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初めてのケンカ
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――新田里奈と藤川優斗――
それは、本当に小さなすれ違いから始まった。
きっかけは、優斗が約束を忘れたことだった。
土曜日の午後。
里奈は駅前で三十分も待っていた。
スマホを何度見ても、メッセージは既読にならない。
電話もつながらない。
(部活かな……?)
そう思おうとしたけれど、胸の奥がじわじわ冷えていく。
結局、優斗が現れたのは一時間後だった。
「ごめん」
それだけ。
息を切らせている様子もなく、少し申し訳なさそうな顔。
里奈の中で、何かがぷつんと切れた。
「……それだけ?」
自分でも驚くほど、声が冷たかった。
優斗は戸惑ったように眉をひそめる。
「部活長引いてて。スマホもロッカーに――」
「連絡くらいできたでしょ」
言葉が止まらない。
「私、ずっと待ってたんだよ」
優斗は黙った。
その沈黙が、里奈には突き放されたように感じられた。
「もういい」
そう言って、里奈は背を向けた。
後ろから呼び止める声はなかった。
その夜。
布団に入っても眠れず、天井を見つめながら、里奈は何度も同じ場面を思い返していた。
(言い過ぎたかな)
(でも……待たされたのは事実だし)
強気でいたはずなのに、目の奥が熱くなる。
優斗からの連絡は来なかった。
翌日も、学校ですれ違っただけで、言葉を交わさなかった。
クラスメイトの笑い声がやけに遠く感じる。
昼休み、里奈は屋上の隅で一人、おにぎりをかじった。
恋人同士なのに、こんなに距離がある。
それが初めてで、どうしていいか分からなかった。
放課後。
帰ろうとした里奈の前に、優斗が立っていた。
少し緊張した顔。
「……話、できる?」
二人は校舎裏のベンチに座った。
沈黙のあと、優斗が口を開く。
「昨日は、本当にごめん。忘れてたわけじゃなくて……でも、結果的に里奈を待たせた」
里奈は俯いたまま、小さくうなずく。
「私も……怒りすぎた」
声が震えた。
「優斗が悪いって決めつけちゃった」
優斗はしばらく黙ってから、ぽつりと言った。
「俺、こういうとき、うまく説明できないんだ」
それは初めて聞く本音だった。
里奈は顔を上げた。
優斗の目は真剣で、少し不安そうだった。
「でもさ」
彼は続ける。
「里奈が嫌な思いしたのは事実だし。ちゃんと謝りたい」
そう言って、頭を下げた。
その仕草が不器用で、里奈の胸がきゅっと締めつけられる。
「……もういいよ」
里奈は小さく笑った。
「私も、ちゃんと言えばよかった」
しばらくして、自然に手が触れた。
そして、どちらからともなく指を絡める。
温度が伝わってきて、安心が広がった。
帰り道、里奈は思った。
恋って、楽しいだけじゃない。
不安も、すれ違いもある。
でも、ちゃんと向き合えば、少しずつ深くなる。
初めてのケンカは、二人にそれを教えてくれた。
夕焼けの中、並んで歩く影が、昨日より少し近くなっていた。
それは、本当に小さなすれ違いから始まった。
きっかけは、優斗が約束を忘れたことだった。
土曜日の午後。
里奈は駅前で三十分も待っていた。
スマホを何度見ても、メッセージは既読にならない。
電話もつながらない。
(部活かな……?)
そう思おうとしたけれど、胸の奥がじわじわ冷えていく。
結局、優斗が現れたのは一時間後だった。
「ごめん」
それだけ。
息を切らせている様子もなく、少し申し訳なさそうな顔。
里奈の中で、何かがぷつんと切れた。
「……それだけ?」
自分でも驚くほど、声が冷たかった。
優斗は戸惑ったように眉をひそめる。
「部活長引いてて。スマホもロッカーに――」
「連絡くらいできたでしょ」
言葉が止まらない。
「私、ずっと待ってたんだよ」
優斗は黙った。
その沈黙が、里奈には突き放されたように感じられた。
「もういい」
そう言って、里奈は背を向けた。
後ろから呼び止める声はなかった。
その夜。
布団に入っても眠れず、天井を見つめながら、里奈は何度も同じ場面を思い返していた。
(言い過ぎたかな)
(でも……待たされたのは事実だし)
強気でいたはずなのに、目の奥が熱くなる。
優斗からの連絡は来なかった。
翌日も、学校ですれ違っただけで、言葉を交わさなかった。
クラスメイトの笑い声がやけに遠く感じる。
昼休み、里奈は屋上の隅で一人、おにぎりをかじった。
恋人同士なのに、こんなに距離がある。
それが初めてで、どうしていいか分からなかった。
放課後。
帰ろうとした里奈の前に、優斗が立っていた。
少し緊張した顔。
「……話、できる?」
二人は校舎裏のベンチに座った。
沈黙のあと、優斗が口を開く。
「昨日は、本当にごめん。忘れてたわけじゃなくて……でも、結果的に里奈を待たせた」
里奈は俯いたまま、小さくうなずく。
「私も……怒りすぎた」
声が震えた。
「優斗が悪いって決めつけちゃった」
優斗はしばらく黙ってから、ぽつりと言った。
「俺、こういうとき、うまく説明できないんだ」
それは初めて聞く本音だった。
里奈は顔を上げた。
優斗の目は真剣で、少し不安そうだった。
「でもさ」
彼は続ける。
「里奈が嫌な思いしたのは事実だし。ちゃんと謝りたい」
そう言って、頭を下げた。
その仕草が不器用で、里奈の胸がきゅっと締めつけられる。
「……もういいよ」
里奈は小さく笑った。
「私も、ちゃんと言えばよかった」
しばらくして、自然に手が触れた。
そして、どちらからともなく指を絡める。
温度が伝わってきて、安心が広がった。
帰り道、里奈は思った。
恋って、楽しいだけじゃない。
不安も、すれ違いもある。
でも、ちゃんと向き合えば、少しずつ深くなる。
初めてのケンカは、二人にそれを教えてくれた。
夕焼けの中、並んで歩く影が、昨日より少し近くなっていた。
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