『夜明けのミッドナイト』

真田直樹

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第一部 出会い

第7章 夜のセッション

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第7章 夜のセッション

夜の喫茶ミッドナイトは、昼とはまるで違う顔をしていた。

窓の外には街灯の光。
通りを歩く人の数も少なくなり、街はゆっくりと静かになっていく。

店の中には、柔らかなジャズが流れていた。

藤川優斗はまだカウンターに座っていた。

本当はとっくに帰る時間だった。

それでも、なぜか帰る気になれなかった。

この店の空気が、どこか落ち着くからだった。

新田里奈は、椅子をぐるぐる回している。

「暇だー!」

内田桂一がすぐに言う。

「落ち着け」

「店が壊れる」

「壊れないよ!」

紀子はピアノの椅子に座って、静かに鍵盤を触っていた。

夜の静けさの中で、小さな音が響く。

そのとき、小林勝巳が言った。

「紀子」

紀子が振り向く。

「はい?」

勝巳はカウンターの奥からサックスを取り出した。

「セッションするか」

里奈が目を輝かせる。

「おお!」

「夜のセッション!」

桂一は少し呆れた顔をした。

「また急だな」

勝巳は優斗を見る。

「藤川」

優斗は驚く。

「はい?」

「初めてだろ」

「ジャズのセッション」

優斗はうなずいた。

「はい」

勝巳は椅子に座る。

「じゃあ、よく見ておけ」

紀子がピアノに向き直る。

店の照明は少し暗い。

夜のミッドナイトは、まるで小さなライブハウスのようだった。

勝巳がゆっくり言う。

「曲は決めない」

優斗は驚く。

「え?」

桂一が説明する。

「ジャズの即興だ」

里奈が笑う。

「ノリ!」

紀子が軽く鍵盤を叩いた。

最初の音。

静かな和音。

それを合図に、勝巳のサックスが入る。

音が重なる。

だが不思議だった。

決めていないのに、
二人の音はぴったり合っていた。

会話みたいだった。

ピアノが問いかける。

サックスが答える。

またピアノが変化する。

サックスが笑うように応える。

優斗は息をするのも忘れていた。

(すごい…)

楽譜もない。

練習もしていない。

それでも音楽になっている。

いや――

それ以上だった。

生きている音だった。

里奈が体を揺らす。

「いいねえ!」

桂一も静かにリズムを取っていた。

やがて演奏が盛り上がる。

ピアノが速くなる。

サックスが高く伸びる。

そして――

最後の音。

静かに消えた。

店の中は、しばらく静かだった。

最初に拍手したのは里奈だった。

「最高!!」

桂一も拍手する。

「さすがだな」

優斗も思わず拍手した。

紀子は少し照れている。

「即興だから…」

勝巳は笑った。

「それがジャズだ」

優斗は言った。

「すごいですね」

勝巳は言う。

「音楽はな」

「会話なんだ」

優斗は考えた。

「会話?」

勝巳はうなずく。

「言葉がなくても通じる」

「それが音楽だ」

優斗はピアノとサックスを見る。

確かにそうだった。

二人は話していた。

音で。

そのとき、里奈が突然言った。

「優斗もやろう!」

優斗は驚いた。

「え?」

桂一が呆れる。

「無理だ」

里奈は笑う。

「でも面白そう!」

勝巳が言った。

「そのうちな」

優斗を見る。

「藤川」

「この店に来たら」

「いつかセッションすることになる」

優斗は笑った。

「そんなことあります?」

勝巳は静かに言う。

「ある」

里奈が元気よく言った。

「ミッドナイトのルール!」

桂一がため息をつく。

「そんなルールはない」

優斗は思った。

この店は不思議だ。

初めて来たのに、

もう何年も前からここにいるような気がする。

そして――

この夜のセッションが、

七人の物語の

最初の音になることを。

まだ誰も知らなかった。

夜の喫茶ミッドナイト。

サックスとピアノの余韻が、

静かに空気の中に残っていた。
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