「ラジエイターズ 」ー放射能力者ー

我破破

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蒼剣の巫女

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「ふぅ……、やっと終わったわね……。全く……わたしたちの本拠地前で堂々と浮上してくるとはいい度胸じゃないの、アイツら……」

 ナマズを始末し終えた彼女は一呼吸整えると、刃を消して、被っていた狐のお面を取る。そこから見えた彼女の素顔を見た忍武は驚愕した。

「なっ! 母さん!?」

 つい大きな声が出てしまう忍武。何故ならば、彼女の顔はあまりにも母親の真理にそっくりだったからだ。歳も背丈も全然違うが、長い髪を後ろで一つに束ねたその姿は、どこか母と同じ面影を帯びていた。

「え…………」

 大きな声を出してしまったせいで、彼女はやっと、忍武に見られている事に気付いたようだった。目が合ってしまい、数秒間の気まずい沈黙が流れる。

「あの……まさか、ひょっとしたらなんだけど……、あなた……わたしのことが視えてるの……?」

「うん、そうだよ。変なナマズが現れたあたりからずっと」

 忍武の即答を聞いた彼女の顔が徐々に青ざめていくのがわかる。

「イヤァアアアアアアっ! 何でこの『神隠しの衣』が効いてないのよぉっ!」 

 途端に彼女は恥じらいで顔が真っ赤になって、その場で露出部分を隠すようにうずくまる。目の前の彼女にそんな態度を取られた忍武は、どうしたらいいかわからず戸惑った。

「ううう……こんな姿、兄さんにもパパにもまだ見られた事無いのにぃっ……。それをまさか同世代の男の子に……、しかも鷹月北高の生徒だなんて……! 早くもわたしの高校デビュー失敗のお知らせです……」

 うずくまった彼女の着物の像がだんだんとぼやけて視えたかと思うと、着物は消えて、、中から鷹月北高の制服が姿を現した。どうやら彼女は同じ高校の生徒らしい。しかも忍武と同じ新入生のようだ。

「まさか、あなたも放射能力者(ラジエイター)だっただなんて……、男の子の能力者がいるなんて思いもしなかったわ……」

 どうやら彼女の存在はあの服を着ていると普通の人には視えなくなるらしいと忍武は察した。さっきから放射能力者(ラジエイター)と言っているのは、彼女の存在、ナマズや水などの『振動』が視えている者のことを指しているらしい。  

 さらにその能力者とやらは何故か普通は女子しかいない代物らしい。あの衣装がやたらと露出度高いのも、他人に見られる事を前提としていないからこその造りだったのだろう。

「……君の事情は何だかよくわからないけれど……、僕はあの震災以来、『振動』が視えるようになったのは事実だ」

「……!? 震災っ……?」

 気を取り直しでもしたのか、忍武の言葉を聞いた彼女は立ち上がって何やら考え始める。

「なるほど……、まさかあの地震のエネルギーに当てられて能力が覚醒したというの……? こんな例は初めてね……」

 何やら彼女は忍武にはわからない言葉でぶつくさと呟いていたが、やがて何かを確信した顔つきになって、忍武の方に向き直る。

「じゃあ今度は、あなたの所有する波動関数(ファンクション)を射影(プロジェクション)させてみて?」

「へ? 何をって!?」

 何やら彼女が専門用語らしきものを並べてくるので、わけがわからなくなってくる忍武。そんな忍武を気にもせずに、彼女はさも当たり前かのように空中からさっきの武器を左手に出現させてみせた。

「何ってホラ、波動関数(ファンクション)よ。自身の持つ波動を射影して具現化させた剣を、放射能力者(ラジエイター)なら出せるでしょう?」

「出来るかッ!」

 唐突な無茶ぶりにツっこむ忍武。

「なんだ……、まだ未覚醒なのか……。せっかく見付けた能力者なのに残念ね……」

「は……はぁ……」

「巻き込んでしまってゴメンなさい。帰っていいわよ。戦えないのに、わたしと一緒にいては、あなたが危険なだけだわ」

 忍武は何だかよくわからないままにお役御免になったらしい。彼女は武器を消して、帰ろうとし始める。

「……ってこんな時にまた!? まさかこの振動パターンはさっきのと同じ……!?」

 その時、忍武は足元から再びさっきのと同じような特殊な地震動を感じ取った。忍武は青ざめて彼女の方へと駆け出す。

「危ない、何か来る! 伏せてッ!」

「へっ!? あっ……、きゃっ!」

 忍武が慌てたせいで足がもつれ、彼女ともみくちゃになって押し倒す形になってしまう。その直後、地面からボチャンと飛び出して来たのは小魚みたいなナマズが一匹だった。さっきの奴とは違って、何ら敵意も害も無いようで、墓地の上をプカプカと泳いでいる。

「あ、あの……、重いのだけれど……」

「ごっ、ごめん!」

 顔が近いのに気付いた忍武は慌てて起き上がる。彼女も心なしか顔が赤い。

「こっ、コイツはただの余震ナマズ、文字通りただの雑魚よ。そんなに怖がらなくてもいいわ」

 焦ったように起き上がった彼女は、照れ隠しをするようにさっさとナマズの方へ歩いていって仕留める。そして、彼女の刃に貫かれたナマズはすぐに消滅していった。

「それにしても……、何であんな小さい獲物の初期微動まで感知できたのよあなた……。わたしでもこのサイズはとても感知出来ないわ。まるで歩く地震観測所じゃないの」

 振り向いた彼女が興味深げに忍武の方をジロジロと見る。

「感じるも何も……、視えてしまうんだからしょうがないだろ」  

 「ふぅん……なるほどね。もしかしてあなた、感知タイプってヤツなのかも……。戦闘能力は無くても索敵精度はすごい! みたいな……」

 そこまで彼女の考えが至った時、彼女の口の端が歪むのが見えた。一瞬見せたその笑みは、まさに小悪魔のそれである。

「よし、決めたっ!」何かを決意したかのように、彼女はガッツポーズを決めて、忍武に詰め寄る。

「あなた―――、わたしの助手になりなさい!」
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