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第3章「ゴルゴダの丘」
第45話 試練を課す者
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「私って、そこまでアホたれですの?」
明けの明星様に意見を一蹴されて凹む私を見て、いつものようにアンナお姉様は抱きしめてくださいました。
アンナお姉様は柔らかくていい香りがされて、母性溢れる優しさに満ちていて、私は大好きです。
あっ・・・。苦しいです。苦しいです。
アンナお姉様のお胸に私の顔がうずもれて息ができません。アンナお姉様、手加減して下さい。
私が降参を求めるサインである背中を叩くジェスチュア「タップ」をすると、アンナお姉様は私を抱きしめる力を緩めてから、慈しみ深い瞳で私を見つめて仰るのです。
「ああっ・・・。そんなことはなくってよ。ラーマ。
旦那様は誰に対してもアホたれを連呼されるお方ですから、あなただけがアホたれと言うわけではありません。
旦那様は魔神である私ですらどれくらいの高みに位置されるのか想像もできない程、高位な魂の御方。きっと世界の全てが愚かしく思えておられるでしょう・・・。」
「・・・はい。」
私はアンナお姉様の言うことを素直に聞きます。だって明けの明星様は本当に神話や伝説でも聞いたことがないほど、高位な存在。この異界を統べる異界の王であらせられるタヴァエル様ですら従えるお方。そんな存在は誰も知りません。
こことは違う異界の魔王様。この世界の魔王を偽物の魔王と一蹴される明けの明星様は本当にどれくらい高位な魂なのでしょう。
アンナお姉様もその事を恐怖しておられるのでしょう。だから、こんなことを口にされるのだと思います、
そして、アンナお姉様は私を励ますようにご自身の失敗談を語ったのです、
「ラーマ。それにね、旦那様にアホたれ、アホたれと言われるのは私だってそうなのですよ?」
「ええっ!? アンナお姉様でもですか?
魔神様であらせられるアンナお姉様ですら愚かに見えるだなんて・・・。
いったい、どうしてそのようなことに?」
問い返されたアンナお姉様は、少し気恥しそうに笑って言うのでした。
「私、先の戦では旦那様に手を出すなって言われたでしょう?
で、その御言葉に従って何もしなかったら、旦那様が『ホンマになにもせん奴がおるか~っ!! このアホたれ―!』ってお怒りになられたのです。」
「・・・それは・・・理不尽すぎませんか?
アンナお姉様がお気の毒すぎます。」
手出し無用を厳命した明けの明星様が、命令を忠実に守ったアンナお姉様に対してお叱りなるという理不尽。私はアンナお姉様に同情してその美しい瞳を見つめ返します。
ですが、アンナお姉様は私に向かって否定するように首を横に振ってお答えになるのです。
「ラーマ。そうじゃないの。
私、今でもどうすればよかったのかわかりませんが、きっと旦那様は私に魂の成長を求めておられたのだと思います。」
「・・・魂の成長・・・ですか?」
よくわからない理屈です。穢れた魂の争いに関わるとアンナお姉様も穢れると仰ったというのに、あの戦に関わることで魂の成長が果たせるというのでしょうか?
「旦那様は私たち下等な魂では、計り知れないお方。
何をお望みになられたのか、『アホたれ』の私には未だわかりませんが、きっと正解があったのでしょうね。
それを私自身に導きだせとお叱りになったのです。
私もラーマと同じで試されているのですよ。」
・・・。アンナお姉様ですら試されている。その事実に私はショックを受けます。
それではアンナお姉様よりも下等な魂である私はこの先もずっと明けの明星様に試され続けるのでしょうか?
「旦那様は私たち下等な魂に試練を課されるお方。
それが旦那様の意思によるものか、そういう仕事をより高位なお方に与えられたのか、私にはわかりません。
ですが、一つ言えることは、旦那様の行動一つ一つ、言論の一つ一つは言葉通りに受け取ってはいけないという事です。
あのお方は試練を課すものなのですから。」
試練を課すもの。
そのお言葉に含まれた意味を私は今すぐにすべて理解できるわけではないのでしょうが、よくよく理解しないといけないという事を確かめるのでした。
「そんなに難しい顔をしないで?
旦那様は寛容で思慮深いお方です。
そして何よりも、ラーマ。あなたをとても大切にされています。どういうわけかわかりませんが、あなたを育てようとしているように私には見えます。
だから、試練を恐れずに乗り越えるようにお互い、頑張りましょう?」
私を育てる? 何に育て上げるというのでしょうか?
その真意は私にはわかりかねますが、今はその疑問よりもアンナお姉様と共に頑張れるということの方が嬉しいのです。
私たちは手に手を取り合って見つめ合っていますと、アンナお姉様は「あ、そうそう。こんなこともあったのですよ?」と、失敗談をもう一つ教えてくれました。
「私、あまりにも先の戦で何もしなかったから、旦那様から折檻を受けたのですが・・・」
「折檻っ!? 酷いっ!!
アンナお姉様、大丈夫でしたのっ!?」
私はお姉様が心配になって思わず握りしめてしまいました。
「・・・。もう、その折檻がすごくて・・・。」
「ええっ!?」
「私・・・。私、・・・壊れてしまったのです。」
「ええええっ!?
お、お姉様っ!! なんて酷いことを私、明けの明星様に一言申し上げてきますっ!!』
そう言って私が立ち上がろうとした時、異変に気が付きました。
その異変とはアンナお姉様です。
「あんなステキな責め苦を受けたら・・・。私・・・私・・・
もっとお縄が欲しくなっちゃいましたっ!!」
アンナお姉様は腰をくねらせ、紅潮した頬を手で押さえながら嬉しそうに話すのです。
・・・あっ。わかります。
これ、絶対にろくでもないお話です・・・。
「それで、私、もっと欲しくなっちゃって途中から旦那様に向かって『もっと・・・もっと下さいっ! 卑しいメス犬の私にもっと下さいっ!! 旦那様ぁ・・・。』って、おねだりしたのですが、
『・・・。本気で喜んどるやないかい・・・。
俺は、なんちゅう化物を目覚めさせてしまったんや・・・』って、見下げ果てた目を向けてくださったのですっ!!」
「それからというもの、私は旦那様におねだりするときは、縄を所望するのですが旦那様はそのたびに「アホたれやのう」って、優しく罵って下さるのです。
あの罵りと蔑んだ目を向けていただけるのなら、私はこれから先も頑張れますっ!」
「だから、ラーマ。これからも一緒に頑張りましょうね。きっといいことをしていただけるはず・・・っ!!
って、なんですかっ!? そのあきれ果てた目はっ!!」
「ラーマっ!! そんな目で私を見ないでっ!!
何でっ!? 私たち同胞でしょっ!! あなたにもわかるでしょっ!?」
「ちょっと、なんで一人で執務室から出て行くのですっ!!
私を一人にしないで~~っ!!
いやーんっ! 戻ってきてっラーマぁっ!!」
・・・・・・アホたれじゃないですか。
私が半べそをかいて私に残留を懇願するアンナお姉様を執務室に放置して部屋を去ってから、3週間が過ぎました。エデンでは相変わらず国の統一整備と戦争で傷ついた都市部の再開発計画が進められています。それは何の問題も起きない程、順調で私は大変、安堵しておりました。エデンに関して言えば。
エデンが順調なのは一重に明けの明星様を始めとする三柱もの高位の存在が見張っているという緊張感があってのことです。私は明けの明星様の仰っていた恐怖の力を学びました。
ただ・・・。欲を言えば、私はやっぱり恐怖ではなく、徳をもって治世を行いたいと願わずにはいられませんでした。
ただ、エデンが順調なのが喜ばしいのは事実ですし、結果が全てと言う考え方を言えば明けの明星様の行為も為政者としては正しい行いをしたということの証明でもありました。
それは私に色々と考えさせられる事例となりました。
理想と現実の違いを私はまざまざと見せつけられているのでした。
一方、順調なのはエデンでヴァレリオ様がご統治なさっておられる新公国ゴルゴダは常に波乱を秘めていました。
家臣から聞いた話によりますと多種族国家に囲まれたゴルゴダは、数度の小競り合いを既に経験しているとのこと。この小競り合いと言うのは、簡単に言うと他国からの侵略行為、またはその威力偵察です。(※威力偵察とは、少数で敵を攻撃し、その反撃の強さから敵の軍事力を推測する作戦。レーダーや衛星などが発達した現代には使われなくなった戦法。)
多くの多種族はゴルゴダの能力と力を探っているのでした。そして、当然、その反発には明けの明星様という存在がどれくらいゴルゴダに関与してくるのか見定めるための行為でもありました。
そのため、侵略、威力偵察と思しき略奪行為には正規軍は派遣されず、生け捕りにされた兵士は自分たちの存在意義も知らされていない傭兵や盗賊だったのです。
捕らえられた傭兵達は口々に言うのです。
「見知らぬ青年に仕事を頼まれた。夜盗をすれば分捕ったものは保証してもらえると。」
「高い報奨金を支払ってくれる見知らぬ青年から集められた傭兵部隊だ」と。
彼らはその討伐に魔王に昇華なされましたヴァレリオ様が向かってくるとは夢にも思わなかったそうで、大した反撃も出来ないまま生け捕りにされてしまったそうです。
ヴァレリオ様は捕えた兵士たちを処刑したり、牢に入れたり、奴隷化することはなく、ただ身ぐるみを剥いで故郷に送り返すだけという処分で済ませているという事です。
つまり、放免です。ただし、身ぐるみ剥いでの野に放逐と言うのは、それなりに重い処分ではあります。武器が無ければ帰路の途中に野生動物や野党に襲われる危険も御座いますし、食料を得ることも難しいからです。しかも、徹底した身ぐるみらしく、下布一枚以外の着用は許されなかったというのですから、それなりに重い処分です。
ヴァレリオ様はそうやって自国に侵入してくる敵はすぐに討伐される厳しさを持たれる反面、その処分には寛容さも残しておられました。そうすることで他国はヴァレリオ様の懐の深さを恐れるようになるはずなのです。
きっと、今頃他国は得体のしれない魔王の登場に戦々恐々としているはずです。
「ゴルゴダの王は、自ら討伐に赴くのに捕虜を奴隷にしたり、死刑にしたりしないそうだぞ。」
「なんでそんなことをする?」
「わからないのかい? 俺達なんか生かしておいても何の障害にもならないって見せしめをしているのだよ」
「恐ろしい男だヴァレリオ。きっと相当な美青年だぞ。」
などと他国の国民は噂しあっているはずです。ヴァレリオ様は不殺をもって恐怖を体現なさっておられるのです。
本当に素晴らしい事ですわ。
私はヴァレリオ様のご活躍に胸を躍らせつつも、危険な任務を自らこなしておられるヴァレリオ様が心配で心配でなりません。つい、アンナお姉様に愚痴をこぼしてしまうのです。
「わかっているのです。わかっているのです。
ヴァレリオ様はもうお忙しいお方。そして私もエデンの王女。おいそれと二人は会うわけにはいかないのです。
でも・・・。せめて2週間に一度はお顔を見せてほしいんですのっ!!」
そういってお姉様にすがることが増えてきました。
「ねぇ、アンナお姉様。私は町娘が羨ましく思います。
私には明けの明星様と言う御方がおられます。そしてヴァレリオ様はもう私よりも高位の御方。
私には自由に恋をする資格さえないのです。」
「私がもし、普通の町娘であったら、恋仲になれなかったとしても、せめてヴァレリオ様に恋心を抱くことくらいはできたはずなのです。
しかし、私の魂はこの国の王女。恋心など起き上がるはずもなく、ただ、ただ、一人の乙女として恋に恋い焦がれる日々を過ごすしかないなのです。」
「・・・なんですかっ!! お姉様っ!!
なんで、そんな呆れた目で私を見るのですかっ!!
『あ、そうっスね。』って、なんでそんな言い方で私の相談を流そうとするのですか?
私たち、明けの明星様に手籠めにされた同胞でしょっ!?」
「ちょっと・・・どこに行かれるんですかっ!!
いや~んっ!! 私を一人にしないでぇっ!! お姉様ぁ~~っ!!」
明けの明星様に意見を一蹴されて凹む私を見て、いつものようにアンナお姉様は抱きしめてくださいました。
アンナお姉様は柔らかくていい香りがされて、母性溢れる優しさに満ちていて、私は大好きです。
あっ・・・。苦しいです。苦しいです。
アンナお姉様のお胸に私の顔がうずもれて息ができません。アンナお姉様、手加減して下さい。
私が降参を求めるサインである背中を叩くジェスチュア「タップ」をすると、アンナお姉様は私を抱きしめる力を緩めてから、慈しみ深い瞳で私を見つめて仰るのです。
「ああっ・・・。そんなことはなくってよ。ラーマ。
旦那様は誰に対してもアホたれを連呼されるお方ですから、あなただけがアホたれと言うわけではありません。
旦那様は魔神である私ですらどれくらいの高みに位置されるのか想像もできない程、高位な魂の御方。きっと世界の全てが愚かしく思えておられるでしょう・・・。」
「・・・はい。」
私はアンナお姉様の言うことを素直に聞きます。だって明けの明星様は本当に神話や伝説でも聞いたことがないほど、高位な存在。この異界を統べる異界の王であらせられるタヴァエル様ですら従えるお方。そんな存在は誰も知りません。
こことは違う異界の魔王様。この世界の魔王を偽物の魔王と一蹴される明けの明星様は本当にどれくらい高位な魂なのでしょう。
アンナお姉様もその事を恐怖しておられるのでしょう。だから、こんなことを口にされるのだと思います、
そして、アンナお姉様は私を励ますようにご自身の失敗談を語ったのです、
「ラーマ。それにね、旦那様にアホたれ、アホたれと言われるのは私だってそうなのですよ?」
「ええっ!? アンナお姉様でもですか?
魔神様であらせられるアンナお姉様ですら愚かに見えるだなんて・・・。
いったい、どうしてそのようなことに?」
問い返されたアンナお姉様は、少し気恥しそうに笑って言うのでした。
「私、先の戦では旦那様に手を出すなって言われたでしょう?
で、その御言葉に従って何もしなかったら、旦那様が『ホンマになにもせん奴がおるか~っ!! このアホたれ―!』ってお怒りになられたのです。」
「・・・それは・・・理不尽すぎませんか?
アンナお姉様がお気の毒すぎます。」
手出し無用を厳命した明けの明星様が、命令を忠実に守ったアンナお姉様に対してお叱りなるという理不尽。私はアンナお姉様に同情してその美しい瞳を見つめ返します。
ですが、アンナお姉様は私に向かって否定するように首を横に振ってお答えになるのです。
「ラーマ。そうじゃないの。
私、今でもどうすればよかったのかわかりませんが、きっと旦那様は私に魂の成長を求めておられたのだと思います。」
「・・・魂の成長・・・ですか?」
よくわからない理屈です。穢れた魂の争いに関わるとアンナお姉様も穢れると仰ったというのに、あの戦に関わることで魂の成長が果たせるというのでしょうか?
「旦那様は私たち下等な魂では、計り知れないお方。
何をお望みになられたのか、『アホたれ』の私には未だわかりませんが、きっと正解があったのでしょうね。
それを私自身に導きだせとお叱りになったのです。
私もラーマと同じで試されているのですよ。」
・・・。アンナお姉様ですら試されている。その事実に私はショックを受けます。
それではアンナお姉様よりも下等な魂である私はこの先もずっと明けの明星様に試され続けるのでしょうか?
「旦那様は私たち下等な魂に試練を課されるお方。
それが旦那様の意思によるものか、そういう仕事をより高位なお方に与えられたのか、私にはわかりません。
ですが、一つ言えることは、旦那様の行動一つ一つ、言論の一つ一つは言葉通りに受け取ってはいけないという事です。
あのお方は試練を課すものなのですから。」
試練を課すもの。
そのお言葉に含まれた意味を私は今すぐにすべて理解できるわけではないのでしょうが、よくよく理解しないといけないという事を確かめるのでした。
「そんなに難しい顔をしないで?
旦那様は寛容で思慮深いお方です。
そして何よりも、ラーマ。あなたをとても大切にされています。どういうわけかわかりませんが、あなたを育てようとしているように私には見えます。
だから、試練を恐れずに乗り越えるようにお互い、頑張りましょう?」
私を育てる? 何に育て上げるというのでしょうか?
その真意は私にはわかりかねますが、今はその疑問よりもアンナお姉様と共に頑張れるということの方が嬉しいのです。
私たちは手に手を取り合って見つめ合っていますと、アンナお姉様は「あ、そうそう。こんなこともあったのですよ?」と、失敗談をもう一つ教えてくれました。
「私、あまりにも先の戦で何もしなかったから、旦那様から折檻を受けたのですが・・・」
「折檻っ!? 酷いっ!!
アンナお姉様、大丈夫でしたのっ!?」
私はお姉様が心配になって思わず握りしめてしまいました。
「・・・。もう、その折檻がすごくて・・・。」
「ええっ!?」
「私・・・。私、・・・壊れてしまったのです。」
「ええええっ!?
お、お姉様っ!! なんて酷いことを私、明けの明星様に一言申し上げてきますっ!!』
そう言って私が立ち上がろうとした時、異変に気が付きました。
その異変とはアンナお姉様です。
「あんなステキな責め苦を受けたら・・・。私・・・私・・・
もっとお縄が欲しくなっちゃいましたっ!!」
アンナお姉様は腰をくねらせ、紅潮した頬を手で押さえながら嬉しそうに話すのです。
・・・あっ。わかります。
これ、絶対にろくでもないお話です・・・。
「それで、私、もっと欲しくなっちゃって途中から旦那様に向かって『もっと・・・もっと下さいっ! 卑しいメス犬の私にもっと下さいっ!! 旦那様ぁ・・・。』って、おねだりしたのですが、
『・・・。本気で喜んどるやないかい・・・。
俺は、なんちゅう化物を目覚めさせてしまったんや・・・』って、見下げ果てた目を向けてくださったのですっ!!」
「それからというもの、私は旦那様におねだりするときは、縄を所望するのですが旦那様はそのたびに「アホたれやのう」って、優しく罵って下さるのです。
あの罵りと蔑んだ目を向けていただけるのなら、私はこれから先も頑張れますっ!」
「だから、ラーマ。これからも一緒に頑張りましょうね。きっといいことをしていただけるはず・・・っ!!
って、なんですかっ!? そのあきれ果てた目はっ!!」
「ラーマっ!! そんな目で私を見ないでっ!!
何でっ!? 私たち同胞でしょっ!! あなたにもわかるでしょっ!?」
「ちょっと、なんで一人で執務室から出て行くのですっ!!
私を一人にしないで~~っ!!
いやーんっ! 戻ってきてっラーマぁっ!!」
・・・・・・アホたれじゃないですか。
私が半べそをかいて私に残留を懇願するアンナお姉様を執務室に放置して部屋を去ってから、3週間が過ぎました。エデンでは相変わらず国の統一整備と戦争で傷ついた都市部の再開発計画が進められています。それは何の問題も起きない程、順調で私は大変、安堵しておりました。エデンに関して言えば。
エデンが順調なのは一重に明けの明星様を始めとする三柱もの高位の存在が見張っているという緊張感があってのことです。私は明けの明星様の仰っていた恐怖の力を学びました。
ただ・・・。欲を言えば、私はやっぱり恐怖ではなく、徳をもって治世を行いたいと願わずにはいられませんでした。
ただ、エデンが順調なのが喜ばしいのは事実ですし、結果が全てと言う考え方を言えば明けの明星様の行為も為政者としては正しい行いをしたということの証明でもありました。
それは私に色々と考えさせられる事例となりました。
理想と現実の違いを私はまざまざと見せつけられているのでした。
一方、順調なのはエデンでヴァレリオ様がご統治なさっておられる新公国ゴルゴダは常に波乱を秘めていました。
家臣から聞いた話によりますと多種族国家に囲まれたゴルゴダは、数度の小競り合いを既に経験しているとのこと。この小競り合いと言うのは、簡単に言うと他国からの侵略行為、またはその威力偵察です。(※威力偵察とは、少数で敵を攻撃し、その反撃の強さから敵の軍事力を推測する作戦。レーダーや衛星などが発達した現代には使われなくなった戦法。)
多くの多種族はゴルゴダの能力と力を探っているのでした。そして、当然、その反発には明けの明星様という存在がどれくらいゴルゴダに関与してくるのか見定めるための行為でもありました。
そのため、侵略、威力偵察と思しき略奪行為には正規軍は派遣されず、生け捕りにされた兵士は自分たちの存在意義も知らされていない傭兵や盗賊だったのです。
捕らえられた傭兵達は口々に言うのです。
「見知らぬ青年に仕事を頼まれた。夜盗をすれば分捕ったものは保証してもらえると。」
「高い報奨金を支払ってくれる見知らぬ青年から集められた傭兵部隊だ」と。
彼らはその討伐に魔王に昇華なされましたヴァレリオ様が向かってくるとは夢にも思わなかったそうで、大した反撃も出来ないまま生け捕りにされてしまったそうです。
ヴァレリオ様は捕えた兵士たちを処刑したり、牢に入れたり、奴隷化することはなく、ただ身ぐるみを剥いで故郷に送り返すだけという処分で済ませているという事です。
つまり、放免です。ただし、身ぐるみ剥いでの野に放逐と言うのは、それなりに重い処分ではあります。武器が無ければ帰路の途中に野生動物や野党に襲われる危険も御座いますし、食料を得ることも難しいからです。しかも、徹底した身ぐるみらしく、下布一枚以外の着用は許されなかったというのですから、それなりに重い処分です。
ヴァレリオ様はそうやって自国に侵入してくる敵はすぐに討伐される厳しさを持たれる反面、その処分には寛容さも残しておられました。そうすることで他国はヴァレリオ様の懐の深さを恐れるようになるはずなのです。
きっと、今頃他国は得体のしれない魔王の登場に戦々恐々としているはずです。
「ゴルゴダの王は、自ら討伐に赴くのに捕虜を奴隷にしたり、死刑にしたりしないそうだぞ。」
「なんでそんなことをする?」
「わからないのかい? 俺達なんか生かしておいても何の障害にもならないって見せしめをしているのだよ」
「恐ろしい男だヴァレリオ。きっと相当な美青年だぞ。」
などと他国の国民は噂しあっているはずです。ヴァレリオ様は不殺をもって恐怖を体現なさっておられるのです。
本当に素晴らしい事ですわ。
私はヴァレリオ様のご活躍に胸を躍らせつつも、危険な任務を自らこなしておられるヴァレリオ様が心配で心配でなりません。つい、アンナお姉様に愚痴をこぼしてしまうのです。
「わかっているのです。わかっているのです。
ヴァレリオ様はもうお忙しいお方。そして私もエデンの王女。おいそれと二人は会うわけにはいかないのです。
でも・・・。せめて2週間に一度はお顔を見せてほしいんですのっ!!」
そういってお姉様にすがることが増えてきました。
「ねぇ、アンナお姉様。私は町娘が羨ましく思います。
私には明けの明星様と言う御方がおられます。そしてヴァレリオ様はもう私よりも高位の御方。
私には自由に恋をする資格さえないのです。」
「私がもし、普通の町娘であったら、恋仲になれなかったとしても、せめてヴァレリオ様に恋心を抱くことくらいはできたはずなのです。
しかし、私の魂はこの国の王女。恋心など起き上がるはずもなく、ただ、ただ、一人の乙女として恋に恋い焦がれる日々を過ごすしかないなのです。」
「・・・なんですかっ!! お姉様っ!!
なんで、そんな呆れた目で私を見るのですかっ!!
『あ、そうっスね。』って、なんでそんな言い方で私の相談を流そうとするのですか?
私たち、明けの明星様に手籠めにされた同胞でしょっ!?」
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いや~んっ!! 私を一人にしないでぇっ!! お姉様ぁ~~っ!!」
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