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帰りの電車で眠ってしまう里奈
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――江の島の帰り道――
夕方の電車は、思ったより空いていた。
海の匂いがまだ服に残っている気がする。
座席に並んで座ると、今日一日の疲れがじわっと身体に広がった。
「結構歩いたな」
優斗が窓の外を見ながら言う。
「うん……足、ちょっと痛い」
そう答えた里奈の声は、もう半分眠そうだった。
電車がゆっくり動き出す。
窓の向こうで、夕焼けが街をオレンジ色に染めていく。
里奈は今日のことを思い返していた。
展望台の景色。
ソフトクリーム。
優斗の、少し照れた横顔。
(楽しかったな……)
そう思った瞬間、まぶたが重くなる。
こくり、と頭が揺れた。
優斗は気づいて、そっと横を見る。
「……眠い?」
「ちょっとだけ……」
そう言いながら、里奈はふわりと優斗の肩にもたれた。
一瞬、優斗の身体が固まる。
心臓がやけにうるさい。
車内アナウンスも、レールの音も、遠くなる。
里奈の髪が、頬に触れる。
規則正しい寝息。
完全に眠っていた。
優斗は動けなくなる。
(重いとかじゃない)
むしろ、軽い。
でも、この距離が近すぎて、どうしていいか分からない。
しばらく迷ってから、優斗はゆっくりと姿勢を整えた。
里奈が起きないよう、ほんの少しだけ肩を支える。
窓に映る二人の影。
なんだか、本当に恋人みたいだと思った。
電車がトンネルに入る。
暗い窓ガラスに映る自分の顔は、少しだけ大人びて見えた。
優斗は、眠っている里奈を見つめる。
今日一日、よく笑っていた。
はしゃいで、真剣な顔もして、
そして今は、無防備に眠っている。
(俺、守れてんのかな)
ふとそんなことを考える。
まだ高校生。
できることなんて限られている。
でも――
里奈が安心して眠れるなら、
それだけで少しは胸を張っていいのかもしれない。
優斗は小さく息を吐いた。
「……好きだな」
声には出さないつもりだったのに、かすかに漏れる。
その瞬間。
「ん……」
里奈が微かに動いた。
優斗は凍りつく。
けれど里奈は目を開けず、ただ優斗の服をきゅっと掴んだ。
「ゆうと……」
寝言だった。
優斗の顔が一気に赤くなる。
電車は次の駅へ滑り込む。
アナウンスが響く。
里奈はゆっくりと目を開けた。
「……あれ?」
状況を理解して、ぱっと離れようとする。
「ご、ごめん!寝ちゃってた?」
「うん。少し」
「重かったよね?」
優斗は首を横に振る。
「全然」
そして、少しだけ照れながら言う。
「むしろ……うれしかった」
里奈の頬が、夕焼けより赤くなる。
二人は顔を見合わせて、静かに笑った。
駅に着くころには、夜の匂いが混じっていた。
改札前で立ち止まる。
「今日はありがと」
里奈が言う。
「うん。また行こう」
ほんの一瞬、視線が絡む。
言葉にしなくても、伝わるものがある。
眠ってしまった帰り道は、
二人にとって、今日一番やさしい時間だった。
夕方の電車は、思ったより空いていた。
海の匂いがまだ服に残っている気がする。
座席に並んで座ると、今日一日の疲れがじわっと身体に広がった。
「結構歩いたな」
優斗が窓の外を見ながら言う。
「うん……足、ちょっと痛い」
そう答えた里奈の声は、もう半分眠そうだった。
電車がゆっくり動き出す。
窓の向こうで、夕焼けが街をオレンジ色に染めていく。
里奈は今日のことを思い返していた。
展望台の景色。
ソフトクリーム。
優斗の、少し照れた横顔。
(楽しかったな……)
そう思った瞬間、まぶたが重くなる。
こくり、と頭が揺れた。
優斗は気づいて、そっと横を見る。
「……眠い?」
「ちょっとだけ……」
そう言いながら、里奈はふわりと優斗の肩にもたれた。
一瞬、優斗の身体が固まる。
心臓がやけにうるさい。
車内アナウンスも、レールの音も、遠くなる。
里奈の髪が、頬に触れる。
規則正しい寝息。
完全に眠っていた。
優斗は動けなくなる。
(重いとかじゃない)
むしろ、軽い。
でも、この距離が近すぎて、どうしていいか分からない。
しばらく迷ってから、優斗はゆっくりと姿勢を整えた。
里奈が起きないよう、ほんの少しだけ肩を支える。
窓に映る二人の影。
なんだか、本当に恋人みたいだと思った。
電車がトンネルに入る。
暗い窓ガラスに映る自分の顔は、少しだけ大人びて見えた。
優斗は、眠っている里奈を見つめる。
今日一日、よく笑っていた。
はしゃいで、真剣な顔もして、
そして今は、無防備に眠っている。
(俺、守れてんのかな)
ふとそんなことを考える。
まだ高校生。
できることなんて限られている。
でも――
里奈が安心して眠れるなら、
それだけで少しは胸を張っていいのかもしれない。
優斗は小さく息を吐いた。
「……好きだな」
声には出さないつもりだったのに、かすかに漏れる。
その瞬間。
「ん……」
里奈が微かに動いた。
優斗は凍りつく。
けれど里奈は目を開けず、ただ優斗の服をきゅっと掴んだ。
「ゆうと……」
寝言だった。
優斗の顔が一気に赤くなる。
電車は次の駅へ滑り込む。
アナウンスが響く。
里奈はゆっくりと目を開けた。
「……あれ?」
状況を理解して、ぱっと離れようとする。
「ご、ごめん!寝ちゃってた?」
「うん。少し」
「重かったよね?」
優斗は首を横に振る。
「全然」
そして、少しだけ照れながら言う。
「むしろ……うれしかった」
里奈の頬が、夕焼けより赤くなる。
二人は顔を見合わせて、静かに笑った。
駅に着くころには、夜の匂いが混じっていた。
改札前で立ち止まる。
「今日はありがと」
里奈が言う。
「うん。また行こう」
ほんの一瞬、視線が絡む。
言葉にしなくても、伝わるものがある。
眠ってしまった帰り道は、
二人にとって、今日一番やさしい時間だった。
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