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サタン@異世界編PART2
男と女、嫉妬と怒りの五角関係
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「……あのさ。あいつら知り合いだったの……?」
ロングコートの襟で騎士団に口元が見えないように問いかける。
クロエは俺には顔を向けず、小声で端的に関係性を教えてくれた。
「『元・婚約者』です」
「えっ……!マジかよ……」
まさかロクサスがメイジーとそんな関係だったとは思わなかった。
初めてメイジーに会った時、確か結婚相手に逃げられた、みたいなことを言っていたような気がするが、まさかロクサスが婚約破棄の犯人だとは思わなかった。
「今は過去のこととして前を向いているメイジーですが、婚約破棄されたばかりの頃は自分を責めて……」
「婚約破棄の理由ってなんなんだっけ?」
「表向きはロクサス・テイラーに想い人がいる、というものでしたが、真相はわかりません」
「想い人ねぇ……」
ユカ………ではなさそうだが、あの本心を絶対言わない系男子の真意はマジでわからない。
「あの一件の直後、メイジーは自分に魅力が無かった、とか、知らず知らずのうちにロクサスに嫌われることをしてしまったのではないか、とか、どんどん内向きになっていきました」
「まぁ……そりゃあ親父も怒ってたしな……」
俺は、メイジーの父親がブチ切れながら"水の剣"で俺の腕を吹っ飛ばした時のことを思い出し、苦笑した。
「一護衛の分際で主の人間関係に口を挟むべきではないことはわかっていますが……。私は彼女を悲しませたあの男が好きにはなれません」
クロエが拳をギュッと握った。
「なんなんだあの野郎……」
ふと隣を見ると、もう1人モヤモヤしている男がいた。
散弾銃をテニスラケットのように腕でクルクル回していることからも、ジョウチンのイラ立ちが窺えた。
真紅の瞳で見ると、ジョウチンの鼓動が怒りのリズムを刻んでいるのがわかる。
(ってか、こいつはメイジーとさっき初めて会ったはずだけどな……。好きになるの早すぎだろ)
まるであいつの前世の妻であるオリヴィアを前にしているかのような好きっぷり。
お嬢様という点も一致しているし、何かオリヴィアに共通する要素があるのかもしれない。
(異世界でも恋愛とかピュアなやつ……。まぁストーカーするようならお尻ペンペンしてやるか)
俺はジョウチンの気持ちをニヤニヤしながら見守ることにした。
(うーん。それよりヤバいのがこっちか……)
ーーーロクサスとの夫婦漫才でお馴染み、金髪女騎士のユカ。
誰がどう見ても好きだとわかるくらい、ロクサスへ強い想いを寄せている。
周りが見えないほどの愛は、下手をすれば狂気へと変わる可能性もあるだろう。
「ロクサス様……!あんな女など……!」
唇を強く噛み締めたためか、口からはツーっと血液が流れ出ている。
鼓動を確認すると、獲物に迫るライオンのそれと変わらないほどの心拍数だ。
ユカの怒りの眼差しの先には、すでに過去の遺恨を取り除き、談笑する美男美女がいた。
「僕のせいで、"先代騎士団長"にもさぞご心労をおかけしたことでしょう。現役時代にも大変お世話になったというのに……」
どうやらメイジーの父親は帝労省の事務次官以前は騎士団長だったようだ。
(どうりでアホみたいに強い訳だ……)
その縁で現団長のロクサスと婚約の運びになったらしい。
「いえ……。ロクサス様が気にするようなことではありませんわ」
「いえ、これでも騎士のはしくれ。1人の女性と家族に迷惑をかけたままでは団員にも示しがつきません」
「いえ、そんな……」
「それにメイジー様とは、今後も良き理解者として、お付き合いさせて頂きたいのです」
「ええ。こちらこそですわ」
「そうだ!それでは、次の遠征が終わったら、ぜひ行きつけの帝都ピロピロムーンのレストランでお食事でもいかがでしょう?お父上もご一緒に!」
「まあ!それは良いですわ。婚約の件はあれど、父はロクサス様のことをとても気にかけておりましたので、絶対に喜ぶはずですわ」
「そ、そうですか!良かった。団長は、僕の一番尊敬する方ですので」
「ふふ。いつもは硬い表情の多いロクサス様も、そんな慌て方をされるんですね」
「こ、これはお恥ずかしいところを。どうか内密に……」
「ふふふ。どうしましょう。……では、仲直りの握手をして頂けますか?」
「も、もちろんです!僕からもぜひお願いします!」
手を出す2人。
「なんだかあの2人、良い雰囲気だよね」
事情を知らないカトリーナが余計なことを言う。
ーーーその瞬間、左右にあったはずの怒りの鼓動が『消えた』。
「「今後とも、よろし………」」
ーーーーギャィイイイイイン!!!
ーーー激しい金属音。
それは、メイジーに向けられたユカのレイピアによる"神速の突き"と、ロクサスに向けられたクロエの"居合斬り"。
ーーーその怒りの剣が打ち合った音だった。
ロングコートの襟で騎士団に口元が見えないように問いかける。
クロエは俺には顔を向けず、小声で端的に関係性を教えてくれた。
「『元・婚約者』です」
「えっ……!マジかよ……」
まさかロクサスがメイジーとそんな関係だったとは思わなかった。
初めてメイジーに会った時、確か結婚相手に逃げられた、みたいなことを言っていたような気がするが、まさかロクサスが婚約破棄の犯人だとは思わなかった。
「今は過去のこととして前を向いているメイジーですが、婚約破棄されたばかりの頃は自分を責めて……」
「婚約破棄の理由ってなんなんだっけ?」
「表向きはロクサス・テイラーに想い人がいる、というものでしたが、真相はわかりません」
「想い人ねぇ……」
ユカ………ではなさそうだが、あの本心を絶対言わない系男子の真意はマジでわからない。
「あの一件の直後、メイジーは自分に魅力が無かった、とか、知らず知らずのうちにロクサスに嫌われることをしてしまったのではないか、とか、どんどん内向きになっていきました」
「まぁ……そりゃあ親父も怒ってたしな……」
俺は、メイジーの父親がブチ切れながら"水の剣"で俺の腕を吹っ飛ばした時のことを思い出し、苦笑した。
「一護衛の分際で主の人間関係に口を挟むべきではないことはわかっていますが……。私は彼女を悲しませたあの男が好きにはなれません」
クロエが拳をギュッと握った。
「なんなんだあの野郎……」
ふと隣を見ると、もう1人モヤモヤしている男がいた。
散弾銃をテニスラケットのように腕でクルクル回していることからも、ジョウチンのイラ立ちが窺えた。
真紅の瞳で見ると、ジョウチンの鼓動が怒りのリズムを刻んでいるのがわかる。
(ってか、こいつはメイジーとさっき初めて会ったはずだけどな……。好きになるの早すぎだろ)
まるであいつの前世の妻であるオリヴィアを前にしているかのような好きっぷり。
お嬢様という点も一致しているし、何かオリヴィアに共通する要素があるのかもしれない。
(異世界でも恋愛とかピュアなやつ……。まぁストーカーするようならお尻ペンペンしてやるか)
俺はジョウチンの気持ちをニヤニヤしながら見守ることにした。
(うーん。それよりヤバいのがこっちか……)
ーーーロクサスとの夫婦漫才でお馴染み、金髪女騎士のユカ。
誰がどう見ても好きだとわかるくらい、ロクサスへ強い想いを寄せている。
周りが見えないほどの愛は、下手をすれば狂気へと変わる可能性もあるだろう。
「ロクサス様……!あんな女など……!」
唇を強く噛み締めたためか、口からはツーっと血液が流れ出ている。
鼓動を確認すると、獲物に迫るライオンのそれと変わらないほどの心拍数だ。
ユカの怒りの眼差しの先には、すでに過去の遺恨を取り除き、談笑する美男美女がいた。
「僕のせいで、"先代騎士団長"にもさぞご心労をおかけしたことでしょう。現役時代にも大変お世話になったというのに……」
どうやらメイジーの父親は帝労省の事務次官以前は騎士団長だったようだ。
(どうりでアホみたいに強い訳だ……)
その縁で現団長のロクサスと婚約の運びになったらしい。
「いえ……。ロクサス様が気にするようなことではありませんわ」
「いえ、これでも騎士のはしくれ。1人の女性と家族に迷惑をかけたままでは団員にも示しがつきません」
「いえ、そんな……」
「それにメイジー様とは、今後も良き理解者として、お付き合いさせて頂きたいのです」
「ええ。こちらこそですわ」
「そうだ!それでは、次の遠征が終わったら、ぜひ行きつけの帝都ピロピロムーンのレストランでお食事でもいかがでしょう?お父上もご一緒に!」
「まあ!それは良いですわ。婚約の件はあれど、父はロクサス様のことをとても気にかけておりましたので、絶対に喜ぶはずですわ」
「そ、そうですか!良かった。団長は、僕の一番尊敬する方ですので」
「ふふ。いつもは硬い表情の多いロクサス様も、そんな慌て方をされるんですね」
「こ、これはお恥ずかしいところを。どうか内密に……」
「ふふふ。どうしましょう。……では、仲直りの握手をして頂けますか?」
「も、もちろんです!僕からもぜひお願いします!」
手を出す2人。
「なんだかあの2人、良い雰囲気だよね」
事情を知らないカトリーナが余計なことを言う。
ーーーその瞬間、左右にあったはずの怒りの鼓動が『消えた』。
「「今後とも、よろし………」」
ーーーーギャィイイイイイン!!!
ーーー激しい金属音。
それは、メイジーに向けられたユカのレイピアによる"神速の突き"と、ロクサスに向けられたクロエの"居合斬り"。
ーーーその怒りの剣が打ち合った音だった。
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