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セカンドラブの二週間
十一日目 アシスト
しおりを挟むさて。これからの俺は常に警戒を怠らない、パトロールだ。
朝は、廊下で話をした。昂輝とすみれと茉莉花で。多分問題なし。
昼休み、すみれの教室を覗く。すみれと茉莉花と何故だか禎丞がいた。すみれと茉莉花が椅子に座り、その横に禎丞が立って楽しそうにしゃべっている。ふむ。どうしたものか。声を掛けようか見ていたけれど結局そのまますみれが見える角度の、廊下の窓際の壁にもたれかかって様子を伺うことにした。昂輝がいつも通りやってきて「いつもと場所が違うな」と笑った。
「悪いな、つき合わせちゃって」と答えたが「今に始まったことじゃない。それに俺は外が見られればそれでいい」と返され「まあ、念には念を、だもんな」と笑顔で言われた。過保護かもしれないけれど、大切に想う人をもう二度と傷つけられたくない。
「それに心配してるのは、禎丞だけじゃないさ」
「ああ、さんきゅ」
軽い口調で返したが、心底昂輝には感謝している。俺のポジショニングに何も言わずにただただ付き合ってくれている。その昂輝が言った。言葉に出せたということはきっと俺達が前に進めたからじゃないかと自分勝手に解析した。
「無力だったとは言わない。だけど俺たちは幼くて、無知だったからさ。人の悪意がああいう風に向くとは知らなかった」
「そうだな」
「だけど、悠一はここまで築き上げてきただろ」
「どうかな」
「大丈夫、お前の笑顔で乗り切れるだろ」
「腹黒の笑顔だってさ」
「なんだそれ?」
「俺の笑顔は腹黒いって、すみれが」
「ウケる。でも。ちょっと安心した」
「何故に安心?」
「お前のことわかってくれるんじゃないの?」
「そっかな」
「そうだよ。全然イケメンじゃない、ヘタレの腹黒チキン野郎って理解してくれるよ」
「ヘタレの腹黒までは理解してくれてる」
「なら良かったな。あとはチキンだけだ」
「いや、良くない。そこから恋愛に発展させるのは非常に厳しいじゃんか。俺なんか元々ダメダメで。夏樹の『高一普通問題』がなかったら、昨日だってすみれに飲み物を自然に奢れなかったかもしれない」
「夏樹は昔から男前だからな」
「ああ、茉莉花が一途になるのも頷ける」
午後の始業のブザーが鳴る。禎丞が笑って二人に「また後で」と言ったのが口の動きでわかった。
放課後、急いですみれの教室へ向かう、が廊下から覗くとすみれと禎丞がすでに仲良く話をしていた。禎丞が俺に気づいて大きな声で言った。
「あ、悠一。俺も一緒に帰って良いか?」
……俺、そもそもすみれと帰る約束してないんだけどな。俺に許可を取る前にすみれをまず誘わないといけないんだが。戸惑いながらもすみれの顔を見るとにこにこ笑って「私はいいよ」と言った。
「俺、すみれにちょっと教えてもらいたいことがあるんだ。郎の店でいいか?たぬき公園でもいいけど」
「俺はなんでもいいけど。だけど俺、今日は夜塾入れちゃって、そんなには付き合えない」
「ん、だいじょぶ。すみれちゃんがいるから」
「デスヨネ」
「いいのか?すみれ」
「全然大丈夫。むしろ嬉しい」
その返答にぶすっとした顔をしたのが隠せていなかったようで、禎丞にすかさず小声で突っ込まれた。
「顔に出てる。ってか、ごめんて。ちょっとだけだから、な」
俺にすみれを独り占めする権利も焼きもち焼く権利もない。禎丞と同じ、ただの友人なのだから。
「じゃあ、いこっか」
すみれが楽しそうに教室を出ていく。禎丞が俺の肩に手を回し「れっつごー」と相変わらずのノリでじゃれてくるが、十年来の付き合いなので要領は得ている。
無視だ。案の定「つれないなあ、悠一は」と楽しそうなので放っておいた。がそれが良くなかった。俺に無視されまくりの禎丞は店に着くまですみれを構い倒していたからだ。でも、それすらも黙ってみていた。すみれがとても楽しそうだったからだ。考えてみれば自分勝手な思いですみれを囲い込むような真似をしていたんだとようやく思い至る。守るつもりで俺が独り占めしていた。
でも待てよと、この今の状態だってその延長線上にあるんじゃないかと思った。だとしたら、この状況はすみれにとって良くないのではないか。禎丞も過去を繰り返したくないと言っていた。周りが勝手にすみれを守ろうと躍起になっているのは明らかだった。
おじゃべりは途切れることなく続き、意気揚々と禎丞が店の扉を開けると「いらっしゃいませ。何名様ですか?」と朗が朗らかに向かい入れてくれた。
目の前にはコーラ。きっとそうだろうなと思ってはいたが、禎丞はひたすらすみれにゲームの話をしていた。だけどすみれは楽しそうで、見ているこっちもほっこりと和む。
ああ、しかしなんで今日俺、塾なんだろうと自分自身の計画性のなさを恨む。
すみれは今日、家の人が町内の会合とかで一人ご飯の予定だったらしい。それを聞いた禎丞が「このまま郎の店で一緒に飯食おうぜ」と事も無げに言った。あっさりご飯に誘うなよーと羨ましくも思うが下心があるかないかでこんなにも誘いのセリフの重さが違うことを知る。
慌てて母親に「飯いらない」とメッセージを送ったが「残念でした。今、届けてきたところ」と即座に返信があった。中学の時から学校から塾へ真っ直ぐ向かうときは夕飯の弁当を塾に届けてもらっていた。なので、この日もそういう手筈になっていたのだが、お蔭でみすみすすみれとの夕食の機会を逃すなんて悔やまれてしょうがない。郎が「じゃ、俺もここで夕飯食おうかな」と言ったのがなぜかひどく気になった。
後ろ髪惹かれながらも郎の店を後にする。すみれが俺じゃないやつと楽しそうにしているのはいい。すみれが可愛いから。だけど、俺のいないところで楽しくしているのは嫌だ。本当に嫌だ。塾になんて行きたくない。まじでさぼってしまおうかと思ったぐらい。だけど、すみれにさっくりと「じゃあ、頑張ってきてね」と手を振られれば、行くよりほかに選択肢はない。ぎりぎりの時間まで粘って、ようやく塾へと思い足を引きずり歩いた。
心も頭脳も疲弊した。高校受験よりもしたかもしれないとガチで考えている。受験は自分の力試しでしかない。だけど、今置かれている状態は自分ではどうしようもないもので、気持ちは焦るばかり。21時過ぎ、急いで教室を出て、メッセージを送る。
今、塾終わったんだけど
まだ、店いる?
駅まで送るけど
我ながら重いとうんざりしたが、これが俺の性分なんだ、仕方がない。画面を見つめているとすぐに返信が来て顔が思わず綻んだ。
ちょうどそろそろ帰ろうかと
話していたところだよ
ありがと
お願いするね
大急ぎで店に向かう。扉の前で息を整え走ってきたことを微塵も感じさせない、はず。テーブルに向かうと禎丞の姿はすでになく、郎とすみれが二人で話をしていた。
「悠一!早かったね」
「禎丞は?」
「悠一が送ってくれるって言ったら、帰っちゃった」
……気を利かせたな、禎丞め。駅までの道、ほんの少しだが禎丞と一緒のルートになる。俺が来ることが分かって、きっと遠慮してくれたのだと思った。
「送ってくよ」
「うん、ありがと。じゃあ裕一郎くん、…また、ね」
「…ああ。またな」
なんとなく不思議な空気を感じてすみれと朗の顔をみたけれど特に変わった様子もなく、いつもと違う空気の正体はわからずそのまま店を出た。すみれは俺のいない間のことを教えてくれて、それがすごく楽しい時間だったことだけはわかった。
「私ね、この町に来て本当に良かった。今すっごく楽しい」
「ああ、俺も今が一番楽しいよ」
そう、すみれとこうしている今が一番楽しいんだ。すみれには俺の本心なんて届いていないんだろうけど、それでも伝えたくて言葉を重ねる。
「こうしている今が、幸せだなって、思う」
すみれは俺の顔を覗き込むと無邪気に笑って言った。
「奇遇だね!わたしもだよ!」
純粋無垢って恐ろしいな。
春の夜の風は、意外と冷たいことを知った。
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