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仕事
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少年の言う仕事の内容を理解しないまま、翌日になった。
疑う気持ちはなかった、だって彼は俺がよく知る人物だったから。
一方的に知っているだけで、彼は俺の事なんて知らないと思うけど…
クラウス…乙女ゲームの攻略キャラクターの一人であり、ヒロインの幼少期からの想い人。
悪役のリトに生まれ変わってどうしようかと思っていたけど、まだ俺の人生は終わってないんだと希望を持たせてくれた。
これから俺は脱悪役の道に進むんだと、クラウスとの待ち合わせの場所に向かった。
俺が住む貧困街とクラウスの住む貴族街の間にある平民街。
そこの噴水広場に向かうと、既にクラウスがいて驚いた。
まだ待ち合わせの時間より少し早かったんだけど、クラウスに近付くとこちらを見た。
「早かったな」
「俺よりも早いじゃないですか」
「俺も今来たばかりだから」
手のひらを俺の方に向けて、失礼して恐る恐る手を重ねた。
今日は冷えるのに彼の手はほんのりと温かくて、来たばかりの俺の手の方が少し冷たかった。
重ねた手の大きさが違う、年上だし身長も高いから当たり前だけどちょっと悔しかった。
ギュッとクラウスに手を握られて、ビックリして目を丸くする。
クラウスは爽やかな笑顔で「行こうか」と言っていた。
何処に行くのか聞かされないまま付いて行くと貴族街の入り口までやって来た。
セキュリティが頑丈で、貴族街には騎士が二人立っていた。
クラウスに視線を向けた途端にまるで王様のように頭を下げている。
家が公爵家だけど、それだけではなくてクラウスはこの国ではなく世界の最高位の存在だ。
だから昨日の店主も騎士もクラウスに頭を下げるんだ。
…あれ?なんで最高位なんだったっけ、そこだけ思い出せない。
ゲームの内容ならはっきりと覚えているのに…
俺は貴族ではないが、クラウスが連れてきた子供だから通っても何も言われなかった。
そのままゲームでも見た事がないクラウスの実家の前までやって来た。
先にくらが中に入ろうとしていて、急いで身だしなみを整える。
実家に行くなら俺が出来るかぎりの綺麗な服装で来れば良かった。
服はボロボロではないが、クラウスの家に入るには不釣り合いだ。
前に進まない俺にクラウスは不思議そうに後ろを振り返った。
「どうした?入らないのか?」
「い、いいのかなって思って…」
「仕事しに来たんだろ、何処に遠慮する要素があるんだ」
クラウスの言葉に自分がここにいる意味を思い出して、歩き出した。
そうだ、俺は遊びに来たわけじゃない…仕事をしに来たんだ。
最初に出迎えたのは天井に吊るされた大きなシャンデリアだった。
貴族街の他の家よりも大きな屋敷だからお手伝いさんとか沢山いるのかと思っていた。
シンと静まり返っていて、クラウスの両親もいなさそうだ。
仕事でいないのかな、クラウスの両親…そういえばゲームでも出てきていなかった。
クラウスに似て優しくて美人なんだろうなと想像出来る。
でも、勝手に雇用契約のような事をして怒られないか心配だ。
最高位とはいえクラウスはまだ子供だ、俺が可哀想でああ言ってくれたのにクラウスが怒られるのは嫌だ。
「あの、ご両親は…」
「いない」
「仕事とか…」
「元々いない、ここに一人で住んでる」
いない…俺と同じなのかもしれない…これ以上深く聞くのを止めた。
仕事内容って何だろう、お手伝いさんかな…掃除や料理は普段からしているから得意だ。
でも、暇つぶしって言っていたな…掃除や料理は暇つぶしなのかな。
クラウスの部屋に入り、何もかもが新しい景色で緊張する。
他人の家にお邪魔するのは初めてだ、クラウスに「適当に座ってて」と言われた。
ふかふかの絨毯の上に正座して、なるべく小さくなった。
クラウスは「ソファーでいい」と言ってくれたが、恐れ多い。
俺は床で充分だと動かなかったらクラウスが諦めてくれた。
クラウスは一人で部屋を出ていき、俺は部屋の中に取り残された。
何を見ていたらいいのか分からず、とりあえず周りをキョロキョロ見ていた。
少ししてクラウスが帰ってきて、手には飲み物が入ったグラスコップが乗ったトレイがあった。
テーブルにトレイを置いて、俺の方を振り返って手招きした。
「コレも仕事だ、こっちにおいで」
「はい」
仕事だと言われたら断るわけにはいかず、クラウスの言われた通りソファーに座る。
飲み物のコップを渡されて、二人で静かに飲んでいた。
俺の仕事っていったい何なんだろう、家に招かれてソファーに座って美味しい飲み物を飲む。
こんな楽な仕事があっていいのかと申し訳ない気持ちになる。
目の前のソファーに座るクラウスを見ると、俺の方をジッと見つめていた。
クラウスが人を陥れるはずはない、でもそれだったらなんで俺を家に呼んだんだろう。
緊張で飲み続けていて、いつの間にかコップの中身が空になっていた。
クラウスも何も要求しなくて、時間だけが過ぎていく。
「俺の仕事ってなんですか?」
「言っただろ、暇つぶしって…俺と遊んでくれる?」
「遊ぶ…?」
「うん、何して遊ぼうか」
そう言われて、つい「サッカー」と答える自分がいた。
二人でサッカーとかルールとかは分からない、俺の記憶にやっているシーンはなかったから。
病弱な前世の頃、走り回るのが夢だった…病院の庭で友達同士が楽しそうにサッカーしているのが羨ましかった。
俺もあんな風に友達と一緒に遊びたい、健康な身体を手に入れた今なら…
この世界にはサッカーというものはなくて、ボールを奪ってゴールに向かって蹴る遊びだと教えた。
二人だし、難しいルールは考えず足だけ使えばそれでいい。
クラウスは手頃なボールが見つからないみたいで、ゴム製の物を溶かして丸めてボールにしていた。
ないなら作ればいい、かなりの完成度のボールを見て驚いた。
クラウスの家の広い庭で走り回ってゴールに見立てた紐に向かってシュートを決めた。
お互い同じぐらいゴールを決めて、日が沈むまでそれが続いた。
こんなに顔が痛くなるほど笑ったのはどのくらいぶりだっただろうか。
クラウスも隣で楽しそうに笑っていて、楽しんでくれた事が嬉しかった。
そしてその日俺の日給だとクラウスがお金を渡してきた。
俺は仕事で来たけど、友達と遊んだだけだと思っているから受け取らなかった。
クラウスは少し考えてから「じゃあ報酬は食事なら受け取ってくれるか?」と言って俺に手を差し伸ばした。
俺は食べるために働いている、直接お金を貰うよりもそっちがいいと思い「お邪魔でなければ」とクラウスの手をしっかりと握った。
疑う気持ちはなかった、だって彼は俺がよく知る人物だったから。
一方的に知っているだけで、彼は俺の事なんて知らないと思うけど…
クラウス…乙女ゲームの攻略キャラクターの一人であり、ヒロインの幼少期からの想い人。
悪役のリトに生まれ変わってどうしようかと思っていたけど、まだ俺の人生は終わってないんだと希望を持たせてくれた。
これから俺は脱悪役の道に進むんだと、クラウスとの待ち合わせの場所に向かった。
俺が住む貧困街とクラウスの住む貴族街の間にある平民街。
そこの噴水広場に向かうと、既にクラウスがいて驚いた。
まだ待ち合わせの時間より少し早かったんだけど、クラウスに近付くとこちらを見た。
「早かったな」
「俺よりも早いじゃないですか」
「俺も今来たばかりだから」
手のひらを俺の方に向けて、失礼して恐る恐る手を重ねた。
今日は冷えるのに彼の手はほんのりと温かくて、来たばかりの俺の手の方が少し冷たかった。
重ねた手の大きさが違う、年上だし身長も高いから当たり前だけどちょっと悔しかった。
ギュッとクラウスに手を握られて、ビックリして目を丸くする。
クラウスは爽やかな笑顔で「行こうか」と言っていた。
何処に行くのか聞かされないまま付いて行くと貴族街の入り口までやって来た。
セキュリティが頑丈で、貴族街には騎士が二人立っていた。
クラウスに視線を向けた途端にまるで王様のように頭を下げている。
家が公爵家だけど、それだけではなくてクラウスはこの国ではなく世界の最高位の存在だ。
だから昨日の店主も騎士もクラウスに頭を下げるんだ。
…あれ?なんで最高位なんだったっけ、そこだけ思い出せない。
ゲームの内容ならはっきりと覚えているのに…
俺は貴族ではないが、クラウスが連れてきた子供だから通っても何も言われなかった。
そのままゲームでも見た事がないクラウスの実家の前までやって来た。
先にくらが中に入ろうとしていて、急いで身だしなみを整える。
実家に行くなら俺が出来るかぎりの綺麗な服装で来れば良かった。
服はボロボロではないが、クラウスの家に入るには不釣り合いだ。
前に進まない俺にクラウスは不思議そうに後ろを振り返った。
「どうした?入らないのか?」
「い、いいのかなって思って…」
「仕事しに来たんだろ、何処に遠慮する要素があるんだ」
クラウスの言葉に自分がここにいる意味を思い出して、歩き出した。
そうだ、俺は遊びに来たわけじゃない…仕事をしに来たんだ。
最初に出迎えたのは天井に吊るされた大きなシャンデリアだった。
貴族街の他の家よりも大きな屋敷だからお手伝いさんとか沢山いるのかと思っていた。
シンと静まり返っていて、クラウスの両親もいなさそうだ。
仕事でいないのかな、クラウスの両親…そういえばゲームでも出てきていなかった。
クラウスに似て優しくて美人なんだろうなと想像出来る。
でも、勝手に雇用契約のような事をして怒られないか心配だ。
最高位とはいえクラウスはまだ子供だ、俺が可哀想でああ言ってくれたのにクラウスが怒られるのは嫌だ。
「あの、ご両親は…」
「いない」
「仕事とか…」
「元々いない、ここに一人で住んでる」
いない…俺と同じなのかもしれない…これ以上深く聞くのを止めた。
仕事内容って何だろう、お手伝いさんかな…掃除や料理は普段からしているから得意だ。
でも、暇つぶしって言っていたな…掃除や料理は暇つぶしなのかな。
クラウスの部屋に入り、何もかもが新しい景色で緊張する。
他人の家にお邪魔するのは初めてだ、クラウスに「適当に座ってて」と言われた。
ふかふかの絨毯の上に正座して、なるべく小さくなった。
クラウスは「ソファーでいい」と言ってくれたが、恐れ多い。
俺は床で充分だと動かなかったらクラウスが諦めてくれた。
クラウスは一人で部屋を出ていき、俺は部屋の中に取り残された。
何を見ていたらいいのか分からず、とりあえず周りをキョロキョロ見ていた。
少ししてクラウスが帰ってきて、手には飲み物が入ったグラスコップが乗ったトレイがあった。
テーブルにトレイを置いて、俺の方を振り返って手招きした。
「コレも仕事だ、こっちにおいで」
「はい」
仕事だと言われたら断るわけにはいかず、クラウスの言われた通りソファーに座る。
飲み物のコップを渡されて、二人で静かに飲んでいた。
俺の仕事っていったい何なんだろう、家に招かれてソファーに座って美味しい飲み物を飲む。
こんな楽な仕事があっていいのかと申し訳ない気持ちになる。
目の前のソファーに座るクラウスを見ると、俺の方をジッと見つめていた。
クラウスが人を陥れるはずはない、でもそれだったらなんで俺を家に呼んだんだろう。
緊張で飲み続けていて、いつの間にかコップの中身が空になっていた。
クラウスも何も要求しなくて、時間だけが過ぎていく。
「俺の仕事ってなんですか?」
「言っただろ、暇つぶしって…俺と遊んでくれる?」
「遊ぶ…?」
「うん、何して遊ぼうか」
そう言われて、つい「サッカー」と答える自分がいた。
二人でサッカーとかルールとかは分からない、俺の記憶にやっているシーンはなかったから。
病弱な前世の頃、走り回るのが夢だった…病院の庭で友達同士が楽しそうにサッカーしているのが羨ましかった。
俺もあんな風に友達と一緒に遊びたい、健康な身体を手に入れた今なら…
この世界にはサッカーというものはなくて、ボールを奪ってゴールに向かって蹴る遊びだと教えた。
二人だし、難しいルールは考えず足だけ使えばそれでいい。
クラウスは手頃なボールが見つからないみたいで、ゴム製の物を溶かして丸めてボールにしていた。
ないなら作ればいい、かなりの完成度のボールを見て驚いた。
クラウスの家の広い庭で走り回ってゴールに見立てた紐に向かってシュートを決めた。
お互い同じぐらいゴールを決めて、日が沈むまでそれが続いた。
こんなに顔が痛くなるほど笑ったのはどのくらいぶりだっただろうか。
クラウスも隣で楽しそうに笑っていて、楽しんでくれた事が嬉しかった。
そしてその日俺の日給だとクラウスがお金を渡してきた。
俺は仕事で来たけど、友達と遊んだだけだと思っているから受け取らなかった。
クラウスは少し考えてから「じゃあ報酬は食事なら受け取ってくれるか?」と言って俺に手を差し伸ばした。
俺は食べるために働いている、直接お金を貰うよりもそっちがいいと思い「お邪魔でなければ」とクラウスの手をしっかりと握った。
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