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〖2章〗
【18話】‐15/99‐
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いつも通りの騒動を忘れた教室。
「向井さん」
教師の退室と共に突入した昼休み。ユーリが今日の昼食を取り出そうとしたところで、その声はかけられた。
「よかったら、お昼一緒に食べない?」
少し陰りながらも衰えのない魅力を湛える微笑み。揺れる前髪、弾ける唇、感情に合わせた仕草は踊るようで。至る箇所が目を奪おうとしながらそれでも、不思議と視線はその瞳に集中した。
未来を見通すような、不変の光。
改めて彼女——村松美桜を正面から見て、ユーリは確かに何か他とは違う性質を感じていた。
「一緒に、ですか?」
「うん、少し話してみたかったから」
僅かに伏せられた申し訳なさそうな目で、雅文の成果だと知る。ユーリの顔には今も痣が隠されずに残っていた。
村松美桜との友好関係は、ゆくゆく築いておきたいと思っていた事だ。だからこそ誘いに頷かない手はないのだが、ただ、とユーリは一旦答えを遅らせて隣席を一瞥する。
「あ……」
八坂陽未。入学してからほとんどずっと休憩時間を共に過ごしている友人だ。
もう一人の友人である多々良楓は、ここ最近、クラスメイトと仲良くなったとかで来なくなっていたが、陽未とは昨日も同じ食卓に座った。
彼女を放っておくのは良くないだろうと考え、ユーリは口を開こうとしたのだが、目が合った時点で陽未は席を立ち上がっていた。
「じゃ、じゃあ、私は楓のとこ行くねっ」
会話する間もなく、気を遣う風を装ってそそくさと去っていく。その表情はぎこちない笑みで、安堵が混ざっているようにも見えた。
解放されたと逃げていく背中を眺めていると、後ろからまた声が投げられる。
「あー、迷惑だったかな?」
「いえ……。それではまあ、お邪魔させていただきます」
ユーリは再び美桜に振り返り、それから礼儀正しく頭を下げた。
◆◇◆◇◆
神の使いとは言え、その肉体は食事も排泄も必要だった。
授業と授業の合間。涼しい顔をしながら駆け込んだトイレで、限界だった尿意を解消する。蓄積された苦しみによる相対的な快感の余韻に浸りながらトイレを抜け出ると、
「おや、珍しいですね」
不意に現れたその人物に、ユーリは足を止めた。
大宮希李。普段は学校内での関わりは持とうとしない彼女が、ハッキリとこちらを見つめている。
「放課後でいいから、そこ来て」
トイレと隣り合うようにして各階を行き来する階段が設計されている。希李はその最上階——屋上へと続く階段を指差していた。
「分かりました」
ユーリが頷くと、希李は「じゃ」とだけ言って再び他人へと戻っていく。
どことなく言動に棘を感じたが、気にしたところで意味はないだろう。
ユーリは何を察する事もなく時を過ごしたのだった。
屋上への扉は常時閉ざされている。
扉を開くだけの踊り場のようなスペースは、用途の分からないパネルが積まれて半分物置と化し、生徒のほとんどが訪れる事はない。そもそも、上がるための階段には進入禁止のチェーンが繋がれていた。
「通っても良いのですか?」
「屋上に出る訳じゃないし、バレなかったら大丈夫だよ」
常に監視されているという事もない。それに、他の階同様、踊り場で折り返しになっているため、最上段は希李達と同じくチェーンをくぐった者にしか見えないようだった。
言い分を受け入れ、ついていく。一足先に屋上の高さへと達した希李は振り返り、対してユーリは4段ほど下で足を止めた。
「それで、どういったご用件でしょうか」
背の低いその少女を見上げ、ユーリが改めて尋ねると、希李は制服のポケットからスマホを取り出す。
「ちょっと聞きたいことがあってさ。ずっと気になってたんだ。神様とか、ファンタジーな話だからとやかく言う隙はないとは思ってたんだけど、でもやっぱりどうしても受け入れられなくて」
その端末の中に見せたい物があるのだろう。スマホの操作を終える希李を、ユーリはじっと待った。
「加納君さ、教室にいる時ってほんと別人みたい。演技とかそんなのには思えなくて。多重人格だったのかなとかも考えてみたけど、それもなんか納得出来なくて」
発端はあくまでも直感。根拠などはなく、ただ自分の瞳が違和を訴えるから信じただけ。
希李の指が止まる。
「だから、確認する事にした」
果たして少女が浮かべたその疑問は、正しかった。
「ねえ、ここに映ってるのって、誰?」
希李が見せるスマホの画面。映るのは血を流し、倒れている男性。
そこは1年2組の教室だ。かなり画像は荒いが周囲には生徒も見切れていて、それが日常の中にあると分かる。どうやら知らぬ間に撮影したようだ。
そんな場面で、人死にが起きたとしたら加納雅文しかありえない。毎日のように、幼馴染に殺されようとしている彼しか。
しかし、提示された姿は彼ではなかった。
制服は着ている。だが無精髭を生やし、白髪交じりで顔には皺も刻んでいる。どう見ても3、40代。容姿が雅文に近しいという事もない。
強いて挙げるなら、体格が似ているだけ。
「………」
浮き彫りになった疑惑に、ユーリは口を閉ざしたまま。
それでも希李は構わないとばかりにスマホの画面をタップする。するとその画面は動き始める。画像は動画を停止したものだったようだ。
「この後の流れも、思ってたのと違うんだよね」
人が死んでいる。周囲の生徒達はぼーっと時を待つだけ。それからしばらくして、教室に警察がやって来た。全員生気がない。彼らは淡々と現場処理を行っていく。調査はほとんどが省略され、生徒数人に事実を二言三言聞くだけで片が付いた。
死体が運ばれ終わった後、教室はいつもの光景へと戻っていく。いつもの授業風景。その場所に死体があった事なんて誰もが忘れ、教科書や黒板が視線を集める主役と成り代わっていた。
そこからは意味がないと、希李はスマホの電源を落とす。
「てっきり、神様の誤魔化しって言うのは、加納君が死んだ事自体がなかったことになってるのかと思ってた。もっと、大雑把な力でご都合的に」
実際ユーリが雅文に行った説明は、その程度にしか解釈出来ない情報量だった。希李も雅文から事情を聞いたのだから、それ以上の知識は得られないはずだったが、彼女は辿り着いた。
「でも実際には人が死んでいて、その後の作業と言うか、そんなものもちゃんと行われている。明らかに異様だけど」
記憶だけが有耶無耶になるからと『記録』を残した。それは功を奏し、そうして真実へと近付いた希李は、次は逃さないと問い詰める。
「とにかく聞きたいのはさ、言ってないことあるよね、ってこと」
その瞳には怒りがあった。
大切な者を守ろうとする炎。返答次第では強硬手段にすら出そうな気迫を感じる。
ユーリはしばらく黙りこみ、それからゆっくりと、観念したように口を開いた。
「……全てを彼に伝えたなら、まず最初に立ち止まってしまっていたかもしれませんので」
「それじゃあやっぱり、本物なんだね」
希李の確認に、「はい」とユーリは頷く。
「99個の命とは、神様が集める事の出来た、彼と似た体格の人物の数です。彼が死ぬ度、無価値な人間の命が確かに消費されています」
希李にとっては予想していた事だ。しかしだからこそ、怒りはより露になる。
「それさ、村松さんに殺させてるんじゃなくて、加納君に殺させてるってことじゃん」
その語気は少し荒立っていて。拳も強く握っている。
希李にとって彼は、誰よりも優しい人だ。そんな彼が知らずに手を汚させられているという事実に、憤りが膨らむのを抑えられない。
静かな殺意すら孕む瞳に、ユーリは思わず目を逸らしていた。
「そう考え、足踏みしてしまう人間は多いだろうとの判断で、神様は真実を伏せる決定を致しました」
「その考えは正しいね。でも、すっごい腹立つ」
普段通りのひょうひょうとした態度を保ちながらも、その裏には烈火が揺らめく。希李自身も、これほど感情的になったのは初めてだと感じていた。
「……」
ユーリにとって現状は想定内のはずだった。雅文の親しい人物が近づけば、いずれ真実に至る可能性はあった。だからこそ彼には味方を作らないよう仕向けていたのだ。
しかしその徹底を疎かにしてしまっていた。ここ最近のユーリは、神の使いとしての振る舞いを忘れかけていた。
だから、その役目を思い出す。
「私の身であれば、どのようにしていただいても構いません。雅文にとって必要な希李の怒りを解消出来るのなら、それも補助と言えるでしょう」
そのために自分は遣われたのだから。そのために自分は作られたのだから。
神様の代わりとして当然の報いを受ける。忠誠心で身を差し出しながら、ユーリは自然と目を閉じていた。
その、怯えたようにも思える仕草に、希李の怒りは霧散する。
「……別に、どうもしないよ」
発散しそびれたが諦める。そもそも敵にしようとしているのは、目の前の女子高生の姿をした存在ではなく、もっと目にすら見えない強大な相手だ。
「それに、加納君を守るためなら結局、黙ってた方が良いだろうしね」
実際、神のやり方は正しくもあるのだ。
彼の望みを叶えるなら、その卑劣さは防波堤になる。例え希李が正義感で神の使いを打ちのめし、真実を全て伝えたところで彼は余計苦しむだけだろう。
一息吐き、心を落ち着かせた希李はその場に座り、四段低い位置のユーリと視点を合わせた。
「ねえ」
その呼びかけにユーリが目を開ける。罰は下らなかったのだと知り、僅かに引いていた痣の残る顔が前に出る。一瞬見えた指先の震えも、無意識なのだろう。
それを見て取って、希李は問いを投げた。
「あなたは、神様の味方?」
自分が彼の味方をする事に対して。
存在意義を問われ、神の使いは逡巡する。それから発した答えは、曖昧なものだった。
「……私は、知らない事が多すぎます」
「なんだ、そうなんだ」
すると希李は失笑した。先ほどの怒りとはまったく真反対の表情で。
その意図が分からず戸惑う神の使いに、希李は改めて要求する。
「それじゃあ仕切り直して。今度こそはちゃんと教えてよ」
まだ不明な点はある。そのすり合わせをしたい。
次はもう隠し事なしだぞと告げるように、希李は初めてその名前を読んだ。
「ね、ユーリ?」
「向井さん」
教師の退室と共に突入した昼休み。ユーリが今日の昼食を取り出そうとしたところで、その声はかけられた。
「よかったら、お昼一緒に食べない?」
少し陰りながらも衰えのない魅力を湛える微笑み。揺れる前髪、弾ける唇、感情に合わせた仕草は踊るようで。至る箇所が目を奪おうとしながらそれでも、不思議と視線はその瞳に集中した。
未来を見通すような、不変の光。
改めて彼女——村松美桜を正面から見て、ユーリは確かに何か他とは違う性質を感じていた。
「一緒に、ですか?」
「うん、少し話してみたかったから」
僅かに伏せられた申し訳なさそうな目で、雅文の成果だと知る。ユーリの顔には今も痣が隠されずに残っていた。
村松美桜との友好関係は、ゆくゆく築いておきたいと思っていた事だ。だからこそ誘いに頷かない手はないのだが、ただ、とユーリは一旦答えを遅らせて隣席を一瞥する。
「あ……」
八坂陽未。入学してからほとんどずっと休憩時間を共に過ごしている友人だ。
もう一人の友人である多々良楓は、ここ最近、クラスメイトと仲良くなったとかで来なくなっていたが、陽未とは昨日も同じ食卓に座った。
彼女を放っておくのは良くないだろうと考え、ユーリは口を開こうとしたのだが、目が合った時点で陽未は席を立ち上がっていた。
「じゃ、じゃあ、私は楓のとこ行くねっ」
会話する間もなく、気を遣う風を装ってそそくさと去っていく。その表情はぎこちない笑みで、安堵が混ざっているようにも見えた。
解放されたと逃げていく背中を眺めていると、後ろからまた声が投げられる。
「あー、迷惑だったかな?」
「いえ……。それではまあ、お邪魔させていただきます」
ユーリは再び美桜に振り返り、それから礼儀正しく頭を下げた。
◆◇◆◇◆
神の使いとは言え、その肉体は食事も排泄も必要だった。
授業と授業の合間。涼しい顔をしながら駆け込んだトイレで、限界だった尿意を解消する。蓄積された苦しみによる相対的な快感の余韻に浸りながらトイレを抜け出ると、
「おや、珍しいですね」
不意に現れたその人物に、ユーリは足を止めた。
大宮希李。普段は学校内での関わりは持とうとしない彼女が、ハッキリとこちらを見つめている。
「放課後でいいから、そこ来て」
トイレと隣り合うようにして各階を行き来する階段が設計されている。希李はその最上階——屋上へと続く階段を指差していた。
「分かりました」
ユーリが頷くと、希李は「じゃ」とだけ言って再び他人へと戻っていく。
どことなく言動に棘を感じたが、気にしたところで意味はないだろう。
ユーリは何を察する事もなく時を過ごしたのだった。
屋上への扉は常時閉ざされている。
扉を開くだけの踊り場のようなスペースは、用途の分からないパネルが積まれて半分物置と化し、生徒のほとんどが訪れる事はない。そもそも、上がるための階段には進入禁止のチェーンが繋がれていた。
「通っても良いのですか?」
「屋上に出る訳じゃないし、バレなかったら大丈夫だよ」
常に監視されているという事もない。それに、他の階同様、踊り場で折り返しになっているため、最上段は希李達と同じくチェーンをくぐった者にしか見えないようだった。
言い分を受け入れ、ついていく。一足先に屋上の高さへと達した希李は振り返り、対してユーリは4段ほど下で足を止めた。
「それで、どういったご用件でしょうか」
背の低いその少女を見上げ、ユーリが改めて尋ねると、希李は制服のポケットからスマホを取り出す。
「ちょっと聞きたいことがあってさ。ずっと気になってたんだ。神様とか、ファンタジーな話だからとやかく言う隙はないとは思ってたんだけど、でもやっぱりどうしても受け入れられなくて」
その端末の中に見せたい物があるのだろう。スマホの操作を終える希李を、ユーリはじっと待った。
「加納君さ、教室にいる時ってほんと別人みたい。演技とかそんなのには思えなくて。多重人格だったのかなとかも考えてみたけど、それもなんか納得出来なくて」
発端はあくまでも直感。根拠などはなく、ただ自分の瞳が違和を訴えるから信じただけ。
希李の指が止まる。
「だから、確認する事にした」
果たして少女が浮かべたその疑問は、正しかった。
「ねえ、ここに映ってるのって、誰?」
希李が見せるスマホの画面。映るのは血を流し、倒れている男性。
そこは1年2組の教室だ。かなり画像は荒いが周囲には生徒も見切れていて、それが日常の中にあると分かる。どうやら知らぬ間に撮影したようだ。
そんな場面で、人死にが起きたとしたら加納雅文しかありえない。毎日のように、幼馴染に殺されようとしている彼しか。
しかし、提示された姿は彼ではなかった。
制服は着ている。だが無精髭を生やし、白髪交じりで顔には皺も刻んでいる。どう見ても3、40代。容姿が雅文に近しいという事もない。
強いて挙げるなら、体格が似ているだけ。
「………」
浮き彫りになった疑惑に、ユーリは口を閉ざしたまま。
それでも希李は構わないとばかりにスマホの画面をタップする。するとその画面は動き始める。画像は動画を停止したものだったようだ。
「この後の流れも、思ってたのと違うんだよね」
人が死んでいる。周囲の生徒達はぼーっと時を待つだけ。それからしばらくして、教室に警察がやって来た。全員生気がない。彼らは淡々と現場処理を行っていく。調査はほとんどが省略され、生徒数人に事実を二言三言聞くだけで片が付いた。
死体が運ばれ終わった後、教室はいつもの光景へと戻っていく。いつもの授業風景。その場所に死体があった事なんて誰もが忘れ、教科書や黒板が視線を集める主役と成り代わっていた。
そこからは意味がないと、希李はスマホの電源を落とす。
「てっきり、神様の誤魔化しって言うのは、加納君が死んだ事自体がなかったことになってるのかと思ってた。もっと、大雑把な力でご都合的に」
実際ユーリが雅文に行った説明は、その程度にしか解釈出来ない情報量だった。希李も雅文から事情を聞いたのだから、それ以上の知識は得られないはずだったが、彼女は辿り着いた。
「でも実際には人が死んでいて、その後の作業と言うか、そんなものもちゃんと行われている。明らかに異様だけど」
記憶だけが有耶無耶になるからと『記録』を残した。それは功を奏し、そうして真実へと近付いた希李は、次は逃さないと問い詰める。
「とにかく聞きたいのはさ、言ってないことあるよね、ってこと」
その瞳には怒りがあった。
大切な者を守ろうとする炎。返答次第では強硬手段にすら出そうな気迫を感じる。
ユーリはしばらく黙りこみ、それからゆっくりと、観念したように口を開いた。
「……全てを彼に伝えたなら、まず最初に立ち止まってしまっていたかもしれませんので」
「それじゃあやっぱり、本物なんだね」
希李の確認に、「はい」とユーリは頷く。
「99個の命とは、神様が集める事の出来た、彼と似た体格の人物の数です。彼が死ぬ度、無価値な人間の命が確かに消費されています」
希李にとっては予想していた事だ。しかしだからこそ、怒りはより露になる。
「それさ、村松さんに殺させてるんじゃなくて、加納君に殺させてるってことじゃん」
その語気は少し荒立っていて。拳も強く握っている。
希李にとって彼は、誰よりも優しい人だ。そんな彼が知らずに手を汚させられているという事実に、憤りが膨らむのを抑えられない。
静かな殺意すら孕む瞳に、ユーリは思わず目を逸らしていた。
「そう考え、足踏みしてしまう人間は多いだろうとの判断で、神様は真実を伏せる決定を致しました」
「その考えは正しいね。でも、すっごい腹立つ」
普段通りのひょうひょうとした態度を保ちながらも、その裏には烈火が揺らめく。希李自身も、これほど感情的になったのは初めてだと感じていた。
「……」
ユーリにとって現状は想定内のはずだった。雅文の親しい人物が近づけば、いずれ真実に至る可能性はあった。だからこそ彼には味方を作らないよう仕向けていたのだ。
しかしその徹底を疎かにしてしまっていた。ここ最近のユーリは、神の使いとしての振る舞いを忘れかけていた。
だから、その役目を思い出す。
「私の身であれば、どのようにしていただいても構いません。雅文にとって必要な希李の怒りを解消出来るのなら、それも補助と言えるでしょう」
そのために自分は遣われたのだから。そのために自分は作られたのだから。
神様の代わりとして当然の報いを受ける。忠誠心で身を差し出しながら、ユーリは自然と目を閉じていた。
その、怯えたようにも思える仕草に、希李の怒りは霧散する。
「……別に、どうもしないよ」
発散しそびれたが諦める。そもそも敵にしようとしているのは、目の前の女子高生の姿をした存在ではなく、もっと目にすら見えない強大な相手だ。
「それに、加納君を守るためなら結局、黙ってた方が良いだろうしね」
実際、神のやり方は正しくもあるのだ。
彼の望みを叶えるなら、その卑劣さは防波堤になる。例え希李が正義感で神の使いを打ちのめし、真実を全て伝えたところで彼は余計苦しむだけだろう。
一息吐き、心を落ち着かせた希李はその場に座り、四段低い位置のユーリと視点を合わせた。
「ねえ」
その呼びかけにユーリが目を開ける。罰は下らなかったのだと知り、僅かに引いていた痣の残る顔が前に出る。一瞬見えた指先の震えも、無意識なのだろう。
それを見て取って、希李は問いを投げた。
「あなたは、神様の味方?」
自分が彼の味方をする事に対して。
存在意義を問われ、神の使いは逡巡する。それから発した答えは、曖昧なものだった。
「……私は、知らない事が多すぎます」
「なんだ、そうなんだ」
すると希李は失笑した。先ほどの怒りとはまったく真反対の表情で。
その意図が分からず戸惑う神の使いに、希李は改めて要求する。
「それじゃあ仕切り直して。今度こそはちゃんと教えてよ」
まだ不明な点はある。そのすり合わせをしたい。
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