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第4章「聖母誕生」
第94話 フェデリコの死
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鬼族の族長の寝返りの一方は私たちを絶望させました。
城門が開かれて敵兵がなだれ込んでくるのです。もうどうしようもない状況でした。
それは鬼才フェデリコにとっても観念するしかない状況でした。
「もはや、これまでか・・・。」
フェデリコはそういうと私を担ぎ上げて言いました。
「総員、2ノ丸に入れっ!!
この場は全て焼き払えっ!! 敵の足止めをしろっ!!
逃げ延びると死ぬぞっ!!」
フェデリカがそう言うと、全員が血相を変えて撤退を始めます。
「武器は捨て置けっ!!
逃げることを優先しろっ!! 空堀と城門はそう簡単に崩せないっ!!
慌てなければ、全員逃げられるっ!!
冷静に南門以外から逃げろっ!!」
フェデリコは私を担いで走りながら往く先々で怒鳴り、彼の直属の部下も、その下の伝令係も声を涸らせて走り回り、急な作戦変更を伝えて回りました。
「姫様っ!! こうなることは予測しておりました。
この敵の数・・・恐怖におののいて寝返ることなど当然、御座いましょう。
王城の外の砦も大勢の者が寝返っている可能性がございますっ!!
姫様は、このまま城内奥深くに隠れていただきますぞっ!!」
年甲斐もなく私を担いで走ったフェデリコは、2ノ丸の中まで入ると私をおろしてくれました。そして、その場にへたり込み、息も絶え絶えの状況で私に今後の行動を伝えると、自分の配下の中で特に忠誠心の高い者達500名を私の護衛につかせました。
フェデリコは兵士に命令を伝え終わると息を切らせながら立ち上がると、フラフラとまた城壁の方へと向かって歩き出しました。
城中奥深くへ向かう私とは反対方向である敵のいる方向に向かっていくのです。
私は叫びました。
「フェデリコっ!!
あなたはどうするのですっ!!」
「戦うっ!! 当然でしょうっ!!
家臣たちが命懸けで戦っているのです。私が前線に出て指揮を執らずしてどうするのですかっ!!」
フェデリコは私に背中を見せたまま拳を突き上げて、歩いていくのでした。
「・・・姫様。あのお方は根っからの軍人。
ああいうお方だからこそ、我らは慕いついていくのです。どうかご理解くださいませ。」
私の護衛隊長として仕えることになったフェデリコの腹心サルヴァトーレは、寂しそうにそう言うと私を城中奥深くへと連れて行くのです。
ともに奥深くへと良くアンナお姉様も内心複雑なご様子で、哀しそうなお顔をなさっていました。
そうして私たちが城の最奥に進むとサルヴァトーレは私とアンナお姉様を一室に隠し、誰の出入りも許しませんでした。
「この場は私たちが死守して見せます。
そう簡単にはくずれません。ラーマ姫様は安心して新たな世界をおつくり下さい。」
サルヴァトーレは笑顔でそういって私とお姉様のいる部屋の扉を閉めるのでした。
そして、この部屋は私とお姉様だけの空間になったのです。
外では戦争が続き、その騒音がこの部屋まで伝わってきます。数百万の兵士が雄たけびを上げ、激しい攻城戦を繰り広げています。
時折魔法の爆発音らしき音が響きます。そうしてそういった騒音と振動がだんだんと大きなって私たちの部屋まで響いてきます。
「お姉様っ!! 助けてお姉様っ!!
私、私どうすればいいのですっ!!
世界を生み出すってどうすればいいの?」
私は部屋の中で一人、力んだり魔力を込めたり、叫んだり、狂ったようにのたうち回って見てもそれらしい兆しは見えませんでした。そんな私を心配して神仙獣のキュー・レイが姿を現して「キューン、キューン」と悲しそうな声を上げて鳴きました。
そして、アンナお姉様もやはり、こんな私を見て心配してくださいました。
「・・・ラーマ。そんなことをしても無理よ。
旦那様も仰ったでしょう。その時が来たら世界が生まれるのよ・・・。」
アンナお姉様は苦しむ私を抱きしめてそう言って励ましてくれるのですが、こうやって皆が死んでいくのをただじっと待つだけだなんて・・・。私には耐えられません。
罪の意識にさいなまれ、いっそ私も戦場に出て行きたかったのですが、それを許すサルヴァトーレではなく、私は部屋に閉じ込められたまま人々の悲鳴を聞くしかなかったのです。
そうして、とうとう最後の時がやってきました。
「姫様っ!! 火急につき、ご無礼申し上げますっ!!」
そういってサルヴァトーレが複数の部下と共に私達の部屋の扉を開けて数人の部下と共に入ってきました。
そして、彼らは肩に矢傷を負ったフェデリコを抱えていたのです。
「フェデリコっ!!
あああああっ!! な、なんてことなのっ!!」
悲鳴を上げる私にフェデリコは気丈にふるまって言いました。
「2ノ丸が落ち、敵が本丸まで入ってきました。
味方は総崩れ、敵も相当の数が死んでいるのに一向に収まりません。今、二の丸と本丸の間を焼き払って足止めしていますが、敵には水魔法を使う者共もいて長く持ちこたえられそうにありません。
すでに我らここまで追い詰められたのです。
申し訳ございませぬ。負け戦に御座いまするっ!!」
フェデリコの報告に何とも言えない沈黙が部屋の中に訪れた後、アンナお姉様が兵士たちを嗜めるように仰いました。
「敵軍がこの城を攻めてきたころ、旦那様やヴァレリオは天空の高き館の主様の軍勢と大戦をして、今も戦っておられます。
苦しいのは私達だけではありません。堪えるのです。」
堪える・・・。そういってもいつまでそうすればいいのでしょうか?
その不満は兵士にもあり、それがついに爆発しました。
「堪えるって、何時までですかっ!?
お答えください、姫様っ!!
いったい、何時になったら私達は救われるのですかっ!?
皆、あなたを信じて戦ってきた。でも、このままではみんな死んでしまいますっ!!
お助け下さいませっ!! 姫様っ!! どうか、どうかっ!!」
そう言って私に泣きすがる兵士が一人出ると、彼の恐怖と不満は他の兵士にまで伝播して次々と護衛の者達が私に詰め寄ってきました。
「姫様っ!! この本丸の下には私達の家族がいますっ!!
この王城の外の砦にもっ!!
どうか、早くお助け下さいっ!! このままでは全滅してしまいますっ!!」
誰もかれもがそう言って私に詰め寄ってきました。
皆不安なのです、皆、恐ろしいのです。
そして皆、家族を心配しているのです。ですが、私には何もできないのです。
・・・こんなことなら、あのままお飾りの姫として生贄になって終わっていた方がいくらも楽な人生だったでしょう・・・。
ほんの一瞬、考えてはいけない考えが頭をよぎります。
それでも、それでも私は立ち向かわねばならない。彼らを救う責任があるのだから。どんなに苦しくても逃げ出すわけにはいかないのです。
私が彼らの不満を一身に受け止める覚悟を決めたとき、フェデリコが兵士たちに厳しく、それでいて優しく諭すように言うのです。
「やかましい。
取り乱すな愚か者共が・・・。我らの姫様を守り抜くことこそ、我らの務めと心がけよ・・・。」
それから私を真っすぐに見つめ覚悟を決めたように言ったのです。
「姫様。本丸もやがて落ちましょう。
敵が城に火を放ったら逃げることも叶いません。
もはや、我らは外に出て迎え撃つ以外にありません。
そうなれば、どこまで持ちこたえられるかわかりません。姫様が新たな世界をお産みになられるまで持ちこたえられるかどうかすら怪しい。
お覚悟くださりませ・・・。」
フェデリコは私に覚悟せよと言ったのです。もう、とうとう私たちはそこまで追い詰められてしまったのです。
私は小さく頷くとフェデリコを労いました。
「フェデリコ。ここまでよくやってくれました。
あなたでなければ、このバカげた数の敵をここまで押しとどめることなどできなかったでしょう。
ありがとう。」
これはフェデリコの作戦への同意の合図です。フェデリコは黙って頷くとサルヴァトーレに命令します。
「サルヴァトーレっ!!!
もはや本丸は防衛には向かぬ。ただの檻になりかねんっ!
先に行って兵士も人も全員庭に駆り出せっ!!
最後の防衛戦を繰り広げる。」
そう言って指令を出すと私とアンナお姉様と共に本丸の中庭に降りて行きました。
私たちが庭に降りた時、既に多くの兵士が円陣防御を築いていました。
城壁と本丸の高いところには弓兵がびっしりと立ち並び、円陣防御の中には武装した市民たちもいました。
フェデリコは言いました。
「諸君っ!! 苦しい思いによく耐えたっ!!
我らに救いの時がもうすぐ最後の時が来よう。
だが、それでも我らは戦って生き残らねばならん。武器を手にして最後の最後まであがいて見せようぞっ!!」
その叫びにその場にいた者達が鼓舞されます。いえ、正確に言うとフェデリコにすがらなければどうにもならなかったのです。
最後の最後まで気を吐くフェデリコに誰もかれもが勇気づけられました。
そうして、皆が雄たけびを上げていた時の事でした。
ドシン、ドシンッと城門が何かに殴られる音が聞こえてきました。
「くそっ・・・もう城門のすぐ外まで敵が来たか。
人の屍で火を消し、その屍を踏み越えて突撃してくる・・・。私でも思いつかない狂気の策だ・・・。」
フェデリコは愚痴とも怒りとも感心とも取れる言葉を呟くと、城壁の者達に言いました。
「いよいよ城門が破られる。
手はず通り、焼き殺せっ!!」
物騒なことをフェデリコが叫びました。
「フェデリコっ!! あなたは。まだあんな残酷な手段を取るというのですかっ!?」
私はフェデリコの企みを止めようとしたのですが、それも一蹴されます。
「お黙りなさいっ!!
槍で殺そうが火で殺そうが人殺しには違いないっ!! なれば我らは効率の良い殺しを選択するまでっ!!
殺さねば殺されるのですっ!!」
フェデリコがそう叫んだ瞬間、凄まじい音を立てて城門が破られ大勢の人が城の中になだれ込んできます。
そして、彼らを狙って城壁から更なる油が投げ落とされ、火が投げ入れられました。
目の前で阿鼻叫喚の地獄が広がりました。
「やめてっ!! もうやめてっ!!」
私が人垣を超えて彼らの前に立とうとした時でした。一本の矢が私に向けて放たれました。
それが味方の裏切りによるものか、敵の弓によるものなのかはもうどうでもいい事です。
大事なことは、その矢から私を守るためにフェデリコが犠牲になった事です。
「ぐふっ・・・。」
私を守るために身を乗り出したフェデリコはその胸を貫かれて息を吐きました。
そして、すぐに大量の血が口から流れ出て来て、フェデリコはあっという間に失血によって倒れてしまうのでした。
「フェデリコっ!! いやああ~~っ!!
フェデリコっ!!」
私はもう狂ったようにフェデリコに泣きすがりました。そんな私をフェデリコは息も絶え絶えになりながら言うのでした。
「ああ・・・。くそ・・・。
この期に及んでなんと情けない。この程度の事で取り乱すとは・・・。
姫様。あなたのような甘い女に仕えることになるとはフェデリコ、一生の不幸でございます。」
「ごめんなさいっ!! ごめんなさいフェデリコっ!!
私のせいでっ!! ごめんなさいっ!!」
「ですが・・・。今、私は少し誇らしく思います。
焼けただれた敵を見て、彼らを救おうとするあなたの甘さ・・・。全く魔族からどうしてあなたのような美しい魂の持ち主が生まれて来たのか・・・。
そんなあなたにお仕えできたこと・・・不幸で御座いますが、誇らしく思っていますよ・・・。
きっとあのフィリッポもこんな気持ちで旅立っていったのでしょう・・・ああ・・・。」
その言葉を最後にフェデリコは息を引き取りました。
「フェデリコ様が死んだっ!!」
「もうおしまいだっ!!」
呆然とフェデリコの遺体を抱きかかえて座り込む私の耳には民衆が絶望の悲鳴を上げるのが聞こえます。
そして私の瞳に高き館の主様に脅されて炎で身を焼きながらも突撃して死んでいく敵兵の姿が写ります。
・・・ああ・・・なんてこと・・・。
なんて無慈悲な・・・
「ああっ!! 神よっ!! お救いくださいっ!!
こんなにも大勢の人が殺しあっています。死んでいますっ!! どうか、どうか敵味方の区別なくお救いくださいませっ!!」
絶望の海の中、私の叫びは数百万の人々の怒号にかき消されてしますのでした・・・。
城門が開かれて敵兵がなだれ込んでくるのです。もうどうしようもない状況でした。
それは鬼才フェデリコにとっても観念するしかない状況でした。
「もはや、これまでか・・・。」
フェデリコはそういうと私を担ぎ上げて言いました。
「総員、2ノ丸に入れっ!!
この場は全て焼き払えっ!! 敵の足止めをしろっ!!
逃げ延びると死ぬぞっ!!」
フェデリカがそう言うと、全員が血相を変えて撤退を始めます。
「武器は捨て置けっ!!
逃げることを優先しろっ!! 空堀と城門はそう簡単に崩せないっ!!
慌てなければ、全員逃げられるっ!!
冷静に南門以外から逃げろっ!!」
フェデリコは私を担いで走りながら往く先々で怒鳴り、彼の直属の部下も、その下の伝令係も声を涸らせて走り回り、急な作戦変更を伝えて回りました。
「姫様っ!! こうなることは予測しておりました。
この敵の数・・・恐怖におののいて寝返ることなど当然、御座いましょう。
王城の外の砦も大勢の者が寝返っている可能性がございますっ!!
姫様は、このまま城内奥深くに隠れていただきますぞっ!!」
年甲斐もなく私を担いで走ったフェデリコは、2ノ丸の中まで入ると私をおろしてくれました。そして、その場にへたり込み、息も絶え絶えの状況で私に今後の行動を伝えると、自分の配下の中で特に忠誠心の高い者達500名を私の護衛につかせました。
フェデリコは兵士に命令を伝え終わると息を切らせながら立ち上がると、フラフラとまた城壁の方へと向かって歩き出しました。
城中奥深くへ向かう私とは反対方向である敵のいる方向に向かっていくのです。
私は叫びました。
「フェデリコっ!!
あなたはどうするのですっ!!」
「戦うっ!! 当然でしょうっ!!
家臣たちが命懸けで戦っているのです。私が前線に出て指揮を執らずしてどうするのですかっ!!」
フェデリコは私に背中を見せたまま拳を突き上げて、歩いていくのでした。
「・・・姫様。あのお方は根っからの軍人。
ああいうお方だからこそ、我らは慕いついていくのです。どうかご理解くださいませ。」
私の護衛隊長として仕えることになったフェデリコの腹心サルヴァトーレは、寂しそうにそう言うと私を城中奥深くへと連れて行くのです。
ともに奥深くへと良くアンナお姉様も内心複雑なご様子で、哀しそうなお顔をなさっていました。
そうして私たちが城の最奥に進むとサルヴァトーレは私とアンナお姉様を一室に隠し、誰の出入りも許しませんでした。
「この場は私たちが死守して見せます。
そう簡単にはくずれません。ラーマ姫様は安心して新たな世界をおつくり下さい。」
サルヴァトーレは笑顔でそういって私とお姉様のいる部屋の扉を閉めるのでした。
そして、この部屋は私とお姉様だけの空間になったのです。
外では戦争が続き、その騒音がこの部屋まで伝わってきます。数百万の兵士が雄たけびを上げ、激しい攻城戦を繰り広げています。
時折魔法の爆発音らしき音が響きます。そうしてそういった騒音と振動がだんだんと大きなって私たちの部屋まで響いてきます。
「お姉様っ!! 助けてお姉様っ!!
私、私どうすればいいのですっ!!
世界を生み出すってどうすればいいの?」
私は部屋の中で一人、力んだり魔力を込めたり、叫んだり、狂ったようにのたうち回って見てもそれらしい兆しは見えませんでした。そんな私を心配して神仙獣のキュー・レイが姿を現して「キューン、キューン」と悲しそうな声を上げて鳴きました。
そして、アンナお姉様もやはり、こんな私を見て心配してくださいました。
「・・・ラーマ。そんなことをしても無理よ。
旦那様も仰ったでしょう。その時が来たら世界が生まれるのよ・・・。」
アンナお姉様は苦しむ私を抱きしめてそう言って励ましてくれるのですが、こうやって皆が死んでいくのをただじっと待つだけだなんて・・・。私には耐えられません。
罪の意識にさいなまれ、いっそ私も戦場に出て行きたかったのですが、それを許すサルヴァトーレではなく、私は部屋に閉じ込められたまま人々の悲鳴を聞くしかなかったのです。
そうして、とうとう最後の時がやってきました。
「姫様っ!! 火急につき、ご無礼申し上げますっ!!」
そういってサルヴァトーレが複数の部下と共に私達の部屋の扉を開けて数人の部下と共に入ってきました。
そして、彼らは肩に矢傷を負ったフェデリコを抱えていたのです。
「フェデリコっ!!
あああああっ!! な、なんてことなのっ!!」
悲鳴を上げる私にフェデリコは気丈にふるまって言いました。
「2ノ丸が落ち、敵が本丸まで入ってきました。
味方は総崩れ、敵も相当の数が死んでいるのに一向に収まりません。今、二の丸と本丸の間を焼き払って足止めしていますが、敵には水魔法を使う者共もいて長く持ちこたえられそうにありません。
すでに我らここまで追い詰められたのです。
申し訳ございませぬ。負け戦に御座いまするっ!!」
フェデリコの報告に何とも言えない沈黙が部屋の中に訪れた後、アンナお姉様が兵士たちを嗜めるように仰いました。
「敵軍がこの城を攻めてきたころ、旦那様やヴァレリオは天空の高き館の主様の軍勢と大戦をして、今も戦っておられます。
苦しいのは私達だけではありません。堪えるのです。」
堪える・・・。そういってもいつまでそうすればいいのでしょうか?
その不満は兵士にもあり、それがついに爆発しました。
「堪えるって、何時までですかっ!?
お答えください、姫様っ!!
いったい、何時になったら私達は救われるのですかっ!?
皆、あなたを信じて戦ってきた。でも、このままではみんな死んでしまいますっ!!
お助け下さいませっ!! 姫様っ!! どうか、どうかっ!!」
そう言って私に泣きすがる兵士が一人出ると、彼の恐怖と不満は他の兵士にまで伝播して次々と護衛の者達が私に詰め寄ってきました。
「姫様っ!! この本丸の下には私達の家族がいますっ!!
この王城の外の砦にもっ!!
どうか、早くお助け下さいっ!! このままでは全滅してしまいますっ!!」
誰もかれもがそう言って私に詰め寄ってきました。
皆不安なのです、皆、恐ろしいのです。
そして皆、家族を心配しているのです。ですが、私には何もできないのです。
・・・こんなことなら、あのままお飾りの姫として生贄になって終わっていた方がいくらも楽な人生だったでしょう・・・。
ほんの一瞬、考えてはいけない考えが頭をよぎります。
それでも、それでも私は立ち向かわねばならない。彼らを救う責任があるのだから。どんなに苦しくても逃げ出すわけにはいかないのです。
私が彼らの不満を一身に受け止める覚悟を決めたとき、フェデリコが兵士たちに厳しく、それでいて優しく諭すように言うのです。
「やかましい。
取り乱すな愚か者共が・・・。我らの姫様を守り抜くことこそ、我らの務めと心がけよ・・・。」
それから私を真っすぐに見つめ覚悟を決めたように言ったのです。
「姫様。本丸もやがて落ちましょう。
敵が城に火を放ったら逃げることも叶いません。
もはや、我らは外に出て迎え撃つ以外にありません。
そうなれば、どこまで持ちこたえられるかわかりません。姫様が新たな世界をお産みになられるまで持ちこたえられるかどうかすら怪しい。
お覚悟くださりませ・・・。」
フェデリコは私に覚悟せよと言ったのです。もう、とうとう私たちはそこまで追い詰められてしまったのです。
私は小さく頷くとフェデリコを労いました。
「フェデリコ。ここまでよくやってくれました。
あなたでなければ、このバカげた数の敵をここまで押しとどめることなどできなかったでしょう。
ありがとう。」
これはフェデリコの作戦への同意の合図です。フェデリコは黙って頷くとサルヴァトーレに命令します。
「サルヴァトーレっ!!!
もはや本丸は防衛には向かぬ。ただの檻になりかねんっ!
先に行って兵士も人も全員庭に駆り出せっ!!
最後の防衛戦を繰り広げる。」
そう言って指令を出すと私とアンナお姉様と共に本丸の中庭に降りて行きました。
私たちが庭に降りた時、既に多くの兵士が円陣防御を築いていました。
城壁と本丸の高いところには弓兵がびっしりと立ち並び、円陣防御の中には武装した市民たちもいました。
フェデリコは言いました。
「諸君っ!! 苦しい思いによく耐えたっ!!
我らに救いの時がもうすぐ最後の時が来よう。
だが、それでも我らは戦って生き残らねばならん。武器を手にして最後の最後まであがいて見せようぞっ!!」
その叫びにその場にいた者達が鼓舞されます。いえ、正確に言うとフェデリコにすがらなければどうにもならなかったのです。
最後の最後まで気を吐くフェデリコに誰もかれもが勇気づけられました。
そうして、皆が雄たけびを上げていた時の事でした。
ドシン、ドシンッと城門が何かに殴られる音が聞こえてきました。
「くそっ・・・もう城門のすぐ外まで敵が来たか。
人の屍で火を消し、その屍を踏み越えて突撃してくる・・・。私でも思いつかない狂気の策だ・・・。」
フェデリコは愚痴とも怒りとも感心とも取れる言葉を呟くと、城壁の者達に言いました。
「いよいよ城門が破られる。
手はず通り、焼き殺せっ!!」
物騒なことをフェデリコが叫びました。
「フェデリコっ!! あなたは。まだあんな残酷な手段を取るというのですかっ!?」
私はフェデリコの企みを止めようとしたのですが、それも一蹴されます。
「お黙りなさいっ!!
槍で殺そうが火で殺そうが人殺しには違いないっ!! なれば我らは効率の良い殺しを選択するまでっ!!
殺さねば殺されるのですっ!!」
フェデリコがそう叫んだ瞬間、凄まじい音を立てて城門が破られ大勢の人が城の中になだれ込んできます。
そして、彼らを狙って城壁から更なる油が投げ落とされ、火が投げ入れられました。
目の前で阿鼻叫喚の地獄が広がりました。
「やめてっ!! もうやめてっ!!」
私が人垣を超えて彼らの前に立とうとした時でした。一本の矢が私に向けて放たれました。
それが味方の裏切りによるものか、敵の弓によるものなのかはもうどうでもいい事です。
大事なことは、その矢から私を守るためにフェデリコが犠牲になった事です。
「ぐふっ・・・。」
私を守るために身を乗り出したフェデリコはその胸を貫かれて息を吐きました。
そして、すぐに大量の血が口から流れ出て来て、フェデリコはあっという間に失血によって倒れてしまうのでした。
「フェデリコっ!! いやああ~~っ!!
フェデリコっ!!」
私はもう狂ったようにフェデリコに泣きすがりました。そんな私をフェデリコは息も絶え絶えになりながら言うのでした。
「ああ・・・。くそ・・・。
この期に及んでなんと情けない。この程度の事で取り乱すとは・・・。
姫様。あなたのような甘い女に仕えることになるとはフェデリコ、一生の不幸でございます。」
「ごめんなさいっ!! ごめんなさいフェデリコっ!!
私のせいでっ!! ごめんなさいっ!!」
「ですが・・・。今、私は少し誇らしく思います。
焼けただれた敵を見て、彼らを救おうとするあなたの甘さ・・・。全く魔族からどうしてあなたのような美しい魂の持ち主が生まれて来たのか・・・。
そんなあなたにお仕えできたこと・・・不幸で御座いますが、誇らしく思っていますよ・・・。
きっとあのフィリッポもこんな気持ちで旅立っていったのでしょう・・・ああ・・・。」
その言葉を最後にフェデリコは息を引き取りました。
「フェデリコ様が死んだっ!!」
「もうおしまいだっ!!」
呆然とフェデリコの遺体を抱きかかえて座り込む私の耳には民衆が絶望の悲鳴を上げるのが聞こえます。
そして私の瞳に高き館の主様に脅されて炎で身を焼きながらも突撃して死んでいく敵兵の姿が写ります。
・・・ああ・・・なんてこと・・・。
なんて無慈悲な・・・
「ああっ!! 神よっ!! お救いくださいっ!!
こんなにも大勢の人が殺しあっています。死んでいますっ!! どうか、どうか敵味方の区別なくお救いくださいませっ!!」
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