【本編完結】それを初恋と人は言う

中村悠

文字の大きさ
9 / 33
恋人同士の一週間

二日目 ビターなホットコーヒーで

しおりを挟む


 朝起きてメッセージを確認する。

 茉莉花を家まで送り届けた後、悠一に月曜の放課後、話がしたいとメッセージを送った。夜はきっと塾だろう。いつもなら寝る前までには返事が来るのだが、昨日は珍しく返信がなかった。



  りょ
  たぬき公園にて待つ


 返信が来た、しかも明け方に。珍しいこともあるなと思ったがその内容に、悠一は放課後も人に囲まれているから待つことになるのは俺の方だろうと一人ごちた。



  悠一と連絡が付いた。
  今日はやっぱり一緒に帰れない



 茉莉花には、昨日のうちに付き合い始めた報告を悠一に直接したいと言ってあるが念のためと送った。









 たぬき公園で待っていると、悠一が肩からリュックを下げ、のんびりとやってきた。



「待ってるんじゃなかったか?」

「あれは、闇からの予言だ。夏樹のな」

「お前、そういう素を学校でも出せよ。一発で取り巻き連中、引くぞ」

「このギャップがいいと言われたら、責任とってくれんのか?」

「確かに、イケメンは何しても許されるからな」



 そう言って悠一にミルクティーのペットボトルを渡す。



「さんきゅ、有難く頂く。だけど夏樹もイケメン枠に爆上がり中だぞ」

「は?」

「面白いから、ちょっと聞いて来た、で、遅れた」

「何のことだよ?」





******





 すみれには土曜日のうちには夏樹と付き合うことになったとメッセージで報告をしてあった。詳しくはあった時にね、とだけ送ってある。



  おめでとう!!
  月曜日
  じっくり聞かせてもらうからね



 すみれからの返信に顔がにやけた。学校に行って、早く報告したくて堪らない。





「昨日ね、夜一緒にご飯食べにいったんだ~、初デート!ふふふ~」




 すみれにきゃっきゃと話しているとクラスの女子たちが「なになに?何の話~」と近寄ってきた。
正式に彼氏彼女になったんだし、隠す必要もないかな?
夏樹も今日、悠一に話すって言ってたし。まあいっか、夏樹の彼女は私だとわかってもらってた方が私も安心だしと、聞かれたことにぽつりぽつりと答えた。


「どこに行ったの?」
「どこでご飯食べたの?」
「いいなー、イタリアン」


 なつきが初デートだからって……



「嘘、私の初デートなんてファストフードだよ」
「私はファミレス」

 ラーメン屋に行ったという強者もいた。



「ちなみにすみれの初デートはどこ?」

「カフェ?かな?」

「すみれもおしゃれじゃん」


 みんなからさっすが~と言われている。


「で、何食べたの?」
「パスタ?ピザ?」


 んー、コース?チックな?


「コース?」
「デザートも?」



 デザート付きな?……ん…おっきなおさらにティラミスがふわっとのってて、生クリームがぽてっと、イチゴがついてた?



「ね。それって割り勘?」


 ううん。夏樹の奢り……


「「「マジで?」」」



 みんなの反応に



 ……普通では、ないの?かな??



「普通ではない」
「私達高校生だよ、しかもなったばかり」



 ……やっぱそうだよね。夏樹に言っても普通だろって言われるからよくわかんなくなる。
 いつだってなんでも、さりげなくしちゃうからさ。



「いつだって?」
「なんでも?」
「例えば?」



 ……おしゃべりするときは飲み物用意しててくれるとか
 なければ自然と買ってくれるとか、
 普通?



「たまになら」
「嘘、うちなんて絶対割り勘」
「金ないって奢らされる時もある」



 ……じゃあ、 ハーブティー入れてくれたり、
 キッチンでミルクポットでミルクティー作ってくれるのは?



「「「普通じゃないね」」」





******





「そこまで聞いて出てきた」


 世の一般男子高校生とは違いお金があるから奢るのは夏樹にしたら普通だろうと思ったが、キッチンでのミルクティーには敵わない、そう思ったからだ。



「女子の追求ってこえーな」

「はぁぁ、あいつ学校で何言ってんの?」

「お前のイケメン度を知らしめたいんだろ。だから、もうお前から報告される必要はない」



「……そんな訳にはいかないだろ。俺は悠一が、周りが思う以上にイケメンだと知っている」

「往生際が悪いって言えよ」

「それは俺ら二人ともだろ」


「違う。……俺はあの時からこうなることはわかってた。
お前は顔を上げていないから知らないだろうけど、茉莉花があれ以来ずっとお前を見ているの、俺は見てたからな」


「悠一なら、茉莉花にもっと近づけた筈だろ。それをお前は律儀に俺に遠慮して」


「そんなかっこいいものじゃない。近づいてはっきり振られるのが嫌だったんだよ。怖かっただけだ。
始めはそれでももしかしてって思ったりもしたよ。だけど、それよりもお前たちがうまくいってほしいって思いの方が多かった。それはきっと、自分の不甲斐なさを許せなかったからだ。
だけど、中学いる間は思春期だし立場を変えるのって難しいから、厳しいかなって思ってたからさ……」


「お前の読み通りだな。さすが闇の預言者」


 俺の言葉にふっと笑った悠一は、やっぱりイケメンだった。


「だから裕一郎の店で二人が以前と変わらない様子見て、ようやく自分が解放されると思ったんだ。失恋して悲しいとかよりも。この一週間、茉莉花の様子見てて自分の心の最後の整理もちゃんとついたし………、俺はもう新しい一歩を踏み出してる」


「………茉莉花のことは俺なりに大事にする」

「お前はイケメンだから、心配はしてない。すでに茉莉花に貢ぎっぱなしでそれが心配だ」


「俺は嫁に貢ぐ為に稼いでいる」

「そのセリフ、茉莉花には言うなよ」


「そうか?」

「学校で<普通か問題>が議案に上がるレベルだ」


「わかった。やめておくよ」


「それにしても、想像以上に夏樹、お前はすごいよ」

「普通だろ」

「お前にとってはな。初デートで、イタリアンでコースとか俺無理だわ」



「ご飯の時間だったからな。しかもコースじゃない。ただのカップル取り分けメニューだ」

「はあ。ただのって……。今度俺にも近くでうまくて安いデートで行けそうなとこ、教えてくれよ」


「俺は、家族で行けるとこしかわからないぞ」

「……。それでいい」




 公園の入り口に禎丞の姿が見えた。




「俺が呼んでおいた」と事も無げに悠一が言う。禎丞はニヤニヤしながら近寄って来る。


「よ、色男。詳しい話を聞かせてくれよと言いたいところだが、俺は全てを知っている。なぜならっ」

「今、学校で茉莉花に聞いて来たんだろ」

「そう!なので、このまま郎の店に行くぞ。この楽しみをあいつに分けてやらねば!」

「そうだな。今日は夏樹の奢りで乾杯だな」

「お、いいね。俺メロンソーダ!」


「……マジか。お前らも彼女出来たら奢れよ」

「大丈夫だ。絶対できる気がしない!」

「禎丞は、外見は悪くないのにな」

「外見は、って言った、ひどい」

「ホントになんでだろうな」

「俺も何故自分が残念キャラと言われてるのかわからない」

「じゃあ、今日の議題はそれで」

「そうだな。ぜひ悠一から教えを請いたい」

「教えを乞うなら、いまイケメン度爆上がり中の夏樹でしょ」

「そうだな。あの茉莉花を射止めたんだからな」


「……勘弁してくれ」








******







「全てぇ、茉莉花の好きなメニューで良いって言ってくれたけどぉ、丸投げじゃなくってぇ、迷ってるとお薦めを教えてくれたりぃ、料理の特徴を教えてくれたりぃ、茉莉花の好みを聞いて選んでくれたりぃ」


「禎丞、ウザ」

「えー、だって茉莉花がそう言ってた」

「そんな言い方はしない」

「俺にはそう見えたんだから、そういうこと。で、とにかく<夏樹らしい>ってさ」

「俺らしさって何だ」



 裕一郎もバイトの手を休めて、席に着いている。
まだ、早い時間だからとオーナーである父親から許可を得てだ。
途中、少しだけど昂輝も加わった。予定があるとかですぐに抜けたが。


「っつかさ、茉莉花んちでゲームした話もしてたけど、良いのか、あいつゲーマーなの隠してると思ってた」

「隠してただろ。だけど、どさくさに紛れて暴露したってことだろ。これが策略なら茉莉花こえー」

「郎、どういうことだよ、意味わからん」

「今なら夏樹の影響でゲームしてるって勝手に誤解させられるし、夏樹を爆上げして隠れ蓑にしてる?かも」

「茉莉花には出来ないだろ、そんな器用なこと。な、夏樹」

「そうだよ、郎は深読みしすぎ。な、夏樹」



「んー、そうだな。俺の解釈なら爆上げ?することで、詫びてる感じ」

「詫び?何それ」



 明るい声の禎丞とは対照的に裕一郎は冷ややかに言葉を吐く。




「……夏樹を傷つけた過去は無くならない」


「だーかーらー、何の話だよ」

「ありがとう、郎は、優しいよな」


「だーかーらー」

「そして、いつもそんな禎丞に癒されるよ」


「そうか?ならいっか」

「はあ、でも、なんか、マジで奢らせて。ご馳走したい気分だ」



「やった!裕一郎くん、店で一番高いのをお願いしまーす」

「残念だったな。一番高いのは、アルコールだ」

「じゃあ仕方ない。スペシャルプレート!」

「好きだな、お前」

「今日は大盛りでお願いしまっす」



「悠一は?」

「俺は、オススメAセットに食後はホットコーヒーで」

「ミルクティーじゃなくて良いのか?」

「ああ、これからはブラックコーヒーで大人の男になる予定だ」



「……ふーん、把握。
じゃあ、俺は大人のお子様ランチ大盛りにしよう」


「で、肝心の夏樹は?」

「そうだなー。このメニュー表のここからここまでを全部」



「それ、言ってみたいだけだろ。マジで出すぞ、しかもデザートじゃねえか」

「ははっ。じゃあ、いつものやつで。それに俺も、ホットコーヒー」


「コーヒー?…………お前ら、馬鹿ばっかり」



 裕一郎が溜息をつく。



「なんで注文して馬鹿扱い?客を敬いたまえ~」

「禎丞。お前は俺らの癒しだよ」

「じゃあ、いっか。俺は明日、夏樹に奢られた事を大々的に茉莉花に報告するとしよう!」

「勘弁してくれ」



 そう言いながら、俺は本当にいい友人を持ったなと心から思った。













しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...