『夜明けのミッドナイト』

真田直樹

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第一部 出会い

第14章 それでも音楽

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第14章 それでも音楽

夕方の喫茶ミッドナイト。

文化祭が終わった帰り道、
七人は自然とこの店に集まっていた。

店の中は静かだった。

窓の外では、夕焼けがゆっくりと街を染めている。

藤川優斗はカウンター席に座り、
何も言わずコーヒーを見つめていた。

新田里奈も珍しく元気がない。

「……悔しいな」

ぽつりと言った。

尾上紀子はピアノの前に座っているが、
鍵盤には触れていない。

内田桂一は腕を組み、静かに考え込んでいる。

富田さゆりは窓の外を見ていた。

丹羽雅人だけが、椅子に座って静かにコーヒーを飲んでいる。

カウンターの奥では小林勝巳がグラスを磨いていた。

しばらく沈黙が続く。

やがて里奈が言った。

「マスター」

勝巳は顔を上げない。

「なんだ」

「今日ね」

里奈は少し笑う。

「ライブやったんだ」

勝巳はうなずく。

「聞いた」

優斗が驚く。

「どうして?」

勝巳は言った。

「さゆりが電話してきた」

さゆりは少し恥ずかしそうに笑った。

「つい」

里奈が続ける。

「でも」

「客ほとんどいなかった」

店が静かになる。

勝巳は何も言わない。

里奈が言う。

「昨日はそこそこいたのに」

「今日は全然」

紀子が小さく言った。

「少しショックだった」

優斗も正直に言う。

「僕もです」

そのとき桂一が言った。

「データとしては普通だ」

里奈が言う。

「今それ言う?」

雅人は静かに言った。

「まあ現実だ」

優斗はカップを見ながら言った。

「もしかして」

「向いてないのかな」

その言葉が店に落ちた。

そのときだった。

勝巳が手を止めた。

そして言った。

「藤川」

優斗は顔を上げる。

「はい」

勝巳は静かに言った。

「音楽はな」

少し間を置く。

「ほとんどの人に届かない」

皆が黙った。

勝巳は続ける。

「十人に一人」

「いや」

「百人に一人でも届けばいい」

里奈が言う。

「そんなもんなの?」

勝巳はうなずく。

「そういうものだ」

そして優斗を見る。

「でもな」

優斗は黙って聞く。

勝巳は言った。

「それでも音楽をやる奴がいる」

店の空気が変わる。

勝巳は続けた。

「拍手がなくても」

「客がいなくても」

「それでもやる」

優斗は聞いた。

「どうしてですか?」

勝巳は少し笑った。

「好きだからだ」

その言葉は、とても単純だった。

でも、強かった。

勝巳はサックスを手に取る。

「音楽ってのはな」

「成功のためにやるもんじゃない」

優斗は聞いた。

「じゃあ何のためですか」

勝巳はサックスを構える。

そして言った。

「生きるためだ」

次の瞬間。

サックスの音が店に響いた。

静かで、深い音。

紀子がゆっくりピアノの前に座る。

そして鍵盤を弾いた。

ピアノとサックス。

二つの音が重なる。

言葉はいらなかった。

その音だけで、すべて伝わってきた。

曲が終わる。

店の中は静かだった。

里奈が小さく言った。

「……やっぱり好き」

紀子も笑った。

「うん」

優斗は思った。

客が少なくても。

失敗しても。

それでも――

音楽はやめたくない。

勝巳はコーヒーを飲む。

そして言った。

「若いときはな」

「失敗するくらいでちょうどいい」

優斗は笑った。

この日。

文化祭ライブの失敗。

それは終わりではなかった。

むしろ――

七人の音楽が

本当に始まった日だった。

夕暮れのミッドナイト。

サックスとピアノの音が

静かに夜へ溶けていった。
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