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「大人になれなかった」少女の願い(3)
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こうして私は、長いようで短い王都での一年をなんとか終えた。
無事に辿りついた結納の席で、久しぶりに幼馴染の笑顔を見て……私はかつてのように駆け寄りたい衝動を、ぐっと我慢した。フェルナン様も嫡男として、そろそろ大人にならなければならない年齢だ。これからは私がしっかりと、彼を補佐していかなければ。
そんな私の成長を誰よりも喜んでくれたのは、フェルナン様のご両親である、伯爵ご夫妻だった。
「やっぱり、ロズリーヌは賢いから、絶対に素敵な淑女になると思っていたのよ! 貴女が手本となってくれたなら、きっとあの奔放息子も自覚を持ってくれると思うから。どうか、これからもよろしくね」
奥様からそう頼まれた私は、学んだことに忠実に……フェルナン様の前で完璧なご令嬢の姿を演じた。だけどそんな私と彼との間は、どんどん距離が開いていった。
*****
フェルナン様との間がぎこちない日が続くうちに、父が『妹』を連れてきた。急に現れた異母妹の存在は複雑だったけど、まあ、貴族にはよくあることだから。
子どもの頃だったら、許せなかったかもしれない。でも今まで私の方が父さまを独占していたんだから、この子にはんぶん譲ってあげよう。
それに私には、フェルもいる。
でも、フェルは……
「ロズ、いやロズリーヌ、お前ってホントつまらない女だな。ノエラの方がよほど魅力的だ。あーあ、なんで家のためにお前なんかと結婚しなくちゃならないんだよ!」
フェルが私を望んでくれたのだと、そう思ってた。
でも、違っていたのかな。
それでも私は、次期当主夫人として認められたくて、懸命に頑張り続けた。そんなときだった。慈善活動に行った治療所で、患者の発疹に、気づいたのは。
疫病患者用の病棟へと隔離された私に、母さまは、どんなに頼んでも鏡を貸してくれなかった。ただ頬をつたう涙が、そこにあるのだろう痘瘡に、ひりひりと染みた。
「フェルナン様は……今日も来ていらっしゃるのですね」
私の言葉を聞いて、ごく小さな硝子窓がはまっただけの病室の扉越しに……母さまが言った。
「若様に、お会いしたい?」
私は黙って、首を横に振った。
彼には、一番きれいな姿だけを見て欲しい。
私の病室から病棟の大扉までは少し離れているはずなのに、騒がしい声がここまで聞こえてくる。
『僕は彼女の、婚約者だぞ!?』
ああもうフェルってば、また大騒ぎしてる。
まだまだ子どもなんだから。
あんなに弱虫で、立派な領主様になれるかな。私が助けてあげたかったけど、でももう、時間がないみたい。
私の代わりは、やっぱりノエラになるのかな。本当に大丈夫? 行儀見習い、けっこう大変だよ? それとも隣領のご令嬢かしら。いい人が、見つかるといいんだけど。
……やっぱり、いやだな。
本当は、まだずっと、私がフェルと一緒にいたかった。私こんなに頑張ったのに、ねえ、なんで!? フェルの隣は、ずっと、私だけの場所のはずだったのに……!
でもそんなことを伝えてしまったら、優しい彼は、きっと一生気にしてしまうだろうから――
――これまで本当にありがとう。
あなたの幸せを、願っています。
...
――――――――――――――――
ここまでお読みいただきありがとうございました。
長編「ナイチンゲールは夜明けを歌う」に、その後のフェルナンが登場します。
長編完結後こちらに後日談(ハッピーエンド)を追加予定ですが、長編を読まなくても話はつながるようにしています。
無事に辿りついた結納の席で、久しぶりに幼馴染の笑顔を見て……私はかつてのように駆け寄りたい衝動を、ぐっと我慢した。フェルナン様も嫡男として、そろそろ大人にならなければならない年齢だ。これからは私がしっかりと、彼を補佐していかなければ。
そんな私の成長を誰よりも喜んでくれたのは、フェルナン様のご両親である、伯爵ご夫妻だった。
「やっぱり、ロズリーヌは賢いから、絶対に素敵な淑女になると思っていたのよ! 貴女が手本となってくれたなら、きっとあの奔放息子も自覚を持ってくれると思うから。どうか、これからもよろしくね」
奥様からそう頼まれた私は、学んだことに忠実に……フェルナン様の前で完璧なご令嬢の姿を演じた。だけどそんな私と彼との間は、どんどん距離が開いていった。
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フェルナン様との間がぎこちない日が続くうちに、父が『妹』を連れてきた。急に現れた異母妹の存在は複雑だったけど、まあ、貴族にはよくあることだから。
子どもの頃だったら、許せなかったかもしれない。でも今まで私の方が父さまを独占していたんだから、この子にはんぶん譲ってあげよう。
それに私には、フェルもいる。
でも、フェルは……
「ロズ、いやロズリーヌ、お前ってホントつまらない女だな。ノエラの方がよほど魅力的だ。あーあ、なんで家のためにお前なんかと結婚しなくちゃならないんだよ!」
フェルが私を望んでくれたのだと、そう思ってた。
でも、違っていたのかな。
それでも私は、次期当主夫人として認められたくて、懸命に頑張り続けた。そんなときだった。慈善活動に行った治療所で、患者の発疹に、気づいたのは。
疫病患者用の病棟へと隔離された私に、母さまは、どんなに頼んでも鏡を貸してくれなかった。ただ頬をつたう涙が、そこにあるのだろう痘瘡に、ひりひりと染みた。
「フェルナン様は……今日も来ていらっしゃるのですね」
私の言葉を聞いて、ごく小さな硝子窓がはまっただけの病室の扉越しに……母さまが言った。
「若様に、お会いしたい?」
私は黙って、首を横に振った。
彼には、一番きれいな姿だけを見て欲しい。
私の病室から病棟の大扉までは少し離れているはずなのに、騒がしい声がここまで聞こえてくる。
『僕は彼女の、婚約者だぞ!?』
ああもうフェルってば、また大騒ぎしてる。
まだまだ子どもなんだから。
あんなに弱虫で、立派な領主様になれるかな。私が助けてあげたかったけど、でももう、時間がないみたい。
私の代わりは、やっぱりノエラになるのかな。本当に大丈夫? 行儀見習い、けっこう大変だよ? それとも隣領のご令嬢かしら。いい人が、見つかるといいんだけど。
……やっぱり、いやだな。
本当は、まだずっと、私がフェルと一緒にいたかった。私こんなに頑張ったのに、ねえ、なんで!? フェルの隣は、ずっと、私だけの場所のはずだったのに……!
でもそんなことを伝えてしまったら、優しい彼は、きっと一生気にしてしまうだろうから――
――これまで本当にありがとう。
あなたの幸せを、願っています。
...
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ここまでお読みいただきありがとうございました。
長編「ナイチンゲールは夜明けを歌う」に、その後のフェルナンが登場します。
長編完結後こちらに後日談(ハッピーエンド)を追加予定ですが、長編を読まなくても話はつながるようにしています。
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