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▼8「登校」
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「はっはっはっ」
なんとなく走った。
鼻先が赤くなって、白い息が漏れ出る。
いつもはゆったりのんびり、なんなら朝礼開始直前に教室に着くよう歩みを調整するのだが、僕は柄にもなく走っていた。
少しでも早く教室に着きたかった。
馬鹿らしいとは思いながらも、急かされる気持ちのまま足を動かす。
そうして、いつもより30分も早く学校についた。
生徒は少なかったけれど、いないことはない。でも、階段を上がり、3年生のフロアになるとまるで人気はなくなる。部活もやっていないのに登校を急ぐ生徒などいないのだ。
そもそも僕が早く来たところで、彼女は来ていないかもしれない。
そう分かっていながらも、3年2組の教室へ。
教室には誰もいない。足を踏み入れた僕が最初の一人。頭の中にも声は聞こえてこない。
席について鞄を下ろし、息を整える。それから窓の外をぼけーっと眺めた。
早く来る必要はなかったな、と思いつつも後悔ではなかった。
それからしばらく経って、教室の外が騒がしくなってくる。時計を確認して、この時間に皆やってくるのだと初めて知った。
「あれ、三戸早いね」
「ああうん、ちょっと早く起きちゃってね」
ぞろぞろ入って来たクラスメイトの内の一人、山本くんが僕に気づいて歩み寄ってくる。それに適当な言い訳で返しながら、僕は頭の中に声が聞こえないかと探した。
「鈴、いっつも調子いいんだからー」
女子の集団。チラと見えた、安立さんと仲が良いという北川さん。彼女達が教室に踏み入れると、その声も聞こえてくる。
『三戸くんはもう来てるかしら……』
僕にしか聞こえない声。
それが今日も聞けて、僕はすっかり嬉しくなった。
おはよう、安立さん。
『あ、来てたのね。おはよう三戸くん』
なんてやり取りに幸福を感じて、僕は思わず頬を緩めてしまう。
「三戸? なんかニヤついてる?」
「あ、いやっ。あはは!」
山本くんが僕の表情の変化に気づくが、慌てて誤魔化した。そんな様子を聞いていた安立さんはクスリと笑った。
僕はそれに安堵して山本くんに向く。彼の好きなお笑いの話に相槌を返している内に中野くんもやって来た。
そうしていつもの友人との会話を繰り広げる。その端々には安立さんによる友人へのからかいも聞こえてきた。ついついそちらに耳をそばだてたくなったけれど、自重してお互いの友人へと向き直る。
すぐに教師がやって来て、生徒たちは席に着く。静かに担任の連絡事項を聞く中、僕はこっそりと彼女に言葉を投げた。
日を跨いでも声は聞こえたままだったね。
『そうね。しばらくは続くみたいね』
お互いに喜びを共有し合って、今日も二人だけの内緒話をする。
なんとなく走った。
鼻先が赤くなって、白い息が漏れ出る。
いつもはゆったりのんびり、なんなら朝礼開始直前に教室に着くよう歩みを調整するのだが、僕は柄にもなく走っていた。
少しでも早く教室に着きたかった。
馬鹿らしいとは思いながらも、急かされる気持ちのまま足を動かす。
そうして、いつもより30分も早く学校についた。
生徒は少なかったけれど、いないことはない。でも、階段を上がり、3年生のフロアになるとまるで人気はなくなる。部活もやっていないのに登校を急ぐ生徒などいないのだ。
そもそも僕が早く来たところで、彼女は来ていないかもしれない。
そう分かっていながらも、3年2組の教室へ。
教室には誰もいない。足を踏み入れた僕が最初の一人。頭の中にも声は聞こえてこない。
席について鞄を下ろし、息を整える。それから窓の外をぼけーっと眺めた。
早く来る必要はなかったな、と思いつつも後悔ではなかった。
それからしばらく経って、教室の外が騒がしくなってくる。時計を確認して、この時間に皆やってくるのだと初めて知った。
「あれ、三戸早いね」
「ああうん、ちょっと早く起きちゃってね」
ぞろぞろ入って来たクラスメイトの内の一人、山本くんが僕に気づいて歩み寄ってくる。それに適当な言い訳で返しながら、僕は頭の中に声が聞こえないかと探した。
「鈴、いっつも調子いいんだからー」
女子の集団。チラと見えた、安立さんと仲が良いという北川さん。彼女達が教室に踏み入れると、その声も聞こえてくる。
『三戸くんはもう来てるかしら……』
僕にしか聞こえない声。
それが今日も聞けて、僕はすっかり嬉しくなった。
おはよう、安立さん。
『あ、来てたのね。おはよう三戸くん』
なんてやり取りに幸福を感じて、僕は思わず頬を緩めてしまう。
「三戸? なんかニヤついてる?」
「あ、いやっ。あはは!」
山本くんが僕の表情の変化に気づくが、慌てて誤魔化した。そんな様子を聞いていた安立さんはクスリと笑った。
僕はそれに安堵して山本くんに向く。彼の好きなお笑いの話に相槌を返している内に中野くんもやって来た。
そうしていつもの友人との会話を繰り広げる。その端々には安立さんによる友人へのからかいも聞こえてきた。ついついそちらに耳をそばだてたくなったけれど、自重してお互いの友人へと向き直る。
すぐに教師がやって来て、生徒たちは席に着く。静かに担任の連絡事項を聞く中、僕はこっそりと彼女に言葉を投げた。
日を跨いでも声は聞こえたままだったね。
『そうね。しばらくは続くみたいね』
お互いに喜びを共有し合って、今日も二人だけの内緒話をする。
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