ての兵士をオリハルコン軍団にしたいらしいがとても出来ない状況だな」
とため息をついた。
エミールは少し踏み込んだ質問をしてみた。
「ファーランドさんはパトリス帝国に対してどのように感じますか?」
「隣国パトリス帝国か。先代の獅子王を親に持つ双子の兄弟。あれは只者ではないね。明らかに物量だけで言えば我が帝国より下回る筈なのに、奴等の強さは恐らく士気だろうな」
「どういう意味ですか?」
「このアトランティカ帝国は奴隷兵士が実に多い。不満を募らせる人々も多いのだ。しかし、パトリス帝国は奴隷とかでも人権は尊重する。だからあの国へ働きに行く人々も多い。ある意味では安全な帝国だからな。物騒な所で働くより安全な場所で働く方が家族に日々の糧を渡す者にとっては大事な事だよ」
「故に進んで兵士になりたがる者も多い。それが士気の高さに繋がるのだ」
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