魔王〜明けの明星〜

黒神譚

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第4章「聖母誕生」

第91話 心が折れる者達

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 明けの明星様の御威光によって諸種族の長たちは渋々、自分たちの資産を正確に申告し献上しました。しかし、それは結果として明けの明星様からのお下知げちに従って行動したら、自分たちが救われたことを知ることになったのです。
 まず、食糧難がある程度緩和されました。それぞれが隠し持っていた物は保存食だったので、後半戦はそれを当てに出来るので先ずエデンが備蓄びちくしていた食料を今まで以上に開放することができたのです。そのおかげで滞ることがあった食事も一日に2度は万全の状態で出せるようになったのです。
 次に兵士のみならず弓矢といったような消耗品の武器も十分な数が揃いました。未だ敵軍は姿を見せずにいますが、相当な数の兵士が押し寄せても対応可能でしょう。
 この相当可能な数の兵士が来ても対応が可能と言うのは勿論、無限の数の兵士が来ても大丈夫と言う意味でございませんが、少なくとも兵士たちの士気を上げるのには十分すぎるほどの数でした。
 
 それでも、問題は尽きません。
 私たちは100万にも達しようかと言う民を護る戦に備えて城壁を広げなくてはいけなかったからです。
 しかし、当たり前の話ですが、それほどの人数を一まとめに出来るほどの城壁が造れるはずもなく、ほとんどが王城の外に簡易的に作られた急ごしらえの砦と防衛陣形を整えるのが精一杯です。
 
 つまり、これは籠城戦にはなりえないのです。ほとんどの兵士が敵と正面衝突で戦わなければいけない合戦とならざるをえません。各拠点は数十二も膨れ上がり、そこにはやはり数万の戦えない民が戦争の恐怖に震えていました。

 しかし、不思議なことに敵は一向に攻めて来ませんでした。
 明けの明星様が世界の崩壊を預言なされてから既に85日は過ぎたというのに、一向に姿を見せなかったのです。明けの明星様が預言成された崩壊の日まで残り5日足らず。我々は、そんな状況下で何十日も来ない敵に備えて恐怖におびえながら戦の準備を続けていました。 
 
 たとえ不利な状況であっても、そこに勝利するゴールがあれば人々は苦難と立ち向かえるのですが、そのゴールがはるか先にあってとても困難な道のりであるとなると人々の心が次第に折れてくるのです。
 しかも、迎え撃つ予定の困難が姿を見せないのです。
 ただ、人々に恐怖の時間を与え続けるだけでした。
 そうなってくるとそのうち、不平不満を唱える者や、何時まで経っても敵が襲ってこないので預言自体を疑う者が現れ、遂には離反者まで現れるようになったのです。

「いったい、何時になったら敵は姿を見せるのだ?
 そもそも本当に敵は来るのか? 預言は我らをあざむくための物ではなかったのか?」

「戦争になった時、王城の方が我らの砦よりも遥かに防御に優れている。
 王城と砦に分けたこの配置は差別ではないのか?」

「我らは一日に2度の食事と言う空腹と戦っているが、本当は王城の者、エデンの民、早くからエデンに帰順した種族は我らと違って裕福な暮らしをしているのではないか?
 そもそも、既にエデンからの食糧配給は終わり、今食しているのは我らが差し出した保存食ではないか! これでこの先何時まで持ちこたえられるというのだ!」

 不平不満は疑いを産み、諸侯は度々、謁見えっけんを求めて王城にいるわたくしの元へ現れては皆で寄ってたかって苦情を言うのです。
 私に苦情を言うのは明けの明星様にその苦情を聞かれでもしたら、どんな目に合うかわからないというよりも確実に殺されてしまうので、「意見、苦情は全て私が承ります。」と前もって伝えていたからです。
 そして、何よりも皆の恐れの原因は、一日も早く新たな世界を生み出せない私の責任でもあったと重々承知だったからです。

 明けの明星様は、
「罪の意識にさいなまれる必要はない。まだその時が来てないから、新たな世界が生まれんのや。
 その時が来ればお前は自分の力に目覚めて世界を産み落とすだろう。
 ただし、ええか。その時が来るまで、今何が起きているかしっかり見ろ。今までに何が起きたのかしっかり見ておけ。
 それが新たな世界を形どる。
 今はそのための準備期間や。生み出せない責任を感じる必要なはない。」と、励ましてくださいますが、そうは言っても心苦しく思わぬわけがないのです。
 ですから皆の苦情を一身に引き受ける覚悟を決めたのですが・・・。これは正直、大変な重責でした。

 直訴する諸侯に対して私は答えました。
「預言は必ず成就されます。多くの異界の王が明けの明星様に御見方なさっておられるの動かぬ証拠。
 どうか辛抱強く、そして油断なく敵に備えてください。」
「王城が防御に適しているのはご指摘の通り、それ故に各拠点は王城の背後に配置しています。
 敵の被害を先ずこうむるのは王城です。
 何よりもここには敵の最大の標的である我らがいるのです。敵の攻撃は間違いなく王城に集中するでしょう。
 危険はむしろ王城の方が大きいことをご承知おきください。」
「食料を含めて諸々も資産は毎回申告している通り。諸侯もご確認されたはずです。
 決してエデンの民だけ裕福なわけでは御座いません。
 誰もが、誰もが空腹と戦っているのです。」

「ですから、どうか。どうかご辛抱しんぼうをっ!!」

 私がいくら口で説得してみても、実際に苦境に耐えるという事は言葉だけでは収まりがつかないもの。
 88日目にはとうとう離反者が現れ、離反者は自分たちの砦から隣の砦を襲撃し食料を奪いにかかりました。それらは問答無用に明けの明星様の粛清を受けました。
 空から飛来する隕石は数万の軍を一瞬で消し去り、のこった難民は冷たい目で他の者達から蔑まれ、なじられました。

「明けの明星様がおられたら、我らが戦う必要などないではないかっ!!
 星一つで数万の軍を消し去るっ!!
 敵が何万、何十万に膨れ上がろうと敵ではない。
 なぜ、我らが戦わねばならんのですかっ!!」

 捕縛され縄を打たれた姿で明けの明星様の前に引き出されたとある王が涙を流しての訴えをしましたが明けの明星様は動じません。

「愚かな王よ。哀れな民よ。
 お前達は試練サタンに敗れたのだ。箱舟には乗せられない。」

 そう一言仰ってから王を処刑なさった明けの明星様はいつになく寂しそうに思えたのは私だけでしょうか?
 タヴァエルお姉様もお姿をお消しになられて90日近くたち、アンナお姉様も豊穣神ミュー・ニャー・ニャー様の補助として果樹園の実りにお力添えをしていて、今、明けの明星様は孤立しておられるように見えました。
 そんな明けの明星様を励ませるのは私だけではないのかと思い、お声を掛けました。

「明けの明星様。お寂しくはございませんか?
 私に出来ることはございませんか?」

 夜、お一人で窓の外をご覧になっておられる明けの明星様に私が寄り添ってお声をかけると、明けの明星様は若干不機嫌そうにお答えなさりました。

「・・・なんや? お前、俺程高貴な存在がこの程度のことで凹んだりすると思とんか?
 おおっ?」

 明けの明星様に睨まれることにすっかり慣れてしまった私は笑顔で「はいっ!」とお答えします。
 その態度に明けの明星様は「太々ふてぶてしいやっちゃなぁ・・・初めてあった頃からお前は変な奴やったけど・・・。」とお笑いになられました。

「まぁ、俺を慰めてくれるちゅ~んくれるというのが本当ホンマなら、そのアホみたいにデカいな乳を揉ませてくれっ!
 最近、日に1度しかアンナを抱いてないから、溜まってしょうがないっ!!」

 ・・・ 

 ・・・・・・

 ・・・・・・・えっ・・・

 ええええええ~~~っ!?

「も、揉むって、私のお乳をですかっ!?」

「せや。 ヴァレリオの胸のわけないやろ。
 お前のその柔らかそうなデカ乳をええ加減そろそろ、揉ませろっていうとんねん。」

「っ!!?」

 お、お乳を揉むっ!?
 あ、明けの明星様とはいえ殿方がっ!? そんな破廉恥な事をっ!?

 私は動揺し、顔は紅潮し一気に額は汗ばみます。その様子が「お前の無垢さが逆にエロい」とまで言って明けの明星様はあおるのです。

「おお~~っ!? その初々しい反応はタヴァエル並みやな~
 あいつも怯える子猫のようにガタガタ震えながらも恥ずかしそうに俺を受け入れてくれたわ。
 お前も俺を慰めてくれるっちゅ~んなら、当然、乳揉ませてくれるわな?」

「ううっ・・・」

 私は恥ずかしさのあまり涙がこぼれそうになりました。
 ですが・・・ですがっ!! 明けの明星様の恩為ならばっ!!
 私は文字通り、一肌脱ぐ覚悟ですっ!!

「ど、どうぞ・・・。好きなだけお揉み下さいませ。」

 そういって上着を脱いで胸を張って明けの明星様を見つめると、明けの明星様は目を細めて微笑まれました。

「ほほう・・・。献身か。ええ覚悟やな。
 それにそうやって胸を張ると見事な乳が映えるなぁ・・・。」
「どれどれ、それでは姫様のお言葉に甘えて呼ばれましょうか。いただきます

 明けの明星様はいやらしい笑みを浮かべながら、おもむろに私の乳房に手を掛けます。

「きゃあああああ~~~っ!!」

 明けの明星様の手が私に触れた瞬間、私の意識が飛びかけました。
 たった一揉みされたかされないかという状況で私は一人で立つこともできないほどの快楽の海に沈められてしまいました。

「・・・あっ・・・ああっ・・・。」

 体は痙攣けいれんし意識さえ朦朧もうろうとします。そして自立することさえできなくなった私の体が床に叩きつけられないように支えてくださった明けの明星様の言葉が私の耳に響きます。

「全く・・・乳揉んだくらいで初めて会った時と同じように盛大に失禁しやがって・・・洗う方の身にもなれっ!」
「お前、俺のことを軽く見とるな?
 俺は女神はおろか異界の王までたらし込む魔王やぞ、お前なんぞが俺の与える快楽に耐えられるわけないやろ。
 初めて会うた時に言うたはずやぞ。
 俺の手にかかれば『お前は一瞬で正気を失い、あとは俺の求めに従って魔性を産み落とし続ける人形にされる』とな・・・。」

 私は意識が混濁しつつも明けの明星様のお言葉に「ああ・・・ああ・・・。」とどうにか声を上げて返事を返すことができるのですが、その意識もやがて遠くに消え去ります。
 その消えゆく意識のどこかに明けの明星様のお言葉が聞こえてきた気がいたしました。

~運命の姫よ。時は来た。
 決して避けられぬ滅びの時が今来たのだ。王城の内も外もゴルゴダの名に相応しい死者の山であふれかえることだろう。
 それでも心せよ。お前は箱舟を生み出すだろう。
 新たな世界へ移れるものをお前は選別しなくてはいけない。心清きもの、優しきものは選ばれ、心汚く乱暴なものは選ばれない。
 お前は俺と出会った日々の中で感じたはずだ。より美しい世界の実現の必要性を。
 新たなる世界はそれに相応しい世界となるはずだ。
 それこそ、まさにエデン。
 なにも恐れず、
 なにも疑わず、
 なにも許さず、
 しかし、全てをお前は許すだろう。

 俺とお前との出会いは正に邂逅かいこう。運命であった。
 お前のその愛。俺は嬉しく思うぞ愛しき我が・・・~


 そうして、いつの間にか気を失っていた私の体は明けの明星様に運ばれたのでしょう。
 目が覚めた時、私は大量の花束で埋まった私のベッドの中にいました。

「あれは・・・幻?
 それとも預言・・・?
 新しい世界・・・箱舟って一体・・・?」

 最後に覚えている記憶を思い出しながら私が独り言を言っていた時でした。アンナお姉様が血相を変えて私の寝室に飛び込んできました。

「来たわっ!! 高き館の主様の軍勢がっ!!
 数百万もの数よっ!
 どうしよう・・・どうしましょう!?
 こ、これでは誰一人、助けられませんわっ!!」

 アンナお姉様は、そう叫ぶと私の両肩を抱いて泣き崩れたのでした。
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