四人の令嬢と公爵と

オゾン層

文字の大きさ
100 / 101
結末(残酷描写有り&胸糞注意)

黒い箱庭(グロ表現多め)

しおりを挟む



 __青い空。白い雲。囀る鳥。



 それは格子の向こう側に映る、届きそうで届かないもの。

 生きてきた中で一番ほしいものだった。















 __ベルフェナールの辺境。草木生えず岩に囲まれた山岳地帯。

 そこでは獰猛な生物達がこぞって生存競争を繰り広げており、一般人は無断での立入が禁じられている危険区域でもあった。



 しかし、その山岳の頂に聳える、石と鋼でできた黒の要塞には、獣達が近寄ることは一切無い。

 彼らはその要塞がこの区域で最も危険であることを本能的に理解していたからだ。





 刑務要塞『パンドラ』



 罪人はこの要塞に送られ、刑期を過ぎるまで生活しなければならない。

 軽い罪なら労働のみで、要塞の掃除や食事の準備など、その程度で済ませられる。

 しかし、大罪人の場合は禁錮で、要塞の中でもまた別に区分けされた場所へと送られる。
 そこは別名「奈落」とも呼ばれ、一度入ったら生きて出て来れる者はいないとされていた。
 そこでは毎日寝る暇も無く耐え難い責め苦を与えられ、一切の希望も奪われ、最期は吐き捨てらるようにその一生を終えるという。

 それほどに恐ろしいのだが、この要塞があるおかげで国の犯罪率は極めて低い。
 自ら大罪を犯す馬鹿などおらず、奈落に送られるものも少数であった。





 そのうちの一人である、男爵令嬢アレッサ・クラシウス。

 が、今は爵位も何も無いの人間、アレッサ。

 彼女は今、暗く狭い牢屋の中、冷たい石の床に裸で蹲り、息を殺していた。



 奈落には牢獄なんてものはない。

 同じ獄中に罪人を詰め込むだけの箱のような空間だ。

 しかし、彼女が閉じ込められている牢獄は、奈落の中でも特注で作られた鉄格子の牢屋であった。



 アレッサはその中に、身ぐるみを剥がされた状態で放置されている。

 肌寒さを通り越して凍てつく温度に身を震わせながらも、アレッサは静かに時が経つのを待っていた。



 鉄格子の向こう、獄中では、自分と同じように裸にされた罪人達が悲鳴をあげている。

 仄暗い獄中でから逃げ惑い、転んだものは絶叫した後大量の血を噴き出して静かになる。それの繰り返しだ。

 アレッサはその光景を嫌でも目に焼き付け、恐怖で蹲ったまま硬直していた。



 石も鋼も黒く塗り潰された要塞には、一切の光が届かない。届くのは換気用に備え付けられたであろう格子付きの窓だけだ。

 アレッサはその窓から広がる青い空を見上げる。

 窓は、男でも手が届かないだろうかなり高い位置に建て付けられており、格子も頑丈で逃げられそうにない。

 何度か脱走を試みていたアレッサは既に諦めていた。



 ただ、この時が去れば、運が良ければ自分は見過ごされると、そう信じて。

 ずっと静かにしていた。





「ごめーん、待たせちゃった?」



 しかし、沈黙は破られる。





 鉄格子の鍵を開け、中に誰かが入ってくる。

 その足音が迫ってきた時、アレッサの恐怖は頂点に達した。



 光を吸い込むほどに黒い甲冑。所々に血がついたそれは、艶かしく輝いていた。

 兜からではその顔は見えもしないが、恐らく無邪気に笑っているのだろう。


「みんな逃げるの上手くてさー全然捕まんないの!まぁ、もう終わったけど」


 甲冑は、蹲っていたアレッサの髪を乱暴に掴み上げ、顔が見えるようにする。

 アレッサは、異様なまでに顔を引き攣らせており、それを見た甲冑はケラケラと笑った。


「面白い顔!」


 そう言って、鋼の小手をアレッサの顔目掛けて振り下ろした。





 あの日、あの婚礼でディトに連れられ、抵抗する間も無くこの牢屋に閉じ込められたアレッサは、こうして毎日やって来るディトのとして嬲られ続けていた。

 前は目玉を抉られ、その前は肉を削ぎ落とされ、その前の前は喉を焼かれた。

 しかしその傷全てを、アレッサが死ぬ直前でディトはのだ。
 ディトの治癒魔法は絶大で、傷痕すら残さず完治させるのはおろか、精神状態すら正気にまで戻してしまう。

 だからどれだけ死にかけても、心身共に健全な状態まで戻され、また拷問にかけられるのだ。

 もうかれこれ10年以上は続けているだろう。
 仮定的なのは、アレッサも何年経ったか覚えていないからである。

 ただ、何年経っても自身が老いる気配がないのは、アレッサにとって些か謎であった。

 10年経てば人の姿はだいぶ変わる。なのに、アレッサの肌は、髪は、何一つ変わらずみずみずしいままなのだ。



 今もこうして、柔肌を青くなるまで殴られ、髪を頭皮から血が出る勢いで引きちぎられるにも関わらず、治されたら元の若い自分に戻るのだ。


(なんで?シワの一つもできやしないの?)


 そんな考えを巡らせていたら察したのか、小手についた血を拭うディトが口を開いた。


「なんで歳取らないのって思ってる?今更そんなこと考えるんだね」

「は?」


 呆気に取られたアレッサを横目に、ディトは使用済みのに付着した血を丁寧に拭いながら続けた。


「忘れたの?兄さんがあの時言ってたじゃん。『彼女達の分苦しめ』って。それってさ、つまりの分まで苦しめってことでしょ?どう解釈すればいいかわからないけど、ラゼ兄さんのことだからみんなの寿命分生かされるんじゃない?だから歳なんか取れるわけないよ」


 笑顔で説明してくれたディトに、アレッサは血の気が引いていた。


「どういうこと?なんでそれがそんな話に……」

「だって、兄さんしたじゃん。君に。兄さんの言うことは絶対なんだよ?何したってその命令が破れることなんてないんだからさ」

「は……」


 ディトの言葉に、元々気持ちの悪かったアレッサの表情が益々酷くなる。

 アレッサはこの時初めて理解したのだ。



 ラゼイヤが己に何をしたのかを。



「でもなぁ、みんな婚礼の儀は成功してるから、兄さん達の約寿命と半々で考えると……3桁分は生きられるんじゃない?よかったじゃん!長生きできるよ!」


 ディトは邪な考えなどなく純粋に喜んでいるようだが、アレッサはそれどころではなかった。


「さんけた?は?3って、なにそれ、それじゃああたしそれまでずっと」

「死ねないよ。殺さないし」


 ディトはそう言って手に持っていた火かき棒をアレッサの顎目掛けて振り抜ける。





 ぱきょっ、と軽い音を立てて、アレッサの下顎が顔から離れ、床に落ちた。





 断末魔を上げながら床上をのたうち回るアレッサの腹に、ディトは軽い蹴りを入れる。それだけで彼女の体は飛び上がり、石の壁に叩きつけられた。

 じんじんと痛む体を起き上がらせることなどできず、ディトによって無理矢理立ち上がらせられる。

 息も絶え絶えなアレッサの目に映ったのは、冷たく輝く兜であった。

 その奥の視線と、目が合う。



「君は今までたくさん悪いことをしてきたんでしょ?じゃあしょうがないよ。ちゃんと罪は償わなくちゃ。それまでの辛抱だって!」



 他人事のような励ましを無垢な眼差しで言われたアレッサは、気を失いたかったができなかった。

 因果応報とは言うが、それ以上のものが彼女に降りかかっているのは一目瞭然であった。

 それをしょうがないで片付けてしまう、ディトの無邪気さが十分な恐怖材料となっていた。


「そろそろ交代かな?」


 ディトはその言葉だけ残して、顎を砕かれたアレッサを壁際に投げ捨て牢屋から立ち去った。

 牢屋の鉄格子は開いた状態である。今なら逃げられると思うのだが、アレッサはそうしなかった。

 知っているのだ。

 次に誰が来るのかを。



「僕次あっちの方片付けてくるから、そっちお願いねー!手加減しちゃダメだよー」


 ディトの言葉と共に、音も無く鉄格子が閉じる。

 アレッサが顔を上げると、そこには一人の女性が佇んでいた。



 雪のように白い肌で、宝石よりも輝く銀の長髪を後ろで纏めたその女性は、世界が傾いてもおかしくないほどの尊顔を持った美女であった。

 天使と見間違えてしまいそうなくらいに神々しいその女性は、真っ赤なドレスを身に纏っている。



 それはアレッサが婚礼で着てきたあの純白のドレスであった。



旦那様ディトの命ですので、御容赦はおかけしません。ご了承下さいませ」


 鈴のような声でお淑やかに話す彼女の手には、血で元の色合いがわからなくなった大きな鋸が抱えられている。

 微笑む彼女は花すら恥じらうほどの美しさだというのに、それを打ち消すほどの殺気が牢屋内に立ち込めていた。

 恐怖で震えるアレッサには、逃げ場など無い。
 助けてくれる者もいない。
 発狂することさえ許されない。

 祈りでさえ、届くことはないだろう。



 しかし、迫り来る殺意を前に、アレッサはただ祈ることしかできなかった。





 ごめんなさい


 ごめんなさい



 ごめんなさい








































ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ






























 ぐしゃりと、頭が潰れた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】ポチャッ娘令嬢の恋愛事情

かのん
恋愛
 侯爵家令嬢のアマリー・レイスタンは舞踏会の隅っこで静かに婚約破棄をされた。  誰も見ていないし、誰も興味なさそうではあったが、アマリーはやはりショックで涙を流す。  これは、ポチャッ娘令嬢のアマリーが、ありのままの自分を愛してくれる人を見つけるまでの物語。

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

帝国の花嫁は夢を見る 〜政略結婚ですが、絶対におしどり夫婦になってみせます〜

長月京子
恋愛
辺境の小国サイオンの王女スーは、ある日父親から「おまえは明日、帝国に嫁入りをする」と告げられる。 幼い頃から帝国クラウディアとの政略結婚には覚悟を決めていたが、「明日!?」という、あまりにも突然の知らせだった。 ろくな支度もできずに帝国へ旅立ったスーだったが、お相手である帝国の皇太子ルカに一目惚れしてしまう。 絶対におしどり夫婦になって見せると意気込むスーとは裏腹に、皇太子であるルカには何か思惑があるようで……?

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

牢獄王女の恋

小ろく
恋愛
王女コーデリアは自分の身分も知らず牢獄で生まれ育つ。 天使と同じ名を持つ侯爵ガブリエルに救われ彼の屋敷で暮らすことになり、外の世界を知らないコーデリアをガブリエルが教育をし育てる。 コーデリアを娘のように愛するガブリエルと、子供から大人になり彼に恋をしてしまった王女コーデリアの恋のお話。

私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません

しょくぱん
恋愛
「お姉ちゃんなんだから」 ――それは私を縛る呪いの言葉だった。 家族の醜い穢れを一身に吸い込み、妹の美しさの「身代わり」として生きてきた私。 痛みで感覚を失った手も、鏡に映らない存在も、全ては家族のためだと信じていた。 そんな私、私じゃない!! ―― 私は、もう逃げない。 失われた人生を取り戻した今、偽りの愛に縋る彼らに、私は告げるだろう。 「私の人生に、おかえりなさい。」

平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です

美並ナナ
恋愛
類稀なる美貌を誇る子爵令嬢シェイラは、 社交界デビューとなる15歳のデビュタントで 公爵令息のギルバートに見初められ、 彼の婚約者となる。 下級貴族である子爵家の令嬢と 上級貴族の中でも位の高い公爵家との婚約は、 異例の玉の輿を将来約束された意味を持つ。 そんな多くの女性が羨む婚約から2年が経ったある日、 シェイラはギルバートが他の令嬢と 熱い抱擁と口づけを交わしている場面を目撃。 その場で婚約破棄を告げられる。 その美貌を翳らせて、悲しみに暮れるシェイラ。 だが、その心の内は歓喜に沸いていた。 身の丈に合った平穏な暮らしを望むシェイラは この婚約を破棄したいとずっと願っていたのだ。 ようやくこの時が来たと内心喜ぶシェイラだったが、 その時予想外の人物が現れる。 なぜか王太子フェリクスが颯爽と姿を現し、 後で揉めないように王族である自分が この婚約破棄の証人になると笑顔で宣言したのだ。 しかもその日以降、 フェリクスはなにかとシェイラに構ってくるように。 公爵子息以上に高貴な身分である王太子とは 絶対に関わり合いになりたくないシェイラは 策を打つことにして――? ※設定がゆるい部分もあると思いますので、気楽にお読み頂ければ幸いです。 ※本作品は、エブリスタ様・小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、彼女は少しずつ変わっていく。 ■《夢見る乙女のメモリアルシリーズ》2作目  ■拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり) ■第17回恋愛小説大賞にエントリーしています ■画像は生成AI(ChatGPT)

処理中です...