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結衣の初仕事
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春の午後。
若葉メンタルセンターの相談室。
窓の外では若い患者たちが庭のベンチに座っている。
臨床心理士になったばかりの小林結衣は、机の前でカルテを見ていた。
少し緊張している。
今日は――
初めて一人で担当する相談。
ドアがノックされる。
看護師が顔を出す。
「結衣先生、相談の子です」
結衣は深呼吸する。
「どうぞ」
入ってきたのは少年だった。
十五歳。
高校一年生。
制服のまま。
椅子に座るが、目を合わせない。
結衣が優しく言う。
「こんにちは」
少年が小さく言う。
「…こんにちは」
カルテを見る。
名前は――
田村翔太
最近学校に行けなくなった。
理由は。
いじめ。
結衣は急がない。
沈黙を待つ。
それは昔、藤川優斗がしてくれたことだった。
数十秒の沈黙。
翔太がぽつりと言う。
「学校…行きたくない」
結衣はうなずく。
「そうなんだ」
翔太が言う。
「クラスで」
少し沈黙。
「バカにされる」
結衣は静かに聞く。
「どんなふうに?」
翔太は机を見たまま言う。
「キモいって」
「暗いって」
典型的ないじめだった。
言葉の暴力。
翔太が言う。
「先生に言っても」
少し沈黙。
「変わらない」
結衣はうなずく。
それもよくある現実だった。
翔太が小さく言う。
「俺」
少し沈黙。
「弱いのかな」
その言葉を聞いた瞬間。
結衣は十年前の自分を思い出した。
結衣が静かに言う。
「一つ聞いていい?」
翔太がうなずく。
結衣は袖を少し上げる。
手首。
薄い古い傷。
翔太が驚いて見る。
結衣が言う。
「昔、私も学校行けなかった」
翔太が小さく聞く。
「先生が?」
結衣がうなずく。
「いじめもあった」
「人が怖くなった」
翔太の目が少し変わる。
結衣は続ける。
「でも」
少し沈黙。
「今ここで働いてる」
翔太は少し驚いた顔をする。
結衣が言う。
「弱いから苦しいんじゃない」
「環境がつらいだけ」
翔太の肩が少し下がる。
結衣が言う。
「一緒に考えよう」
翔太が少しだけうなずく。
相談が終わる。
翔太がドアの前で振り返る。
「先生」
結衣が見る。
翔太が言う。
「また来てもいいですか」
結衣が笑う。
「もちろん」
翔太が帰る。
静かな相談室。
結衣は窓の外を見る。
庭には若い患者たち。
話している。
笑っている。
十年前。
結衣はそこに座っていた。
孤独だった。
傷だらけだった。
今は違う。
結衣は小さくつぶやく。
「大丈夫」
その言葉は。
翔太に向けた言葉でもあり。
昔の自分に向けた言葉でもあった。
若葉メンタルセンター。
ここでは今日も。
傷を知る人が、誰かの心を支えている。
若葉メンタルセンターの相談室。
窓の外では若い患者たちが庭のベンチに座っている。
臨床心理士になったばかりの小林結衣は、机の前でカルテを見ていた。
少し緊張している。
今日は――
初めて一人で担当する相談。
ドアがノックされる。
看護師が顔を出す。
「結衣先生、相談の子です」
結衣は深呼吸する。
「どうぞ」
入ってきたのは少年だった。
十五歳。
高校一年生。
制服のまま。
椅子に座るが、目を合わせない。
結衣が優しく言う。
「こんにちは」
少年が小さく言う。
「…こんにちは」
カルテを見る。
名前は――
田村翔太
最近学校に行けなくなった。
理由は。
いじめ。
結衣は急がない。
沈黙を待つ。
それは昔、藤川優斗がしてくれたことだった。
数十秒の沈黙。
翔太がぽつりと言う。
「学校…行きたくない」
結衣はうなずく。
「そうなんだ」
翔太が言う。
「クラスで」
少し沈黙。
「バカにされる」
結衣は静かに聞く。
「どんなふうに?」
翔太は机を見たまま言う。
「キモいって」
「暗いって」
典型的ないじめだった。
言葉の暴力。
翔太が言う。
「先生に言っても」
少し沈黙。
「変わらない」
結衣はうなずく。
それもよくある現実だった。
翔太が小さく言う。
「俺」
少し沈黙。
「弱いのかな」
その言葉を聞いた瞬間。
結衣は十年前の自分を思い出した。
結衣が静かに言う。
「一つ聞いていい?」
翔太がうなずく。
結衣は袖を少し上げる。
手首。
薄い古い傷。
翔太が驚いて見る。
結衣が言う。
「昔、私も学校行けなかった」
翔太が小さく聞く。
「先生が?」
結衣がうなずく。
「いじめもあった」
「人が怖くなった」
翔太の目が少し変わる。
結衣は続ける。
「でも」
少し沈黙。
「今ここで働いてる」
翔太は少し驚いた顔をする。
結衣が言う。
「弱いから苦しいんじゃない」
「環境がつらいだけ」
翔太の肩が少し下がる。
結衣が言う。
「一緒に考えよう」
翔太が少しだけうなずく。
相談が終わる。
翔太がドアの前で振り返る。
「先生」
結衣が見る。
翔太が言う。
「また来てもいいですか」
結衣が笑う。
「もちろん」
翔太が帰る。
静かな相談室。
結衣は窓の外を見る。
庭には若い患者たち。
話している。
笑っている。
十年前。
結衣はそこに座っていた。
孤独だった。
傷だらけだった。
今は違う。
結衣は小さくつぶやく。
「大丈夫」
その言葉は。
翔太に向けた言葉でもあり。
昔の自分に向けた言葉でもあった。
若葉メンタルセンター。
ここでは今日も。
傷を知る人が、誰かの心を支えている。
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