100回目のキミへ。

落光ふたつ

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〖3章〗

【22話】‐22/99‐

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「仲悪いからって、さすがにあれは酷いよね」
「熱中症なのに無理やり走らせてたんでしょ?」
 密かに言葉を交わす女子生徒の視線の先には村松美桜がいた。
 昼食を食べるため友人達と席を集める中、周囲の目が明らかに変わっているのを美桜は感じていた。自分自身でもその罪は認めている。だからこそ、向けられる声は全て受け止めるつもりだ。
「美桜、これ食べて」
 ふと、永見麻沙美が机の上にタッパーを置いた。まるで注意を引き付けるように差し出してきたその中には、手作りらしきクッキーが詰められている。
「えっと……?」
「作ったから感想聞かせてよ」
 そう、麻沙美はなんて事ない風に言った。
 とは言えこれから弁当を食べようとしているのにタイミングとしては違和感がある。だからこそ美桜は彼女なりの気遣いに気づく事が出来た。
「じゃあ、もらうね」
 麻沙美が無言で頷くのを見てからクッキーを口に放り込む。サクッとした歯触りとほのかな甘み。シンプルな味なのに市販の物よりも格段に美味しく感じた。
「美味しいね」
「まあね」
 率直な感想を伝えれば、麻沙美は自分の弁当箱を開けながら相槌を打つ。その横顔をしばらく見つめてから、美桜は思わず感謝を口にしていた。
「ありがと」
「なにが?」
 そう疑問符を浮かべていながら、麻沙美はこちらを見ない。その不器用さに思わず笑ってしまう。
 それから、いつも通り自分も弁当箱を空ける。周囲の友人達は他愛無い会話を始めていて日常を実感した。
 一番遅くにこのグループに参加した人物も、すっかり馴染んでいる。
「………」
「なに、あんたも食べたいの?」
「すみません。美味しそうだと思ってつい見てしまいました」
「別に食べたいなら食べていいし。けど、弁当食べてからにしたら?」
「食後のデザートですね。そうします」
 深く頭を下げるその少女に、麻沙美は呆れ半分で失笑した。どこか抜けているようなその優等生を、なんだかんだ皆も慕っているようだ。
 そんな光景を微笑ましく眺めていた美桜だったが、不意にかけられた一声にぞくっと寒気が走る。

「みーおっ」

 加納雅文。悪意の塊を顔面に張り付ける彼が、美桜の耳元で名前を呼んだ。
 その登場に、すかさず麻沙美が椅子を蹴飛ばし立ち上がる。
「てめっ!」
「やめてよー。オレは嫌がらせしに来たわけじゃないしさー」
 躊躇なく振り抜かれる拳を、雅文は予想していたかのように一歩下がって避けた。更に追撃を加えようとする麻沙美を遮って、美桜は義理を通すため口を開く。
「この間はゴメン。でも、あんまり変な事はしないで」
 罪は認める。けれど彼を好きにさせる訳にはいかないと意思を見せる。
 すると彼はわざとらしく首を傾げた。
「変な事ー? なんかオレしてるっけー?」
「ッ!」
 と次の瞬間、麻沙美が加納雅文の胸倉を掴んでいた。いつもの光景に周囲は目を逸らす中、美桜のグループの女子達は未だ慣れず顔を引きつらせている。
「相変わらず暴力的だなー。もう勘弁してよー?」
「あんたが美桜にちょっかいかけるからだろうが!」
 くねくねと体を動かす加納雅文に、麻沙美は構わず怒声を浴びせた。しかし、彼はその音量にひるんだ様子もない。
「オレは美桜と仲良くなりたいだけなんだけどなー。ほら、この前のお詫びも兼ねてさ」
「わたしは悪いことしたと思ってる。でも、今の雅文とはもう仲良くなれそうにないと思うから、ゴメン」
 ハッキリと決別の意を告げる。始めは元の関係に戻れると思っていたが、もう無理だ。
 その瞳を受ける加納雅文は、存外あっさりとしていた。
「あらら振られちゃったー。じゃあま、今日はいいやー」
 胸倉を掴む手を払うとその場を去っていく。離れていく背中を睨む麻沙美は、舌打ちを放ってから、自分が荒らした椅子を直し始めた。
 美桜もそれを手伝う中、手持無沙汰だった友人達が空気を換えようと話題を投げる。
「そ、そういえばもう夏だけど、海とかみんなで行きたいねー」
「まだ早くない? 梅雨空けてないじゃん」
 ぎこちなく切り出した女子に続いてもう一人が笑いながら繋げる。そのおかげで、教室のピリついた空気もどことなく和らいだように思えた。
 席に座り直した美桜も会話に参加する。
「けど海は行きたいね。向井さんは、海好き?」
 と、美桜が向井悠里へと話を向けると、彼女は少し固まった。
「行った事がないので、判断出来ません」
 経験値の少ない人間モドキはそう答えるしかない。変に思われてはいないだろうが、やはり設定はもう少し練っていた方が良いか、と神の使いとして考えていると、不意にぶっきらぼうな提案が投げられた。
「じゃあ、今度みんなで行こ」
 麻沙美がそう言うと、日程はすぐに決まっていった。



 1年4組の教室で食事を摂る平凡な女子達もまた、それを思っていた。
「そろそろ海行きたいねー」
「海開きいつだっけ?」
 二つの団子を頭に乗せる小柄な生徒——八坂陽未に、気だるげなロングヘアの女子——多々良楓は首を傾げる。
「7月1日だよ。日曜!」
「あーじゃあ、予定空けれそー」
 すっかり重い空気を忘れた彼女達は、にこやかに予定表を書き込んでいった。


 少し時を経て、1年6組でもその計画が上がった。
「白波瀬、今度さ海行かない?」
 必死に自分のノートを書き写している友人に希李が告げる。
「あたしを遊びに誘うなんて珍しー。男はどうしたん?」
 白波瀬は高速で動かしていたペンを一旦止めて、希李の顔を見返した。
 ここ最近の行動について変な解釈をされているらしいと知った希李だったが、訂正するのも面倒だからと適当に理由を作る。
「あーまあ、行くみたいだから、追っかけみたいな」
「ストーカーかよ! やったねストーカーの味方出来るとか貴重な体験だ!」
 我ながら変な動機だと後悔しかけたのだが、白波瀬は予想以上に食いついた。相変わらずの奇人っぷりに困惑しつつも、気は楽だと納得させる。
「それで? 浮気調査すりゃいいんか?」
「いやそう言うのじゃないし」
 今からワクワクとするその友人にやはり不安は抱きながら、希李は既に決まっていた日程を伝えるのだった。



 仁ト高校男子水泳部でもまた、その日の予定が決まった。
「みなのもの聞け! 7月1日は遠征だ!」
 部長が高らかにそう宣言すると、部員達がざわつき始める。その中で、勇気ある一人がおずおずと挙手をした。
「えっと、どこにっすか?」
「海だ!」
 後輩からの質問に部長が意気揚々と答え、更なる混乱が広がっていく。
「海? 遠泳の練習とか?」
「まあ、波がある方がキツイか」
 各々が待ち構えているだろう特訓メニューを考えていると、それを吹き飛ばすように部長が拳を掲げた。
「たまには羽を伸ばすぞぉッ!」
 そこでようやく部員達も部長の計らいに気づく。遠征とは名ばかりの、日頃の褒美という事らしい。
 そうと分かると部員達は一様に騒ぎ始め。
 その一員である雉尾大介も、仲間と共にその日を待ち望むのだった。
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