20 / 33
セカンドラブの二週間
七日目 模試の後
しおりを挟む模試は終わった。約束は夕食後だったからと教室で自己採点も済ませざっくり見直す…といきたいが、気持ちがせいでいて集中できない。見直しは後にしよう。とりあえず家に帰って準備を整えてから、待ち時間に解説を読もう。
自分でも落ち着きがなくなっていることが分かった。胸がよくわからない焦燥感で埋め尽くされるような、そんな錯覚に落ちそうだ。シャワーを浴びて頭をスッキリさせたら、少しは払拭できるかな。こんな状態では何も手に着かない。今日の夕飯は早めに食べたいと母親には前もって言ってあったし、早く帰ろう。
席を立つと思いのほか勢いが強かったようで椅子が音を立てて動いた。耳から入ってきたその騒音に、ああ、自分が考える以上にまずいな、とようやく自分の動揺を俯瞰的にとらえることが出来た。女の子との約束一つでうろたえるなんて俺も可愛い奴だと、所詮は陽キャ擬態と嘲笑う。リュックを肩に引っ掛けると下を向いたまま教室を出た。
予備校の入り口で同じ学年の女の子たちに声を掛けられて、おもわず彼女たちを凝視してしまっていた。自分の中の暗い思考に囚われ周りをよく見ていなかったことに気づく。
「悠一くん。模試も終わったし、この後一緒に息抜きでもどう?」
「息抜き?」
「そう、カラオケでもアミューズメント施設でも、お茶でも。悠一くんの好きなものでいいんだけど」
だったらゲームだけどなと声に出さないで呟いてみるが「この後、もう予定あるから。ごめんね」と断る。
「悠一くんのお友達と一緒でもいいよ。だめかな?」
「……女の子なんだ」
「!!…デート?」
「っほんとごめん。俺、急いでるから」
女の子達に説明する気にもなれず、かと言っていつも通りの温和な対応もできず、打ち切る様に吐いたセリフに我ながら余裕のない行動だと恥ずかしくなった。女の子からの誘いを柔らかく断るのなんて慣れっこだろ?あんな一方的に言い逃げなんて俺らしくもない。
……ってか、俺らしくってなんだよ。
******
「ただいま」
「おかえり。疲れたでしょ。悠一に頼まれた通り、夕ご飯もう出来てるわよ」
「さんきゅ」
それ以上何も言ってこない母に感謝してダイニングで一人、夕飯を食べる。食べ終わった頃に父親が部屋に入って来て悠一に声を掛けた。
「なんだ。もう飯食べ終わるのか。模試も終わったし今日はみんな一緒に食べられると思っていたのに、残念だな」
「......」
「模試が終わったからこそ、親は優先されないのよ」
「それもそうか。もう高校生だもんな。入学式の日も母さんがご馳走作ってたのに友達と、なんか食べたとか言ってあまり入らなかったもんなぁ」
「パパは私と食べましょ」
「いつも通りだな」
「ご馳走様。......模試もいつも通りだったから。
今日はこのままシャワーして部屋でボイチャしてるから、いきなり声掛けないでね」
「わかった。ゆっくり休んでね」
「...うっす」
はやる気持ちを抑えるべくシャワーをした。心頭滅却すればと思ったが、物理的に冷やすには季節はまだ寒かった。
濡れた頭をぐしぐしとタオルで拭きながら、PCの電源を入れる。
ワクワクドキドキとはよく言ったものだ。この言葉以外当てはまらない気がする。人の気持ちって意外と単純なものだ。それとも俺が単純なのか?
机の上にはペットボトルとスナック菓子を万が一に備えて置く。そんなに長い時間二人でゲームするとは思えないけど、出来れば少しの中座もしたくない。念には念をで、机の隅に寄せて置いた。
この時点で模試の振り返りをすることが頭からすっぽりと抜け落ちていた。気付いたときの衝撃は恐ろしいがこの時の俺は幸せ気分に満ち溢れていて、怖いものなんて何もないぐらいの勢いだった。
すみれがログインするまで肩慣らしに野良で……と思ったところでピコンとスマホが鳴った。
これからログインするよ
準備できたら声かけてね!
「お前、はえーよ」と一人呟く。だけど、思わず顔がにやけてしまった。
すみれも俺と同じくらい楽しみにしてくれていたのかな、そうだといいな。とそこまで思ったところで「ないないないない、ないわー」と声に出した。あいつはゲームがしたいだけだ、リア友と。その為に俺は茉莉花から紹介されたんだからな。
気を引き締めていこう。
あいつに俺と二度と一緒に遊ばないなんて言われないように、俺の全てをもって臨むのだ。
結果、寝不足のままの登校と手を付けていない模試の復習に頭が鉛のように重くなるが、そんなことを吹き飛ばすことが次の日待っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
幼馴染の許嫁
山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる