あばずれローニャ

黒神譚

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第1話

イケメン以外に用はない・13

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「はぁっ!? 何を言ってるんだ君はっ!!
 正気かっ!?」

私の言葉を聞いてハンスが驚きの声を上げた。
無理もない。暴れ狂うオーガを前に逃げ出す事さえ大変なのに倒そうというのだから。

「冗談じゃない! 万全の状態ならともかく、我々は人質を連れているんだぞ! 兵力は3分の1と思いたまえっ!!
 とても許可できんっ!!」

ハンスは指揮官として充分に事態を把握していた。もっともな意見ね。
でも、私は落ち着いた声で言う。

「聞いて、ハンス。
 私はあと一撃だけファイアーボールを撃つことが出来るわっ!!」

「っ!! あの馬鹿げた威力のファイアーボールかっ!!」

私の言葉に驚いたハンスは振り返ってオーガを睨みながら決断する。

「死んでも恨むなよっ!!」
「もちろんよっ!!」

両者は合意した。ハンスは他の兵士に先に帰るように言うと馬の頭を旋回させてオーガに向かって突撃する。

「おお、偉大なる炎の美男子。我が友イーフリートよ。
 光と敵対する悪を焼き尽くすための一灯を我に貸し与えたまえ。
 炎を投げつけ世の悪性を打ち滅ぼしたまえ。
 善なる義務を果たし給え・・・。」

ハンスに体を支えられながら私は呪文を詠唱する。高まる魔力を察知したオーガは警戒しつつも、視界を失っているから先手を取る以外に道はない。
更に暴れ狂いながらオーガは馬の蹄の音を頼りに正確にハンスと私を狙ってくる。
その危険な剣捌きに加え、自分に的を絞らせない為に素早く左右へ移動するので私とハンスは困惑する。
私達はオーガの周りをグルグル回るように逃げながら、攻撃を当てる瞬間を探る。
でも、歴戦の戦士であるオーガはそう簡単に隙は見せてくれないのだった。

(駄目っ!! 昼間の油断したオーガと違ってスキがないっ!!)

そうして逃げ回っているうちにライトニングの効果は薄れてしまう。このままでは・・・。
と、私とハンスが焦りだした時、ついにオーガの刃がハンスの馬の足を切ってしまった。
馬の体と共に私とハンスは地面に叩きつけられる。ハンスが私をかばって地面との激突から守ってくれたおかげで魔法の種火は消えなかったけれど、万事休すだった。

オーガは落馬の音を頼りに私達を追い詰めようとしていた。

その時だった。空を切り裂いてメイソンとオリバーの矢がオーガめがけて飛んで来た。
本能で危機を察知したオーガは反射的に幅広剣でメイソンの矢を叩き落とした。
それが勝負の分かれ道となった。

「ファイアーボールっ!!」

矢を打ち落とすために硬直したオーガの肉体は私のファイアーボールを避けることは叶わず直撃した。
オーガの上半身は吹き飛び、残された下半身だけがブスブスと音と煙を上げるのだった。

「ローーーニャアアア~~~~っ!!」

メイソンとオリバーが声を上げて私とハンスを個別に救い出してくれた。
魔力を使い果たして意識が消えていく私の耳にライトニングの効果が消えたオーガが兄弟の死を知って怒りの叫び声を上げているのが聞こえた。
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