魔王〜明けの明星〜

黒神譚

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第4章「聖母誕生」

第85話 魔王ヴァレリオの戦い・1

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 魔神シェーン・シェーン・クー様がご自分の手柄をお話になった後、その戦利品として3体の神仙獣をご披露なされましたが、神鉄の鎖によってがんじがらめに捕縛された神仙獣たちを見てラーマが大変な抗議したのでした。

「魔神シェーン・シェーン・クー様。ご無礼を承知で申し上げます。それはあまりにも惨い仕打ち。神仙獣は契約に従って戦ったまで。
 戦の習いに従って水神グース・グー・ハー様の御処罰は仕方がないにしても神仙獣にはどうか特別のご配慮を願います。」

 ラーマの申し出を聞いた魔神シェーン・シェーン・クー様は困ったような表情で私に尋ねました。

「ヴァレリオ・・・。なぜ俺は責められなくてはならんのだ。
 戦利品は勝者の権利であろう?」

 私の名はヴァレリオ・フォンターナ。新公国ゴルゴダの魔王。その立場から魔神シェーン・シェーン・クー様にご返答申し上げました。

「シェーン・シェーン・クー様。恐れながら申し上げます。
 もちろん、シェーン・シェーン・クー様には何の非も御座いません。ラーマは女子おなごゆえに少し情け深いだけでございますれば、どうかご容赦いただきますようよろしくお願いいたします。」

 私の言葉にシェーン・シェーン・クー様は顔をしかめられました。

「俺が許すのは構わんが、それだけではラーマの胸の怒りは収まらぬだろう?
 俺はどうすればよい。」

 そうおっしゃるシェーン・シェーン・クー様は、見た目通りの少年っぽい精神的な幼さが目立ちます。女子に泣かれてどうしたらいいのかわからないようです。魔神様ゆえに超越したところも御座いますが、まだまだこう言った幼い一面も残されている御様子。
 ならば、いたしかたありません。このヴァレリオ・フォンターナ。魔神様の顔を立てるためにも一肌脱ぎましょう。

「そうですね。そこで私にはシェーン・シェーン・クー様の面目を傷つけず、ラーマの胸の内を治めるための妙案がございます。
 此度こたびの戦、いわば人間の国と私の公国との戦でございますれば、その仕置き。私の裁量さいりょうさばかせていただいてもよろしいでしょうか?」

 私の申し出は魔神シェーン・シェーン・クー様は渡りに船とばかりに感激し、許可をくださるのでした。

「うむ。構わん。
 して、その仕置き。いかようにするのだ?」

 この言葉と同じく、ラーマも期待に満ちた目で私を見ました。
 (やれやれ。困った姫様だ・・・。
  しかし、この純情さは一体、どこから来るのか・・・)

 私はラーマの優しさに心打たれながらも、思うことを申し上げました。

「ラーマの申した通り、この神仙獣は水神グース・グー・ハー様のご命令に従ったまでの事、いえ。それどころか無理な契約を課せられた可能性すら御座います。
 神として、これら哀れな獣に深いご慈悲をお与えになること、魔神シェーン・シェーン・クー様の徳を上げる善行となりましょうや。
 さらに、この神仙獣。野に放てば再び高き館の主様の餌食になり利用される可能性御座いますれば、当国で契約し管理するというのはいかがでございましょう? もちろん、見返りとして魔神シェーン・シェーン・クー様の神殿をゴルゴダに建てさせていただきます。」

 神殿は魔神様にとって権威の象徴となりますから、通常はお喜びになられるはずなのですが、出世欲など一切の願望をお持ちでない魔神シェーン・シェーン・クー様はそれに興味を示さず、むしろ面倒くさそうに「ええ~~っ!? 神殿~?」とお答えになられ。「それならいいよ。ヴァレリオ、もうお前の好きにしろ。」と仰るのでした。

 こうして3体の神仙獣は契約を新たにして我が国に迎え入れられたのです。
 3体とも一応は私の眷属けんぞくと言う事になったのですが、どういうわけか美しいエメラルド色の瞳を12対持つ山犬の神仙獣「キュー・レイ」はラーマになつき、ラーマのそばを離れようとはしなかったので結局、ラーマのペットのようにして護衛係を務めることになったのでした。

「ラーマが自分たちを救ったことを理解して感謝しとるんやな。
 ラーマ、有難く可愛がったれよ。」

 明けの明星様がそう仰ると許しが出たことをキュー・レイは感づいたのか、その巨大な体を中型犬ほどのサイズに変化させるとラーマにつき従うのでした。
 その忠犬ぶりには見るもの全ての頬が緩むほど愛らしかったのです。

 さて、そこで気になるのは水神グース・グー・ハー様の事です。右手足を切断された上に魔力を吸い尽くされた水神グース・グー・ハー様hどうなったのでしょうか?
 明けの明星様はお尋ねになられました。

ほんでところで、クーよ。お前、水神グース・グー・ハーはどないした?
 精霊貴族に引き渡してしまいかおわりか?」

 魔神シェーン・シェーン・クー様は明けの明星様にそう尋ねられると、「ここであずかっています。」とお答えになり、神文を空中に描くと大地に封印した水神グース・グー・ハー様を召喚なさるのです。

 ただ、その姿は満身創痍。あまりにもの痛々しさにそれを見たラーマが失神したほど全身傷だらけでした。

「おうっ! 何やえらいいきいきごんぼやんけいまにもしんでしまいそうじゃないか
 全くお前の品性は獣じみててあかんな。」

 明けの明星様はそう仰ると、かるくシェーン・シェーン・クー様の頭を小突いてから、回復魔法で傷をいやした上げるのでした。
 それによって今にも死にそうだった・・・いきいきごんぼだった水神グース・グー・ハー様は息を吹き返し、逆に怒られた魔神シェーン・シェーン・クー様は意気消沈。見るのも可哀想なほど落ち込んでしまいました。
 頭の上についている獣耳がしゅんと垂れ下がる様はあまりにも愛らしく、思わずナデナデしたくなります。この葛藤かっとうに打ち勝つことができたのは、幼いころから厳しい騎士としての教育を受けたおかげでしょう。

 明けの明星様の魔法を受けて息を吹き返した水神グース・グー・ハー様でしたが、体の傷は言えても心の傷は言えなかったようで、我々を見ると悲鳴を上げて怯え震え出したのです。

「こいつ。俺に拘束されてから精霊貴族に相当可愛がられた・・・・・んですよ。
 見るに見かねて俺が預かったんですけど、もうどうしたものかと困っていました。
 ・・・殺しますか?」

 魔神シェーン・シェーン・クー様はとんだお荷物だと仰りたいご様子。しかし、タヴァエル様はそれをお許しにはなられませんでした。

「そのような惨い仕打ちがありますか。
 まったく、あの二人の精霊貴族の私怨しえんは相当なもの。手渡したらどうなるかくらいわかっていたでしょう。
 どうしてあなたはあの二人と契約する際に復讐の制裁にも限度を設定しなかったのですか。」
「この者は私が預かります。精神が崩壊していますが、記憶の書き換えをすることで復活させることができるでしょう。」

 タヴァエル様はさすがに異界の王であらせられる。その御立場に相応しい仕置きをなさいました。
 これで問題は万事解決と言う事でありますが・・・。

「さぁ、それでは残った武勇伝はヴァレリオ。お前の分だけやな。
 ここまであんまりな展開やったからな。お前、スカッとした展開を期待しとるぞ。」

 明けの明星様は今度は私を指名なさいました。やれやれ、私がスカッとした戦いをしたかどうか、ご存じでしょうに。
 確かに血沸き肉躍る武勇伝となりましょうが、少し残酷な話になります。
 何故なら、この中で唯一、対戦相手を殺したのは私なのですから・・・。

「ほれ、ラーマもいつまでも気絶しとらんと話聞いたれや。
 ヴァレリオが話すぞ。」

 ・・・随分とお意地が悪い。恋敵の私の残酷な部分をラーマに聞かせようとなさっておられる・・・。まったく・・・。

 私は、それでもこの国の王として最低限の義務として、やはり戦いのあらましをお話しなくてはなりません。
 ラーマが気を取り戻したことを確認してから私の戦いをみんなの前で話すのです。
 それは、既に戦勝報告を受けているラーマが聞いても手に汗握るであろう、とてもとても壮絶な戦いだったのでした・・・。



 前の二柱が戦いに敗れ、既にこちらが勝利したことが確定していても魔神スーリ・スーラ・リーン様は態度をお変えになることはありませんでした。それどころか、敵の得意な攻撃を引き出すことで自分が足で神紋を描いて敵を罠にめるという高等技術で水神グース・グー・ハー様を完封した魔神シェーン・シェーン・クー様の戦いぶりに随分と興奮なされたご様子で、むしろ戦いの気力は増していたのでした。

「さぁ、今度は俺達の番だな、魔王ヴァレリオ・フォンターナよ。」

 そう言って前に歩み出るスーリ・スーラ・リーン様に私は確認を取ります。

「既にこちらが2勝し、勝負は我らの勝ちとなった。
 それでもやろうというのかスーリ・スーラ・リーンよ? お前は何のために戦いを望む?」

 魔神スーリ・スーラ・リーン様は私の言葉を聞いて大笑しました。

「ははははっ!? 何のためだと?
 決まっているだろう? 戦いのためだ。
 それにお前たちが2勝したからと言ってそれがどうしたというのだ?
 そのあとにお前らを蹴散らせば済むこと。
 全て終わった後にアンナ・ラーを俺の女にしてくれる。
 ここまで俺を焦らした報いとして女の身に生まれ変わったことを後悔するほどの責め苦を味合わせてやる。」

 魔神スーリ・スーラ・リーン様がそう宣言なさいますと、アンナ様は怯えて私の背中に隠れるのでした。
 明けの明星様のご命令に従って行われた神喰の儀式。命令とはいえ、一度は情けを交わした女にすがられた以上、その期待に応えないでは男が廃るというもの。
 私はアンナ様の頬に手を当てて「まかせて。あなたには指一本触れさせぬ。」と約束して魔神スーリ・スーラ・リーン様の前に立ちはだかる。


「それでは始めようか。スーリ・スーラ・リーンよ。
 戦いに敗れたというのに女に目がくらんで戦いを続ける哀れな男よ。
 死を恐れぬなら、かかって参れ。」

 私がそう言って明けの明星様より託された魔神フー・フー・ロー様の残された神槍を構えると、スーリ・スーラ・リーンは驚きの声を上げたのです。


「そ、それは魔神フー・フー・ロー様の神槍っ!!
 きさま、何処でそれを手に入れたっ!? ・・・い、いや。そのようなことどうでもいいっ!!
 貴様を殺して手に入れたら、同じことだっ!!」

 スーリ・スーラ・リーンはそういうが早いか槍を手にして襲い掛かるが早いかという状態で襲い掛かって来るのでした。
 その攻撃、まさに闘神。
 その殺気は私の体にまとわりつくようなほどねっとりと重く、そして禍々しい。
 槍の一突き一突きの速度は水神グース・グー・ハーを遥かに凌駕りょうがしており、その槍の連撃は一突き一突きが正確に急所を狙うだけでなく、こちらの意識のすきうようにバランスよく上下左右に振り分けられていた。
 これは魔神フー・フー・ロー様の神槍のご加護を受けて身体能力が飛躍的に上がっていた状態でなければ、まともに食らっていたであろうと思うほど、スーリ・スーラ・リーンの鎗術はすさまじいものがあった。

 だが、私とスーリ・スーラ・リーンとでは手にした槍の格が違う。お互いに神槍の位に相応しい槍を手にしているのだが、その強度魔術効果の差はすさまじく、私の一払い一払いでスーリ・スーラ・リーンの槍ははじけ飛ぶ。

「はははははっ!! さすが魔神フー・フー・ロー様の残された神槍っ!!
 おかげでお前との戦いが更に楽しいものとなりそうだなっ!
 ヴァレリオ・フォンターナっ!!」

 何がそんなに愉快なのかわかりませんが、スーリ・スーラ・リーンは戦いの気を充実させて私に向かってくるのでした。
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