上 下
40 / 146
サタン@異世界編PART1

海中巨大モンスターを一撃で葬る男

しおりを挟む
本来なら呼吸してエネルギーを整えて大技でもかましたい所だが、深海なのでさっさと勝負を決めることにした。

吸血鬼の血を沸き立たせ、赤黒いエネルギーが左手に集まる。

「ゴォォォォォォ!!」

しかし、その前にイカが吸い込む勢いを強めたことで、口の中へ吸い込まれてしまった。

イカの口の中は暗くてよく見えなかったが、明るくなったら多分気持ち悪いはずだ。

(…………!?)

さらに歯なのかわからないが、鋭利なドリルのような物で俺の乳首をツンツンしてくる。

「いてっ!いって……!!」

体をよじりながら左腕に集中してみると、イカを捌くエネルギーの準備が整ったことを感じた。

……ツン。

相変わらずツンツンしてくる。

「ドリルすな」

ツン、ツン、ツン、ツン。

「すな、すな、すな、すな」

ツン、ツン、ツン、ツン。

「すな、すな、すな、すな」

そして、かなりデカい歯での三連撃がつま先、顎、脇を襲った。


ドカッ!ドカッ!ドカッ!


「つま先、顎、脇やめろ!!」



ーーーピタッ。



偶然なのか、なぜか連撃が止まった。


「ドリル…………」


ーーーそして俺は左腕をイカの中から頭部に向かって振り下ろした。




「せんのかぁぁぁァァーーーーーい!!!」




イカの内部を、巨大な赤黒いエネルギーの刃が頭部めがけて駆け巡る。


「ギョォォォォォォオオオ!!!」


イカは断末魔を響かせ、俺を体の中に入れたまますごい勢いで海面へ上昇する。

そのまま飛び跳ねるように海面からジャンプし、そして空中で爆ぜ、霧散していった。

「またこれかい……。いらなっ……」

俺はイカの中から出てきた"魔王の芽"をキャッチすると、海を見る。

どうやら俺たちが海中で戦闘してる隙に、船は岸の方まで離れていたらしく、先ほどのイカが暴れた影響は無かったようだ。

さらに、イカの勢いで吹っ飛ばされていたメイジーが海面から顔を覗かせている。

どうやら『水の中歩けるヤツ』は解けて、メイジーも海を泳ぐことになりーーー。

「ったく……」

そして溺れているようだった。

俺は海面に近づきメイジーを拾い上げると、船へ向かって飛んでいった。



「さすがサタン!!すごいじゃん!!やったねーー!!」

船に着くと、すっかり船酔いの醒めたカトリーナが抱きついてきて、俺のコートに顔を埋める。

「あーーーっ!?ゲロ付いたんですけど!?」

さっきまで吐きまくっていたカトリーナの口による塗布。

俺はあまりのことに絶叫する。

「そんなことより聞いてよサタン!な・ん・と!仕事熱心なカトリーナ様が可愛く船酔いしてる間すら頑張ってライブ配信してた結果、登録者がまた……」

「………」

「3000人増えましたー!!」

「知らんわ!!コート弁償しろー!!」

「まーまー!あ、それより、サタンがさっき助けたこの人は……」

カトリーナがメイジーを見る。

「ん?ああ。メイジーとか言ったな。さっきギガントプラーケンと戦ってた時、援護してもらった」

「へ、へー。そうなんだ」

カトリーナは少しバツの悪そうな顔をして鼻の頭を掻いた。

「?まぁいいや。メイジー。助かった。結局濡れちまったけど前半の海の中は快適に過ごせたよ」

俺はメイジーに改めてお礼を言った。

「ええ。私も、ギガントモンスターの討伐を間近で見られるなんて、とても貴重な経験でしたわ」

メイジーがタオルで髪を拭きながら言った。

そして改まってスカートの端を持ちながら膝を曲げた。

「私、メイジー・T・アルコットと申します。母のマリアは世界的オペラ歌手、父はピロピロムーン帝国の労働省で事務次官を務めておりますわ。以後、よろしくお願い致します」

「典型的な令嬢かい。よろしく」

金持ち特有の形式ばった挨拶に思わずツッコんだ。

「それで、あなたは……?」

メイジーが首をかしげてきたが、そういえば名乗ってすらいないことに気づいた。

「あ、ああ、俺は……」

俺も自己紹介しようとした所で、横からカトリーナが割り込んできた。

「メイジーさん、こんにちは!こいつはサタン。異世界から来た"謎の生物"で、私はこいつのマネージャー兼、パ、パートナーのカトリーナ。よろしくね!」

「パ、パートナーですの……。ずいぶんとお若いようですが……」


「うん!こいつ、変態なんだ!」


「ちげーわ!!!パートナーとかじゃねーし!!ん?あ、いや、動画のパートナーではあるのか……?」


「変態なんだ!」


「うるせーよ!!!」

カトリーナはまた余計な誤解を生んだ。
しおりを挟む

処理中です...