雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ

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「おはよう、セレン」

 朝食の席。案内された部屋に到着すると、にこやかに出迎えてくれたのはレイン・リスター侯爵。
 白髪で雪のように白い肌、涼やかなアイスブルーの瞳。童話の中から飛び出したような容姿の彼は、通称スノープリンス。

 元・壁の花仲間であり、昨日からは夫になった人で、初夜を別部屋で過ごそうと提案した人である。

「おはよう、レイン」

 挨拶を返して向かい合わせの席に座る。席にはパンやフルーツ等が並んでいる。

「昨日はよく眠れた?」

 レインは優しく声をかけてくるけれど、これは決して嫌味ではない。
 私たちの中で、初夜を共に過ごさないことは婚約前から決まっていたことだったから。
 妻に対して、というよりも新しい同居人に投げかける言葉だったのだから。

 私たちは利害が一致した、だから結婚した、それだけ。

 レインは婚約前に言ったのだ。

「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」と。

 私も誰かを愛することは怖い。だからこの白い結婚はありがたくもあった。祖父を安心させるための結婚だ。レインは穏やかで同居人としては素敵な人で、この生活にはひとつも不満などない。
 夫と妻という名の同居人としての関係がずっと続いていくと思っていた。

 だから、まさか一週間で私たちがキスをすることになり、その結果彼が倒れる事になろうとは。
 全く予想していないことだった。

・・

 柔らかい光がまぶたを刺して、あまりの眩しさに目を開けた。
 ああ、朝だ。なんだか長い悪夢を見ていたような気がする。

 目を開けると違和感。やけに天井は高く開放感のある部屋だ。目を擦りながらふかふかのベッドから身体を起こすが、ええとどこだっけここは。知らない部屋だ。

 もそもそと立ちあがり、部屋をうろついてみる。
 ロイヤルブルーのドレープカーテンは締め切られているけれど、外の光がたっぷり漏れてきて明るい。全体的にブルーを基調とした部屋だ。
 鏡台の前まで移動して、私は鏡の中の自分を二度見した。

 ――誰だ、これは。
 鏡にうつっているのは、さらりとした銀髪の美人だった。
 日本人にはありえない髪色の瞳の色をしている。

 いや、違う。こちらが現実だ。
 日本人だったのは悪夢の中で――いやそれも違う、悪夢なんかじゃない。あれは私の前世だ。
 今の私は香坂冬子ではなくて、セレン・フォーウッドだ。

 でもこの部屋はどこだっけ?冬子の部屋でもセレンの部屋でもない。
 前世を思い出したからか、記憶が混濁している。

 すると、控えめなノックが響いた。

「奥様、お目覚めでしょうか?入ってもよろしいでしょうか?」

 ……奥様?
 その言葉で、私はしっかりと目が覚めた。同時にはっきりと全てを思い出す。

 そうだ、私は昨日結婚したんだ!そう、昨日は結婚式だった!

 後ろを振り向くけれど、ベッドには誰もいない。誰かがいた形跡もない。昨日は初夜だったというのに。
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