魔王〜明けの明星〜

黒神譚

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第4章「聖母誕生」

第90話 卑怯と卑屈と矜持

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 その後、会議は『あること』を境にスムーズに進みました。いえ、スムーズ過ぎますね。
 誰もが明けの明星様のお怒りに触れないように健全かつ理性的で平和的な提案をし、それを聞き入れて問題を解決させました。
 
 その『あること』とは驚いたことに移民たちは自分たちの保存食を含む財産などを隠し持っていることを明けの明星様が看破したという事です。
 それは各自の武器、食料などの正確な数字を記載して提出した申告書を明けの明星様がご覧になった時に起こりました。
 明けの明星様は羊皮紙で出来たその申告書をご覧になると一同の者をジロリと睨みつけて仰いました。

「お前ら、俺が何も知らんと思ッとんか?
 あ?
 えらいすごく舐めた真似してくれるやんけ、どいつもこいつもこの場で殺してうちエデンが飼っとる神仙獣のエサにしたってもええんやでしてやろうか?」

 いきなりの脅迫に驚く一同。わたくしは慌てて申し上げます。

「恐れ多くも魔王様に言上奉り申し上げます。
 理由も告げずに魔王様の一存で御処罰成されますと私どもの同盟の意義が無くなってしまいます。
 私どもが彼らに救うと申し伝え、我らは救済を求めてエデンに来ました。
 それをいきなり殺すとは道理にかなわぬ事と私は愚考いたします。
 どうぞ、理由をお教えくださいませ。彼らに至らぬ点、御座いましたら私の方から是正を促しますので、何卒なにとぞ何卒、寛大な仕置きを願い奉り申し上げます。」

「アホたれ。」

 明けの明星様は私の顔も見ずに即答成されました。

 ・・・あ、アホたれ?
 これまでも散々言われてきましたけど、やはりカチンとくる一言ですわね。
 そもそも私、アホたれじゃありません。何もおかしなことを言ってないはずです。
 と、思った時でした。明けの明星様は羊皮紙をビリビリと破りながら仰いました。

「この申告書はデタラメや。
 こいつらはこの申告書の1.5倍の食料を隠し持っとる。」

「・・・え?
 い、1.5倍ですか?」

 私はその言葉に動揺しました。他種族の王たちもビックリして身じろぎした者もおりました。その態度は恐れから来るもの。諸王は明けの明星様の仰る通り嘘の申告をしていたのです。私はその事を彼らの狼狽えぶりから察して悲しい気持ちで一杯になりました。

 そして私とは真逆にヴァレリオ様は冷静なママでした。明けの明星様と同じく私を見もしないまま彼らを睨みつけたままお話しなさるのです。

「ラーマ。彼らは窮地に立った時に自分たちは生き残ろうと思っているのだよ。
 その為自分たちの財産を隠し持ち、我らが食料を提供し尽くした後、自分たちだけはその隠した食料で生き延びようと考えているんだよ。」

「・・・え? ど、どうしてそのようなことを?
 今、みんなで苦楽を共にする仲になったばかりではありませんか?」

 私がそう言って聞き返すと、ヴァレリオ様も明けの明星様も「フッ」と呆れたように笑うのです。
 明けの明星様は困惑する私に仰いました。

「・・・お前は賢いくせにアホな女やなホンマに。
 お前の純情さはお前の人生の足かせになりかねん。
 ええか? よく聞けラーマ。
 誰しも自分が可愛い。自分の一族が可愛い。自分の種族が可愛い。せやから自分たちだけを守ろうとするんや。」
「そして、その姑息さは卑屈さから生まれるもの。
 こいつらは卑怯さに加えて臆病なんや。窮地に立った時に自分たちが切り離されて見放されるかもしれんと恐れとる。それは、お前がなんぼいくら綺麗ごと言うて説明したってもぬぐい切れる不安やない。だから万が一に備えて隠すんや。」
「それは意外かも知らんけど、弱い国ほど多く隠し持っとるのが何よりの証拠や。もちろん、割合の話やで?
 弱小国は大国に比べたらそもそも資本が違うから総量で言えば大国の方が多いけど、財産を隠す割合は圧倒的にアイツらの方が多い。 
 こいつらは長年、虐げられてきたから簡単には心を許さん。常に他人を疑い、罠に嵌めようとして来る。」

「俺は卑怯は嫌いではない。せやけど卑屈は嫌いや。
 プライドが無いからな。」

 明けの明星様は特にご自分が選抜なさった種族の長の内、弱小国家の長をまるで汚いものを見るかのような目で冷たい視線を向けました。
 エルフの少年王ジョバンニ・フーは涙目になって震え上がると、やがて恐怖に耐えきれなくなり失神してしまいました。明けの明星様の御処罰を恐れたのです。
 
「お前ら、舐めた真似すんなよ?
 俺どころか、そこのヴァレリオだってお前らの財産を探り出すことなんか楽勝なんやど?
 この申告書が嘘でないというもんんがおったら手を上げてみい。
 ヴァレリオがお前らの隠し財産を見つけ出して処罰する。お前らの種族をことごとく殺し神仙獣のエサにしたる。
 それが嫌やったら、正しい申告をせいや。それで隠し持っとるモンを全て差し出せ。」
「差し出した食料は等分に分配して生き残る。
 お前らに出来ることはそれだけや。
 これ以後、自分たちの利権だけで生きようとしたら、その場で殺す。取り調べの機会は与えん。その場で殺す。
 お前らの種族悉く殺す。どうせ、お前らには俺らにすがる以外に生き残る道はない。それが理解でけたらできたら大人しく言う事を聞け。
 理性的で理想的な意見を出し合って、助け合え。わかったな?」

 この脅しが効きに効いて、その後の会議がスムーズに執り行われたのです。
 誰もが自分たちの軍事力を含む財産を全て明けの明星様に差し出すことを誓い、そして、食料などを種族国家問わずに平等に配分されることに同意しました。
 
 彼らのその行動を受けて同盟の長たる私は諸王に対して現在の食料の総量を数値化し、それが日々平等に分配されたことを示す表を公開することで身の潔白と不平等が決して起きないようにすることを誓いました。
 
 そうして会議は終了しました。
 諸王が執務室から去ってから、部屋に残った私は机に頭をこすりつけてすすり泣きました。
 
「どうして、どうしてこのようなことになるのでしょう?
 この期に及んでみんな自分の利益ばかり・・・。助け合わなければいけない時だというのに・・・。」
「それにこの会議は会議ではありませんでした。
 皆、明けの明星様が怖かったから、恭順な姿勢を示しただけです。
 圧倒的な恐怖・・・。そんなものがなければ人は正常に生きられないのでしょうか?」

 私が泣いているとヴァレリオ様が私を慰めるように私の髪を撫でながら仰いました。

「ラーマ。僕は君が言う事、貴いと思う。
 そして、同時に絶対に恐怖による政治が必要であるとは思わない。」

 ヴァレリオ様は意外なことを仰いました。そして、その意外なことが私にとってあまりにも嬉しい内容でしたので、私は思わず顔を上げてヴァレリオ様を見つめました。

「いいかい? まつりごとに理性は必要だが、恐怖は必要がない。
 正しい治世を行える者が頂点にいて、それを支える国民に正しい教養が備われば恐怖は必要ないのだよ。」
  
 素晴らしいお考えです。私も首を何度も縦に振って賛同しました。
 ですが、ヴァレリオ様はそれでも力の存在を否定はなさらなかったのです。

「しかし、理想と現実は違う。」
「現実には人は人を裏切り、犯罪を起こす。
 その時に被害にあうものがいるのだとすれば、そのようなことができるだけ起きないようにする圧倒的な力が必要なんだ。弱きものを強き者からの暴力から守る力だ。
 その時に振るわれる力は恐怖だろうか? 暴力であろうか?
 それとも弱き人を守る籠であろうか?
 僕は籠でありたい。君が綺麗ごとに塗り固められた理想的な社会を作りたいというのなら、それを貫き通すための強い力になりたい。
 だから、どうか・・・。僕の力も信用して利用してほしい。」

「・・・ああっ!! ヴァレリオ様っ!!」

 私は感極まってヴァレリオ様に抱き着きました。そうしてヴァレリオ様も私を優しく包んでくださいました。
 温かく、そして逞しいお体に包まれていると、私の心はいやされていきます。
 その癒され方は、お姉様方に抱きしめてもらった時の癒されかたとはまた異なり、胸の奥から湧き上がってくる温かい思いが私を苦しみから救ってくれるのでした。

 そうして抱きしめあって見つめ合う私たち。
 そんな空気に耐えられなくなったのか、やがてヴァレリオ様は私の両頬を掌で包むと、口づけを・・・


「まてまて、またんか~~~いっ!!
 己ら、なにを二人の世界に染まっとんじゃ~~~いっ!!」

 ・・・はっ!! と、我に返りました。
 明けの明星様に止められて気が付きました。
 ヴァレリオ様に口づけされそうになった時、私は両手を祈るように組んで、瞳を閉じて自分からあごを上げてもともていたのです。
 その姿のまま、明けの明星様に止められたのだから疑いようがありませんっ!!

 (ああっ・・・わ、私なんてはしたない真似をっ!!
  じ、自分から口づけを求めるようなそぶりを見せて・・・
  私、いつからそんな淫乱な子になってしまったのでしょう? 自分から口づけを求めるだなんてっ!!)

 私は顔を真っ赤に染めて心の中で自分を責めていると、明けの明星様に頭をはたかれます。

「アホたれっ!!
 チューくらい、こないだ俺とやったやろっ!! 今更何を騒いでんねんっ!!」

「なっ!! ラーマっ!!
 ほ、本当か? 君は明けの明星様とキスをしたのかっ!?」

 ヴァレリオ様は明けの明星様のお言葉を聞いてまるで怒っておられるほど狼狽えて私の両肩を鷲掴みにすると、大声で白状させようとします。
 しかし、その内容は私と明けの明星様との口づけが事実かどうかを迫るという破廉恥極まりない質問でした。
 私は明けの明星様とキスした後に失神してしまったので、余韻も思い出も浸ることが無く、なんでしたら今、その時の記憶を反芻してしまう状況だというのに、そんなことを言われてしまったのです。

「やああんっ!! そ、そんなことを言わせないでくださいっ!!
 そ、それにあれは明けの明星様の方から・・・。」

 私の脳裏にあの時の明けの明星様と交わした口づけのシーンが何度も何度もあの時感じた快感と共に思い起こされてしまい、恥ずかしくなって涙目になって拒否します。
 それを聞いたヴァレリオ様は
「だったら、僕もっ!!」と、いって強引に口づけを迫ってくるのです。

「いやああんっ!! こんなのいやですっ!!
 口づけはもっと、ロマンチックにしたいの~~~~っ!!」

 私の悲鳴を明けの明星様は愉快そうに笑って見ておられました・・・。
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