魔王〜明けの明星〜

黒神譚

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第3章「ゴルゴダの丘」

第58話 情報整理

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 魔神シェーン・シェーン・クー様の機転のおかげでわたくしたちは無事にエデンまで帰り着くことができました。当然、到着した時の私たちは失神状態でした。そんな私たちを介抱してくださったのは、一早く私たちの到着を察知されたアンナお姉様でした。お姉様も魔神ですのでシェーン・シェーン・クー様の神馬を捕まえて止めることなど造作もない事。
 お姉様は馬車を見つけたときにシェーン・シェーン・クー様の気配がしなかったので、異常事態が起きていると認識されて慌てて城外にお出になられて馬車に飛び乗って馬車を急停止してくださったそうです。
 
 そして馬車の中で失神している私たちを確認すると衛兵を呼び、私やジュリアたちをお城の中へ運んでくださったそうです。
 もし、この時にお姉様がお城におられなかったら、私たちは魔法の解けた馬車の中で失神しまま人気のない時間帯に馬の気分次第に周囲をさ迷うことになっていました。場合によっては馬車を見つけた心の卑しい連中に掴まったり、身ぐるみをはがされていたかもしれないかと思うと、ゾッと致します。
 しかし、ともかくそういう経緯で馬車の中で私たちが失神していても無事に城に帰りつけたわけです。

 それから数刻、私は失神していたそうですが、目を覚ました時、私は自室のベッドの上でした。ゆっくりと目を開けて今の自分の状況を確認しようとしたのですが、そんなことはするまでもなくアンナお姉様が説明してくださったからです。

「おはよう。ラーマ。安心して、ここはあなたのベッドの上よ・・・。
 無事のお帰り、ひとまずは良かったわね。」

 アンナお姉様にそう言われて私は自分が国に帰ってきたことを悟るのでしたが、すぐにジェノバでなにがあったのかを思い出し、大慌ててアンナお姉様に説明するのでした。

「大変ですっ! アンナお姉様っ!! 人間の国で襲撃に会いましたっ!!
 魔神シェーン・シェーン・クー様が機転を利かせて私たちを逃がしてくれたのです。
 ですが・・・、ですが・・・・、ですが、その為にシェーン・シェーン・クー様は単身で3体の怪物と一柱の神と思わしき男性とを相手取って戦うことになったのですっ!!」

 私はそれまでの経緯や人間の国の様子をアンナお姉様にお伝えしました。アンナお姉様は全てを聞き終えた後に

「クーちゃんなら大丈夫よ。あの子は戦闘に関して言えば野生の本能があります。
 逃げるべき時に逃げることを躊躇しません。」

 アンナお姉様はそう言って私を安心させると、しばらくお考えになってからお話になられました。

「となる時になるのは、モデナの事ね。
 クーちゃんがあなた達を逃がすほどの敵ですもの、間違いなくクーちゃんと戦った青年は神でしょう。
 そして神が出張ってくるほどの秘密がモデナにはあるという事ですね。」
「これは・・・ヴァレリオ一人の手に負える相手ではありません。」

 アンナお姉様は衝撃的なことを仰いました。
 私はすっかり狼狽えてしまって取り乱しながら尋ねます。

「そんなっ!! ヴァレリオ様がっ!!?
 ・・・どうしましょう・・・お姉様っ!! どうしましょう?」

 肩が震えるほど取り乱した私は具体的な解決法など考える余裕などなく、ただアンナお姉様に子供のようにどうしようどうしようと尋ねることしかできませんでした。そんな私にアンナお姉様が仰いました。

「落ち着きなさい。とりあえず旦那様がお戻りになられるまでは私が指揮を執りましょう。
 とりあえず・・・。」
「ヴァレリオの所へ報告に行きますけど、あなたも一緒に来る?」

「行きますっ!!」

 私は即答しました。
 アンナお姉様は「あなたって本当に純情な娘」とお笑いになられますが、私は居ても立ってもいられないのです。
 それから私はお風呂に入って身を清め、服を着替えてアンナお姉様にお化粧をしていただくとアンナお姉様に催促します。

「急いでヴァレリオ様の所へっ!!」

「・・・・・・だったら、急ぎなさいよ。」

 アンナお姉様は呆れたようにそう仰ると私を抱き上げて「気を失うと思うから目を瞑りなさい」と忠告なさいました。

「・・・え? それはどういう・・・」

 どういう意味? と尋ね切る前にアンナお姉様はお城の窓から外へ飛び出し、一気にエデンまで駆け抜けるのでした。その時、信じられないことにアンナお姉様は空気を蹴りながら駈けだしたのです。お城の窓から飛び出したというのに、私たちは落下することなく空中を走っていました。

「きゃあああああ~~~~~っ!!」

「あら、ラーマ。そんなに大きな声を出さないで。
 ほら、目を瞑っていなさいと言ったでしょうに。それに、そんなに悲鳴を上げる必要はなくってよ?
 だって空中からの景色はとってもきれいだし、私は好きよ?」

 私が意識を失う前に聞いた言葉は、それが最後でした。・・・私、一日に2度、失神しています。
 失神と言っても精神的ダメージによるものではなくて、移動加速の衝撃に血の気を失って失神しているのですから、その眼ざめは最悪のものです。

 目が覚めた時、私はゴルゴダのヴァレリオ様のお城内の客間のベッドの上でした。

「ううっ・・・。あ、頭が痛いですぅ~~~。」

 目覚めと共に私が口にした言葉は頭痛を訴えるものでした。その言葉を聞いて「大丈夫、すぐに楽になるからね。」と言って私の額に手を当てて私に治療魔法をかけてくださる方がいました。
 最初は頭痛のせいでそれどころではありませんでしたが、やがて血の気が戻って頭痛から解放されると、私の意識は覚醒して私の額に手を当てているお方がどなたかわかるようになりました。

「ヴァレリオ様っ!?」

 その事に気が付いた私はベッドから勢いよく起き上がって、ヴァレリオ様に抱き着きました。

「ヴァレリオ様っ!! どうしましょう?
 とても危険なのですっ! ヴァレリオ様が大変なのですっ!! 
 ああっ!! どうしましょうっ!?
 すぐにヴァレリオ様にお伝えしないと大変なのですっ!!」

 混乱する私はヴァレリオ様に抱き着いたまま意味不明な発言をするのでした。そんな私の頭を撫でながら、ヴァレリオ様は優しくなだめるように仰るのです。

「おはよう。可愛い寝顔のお姫様・・・。大丈夫だよ。僕はここにいる。 
 それよりもどこか辛いところはあるかい?
 すぐに治してあげよう・・・ま、その必要はなさそうだけど・・・」

 ヴァレリオ様はご自身の体に抱き着いた私の腕の力に苦笑しながら、治癒が必要ないことを知るのでした。
 そう言われて私は慌ててヴァレリオ様の体から離れようと手を離すのですが、今度はヴァレリオ様が私を抱きしめてくださったのです。


「ああ・・・。ラーマ。甘い香りがする。
 もうしばらくこのままでいてくれないか? 今度は君が僕を癒す番なんだから・・・」

 そういって私の髪の香りをかぎながら、ヴァレリオ様は耳元でささやかれるのです。その声は私のうなじから背筋をたどる様に私を震わせて、私を熱くさせるのでした。

「ああ・・・。ヴァレリオ様・・・。
 お許しくださいませ・・・。ヴァレリオ様、大切なお話があるのです・・・」

 小さな私の抵抗などヴァレリオ様は意に介さないように私を抱きしめて放さない。こんな非常事態だというのに私はヴァレリオ様も甘い誘惑に抗えずにとうとう自分から再びヴァレリオ様の大きな体を抱きしめてしまいます。
 分厚い胸板に拾い背中は私の腕では巻くことなどできません。男らしいそのお体に包まれた私はすっかり夢心地。まるで幼子が父親に甘えるようにその胸板に頬ずりして顔をうずめるのでした。

 そうして、そんな甘い甘い時間をアンナお姉様が邪魔する・・・注意なさるのでした。

「はいはい。お戯れはそこまでにしなさい。
 私は遊びできたわけではないのですよ。ヴァレリオ。
 さっさと私のラーマから離れなさい。」

 パンパンと両手を打ち鳴らして自制を求めるのです。そう言われて私ははっと我に返り、精一杯の力でヴァレリオ様の体から離れます。

「ああ・・・。とても残念だ。
 アンナ様。随分と殺生な仕打ちをなさいますね。」

 ヴァレリオ様は冗談っぽくも心底残念そうに抗議なさると、私の頬に手を当てて「おはよう。僕のお姫様。」とご挨拶してくださいました。

「はいっ!! お、おおお、おはようございますっ!! ヴァレリオ様っ!!」

 そのあまりにもさわやかな振る舞いに胸が熱くなってしまった私はしどろもどろの挨拶を返すのです。私のその動揺はお二人の笑いを誘って寝室は和やかな雰囲気に変わるのでした。

 それから私たちの元へジュリアたちと見知らぬ少年少女が部屋に入って来て、彼らを交えてこれまでのいきさつをヴァレリオ様に報告し、作戦を練るのでした。
 しかし、ヴァレリオ様は私たちの報告を聞くまでもなく、ある程度の情報を掴んでおられました。私たちの報告を聞いて納得するように頷くと、ご自分が得た情報を話してくださいました。

「そうですか。恐らくその予想は外れてはいないでしょう。
 実は私の方でも独自にジェノバを探っていました。男娼、娼婦を密偵として送り込み、同様の情報を得ておりました。」
 
 ヴァレリオ様はそこまで話すと同席する美少年に目配せしながら「エリザ。申せ。」とご命令なさったのです。
 名前を呼ばれた美少年は話します。エリザと言う女性名が相応しいと感じるほど可愛いその少年は、とても透明感ある声をしていました。そのため、彼の言葉はとても耳触みみざわりがよかったのです。

「私達は高級娼婦として潜伏し、数名の隊長クラスの騎士を相手にしました。中には貴族もいたのですが、彼らの中にはジェノバの作戦を知っている者もおりました。
 彼らが言うことには、なんでも人間の国はエデンに対抗して同盟を果たして現在、ジェノバに集結しつつあるという事です。客層の中には複数の国の貴族が接待で来ておりましたので、同盟は嘘ではないと思われます。
 そして、恐ろしいことにジェノバには数柱の神がお味方されているとか。」
「彼らの自信は本物です。私も気を大きくした貴族の一人に
 『今は未だ戦争状態とは言い難いから魔族の男娼のお前も殺されずに済んでいるが、戦争が始まれば、お前は乱暴取りにあって最悪の場所に売り払われたり、殺される危険があるぞ。
  もし、お前が私の女になるというのなら、お前が命を落とす前に飼ってやっても良いぞ』と、忠告されました。」
 
 エリザはそう言って自分の手首についた痛々しい手かせの跡を見せるのでした。エリザの苦労を知るヴァレリオ様は「すまない。辛い思いをさせたな。」と、改めて頭を下げるのでした。
 エリザもまたジュリアと同じく賤民出身の少年でしょう。まさか君主が自分をねぎらってくれるとは思いもよらないことだったらしく涙を目に溜めて「もったいない事でございます。どうぞ、頭をお上げくださいまし。」と感動の言葉を話すのです。

 一部始終を聞いていたアンナお姉様は立ち上がってエリザの元へ行くと、その手首の傷跡を跡形もなく治してしまわれました。
 そうしてエリザの功績を讃えるように彼の頭を撫でながら

「殿方は寝屋でこそ真実を語るもの。恐らく、その話。嘘や大口ではないでしょうね。
 ラーマたちが仕入れてきた情報とも合致します。
 つまり、これから・・・人間の国が総力を決して攻めてくるというわけですね。」

 ヴァレリオ様は、小さく頷きながら同意し、補足します。

「恐らくは・・・。
 そうなれば、今、建造している防衛都市は役には立ちませんな。」

 その一言に同席した者達の顔が恐怖で歪みます。しかも、追い打ちをかけるようにエリザが震える声で言うのです。

「私は複数の国の貴族を相手にしました。
 ご用心下さいませ。彼らが口々に申すにはジェノバの国王ピエトロ・ルーは戦上手ということです。」
 
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