混沌の女神の騎士 

翔田美琴

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第4章 遺された希望、遺した絶望

4-1 遺された希望

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 あの事件から約二十四時間が経過した。
 混沌の女神の騎士レムはシャーリーの襲撃に会い即死。心臓停止、呼吸停止、血圧も下がり、そして治療も虚しく死亡が確認されてしまった。
 集中治療室にてルーアがレムの遺体を前に泣き崩れる。
 犯人のシャーリーはルーアによって殺されてしまい、この一日で彼らとグレイブの対立は、一気にグレイブに軍配が上がる。
 エリックは自分自身の監視が甘かったと後悔している──。ホープはアカデミア研究所の所長として混沌の女神の騎士を護りきれなかった事に責任を感じて、自責の念に押し潰されそうになっている──。
 もう彼を生き返らせる事は不可能なのか?
 だが、そこにただ一つの希望は遺されていた。
 正確には希望は二つ、遺されている。
 一つはルージュパピヨンの紅い光。どうやらルージュパピヨンは彼が逝く前に彼の心を作る感情を主に五つの要素に分けて保管しているらしい。それらは宿主がまた生を授かる時に持っていた感情として返す役割があるらしい。
 何故、それが判ったのかと説明すると、ルージュパピヨンは一度宿主を決めると主人として宿主に仕える。そして死を迎えると精神体を五つの要素に分解して保存する、かなり希少な生態を持つ。
 ルージュパピヨンはこの世界が、混沌という概念で構成されているのを本能的に理解している。死を迎えたとしてもその主人がまた復活するのを待つというのだ。
 もう一つの希望はアカデミア研究所に所属する黒髪の青年が存在している事。彼は錬金術を研究しており、主に賢者の石と名付けられている不老不死の薬を研究する人物だった。
 それは死を迎えた人間を生き返らせる研究でもあった。その研究も佳境を迎えており、後は材料の調達と特殊な魔術にて儀式をするだけだった。
 名前はルーシャス・ルーシェル。皆はルーシャスと呼ぶか、愛称としてルーシェと呼ぶ事がある。
 見た目こそあどけない少年だが、その頭脳はもはや錬金術師だ。何処となく死んだ混沌の女神の騎士の雰囲気に似ている。
 その彼は鬱ぎ込む混沌の女神に、彼が蘇る希望がある事を話した。それはルーアが密かに研究をしていた事に繋がっていたのだ。
 彼女は一国の姫だが、密かに研究として毒草の研究をしていた。理由は父の病の治療の為に研究していた。その彼女の父は数年前に病にて他界している。だが、彼の復活は彼女の国では禁忌だった。
 死した魂は巡り巡ってまた生を授かる。だから彼も輪廻転生する。その為には現在の肉体を捨てる必要がある──という宗教的な理由だ。
 それに父の復活をさせるにも肉体はもう火葬にて無に帰していた。
 ルーアは、そこで毒草の研究を一度、棚に上げる。諦めた。母親はそんな研究をしているルーアは知らない。知っていたとしたら生命の侮辱行為として怒ったであろう──。
 ルーアの研究する毒草には錬金術にて必要な物が含まれていたからだ。それは実はアカデミアの東の瘴気の森にも普通に自生している毒草なのだ。

「──まさか、私が研究していた毒草が錬金術にて必要なアイテムだったのですか?」
「──はい。まだ肉体は生前のままです。今は魂が抜けて肉体だけがある状態なんです。彼の魂は混沌の海を揺蕩っているでしょう」
「この研究所には肉体を保存する方法がいくつか存在しています。ホープ所長がその権限を握っています。賢者の石を今こそ生み出し、彼を蘇らせる。混沌の女神の騎士の復活は私達の悲願ですからね」
「──私の祖国と学業都市アカデミアの宗教感は鏡のように真反対ですね……」
「アカデミアは科学者の都でもあります。彼らからすれば錬金術も、化学なんです。つまりは人間が追い求めるべき真理。この時点で人間は神の領域に踏み込み過ぎると言われますが──」
「──今はその力が必要という訳ですね」

 ホープはルーシャスの言葉を引き継ぐ。
 確かに、人間一人を生き返らせるのは神の領域の業だ。神に対する冒涜とも言えるかもしれない。
 だが、混沌の女神の騎士は替えの効かない唯一無二の男性だった。転生を司るもう一人の鍵となる人物。ルーア姫の対になる男性だ。彼を失ってはアルトカークスが滅びる。
 ならば、神に対する冒涜であろうとも生き返らせる必要があった。いや、創造神もそれを望んでいるなら、それは冒涜ではないかもしれない。
 
「ルーシャス。その必要なアイテムはアカデミア国内で手に入る物だけですか?」
「瘴気の森まで足を伸ばせば手に入ります」
「瘴気の森か。案外と近くにあるんだな」

 シャーリーの事で考え込んでいたエリックが言葉を発した。
 錬金術というからかなり珍しいアイテムを使うのかと考えていて、拍子抜けしたらしい。
 だが、そこでエリックの期待を裏切らないのもきちんとあった。

「瘴気の森で手に入るからと言って簡単に手に入る物ばかりじゃないですよ。六種類のアイテムの内、事に二つは深部まで潜らないとありませんから──」
「洞窟内の探索を彼女に頼むのか?」
「エリック隊長も同行してはいかがでしょうか?」

 ホープがルーアの警護にどうか? と彼に聞いた。エリックは研究所のスタッフの中でも深部の洞窟探検を得意とする。
 極端な話、シャーリーという足手まといなんか居なくとも洞窟探検なら単騎でもこなせる人物なのだ。
 この際、ルーアに同行して、毒草の知識の共有はしたいのが本音である。
 
「着いていって良いかな? ルーア様?」
「外で待つミカエルの返事次第ですね。彼、プライドが高いからレム以外の人間には結構、辛辣なんです」
「辛辣ならこちらも闘い甲斐があるってものだ。最悪、徒歩で瘴気の森に行けば良いし」
「外で待つミカエルに報せて良いでしょうか? 多分、彼もこの事について気付いている筈なので──」 
「わかりました。こちらはレムさんの遺体の保存処理の権限を発動します。ルーシャス。錬金術の種類はなんですか?」
「今回は魔術的なものなので、出来る限り、生身の保存で宜しくお願いいたします」
「冷凍保存をしましょう。あれなら傷も作らずに保存出来る」

 こうしてルーシャスとルーア、そしてエリックの3人での瘴気の森探索が始まろうとしていた。
 銀翼の天使ミカエルは突然のレムの魔力が途絶えた事に彼の身に深刻な事が起きた事を察知する。
 死んだか──あの男は。
 全く──代々の混沌の女神の騎士は、女泣かせが本当に多い──。
 銀翼の天使は深いため息をして研究所の外で待機していた。
 ルーア姫が研究所から出てきた。
 彼女は新たな決意を秘めてミカエルに声をかける。

「ミカエル──。レム以外の人間を乗せるのは嫌かな……?」
「──死んだのか?」
「ええ──でも、すぐにでも生き返らせるわ」
「緊急事態だしな。別に良いだろう。ただし、落ちても知らんぞ」

 ミカエルが渋々、了承すると彼らはミカエルの背に乗り、瘴気の森深部へと向かっていった。
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