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第4章「聖母誕生」
第87話 魔王ヴァレリオの戦い・3
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愚者の構え。隙だらけのこの構えにつられて不用意に攻撃してきた愚か者を打ち破る構えである。
しかし、この構えは隙だらけである以上、どうしても実力が足りない者が行うには不向きな構えである。最大の急所である頭部を囮に使うこの構えは危険すぎるのだ、
本来なら実力差がある相手に使う強者の構え。弱者が使って良い構えではないのだった。
だというのに実力があからさまに劣っている私が悠然と愚者の構えをとって魔神スーリ・スーラ・リーンを挑発する。
異常な光景だった。
それゆえに私が不敵な笑みを浮かべると、スーリ・スーラ・リーンは、一瞬、呆然と間抜けな表情を浮かべて固まってしまった。流石に歴戦の闘神といってもこのようなケースは体験したことが無かったらしい。その驚きは本物だった。
だが、やがて彼の個性でもある狂気的な笑みを浮かべて喜ぶのだった。
「ははははっ!! まさに、まさにのっ!!」
「まさに貴様の言う通りだっ!! ヴァレリオ・フォンターナっ!!
まさに貴様の言う通り、俺はお前に期待していたっ!! 俺は先の戦からお前と言う可能性に期待をしていたのだっ!!
単純に戦闘の実力だけなら魔神シェーン・シェーン・クーの方が上であろう。
なのに俺はお前と言う異質な存在に戦いの可能性を見出していたっ!! だが、その勘は正しかったっ!!」
「なんという男だっ!! ヴァレリオ・フォンターナっ!!
まさに貴様は奇想天外っ! 非力で遅く、魔力もたかが知れているっ!! 戦闘経験もそのたかが1000年程度の年齢の貴様では、そう多くはあるまいっ!!
にもかかわらず、この俺を翻弄するとはっ!! まさに貴様は戦の天才っ!!」
「俺は今日ほど自分と言う男を褒めてやりたいと思ったことはない。
お前と言う可能性を見抜いた自分を褒めてやりたいぞっ!!」
スーリ・スーラ・リーンは、今日気に満ちた笑みを浮かべて今の状況を楽しんだ後、一瞬にしてスーッと冷静になる。先ほどまで大笑していたというのに今度は研ぎ澄まされた針のように鋭い視線で私を見据えながら、どっしりと腰を落とした構えを見せる・・・。
正直、私の方こそこの男が気味悪く思えた。何を考えているのかわからない。私の周りにいなかった狂気じみた性格の男だったのだ。
(・・・なんだ、この男。どういう情緒をしているのだ?
全く、気持ちの悪い男だ。)
態度が急変するスーリ・スーラ・リーンに得体のしれない脅威を私は感じていたが、その脅威に耐えることができたのは私に勝利の確信があったからだ・・・。
スーリ・スーラ・リーンは、ここまで戦い抜いたというのになおもまだ私の落ち着いた佇まいに、今こそ勝負の時が来たと悟る。
「行くぞヴァレリオ・フォンターナ・・・。これ以降、一切の油断も加減も様子見もない。
貴様を全力で殺して見せよう・・・。」
スーリ・スーラ・リーンは、そう言うと突然、口から炎を吐いて煙幕を作るとその炎の影に続いて突撃してくる。
私は一瞬の間に地面を蹴ってジャンプして炎をかわすと追撃してくるスーリ・スーラ・リーンを槍を打ち下ろして迎え撃つ。
全力の一撃は魔神フー・フー・ロー様のご加護を得た神槍の魔力によって威力が増強され、防御したスーリ・スーラ・リーンを体ごと吹き飛ばす。
しかし、流石のスーリ・スーラ・リーン。吹き飛ばされながらも無詠唱の氷魔法攻撃で私に追撃を許さない。
「はっ!!」と、ひと息吐くと大量の氷柱を私に向かって浴びせかける。
数千とも思える数の氷柱は瞬きするよりも短い時間で私に襲い掛かるが、私はそれを全て槍で払い落とす。その僅か一瞬のうちに吹き飛ばされた体を入れ替えてスーリ・スーラ・リーンが再び襲ってくる。
「ここに来て判断を誤ったなっ!! 防御に徹したその隙、いただこうっ!!」
スーリ・スーラ・リーンは私の体勢が整う前に凄まじい猛攻を叩き込んでくる。これまで以上の鎗術に私も完璧に攻撃を捌くことができずに無数のかすり傷を体に負っていく・・・。その僅かな切り傷が私の体の動きを段々狂わせていき、反応を遅くしていく・・・。
そうして私が追い詰められた時、スーリ・スーラ・リーンは止めの一撃を加えようとした。
だが、その一撃はギリギリのところで私に当たることはなく、反対に私の一刺しが彼の心臓を確実に貫いたのだった・・・。
致命傷の一撃・・・。だが、それでもスーリ・スーラ・リーンは攻撃の手を緩めなかった。
私の槍が深々と自身の体に刺さったことをいいことに武器を捨てて私に組み付いてきたのだった。
「この距離ならば、膂力に勝る俺が勝つっ!!」
そう言って私の首を絞める彼の腕力はすさまじかった。正直、首をへし折られるかと思ったが、私が彼の体に刺さった魔神フー・フー・ロー様の神槍に込めた魔力を爆発させると、スーリ・スーラ・リーンの体は真っ二つに裂けて死んでしまった・・・。
彼の最後の一言は「・・・なぜ?」だった・・・。
全てに勝っていた彼は私に敗れた理由がわからなかった。
だから彼が敗れた理由が私にないことを想像もしていなかっただろう。全てに劣る私が彼に勝てた理由はアンナ様だ。
私と彼の戦いを黙って見守るアンナ様は魔神スーリ・スーラ・リーンの全てを知っていた。そして彼女は黙って見守ってなどいなかった。常に私の心に囁きかけてくれていた。その攻撃の癖や作戦まで彼女がその都度私の心に囁いてに知らせてくれていたのだった。
傍目八目と言う。盤上のゲームは競技者よりも遥かに腕の劣る者であっても、はたで見ていればはるかに達観できる理屈のことだ。幾たびも彼と戦ったアンナ様ならばなおのこと見通すことができた。
彼はその一挙手一投足を既に敵とすら見ていなかったかつてのライバルにその動きを看破されたせいで負けたのだ。
彼はその事実を知ることなく死んでしまったのだが、もしかしたら、それは彼にとって唯一の救いかも知れない。
これが我々の最後の戦いであり、私、ヴァレリオ・フォンターナとアンナ・ラー様の戦いの記憶である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
全ての報告を聞き終わった私ですが、やはり心が痛みます。
「そうですか、魔神スーリ・スーラ・リーン様は助けられませんでしたか・・・。」
アンナお姉様は、うなだれる私の肩を抱きしめて励ましてくださいました。
「あの子は、戦うために生まれて、戦いの中で死んでいくことを望んだ魔神でした。
これでよかったのですよ・・・これで・・・。」
そう言われても私は哀しい。同時にこのような事態を招いた異界の魔王様・高き館の主様が憎く思えました。
「どうして・・・高き館の主様はこのような非道なことを・・・。
多くの人が死にました。魔神様を始め多くの高位の御方も傷つきました・・・。
絶対にあの魔王様の企みを止めなくては・・・。これ以上の悲劇を生んではいけないのです。」
私がそういって覚悟を決めた時、明けの明星様が果実酒を片手にさわやかな笑顔をお見せになって
「まぁ、その話は明日からやっ!!
今日は、まず楽しもう。俺達の勝利にっ!」
と、乾杯の音頭を取ります。
それで一気に空気が明るくなり、皆、嬉しそうに杯を天に向けて「我らの勝利にっ!!」と声を上げるのでした。
それからしばらくは、とりとめのない内容の話をしていたのですが、やがて解散の時が来ます。
「皆、何十日にも及ぶ戦闘ご苦労やったな。
これから神々はさらに苦しい戦になるし、ラーマはラーマで多事多難。そして大きな試練を乗り越えなければならん。
高き館の主が今後、体勢を整え直して攻めてくるのは目に見えとる。今日は日々の疲れをいやすための宴を開いたけど、明日からは気を引き締めてしっかりやってくれ。」
明けの明星様はそういって締めの言葉を口になられると、
「さて、俺はこいつらと話があるから、ラーマも早く寝ろ。」とおっしゃって豊穣神ミュー・ニャー・ニャー様を肩に担ぎ上げ、魔神シェーン・シェーン・クー様と一緒に部屋を出て行かれました。
「いやああああ~~~~っ!! メチャクチャされて大地の苗床にされちゃう~~~っ!!」
ミュー・ニャー・ニャー様は悲鳴を上げながら部屋から連れ出されていきます。その怯えっぷりが尋常じゃなかったので、私が心配しているとアンナお姉様とタヴァエルお姉様は「大丈夫ですよ、あの子は今夜、幸せになるのです。」とほっこりした笑顔で教えてくださったので、私も安心することができました。
しかもその晩は、タヴァエルお姉様とアンナお姉様が私が落ち着くようにと共にベッドで寝てくださったのです。
お二人に挟まれると心が安らぎます。これが女神の力なのでしょうか?
その上、アンナお姉様が子守歌を歌って下さったので、私もタヴァエルお姉様もいつの間にか失神してしまい、朝まで目を覚ましませんでした。
翌朝。
「うう~~・・・。お寝坊するほど長時間寝たのに疲れが取れない・・・。」
私は何故だか、半端ではない疲労感の中で目を覚ましたのでした。そんな私を気遣ってタヴァエルお姉様が回復魔法で癒してくれたのですが・・・
「ラーマ・・・。あなたあんな目にあってきたのですか・・・。
よく今まで命がありましたね・・・。」などと、少し引っかかることを仰っておられたのが印象的でした。
しかし、それとは対照的に私たちを地獄に落とした・・・私たちに安眠をもたらされたアンナお姉様がさわやかな笑顔と共に窓の外を指差して話します。
「さあさ、お寝坊さん。
それよりもお外をごらんなさいっ!! とっても素敵よっ!!」
アンナお姉様に催促されて、私は眠い目をこすりながらベッドから起き上がると、窓に向かいます。
「ううっ・・・。あ、朝日がまぶしいです~~。」
タヴァエルお姉様の回復魔法でも回復し切れなかったのか、若干疲れた目の私には朝日が痛いくらいに刺さりました。
・・・ですが、その窓から見える光景は、そんな私の疲れを吹き飛ばすほど鮮烈で感動的なのでした。
「まぁっ!! 何て綺麗なお花畑っ!!
そ、それに戦争で傷んだ大地にあんなに沢山の果樹園がっ!?」
それは信じられない光景でした。戦争で踏み散らかされたはずの王城の庭には美しい花が咲き乱れ、水攻めのために大量の土砂を浴びて広大な荒野になってしまっていた王城の外の地域が一夜にして果実がたわわに垂れ下がる果樹園が広がるパラダイスになっていたのですっ!!
「ああ・・・なんて奇跡っ!!
こ、こんなことが現実に起こるなんてっ!!」
私が感動のあまりに窓から体を乗り出して感動していると、明けの明星様が飛来され「こらこら、アカンがな。そんなに身を乗り出したら、落ちてしまうで?」と注意なさいました。
それから「ほら、おいで。お前にこの果樹園を見せてやろう。」と言って私を抱きかかえて空中浮遊なさいます。
「きゃあああああ~~~っ!! こ、怖いですぅ~~~っ!!」
「やかましいっ!! 耳元で騒ぐなっ!!
ええ加減に慣れんかいっ!! 俺の魔法で飛んどるんやさかいに大丈夫に決まってるやろっ!!」
うう・・・。ど、怒鳴られてしまいました・・・。
でも、怖いものは怖いのです・・・。
そう恐れていたのも少しの間だけ、私も明けの明星様の空中浮遊にやがてなれ、素晴らしい景色を楽しむ余裕が生まれました。
私が落ち着いたころ大地を指差して明けの明星様は教えてくださいました。
「これは全てミュー・ニャー・ニャーの豊穣神としての力。
もちろん、俺の力の介添えと大量の土砂が肥沃な大地に変えてくれた恩恵もある。
ま。これで食料は満たされる。これであいつらのしたこと、許してやってくれ。」
明けの明星様は彼らを気遣って素晴らしいお恵みをくださったのでした・・・。
しかし、この構えは隙だらけである以上、どうしても実力が足りない者が行うには不向きな構えである。最大の急所である頭部を囮に使うこの構えは危険すぎるのだ、
本来なら実力差がある相手に使う強者の構え。弱者が使って良い構えではないのだった。
だというのに実力があからさまに劣っている私が悠然と愚者の構えをとって魔神スーリ・スーラ・リーンを挑発する。
異常な光景だった。
それゆえに私が不敵な笑みを浮かべると、スーリ・スーラ・リーンは、一瞬、呆然と間抜けな表情を浮かべて固まってしまった。流石に歴戦の闘神といってもこのようなケースは体験したことが無かったらしい。その驚きは本物だった。
だが、やがて彼の個性でもある狂気的な笑みを浮かべて喜ぶのだった。
「ははははっ!! まさに、まさにのっ!!」
「まさに貴様の言う通りだっ!! ヴァレリオ・フォンターナっ!!
まさに貴様の言う通り、俺はお前に期待していたっ!! 俺は先の戦からお前と言う可能性に期待をしていたのだっ!!
単純に戦闘の実力だけなら魔神シェーン・シェーン・クーの方が上であろう。
なのに俺はお前と言う異質な存在に戦いの可能性を見出していたっ!! だが、その勘は正しかったっ!!」
「なんという男だっ!! ヴァレリオ・フォンターナっ!!
まさに貴様は奇想天外っ! 非力で遅く、魔力もたかが知れているっ!! 戦闘経験もそのたかが1000年程度の年齢の貴様では、そう多くはあるまいっ!!
にもかかわらず、この俺を翻弄するとはっ!! まさに貴様は戦の天才っ!!」
「俺は今日ほど自分と言う男を褒めてやりたいと思ったことはない。
お前と言う可能性を見抜いた自分を褒めてやりたいぞっ!!」
スーリ・スーラ・リーンは、今日気に満ちた笑みを浮かべて今の状況を楽しんだ後、一瞬にしてスーッと冷静になる。先ほどまで大笑していたというのに今度は研ぎ澄まされた針のように鋭い視線で私を見据えながら、どっしりと腰を落とした構えを見せる・・・。
正直、私の方こそこの男が気味悪く思えた。何を考えているのかわからない。私の周りにいなかった狂気じみた性格の男だったのだ。
(・・・なんだ、この男。どういう情緒をしているのだ?
全く、気持ちの悪い男だ。)
態度が急変するスーリ・スーラ・リーンに得体のしれない脅威を私は感じていたが、その脅威に耐えることができたのは私に勝利の確信があったからだ・・・。
スーリ・スーラ・リーンは、ここまで戦い抜いたというのになおもまだ私の落ち着いた佇まいに、今こそ勝負の時が来たと悟る。
「行くぞヴァレリオ・フォンターナ・・・。これ以降、一切の油断も加減も様子見もない。
貴様を全力で殺して見せよう・・・。」
スーリ・スーラ・リーンは、そう言うと突然、口から炎を吐いて煙幕を作るとその炎の影に続いて突撃してくる。
私は一瞬の間に地面を蹴ってジャンプして炎をかわすと追撃してくるスーリ・スーラ・リーンを槍を打ち下ろして迎え撃つ。
全力の一撃は魔神フー・フー・ロー様のご加護を得た神槍の魔力によって威力が増強され、防御したスーリ・スーラ・リーンを体ごと吹き飛ばす。
しかし、流石のスーリ・スーラ・リーン。吹き飛ばされながらも無詠唱の氷魔法攻撃で私に追撃を許さない。
「はっ!!」と、ひと息吐くと大量の氷柱を私に向かって浴びせかける。
数千とも思える数の氷柱は瞬きするよりも短い時間で私に襲い掛かるが、私はそれを全て槍で払い落とす。その僅か一瞬のうちに吹き飛ばされた体を入れ替えてスーリ・スーラ・リーンが再び襲ってくる。
「ここに来て判断を誤ったなっ!! 防御に徹したその隙、いただこうっ!!」
スーリ・スーラ・リーンは私の体勢が整う前に凄まじい猛攻を叩き込んでくる。これまで以上の鎗術に私も完璧に攻撃を捌くことができずに無数のかすり傷を体に負っていく・・・。その僅かな切り傷が私の体の動きを段々狂わせていき、反応を遅くしていく・・・。
そうして私が追い詰められた時、スーリ・スーラ・リーンは止めの一撃を加えようとした。
だが、その一撃はギリギリのところで私に当たることはなく、反対に私の一刺しが彼の心臓を確実に貫いたのだった・・・。
致命傷の一撃・・・。だが、それでもスーリ・スーラ・リーンは攻撃の手を緩めなかった。
私の槍が深々と自身の体に刺さったことをいいことに武器を捨てて私に組み付いてきたのだった。
「この距離ならば、膂力に勝る俺が勝つっ!!」
そう言って私の首を絞める彼の腕力はすさまじかった。正直、首をへし折られるかと思ったが、私が彼の体に刺さった魔神フー・フー・ロー様の神槍に込めた魔力を爆発させると、スーリ・スーラ・リーンの体は真っ二つに裂けて死んでしまった・・・。
彼の最後の一言は「・・・なぜ?」だった・・・。
全てに勝っていた彼は私に敗れた理由がわからなかった。
だから彼が敗れた理由が私にないことを想像もしていなかっただろう。全てに劣る私が彼に勝てた理由はアンナ様だ。
私と彼の戦いを黙って見守るアンナ様は魔神スーリ・スーラ・リーンの全てを知っていた。そして彼女は黙って見守ってなどいなかった。常に私の心に囁きかけてくれていた。その攻撃の癖や作戦まで彼女がその都度私の心に囁いてに知らせてくれていたのだった。
傍目八目と言う。盤上のゲームは競技者よりも遥かに腕の劣る者であっても、はたで見ていればはるかに達観できる理屈のことだ。幾たびも彼と戦ったアンナ様ならばなおのこと見通すことができた。
彼はその一挙手一投足を既に敵とすら見ていなかったかつてのライバルにその動きを看破されたせいで負けたのだ。
彼はその事実を知ることなく死んでしまったのだが、もしかしたら、それは彼にとって唯一の救いかも知れない。
これが我々の最後の戦いであり、私、ヴァレリオ・フォンターナとアンナ・ラー様の戦いの記憶である。
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全ての報告を聞き終わった私ですが、やはり心が痛みます。
「そうですか、魔神スーリ・スーラ・リーン様は助けられませんでしたか・・・。」
アンナお姉様は、うなだれる私の肩を抱きしめて励ましてくださいました。
「あの子は、戦うために生まれて、戦いの中で死んでいくことを望んだ魔神でした。
これでよかったのですよ・・・これで・・・。」
そう言われても私は哀しい。同時にこのような事態を招いた異界の魔王様・高き館の主様が憎く思えました。
「どうして・・・高き館の主様はこのような非道なことを・・・。
多くの人が死にました。魔神様を始め多くの高位の御方も傷つきました・・・。
絶対にあの魔王様の企みを止めなくては・・・。これ以上の悲劇を生んではいけないのです。」
私がそういって覚悟を決めた時、明けの明星様が果実酒を片手にさわやかな笑顔をお見せになって
「まぁ、その話は明日からやっ!!
今日は、まず楽しもう。俺達の勝利にっ!」
と、乾杯の音頭を取ります。
それで一気に空気が明るくなり、皆、嬉しそうに杯を天に向けて「我らの勝利にっ!!」と声を上げるのでした。
それからしばらくは、とりとめのない内容の話をしていたのですが、やがて解散の時が来ます。
「皆、何十日にも及ぶ戦闘ご苦労やったな。
これから神々はさらに苦しい戦になるし、ラーマはラーマで多事多難。そして大きな試練を乗り越えなければならん。
高き館の主が今後、体勢を整え直して攻めてくるのは目に見えとる。今日は日々の疲れをいやすための宴を開いたけど、明日からは気を引き締めてしっかりやってくれ。」
明けの明星様はそういって締めの言葉を口になられると、
「さて、俺はこいつらと話があるから、ラーマも早く寝ろ。」とおっしゃって豊穣神ミュー・ニャー・ニャー様を肩に担ぎ上げ、魔神シェーン・シェーン・クー様と一緒に部屋を出て行かれました。
「いやああああ~~~~っ!! メチャクチャされて大地の苗床にされちゃう~~~っ!!」
ミュー・ニャー・ニャー様は悲鳴を上げながら部屋から連れ出されていきます。その怯えっぷりが尋常じゃなかったので、私が心配しているとアンナお姉様とタヴァエルお姉様は「大丈夫ですよ、あの子は今夜、幸せになるのです。」とほっこりした笑顔で教えてくださったので、私も安心することができました。
しかもその晩は、タヴァエルお姉様とアンナお姉様が私が落ち着くようにと共にベッドで寝てくださったのです。
お二人に挟まれると心が安らぎます。これが女神の力なのでしょうか?
その上、アンナお姉様が子守歌を歌って下さったので、私もタヴァエルお姉様もいつの間にか失神してしまい、朝まで目を覚ましませんでした。
翌朝。
「うう~~・・・。お寝坊するほど長時間寝たのに疲れが取れない・・・。」
私は何故だか、半端ではない疲労感の中で目を覚ましたのでした。そんな私を気遣ってタヴァエルお姉様が回復魔法で癒してくれたのですが・・・
「ラーマ・・・。あなたあんな目にあってきたのですか・・・。
よく今まで命がありましたね・・・。」などと、少し引っかかることを仰っておられたのが印象的でした。
しかし、それとは対照的に私たちを地獄に落とした・・・私たちに安眠をもたらされたアンナお姉様がさわやかな笑顔と共に窓の外を指差して話します。
「さあさ、お寝坊さん。
それよりもお外をごらんなさいっ!! とっても素敵よっ!!」
アンナお姉様に催促されて、私は眠い目をこすりながらベッドから起き上がると、窓に向かいます。
「ううっ・・・。あ、朝日がまぶしいです~~。」
タヴァエルお姉様の回復魔法でも回復し切れなかったのか、若干疲れた目の私には朝日が痛いくらいに刺さりました。
・・・ですが、その窓から見える光景は、そんな私の疲れを吹き飛ばすほど鮮烈で感動的なのでした。
「まぁっ!! 何て綺麗なお花畑っ!!
そ、それに戦争で傷んだ大地にあんなに沢山の果樹園がっ!?」
それは信じられない光景でした。戦争で踏み散らかされたはずの王城の庭には美しい花が咲き乱れ、水攻めのために大量の土砂を浴びて広大な荒野になってしまっていた王城の外の地域が一夜にして果実がたわわに垂れ下がる果樹園が広がるパラダイスになっていたのですっ!!
「ああ・・・なんて奇跡っ!!
こ、こんなことが現実に起こるなんてっ!!」
私が感動のあまりに窓から体を乗り出して感動していると、明けの明星様が飛来され「こらこら、アカンがな。そんなに身を乗り出したら、落ちてしまうで?」と注意なさいました。
それから「ほら、おいで。お前にこの果樹園を見せてやろう。」と言って私を抱きかかえて空中浮遊なさいます。
「きゃあああああ~~~っ!! こ、怖いですぅ~~~っ!!」
「やかましいっ!! 耳元で騒ぐなっ!!
ええ加減に慣れんかいっ!! 俺の魔法で飛んどるんやさかいに大丈夫に決まってるやろっ!!」
うう・・・。ど、怒鳴られてしまいました・・・。
でも、怖いものは怖いのです・・・。
そう恐れていたのも少しの間だけ、私も明けの明星様の空中浮遊にやがてなれ、素晴らしい景色を楽しむ余裕が生まれました。
私が落ち着いたころ大地を指差して明けの明星様は教えてくださいました。
「これは全てミュー・ニャー・ニャーの豊穣神としての力。
もちろん、俺の力の介添えと大量の土砂が肥沃な大地に変えてくれた恩恵もある。
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