9 / 102
第1章「始まり」
第9話 聖体拝領
私の家臣達の企みで魔神ギーン・ギーン・ラー様は、明けの明星様が神馬を強奪した首魁であると、誤解して襲ってきました。
なんて・・・なんて浅はかでその場の事しか考えられない人達・・・。
私は、自国の臣民の愚かさが哀しくて仕方がありませんでした。
明けの明星様の魔力を頼りに己が欲望のままに人を殺したり、それなのに明けの明星様の魔力を恐れて魔神様に殺させるように仕向けるなんて・・・。
私は哀しくて、哀しくて、哀しくて民衆に問いかけました。
「民よっ!! あなたがたは何を考えて生きているのですっ!!
どうして・・・。どうして、そんなにその場その場の判断でしか行動できないのですか?
明けの明星様に救ってもらいたい。明けの明星様を殺したい。
こんなにもわかりやすい矛盾を抱えたまま狂ったように行動するなんて・・・。
いい加減、目をお覚ましなさいっ!!!」
ですが、私の言葉に耳を傾ける者は、この場には一人としていなかったのです。
誰も私など見てはいませんでした。誰も私の声など聞いておりませんでした。
誰もが明けの明星様と魔神ギーン・ギーン・ラー様以外に興味がなかったのですから・・・・・・。
「無駄や。やめとけラーマ。
それにお前に刹那的な生き方でもせにゃならんコイツラの苦悩は理解できん。
それよりも、今は目の前のアホたれの方が重要や。」
明けの明星様はそう言って魔神ギーン・ギーン・ラー様に向かって指を差して尋ねました。
「おう。ワレが魔神ギーン・ギーン・ラーかえ?
オンドラ、馬盗まれたくらいで頭に来たかなんか知らんけどなぁ・・・。
・・・・・・ようも俺のラーマに手を上げやがったな・・・?」
「どうなるかわかっとんやろなぁ~~っ! ああっ!!?
一万歳かそこいらの若造の分際で調子こいとったら、
ちゃあああっそぉーーーーっ!! オラァアアアアーーーーっ!!」
明けの明星様の殺気の籠った怒声が戦場を凍りつかせるのでした。
先ほどまで魔神ギーン・ギーン・ラー様の登場に湧きだっていた私の臣民は、明けの明星様の体から発せられる禍々しいオドに魂を引きちぎられんばかりの恐怖を覚えてすくみ上ってしまいました。
そうして訪れた静寂を魔神ギーン・ギーン・ラー様が打ち砕かれました。
「言いたいことはそれだけか?
私の神殿から馬を盗みとるように命令した不心得なる異界の魔王っ!!」
私たちに相対する魔神ギーン・ギーン・ラー様はさすがに明けの明星様の威圧など気にもお止めにならないご様子でした。
長身で細身の肉付きに、男神だというのに女性的な顔立ち。その美貌をさらに際立てるような美しい銀色の御髪を長く伸ばした魔神ギーン・ギーン・ラー様には高貴な空気がまとっておられました。
しかし、その身に秘められた魔力の強さは魔王ジャック・ダー・クーなど比べ物にならないほどの量でした。
伝承によると魔神ギーン・ギーン・ラー様は闇の属性を持つ戦神。そして、その言い伝えは間違いではないのでしょう。明けの明星様の威圧に怯むどころか、怒りに表情を歪めながら問いただし返したのでした。
ですが、それは誤解というものです。
「お待ちくださりませっ!! お待ちくださりませっ!!
恐れ多くも畏くも、魔神ギーン・ギーン・ラー様に進言いたしますっ!!
あの神馬は私の家臣が勝手にしたこと。明けの明星様に罪はございません。
どうぞ、お怒りをお納めくださりませっ!!」
・・・・・・と、明けの明星様の背中越しに私が進言しようとした時、明けの明星様が右手を上げて私を遮って魔神ギーン・ギーン・ラー様に答えました。
「俺がワレの馬を盗もうが、家臣共が勝手に盗んだんだろうが、この際どうでもええわい。
そんなことどうでもええ。
今重要なんは、ようはワレが俺の妻に手をかけようとしたことに対して、どう落とし前つける気なんじゃいって事じゃ。」
「おう、魔神ギーン・ギーン・ラーよぉ。
さっさと答えたらんかい。コラ。」
・・・か、会話の次元が違う・・・。
時系列を追えば、神馬を盗まれた被害者である魔神ギーン・ギーン・ラー様の言い分には正当性があるし、そこを先ず問題点に語るのが筋というもの。
ですが、明けの明星様は「そんなことどうでもええ」と一蹴し、自分に対する無礼への始末をどうするつもりか迫っている。
要するに、明けの明星様は魔神ギーン・ギーン・ラー様を問題とせず、ご自身のことだけをお話になっているという事。これはまるで暴君が臣下になされるが如く。つまりお二人の目線、立ち位置の次元が違うのです・・・・・・。
その傲慢すぎる態度には魔神ギーン・ギーン・ラー様も呆れられたご様子でした。そして、深いため息をつかれたのち、長くて美しい銀の髪を右手で掬い上げてから、返答なさいます。
「会話のルールも理解できないチンピラらしいな。
ならば、言葉ではなく実力でわからせるのみ。
さぁっ! かかってまいれ、異界の魔王っ!! 魔神ギーン・ギーン・ラーが貴様に天誅を下す!!」
魔神ギーン・ギーン・ラー様がそう言うと同時に不思議なことに空中に多くの炎をまとった矢、無数の槍が浮かび上がります。
そして、その一つ一つが人知を超えた破壊力を持つことは、魔術に未熟な私にもわかることでした。
「そ、そんな・・・無詠唱であれほどの魔法を?」
私は魔神ギーン・ギーン・ラー様の偉業に絶望して震え上がりました。同時に神と我々魔族との格の違いを知りました。魔王であった父上など比べ物にならないほど魔神様は強力だったのです。
そして、驚き震える私に対して魔王様は仰いました。
「なに、怯えることないで?
あんなもん、こけおどしや。ちょっとあのアホたれ、キャンいわしたるわ。」
魔王様がそういいながら、右手で魔神ギーン・ギーン・ラー様に向けて縦一文字を描いたときの事でした、魔神ギーン・ギーン・ラー様の体が地面に叩きつけられたのでした。
「なっ・・・っ!?」
ご自身の身に何が起きたのかわからない魔神ギーン・ギーン・ラー様が驚きの声を上げて地面に這いつくばったのです。もちろん、私にも何が起きたのか全く分かりませんでした。
そして、そのまま魔神ギーン・ギーン・ラー様は地面から起き上がることができませんでした。
「くっ!!! ううううううっ!!」
苦悶の表情を浮かべるほど、地面からその身を起こそうと必死にあがかれましたが、何をどうしてもその身が立ち上がることは出来ませんでした。何が起こっているのか、それは誰にもわかりませんでした。魔神ギーン・ギーン・ラー様でさえも・・・。ですから、明けの明星様の不思議な能力には、その場にいた者たち全員が畏怖したのでした。
そして、明けの明星様は、立ち上がれない魔神ギーン・ギーン・ラー様の下へ歩み寄られて言いました。
「おう、アホたれ。
身の程を思い知ったか? あん?」
「それで聞かせてくれや。
オンドラ、どう落とし前つけてくれる気なんじゃ? ああっ?」
魔神ギーン・ギーン・ラー様の頭の前に座り込むと、その美しい銀色の御髪を掴んでご尊顔を引きずり上げての詰問でした。
これには魔神ギーン・ギーン・ラー様も敗北を認めざるをえませんでした。
「くっ・・・。殺せっ!
好きなようにすればよかろうっ!!」
潔い。あまりにも潔い態度。
しかし、相手はひねくれものの明けの明星様。その態度が気に入られないかったのか・・・いえ、明けの明星様は相手が何をしても気に入られないかもしれませんが・・・・・・。
「殺せやと? アホンダラ。
なに命令しとんじゃ、オンドラっ!!
ワレ殺すんも、拷問にかけて生き殺しにするんも、俺の勝手じゃボケっ!!」
「ワレに聞いとんは、どう落とし前つける気なんじゃって話じゃ、コラっ!
さっさと答えたらんかいっ!! ボケがっ!!」
明けの明星様はそう言って魔神ギーン・ギーン・ラー様の頭を何度も地面に叩きつけました。
酷い・・・。あんまりです。
敗者に対してあまりにも情けのない仕打ち・・・・・・。
「おやめくださりませっ!!
どうか、魔神ギーン・ギーン・ラー様に戦士の栄誉をっ!!」
私は懇願します。戦士の栄誉。それが死を意味することは重々承知でしたが、それでも身動きが取れないほど懲らしめた相手にこれ以上の生き恥をさらさせることなど、私には考えられなかったのです。
ですが、明けの明星様は「アホンダラ。女が男のすることに口挟むな。ボケっ」とまるで相手にはしてくださいませんでした。
そうして、暫くの間はさんざん、魔神ギーン・ギーン・ラー様を弄んだ明けの明星様でしたが、そのうちに飽きられたのか、「もうええ。お前みたいなもんに時間かけてられんわ・・・。」と仰ると、右手で魔神ギーン・ギーン・ラー様の額に何やら神紋を描き入れました。
「ぎゃあああああーーーっ!!」
と、同時に魔神ギーン・ギーン・ラー様が悲鳴を上げてのたうち回りました。
その姿を見て明けの明星様が言いました。
「ほれ、体を自由にしたったで。
立ち上がって反撃してこんかい? あ?」
しかし、魔神ギーン・ギーン・ラー様はそれどころではないご様子で頭を抱えて地面を転がり続けました。
「かつて東方の猿神は頭に呪いをかけられて別の神に従属したって異端の童話があったな。
ワレはどうする? 戦うか?
それとも、詫び入れて俺の配下に加わるか?」
東方の猿神が何のお話か分かりませんが、どうやら、明けの明星様は魔神ギーン・ギーン・ラー様を配下に加えようとされているようです。
しかし、詫びを入れよとは。そもそも最初に悪いことをしたのは、こちらでは?
と、私が首をかしげていると、とうとう魔神ギーン・ギーン・ラー様が涙ながらに降伏されました。
「ま、参りましたぁっ!!
わ、私は貴方様に降伏いたしますっ!!!
ですから、どうか、どうか・・・この呪いを解いてくださいませっ!!!」
魔神様が悲鳴を上げて懇願する姿を見て、民衆は震え上がりました。
こんなの残酷すぎます・・・・・・。
そのあまりに酷いその仕打ちに私は吐き気さえ覚えました。
そして、魔王様を裏切った民衆たちは魔神様への仕打ちを見て恐怖に震えて土下座したまま身動き一つ取りませんでした。
魔王様はそんな民衆たちには目もくれず、何もない空間から上等な果実酒が似合うような立派なグラスを取り出すと魔神ギーン・ギーン・ラー様に手渡して言いました。
「これを飲むがいい。
これはお前の痛みを取ることを引き換えにお前の魂に俺という呪縛を刻むもの。
お前はいついかなる時も俺に服従する。
これはそういう呪いだ・・・・。」
「今日、俺を裏切った者共も心して聴け。
貴様らは魔神ギーン・ギーン・ラーの教徒。使徒である。
それ故に貴様らにもこの契約の血が流れることを心しておけ。」
そのグラスには明けの明星様の血が注がれ、魔神ギーン・ギーン・ラー様はそれを音を立てて飲み干されました。
魔神も裏切った者共も皆が明けの明星様にひれ伏して魔王様を讃えたのでした。
恐怖によって君臨する。
その光景はまるで地獄絵図。明けの明星様は、まさに地獄の魔王のようでありました。
そして、明けの明星様は、そんな崇め奉る者たちに向けて、小声で何か仰っておられました。
しかし・・・・・・。そのわずかにも聞き取りにくい言葉の意味を今の私に分かるはずがありませんでした・・・・・・。
「この杯は、わたしの血によって立てられる新しい契約である
この杯は、あなたがたのために流される、わたしの血による新しい契約である
これは、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である
皆、この杯から飲みなさい。これは、罪が赦されるように、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である。」
なんて・・・なんて浅はかでその場の事しか考えられない人達・・・。
私は、自国の臣民の愚かさが哀しくて仕方がありませんでした。
明けの明星様の魔力を頼りに己が欲望のままに人を殺したり、それなのに明けの明星様の魔力を恐れて魔神様に殺させるように仕向けるなんて・・・。
私は哀しくて、哀しくて、哀しくて民衆に問いかけました。
「民よっ!! あなたがたは何を考えて生きているのですっ!!
どうして・・・。どうして、そんなにその場その場の判断でしか行動できないのですか?
明けの明星様に救ってもらいたい。明けの明星様を殺したい。
こんなにもわかりやすい矛盾を抱えたまま狂ったように行動するなんて・・・。
いい加減、目をお覚ましなさいっ!!!」
ですが、私の言葉に耳を傾ける者は、この場には一人としていなかったのです。
誰も私など見てはいませんでした。誰も私の声など聞いておりませんでした。
誰もが明けの明星様と魔神ギーン・ギーン・ラー様以外に興味がなかったのですから・・・・・・。
「無駄や。やめとけラーマ。
それにお前に刹那的な生き方でもせにゃならんコイツラの苦悩は理解できん。
それよりも、今は目の前のアホたれの方が重要や。」
明けの明星様はそう言って魔神ギーン・ギーン・ラー様に向かって指を差して尋ねました。
「おう。ワレが魔神ギーン・ギーン・ラーかえ?
オンドラ、馬盗まれたくらいで頭に来たかなんか知らんけどなぁ・・・。
・・・・・・ようも俺のラーマに手を上げやがったな・・・?」
「どうなるかわかっとんやろなぁ~~っ! ああっ!!?
一万歳かそこいらの若造の分際で調子こいとったら、
ちゃあああっそぉーーーーっ!! オラァアアアアーーーーっ!!」
明けの明星様の殺気の籠った怒声が戦場を凍りつかせるのでした。
先ほどまで魔神ギーン・ギーン・ラー様の登場に湧きだっていた私の臣民は、明けの明星様の体から発せられる禍々しいオドに魂を引きちぎられんばかりの恐怖を覚えてすくみ上ってしまいました。
そうして訪れた静寂を魔神ギーン・ギーン・ラー様が打ち砕かれました。
「言いたいことはそれだけか?
私の神殿から馬を盗みとるように命令した不心得なる異界の魔王っ!!」
私たちに相対する魔神ギーン・ギーン・ラー様はさすがに明けの明星様の威圧など気にもお止めにならないご様子でした。
長身で細身の肉付きに、男神だというのに女性的な顔立ち。その美貌をさらに際立てるような美しい銀色の御髪を長く伸ばした魔神ギーン・ギーン・ラー様には高貴な空気がまとっておられました。
しかし、その身に秘められた魔力の強さは魔王ジャック・ダー・クーなど比べ物にならないほどの量でした。
伝承によると魔神ギーン・ギーン・ラー様は闇の属性を持つ戦神。そして、その言い伝えは間違いではないのでしょう。明けの明星様の威圧に怯むどころか、怒りに表情を歪めながら問いただし返したのでした。
ですが、それは誤解というものです。
「お待ちくださりませっ!! お待ちくださりませっ!!
恐れ多くも畏くも、魔神ギーン・ギーン・ラー様に進言いたしますっ!!
あの神馬は私の家臣が勝手にしたこと。明けの明星様に罪はございません。
どうぞ、お怒りをお納めくださりませっ!!」
・・・・・・と、明けの明星様の背中越しに私が進言しようとした時、明けの明星様が右手を上げて私を遮って魔神ギーン・ギーン・ラー様に答えました。
「俺がワレの馬を盗もうが、家臣共が勝手に盗んだんだろうが、この際どうでもええわい。
そんなことどうでもええ。
今重要なんは、ようはワレが俺の妻に手をかけようとしたことに対して、どう落とし前つける気なんじゃいって事じゃ。」
「おう、魔神ギーン・ギーン・ラーよぉ。
さっさと答えたらんかい。コラ。」
・・・か、会話の次元が違う・・・。
時系列を追えば、神馬を盗まれた被害者である魔神ギーン・ギーン・ラー様の言い分には正当性があるし、そこを先ず問題点に語るのが筋というもの。
ですが、明けの明星様は「そんなことどうでもええ」と一蹴し、自分に対する無礼への始末をどうするつもりか迫っている。
要するに、明けの明星様は魔神ギーン・ギーン・ラー様を問題とせず、ご自身のことだけをお話になっているという事。これはまるで暴君が臣下になされるが如く。つまりお二人の目線、立ち位置の次元が違うのです・・・・・・。
その傲慢すぎる態度には魔神ギーン・ギーン・ラー様も呆れられたご様子でした。そして、深いため息をつかれたのち、長くて美しい銀の髪を右手で掬い上げてから、返答なさいます。
「会話のルールも理解できないチンピラらしいな。
ならば、言葉ではなく実力でわからせるのみ。
さぁっ! かかってまいれ、異界の魔王っ!! 魔神ギーン・ギーン・ラーが貴様に天誅を下す!!」
魔神ギーン・ギーン・ラー様がそう言うと同時に不思議なことに空中に多くの炎をまとった矢、無数の槍が浮かび上がります。
そして、その一つ一つが人知を超えた破壊力を持つことは、魔術に未熟な私にもわかることでした。
「そ、そんな・・・無詠唱であれほどの魔法を?」
私は魔神ギーン・ギーン・ラー様の偉業に絶望して震え上がりました。同時に神と我々魔族との格の違いを知りました。魔王であった父上など比べ物にならないほど魔神様は強力だったのです。
そして、驚き震える私に対して魔王様は仰いました。
「なに、怯えることないで?
あんなもん、こけおどしや。ちょっとあのアホたれ、キャンいわしたるわ。」
魔王様がそういいながら、右手で魔神ギーン・ギーン・ラー様に向けて縦一文字を描いたときの事でした、魔神ギーン・ギーン・ラー様の体が地面に叩きつけられたのでした。
「なっ・・・っ!?」
ご自身の身に何が起きたのかわからない魔神ギーン・ギーン・ラー様が驚きの声を上げて地面に這いつくばったのです。もちろん、私にも何が起きたのか全く分かりませんでした。
そして、そのまま魔神ギーン・ギーン・ラー様は地面から起き上がることができませんでした。
「くっ!!! ううううううっ!!」
苦悶の表情を浮かべるほど、地面からその身を起こそうと必死にあがかれましたが、何をどうしてもその身が立ち上がることは出来ませんでした。何が起こっているのか、それは誰にもわかりませんでした。魔神ギーン・ギーン・ラー様でさえも・・・。ですから、明けの明星様の不思議な能力には、その場にいた者たち全員が畏怖したのでした。
そして、明けの明星様は、立ち上がれない魔神ギーン・ギーン・ラー様の下へ歩み寄られて言いました。
「おう、アホたれ。
身の程を思い知ったか? あん?」
「それで聞かせてくれや。
オンドラ、どう落とし前つけてくれる気なんじゃ? ああっ?」
魔神ギーン・ギーン・ラー様の頭の前に座り込むと、その美しい銀色の御髪を掴んでご尊顔を引きずり上げての詰問でした。
これには魔神ギーン・ギーン・ラー様も敗北を認めざるをえませんでした。
「くっ・・・。殺せっ!
好きなようにすればよかろうっ!!」
潔い。あまりにも潔い態度。
しかし、相手はひねくれものの明けの明星様。その態度が気に入られないかったのか・・・いえ、明けの明星様は相手が何をしても気に入られないかもしれませんが・・・・・・。
「殺せやと? アホンダラ。
なに命令しとんじゃ、オンドラっ!!
ワレ殺すんも、拷問にかけて生き殺しにするんも、俺の勝手じゃボケっ!!」
「ワレに聞いとんは、どう落とし前つける気なんじゃって話じゃ、コラっ!
さっさと答えたらんかいっ!! ボケがっ!!」
明けの明星様はそう言って魔神ギーン・ギーン・ラー様の頭を何度も地面に叩きつけました。
酷い・・・。あんまりです。
敗者に対してあまりにも情けのない仕打ち・・・・・・。
「おやめくださりませっ!!
どうか、魔神ギーン・ギーン・ラー様に戦士の栄誉をっ!!」
私は懇願します。戦士の栄誉。それが死を意味することは重々承知でしたが、それでも身動きが取れないほど懲らしめた相手にこれ以上の生き恥をさらさせることなど、私には考えられなかったのです。
ですが、明けの明星様は「アホンダラ。女が男のすることに口挟むな。ボケっ」とまるで相手にはしてくださいませんでした。
そうして、暫くの間はさんざん、魔神ギーン・ギーン・ラー様を弄んだ明けの明星様でしたが、そのうちに飽きられたのか、「もうええ。お前みたいなもんに時間かけてられんわ・・・。」と仰ると、右手で魔神ギーン・ギーン・ラー様の額に何やら神紋を描き入れました。
「ぎゃあああああーーーっ!!」
と、同時に魔神ギーン・ギーン・ラー様が悲鳴を上げてのたうち回りました。
その姿を見て明けの明星様が言いました。
「ほれ、体を自由にしたったで。
立ち上がって反撃してこんかい? あ?」
しかし、魔神ギーン・ギーン・ラー様はそれどころではないご様子で頭を抱えて地面を転がり続けました。
「かつて東方の猿神は頭に呪いをかけられて別の神に従属したって異端の童話があったな。
ワレはどうする? 戦うか?
それとも、詫び入れて俺の配下に加わるか?」
東方の猿神が何のお話か分かりませんが、どうやら、明けの明星様は魔神ギーン・ギーン・ラー様を配下に加えようとされているようです。
しかし、詫びを入れよとは。そもそも最初に悪いことをしたのは、こちらでは?
と、私が首をかしげていると、とうとう魔神ギーン・ギーン・ラー様が涙ながらに降伏されました。
「ま、参りましたぁっ!!
わ、私は貴方様に降伏いたしますっ!!!
ですから、どうか、どうか・・・この呪いを解いてくださいませっ!!!」
魔神様が悲鳴を上げて懇願する姿を見て、民衆は震え上がりました。
こんなの残酷すぎます・・・・・・。
そのあまりに酷いその仕打ちに私は吐き気さえ覚えました。
そして、魔王様を裏切った民衆たちは魔神様への仕打ちを見て恐怖に震えて土下座したまま身動き一つ取りませんでした。
魔王様はそんな民衆たちには目もくれず、何もない空間から上等な果実酒が似合うような立派なグラスを取り出すと魔神ギーン・ギーン・ラー様に手渡して言いました。
「これを飲むがいい。
これはお前の痛みを取ることを引き換えにお前の魂に俺という呪縛を刻むもの。
お前はいついかなる時も俺に服従する。
これはそういう呪いだ・・・・。」
「今日、俺を裏切った者共も心して聴け。
貴様らは魔神ギーン・ギーン・ラーの教徒。使徒である。
それ故に貴様らにもこの契約の血が流れることを心しておけ。」
そのグラスには明けの明星様の血が注がれ、魔神ギーン・ギーン・ラー様はそれを音を立てて飲み干されました。
魔神も裏切った者共も皆が明けの明星様にひれ伏して魔王様を讃えたのでした。
恐怖によって君臨する。
その光景はまるで地獄絵図。明けの明星様は、まさに地獄の魔王のようでありました。
そして、明けの明星様は、そんな崇め奉る者たちに向けて、小声で何か仰っておられました。
しかし・・・・・・。そのわずかにも聞き取りにくい言葉の意味を今の私に分かるはずがありませんでした・・・・・・。
「この杯は、わたしの血によって立てられる新しい契約である
この杯は、あなたがたのために流される、わたしの血による新しい契約である
これは、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である
皆、この杯から飲みなさい。これは、罪が赦されるように、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である。」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜
まさき
恋愛
毎朝六時。
黒の下着姿で、赤いヨガマットの上に脚を開く。
それが橘麗奈、二十八歳の朝の儀式。
ストレッチが終わったら、絨毯をめくる。
床下収納を開けて、封筒の束を確認する。
まだある。今日も、負けていない。
儚く見える目と、計算された貧しさで男の「守りたい」を引き出し、感情を売らずに金だけを回収してきた。
愛は演技。体は商売道具。金は成果。
ブリーチで傷んだ金髪も、柔らかく整えた体も、全部武器だ。
完璧だったはずの計算が、同じマンションに住む地味な男——青木奏の登場で、狂い始める。
奢らない。
触れない。
欲しがらない。
それでも、去らない。
武器が全部外れる相手に、麗奈は初めて「演じない自分」を見られてしまう。
赤いマットの上で、もう脚を開けなくなる朝が来るまでの話。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。