【元素娘】~元素118種、擬人化してみた。聖メンデレーエフ女学院の元素化学魔法教室~

我破破

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【2. ヘリウムちゃん】ふわふわとして掴みどころがなく、おっとりしたマイペース。感情の起伏が少なく、いつも穏やか

鋼の友情爆誕!? バナジウムちゃん様の高貴なる力で鉄を最強武器に!?

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 聖メンデレーエフ女学院の敷地内には、広大な演習場がある。
そこでは、生徒たちが自身の元素化学魔法を実戦形式で試したり、他の元素娘と協力して課題に取り組んだりする。
その日、演習場の片隅で、鉄ちゃんがバナジウムちゃんに話しかけていた。


 鉄ちゃん(Fe)は、ありふれた元素だが、強さと耐久性を象徴する元素娘だ。
日焼けした健康的な肌と赤茶色のごわごわとしたショートヘア、屈託のない笑顔が特徴的で、作業着の下の筋肉質な体からはどこか土の匂いと鋼鉄の丈夫さが感じられる。
彼女は、強くなること、そしてその力で誰かを守ることに強い憧れを抱いている。


「バナジウムちゃん!バナジウムちゃんの力があれば、オラと最強の武器が作れるって聞いたぜ!一緒に何か作ろうぜ!」
 鉄ちゃんは目を輝かせて、バナジウムちゃんに話しかけた。
彼女の持つ、他の金属元素の強度を飛躍的に向上させるバナジウムちゃんの能力は、鉄ちゃんにとってまさに理想の力だった。


 バナジウムちゃんは、その申し出を聞き、眉間に微かな皺を寄せた。
「武器など、わたくしの趣味ではありませんわ。美しくありませんし、破壊をもたらすだけの存在ですわ」
 彼女にとって、自身の能力は芸術や建築といった「美」の創造のためにこそ使われるべきものだった。
鉄のように無骨で、破壊を目的とする「武器」は、彼女の美学とは真逆にある。


「芸術品を作る方が、はるかに有意義ですわ。鉄ちゃん、あなたももっと洗練されたものに興味を持ってみてはいかがですの?」
 バナジウムちゃんはそう言い放ち、鉄ちゃんの素朴な提案を一蹴した。


 その様子を、いつものように少し離れた場所で、ヘリウムちゃんがふわふわと浮きながら聞いていた。
彼女は二人の会話に割り込むこともなく、ただ蜂蜜色の瞳で、彼らの様子を見つめている。


 バナジウムちゃんに断られ、鉄ちゃんはがっくりと肩を落とした。
「そっか…やっぱり、武器はダメかぁ…」彼女は、バナジウムちゃんの力の使い道に対する考え方を理解できなかった。


 鉄ちゃんは一人で、地面に小さな鉄の塊を置いて、それを強くすることだけを試みていた。
「バナジウムちゃんの力があれば、もっともっと強くなるのに…そうすれば、もっとたくさんの人を守れるのに!」彼女は、自分の素朴な力を誰かのために使いたいという一心で強さを求めていた。


 ヘリウムちゃんは、そんな鉄ちゃんの様子をしばらく見ていた。
そして、ふわぁ、と小さく息をついて、鉄ちゃんの傍へぷかぷかと寄っていった。


「鉄ちゃん、どうしてそんなに強い武器が作りたいんですかぁ?」
 ヘリウムちゃんは、いつもの穏やかな声で尋ねた。


 鉄ちゃんは、ヘリウムちゃんの声に顔を上げた。
「ヘリウムちゃん…えっと、強い武器があれば、みんなを守れるから!悪い奴から、大切なものを守れるんだ!」
 その言葉は、飾り気のない、純粋な正義感に満ちていた。


 ヘリウムちゃんは、その言葉を聞いて、「守る…かぁ」と呟いた。
彼女にとって「守る」という行為は、自身が持つバリア魔法や、不活性という性質とどこか通じるものがあるのかもしれない。


 ヘリウムちゃんは、そのままぷかぷかとバナジウムちゃんの元へと移動した。
バナジウムちゃんは、鉄ちゃんの無骨な様子を見て、ため息をついているところだった。


「ぷかぷか~、バナジウムちゃん、鉄ちゃんはね、みんなを守りたいんだってぇ」
 ヘリウムちゃんは、バナジウムちゃんの傍らで、風船のように揺れながら言った。


 バナジウムちゃんは、ヘリウムちゃんの言葉に反応し、視線を鉄ちゃんからヘリウムちゃんに移した。


「守る…それが、あの無骨な力の使い道ですの?」
 バナジウムちゃんは、どこか信じられないといった様子だった。
彼女の中の「鉄」のイメージは、工業製品、建築資材、そして…歴史の中の「武器」。
人類の醜い争いの道具としての側面も強かったからだ。
鉄という元素には、確かにその影の歴史がついて回る。


 ヘリウムちゃんは、バナジウムちゃんの瞳をまっすぐに見つめ、穏やかな声で続けた。

「バナジウムちゃんの力で、みんなを笑顔にするものを作れないかなぁ?守るための、でも、誰も傷つけない…」

 バナジウムちゃんの心に、ヘリウムちゃんの言葉がゆっくりと染み込んでいった。
みんなを守りたいという鉄ちゃんの純粋な願い。
そして、それを叶えるために、自身の力を「誰も傷つけない形」で使うというヘリウムちゃんの提案。
武器は嫌い。
破壊も嫌い。
しかし、「守る」という行為、そして「みんなを笑顔にする」という目的は、彼女の美学と完全に相容れないものではなかった。
美は、時に守るべきものから生まれる。
平和な世界があってこそ、真の芸術は花開くのだ。


 バナジウムちゃんは少し考えた。
エメラルドグリーンの瞳が揺れる。


「…鉄の強度と、わたくしの美しさを両立させる…平和の象徴、ですのね…」

 その言葉は、彼女の中で何かが変化した兆しだった。
頑なだった「武器への嫌悪感」が、「平和への貢献」という新しい視点によって、少しだけ和らいだのだ。


「分かりましたわ。鉄ちゃん、共にまいりましょう」
 バナジウムちゃんは立ち上がり、鉄ちゃんに歩み寄った。
鉄ちゃんは、バナジウムちゃんの言葉に驚き、そして喜びで目を丸くした。


「ほんとか!?バナジウムちゃん、ありがとう!」

 こうして、バナジウムちゃんと鉄ちゃんは、ヘリウムちゃんの仲介のもと、共に何かを作り始めることになった。
二人が目指すのは、強さと美しさを兼ね備えた、平和の象徴。


 バナジウムちゃんは、触媒活性化(カタリストブースト)と美神の祝福(ヴァナディースグレイス)を、鉄ちゃんは自身の強固な物理的な性質と素朴な創造力を持ち寄った。
二人の力は、かつてない化学反応を起こした。
バナジウムちゃんの優雅な魔力が、鉄の鈍い塊に注ぎ込まれる。
鉄はバナジウムの力によって強化され、吸い込まれるような銀色の輝きを帯びる。
そして、バナジウムちゃんの美神の祝福により、その形は芸術的な曲線を描き始める。


 カラン、カラン、と金属を加工する音。
バナジウムちゃんの指示で、鉄ちゃんが力強く鉄を叩く。
バナジウムちゃんは、指先一つで鉄の表面に繊細な装飾を施していく。
「もっと滑らかに!」「この角度が美しいですわ!」

 作業の過程で、バナジウムちゃんは鉄ちゃんの無骨さや時に粗雑な部分に小言を言わずにはいられなかったが、鉄ちゃんのひたむきさと、みんなを守りたいという純粋な願いには、徐々に尊敬の念を抱くようになっていた。
鉄ちゃんもまた、バナジウムちゃんの美に対する情熱と、完璧を追求する努力を間近で見て、そのすごさに感心していた。


 数時間後、二人の手によって、それは完成した。


 それは、一輪のバラのオブジェだった。
しかし、それはただのバラではない。
鉄で出来ているにも関わらず、花弁の一枚一枚は薄く、繊細な曲線を描き、まるで本物のバラのように優雅だった。
表面には、バナジウムちゃんの魔法によって、複雑で美しい装飾が施され、見る角度によって色合いを変える多価変幻(マルチヴァレンスシフト)の輝きを放っている。
そして、その硬度は、聖メンデレーエフ女学院でもトップクラスであり、おそらくどんな攻撃を受けても傷一つ付かないだろう。
それは、最強の「守り」の力を持つ、最も美しい「平和」の象徴だった。


「これが、わたくしと鉄ちゃんの、平和への願いを込めた、友情の結晶ですわ!」
 バナジウムちゃんは、完成した鉄のバラを両手で持ち上げ、誇らしげに言った。
エメラルドグリーンの瞳は、美しく輝くオブジェを見つめている。


「うおお!すっげぇ!オラたちの力で、こんなに綺麗なものができたのか!」
 鉄ちゃんは、興奮してバラのオブジェを覗き込んだ。
その素朴な顔には、最高の笑顔が浮かんでいた。


「オラ、バナジウムちゃんと友達になれて嬉しいぜ!」
 鉄ちゃんは、純粋な気持ちをそのまま口にした。
バナジウムちゃんは、鉄ちゃんの言葉に一瞬たじろいだが、すぐにいつものクールな表情に戻り、「…まあ、わたくしも、あなたのような面白い方と協力するのも悪くありませんわね」と小さく呟いた。
その口元には、微かな笑みが浮かんでいた。


 ヘリウムちゃんは、二人の周りをぷかぷかと飛びながら、その様子を見ていた。
彼女の蜂蜜色の瞳は、穏やかな光を湛えている。


「ぷかぷか~、素敵な友情ですねぇ」
 彼女は、まるで天使のような声でそう呟いた。


 ちょうどその時、西日が演習場に差し込み、鉄のバラに光が当たった。
バナジウムちゃんの多価変幻の魔法により、バラは様々な美しい色合いに輝き、その光は、二人の間に芽生えた、強固で美しい友情を祝福しているかのようだった。
かつては戦争に使われたかもしれない鉄と、それを強化するバナジウムの力が、ここでは誰かを傷つけるためではなく、美しく、壊れない「守り」の象徴として形になったのだ。
それは、ヘリウムちゃんの、平和を願う子供のような純粋な問いかけから始まった、小さな奇跡だった。


 二人の間には、まだ完璧な理解が生まれたわけではない。
美意識の高いバナジウムちゃんと、素朴な鉄ちゃんの間には、依然として埋めがたいギャップがあるだろう。
だが、確かに彼らは、互いの能力と、その根底にある願いを認め合った。
そして、そのきっかけを作ったのは、いつもふわふわと宙を漂う、小さなヘリウムちゃんだったのだ。


 鉄のバラは、演習場の片隅に静かに置かれた。
それは、強さと美しさが共存しうることを、そして元素の力は破壊だけでなく、創造と友情にも使えることを示す、輝かしい証となった。
そして、ヘリウムちゃんは、今日も明日も、変わらず聖メンデレーエフ女学院の空を、ぷかぷかと漂い続けるのだろう。
その存在は、まるで学院を見守る、穏やかな守護精霊のようだった。
そして、彼女の周りには、いつも風船がいくつか、楽しげに浮いているのだった。
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