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21.泣き顔
21.泣き顔
しおりを挟む『屡鬼阿…この髪飾りが君を守るんだよ。』
友人の指の欠片を見た屡鬼阿に怒りの感情が湧きあがってきた。
何が起こったのか不安と憤怒が交じり合う感情の中、教室の中で動いていたものを発見し歩みを向ける。
一歩扉を踏み入れた中、自分の担任の保育士がこの世の生き物とは似ても似つかぬものとなって、幼き子達に食らいついていた。
Dear Joker
君を攫う
机の上に置かれた画用紙に書かれた血文字
化け物は食らっていた動作をやめ、こちらに気づく…。
本能的に危機感を感じた。
殺らねば
自分が死ぬ
そう感じ、我を忘れた。
…気が付いたとき、全身をつつむ温もりがあった。
目線の前に先程の化け物は肉片となりぐちゃぐちゃに横たわっていた。
顔をぬくもりを感じる方向に向けると目の前に優しく微笑む男性がいる。
「もういいんだ。大丈夫だ。」
自分に向けて涙を浮かべて笑ったその男性はボロボロになりながら自分を抱きしめていた。
男性がポケットからバレッタを取り出し髪を束ね取り付けた。
「屡鬼阿…この髪飾りが君を守るんだよ。」
男性は再び自分の体をギュッと抱きしめた。
「…さん。屡鬼阿さん!」
漆黒の翼で用意された専用飛行機で屡鬼阿は眠っていた。
「もうすぐ着きますよ。ドイツ。」
スティーブに起こされ屡鬼阿は体をほぐした。
相変わらず、純鋭は渋い表情をしていた。
清晴は里京に留守の間起こった出来事を報告し、状況を把握した後に合流することになっていた。
もちろん美衣奈は特安の特別医療室で療養している。
「漆黒の翼のフランク・フルト支部で車に乗り換えてキルベルクを目指しましょう。そこから情報収集しますよ」
無言なままの純鋭の表情を屡鬼阿は少し気にかけた。
ジェット機は無事にフランクフルトに到着し、一同黒翼の支部へと落ち着いた。
「フランクフルト、自然があふれるところですから、少し散歩に行ってきたらどうです?東京の喧騒の街並みを少し忘れることができますよ。」
スティーブは重たい空気を取り払うかのように二人を促した。
「ほんっと。町を出ると田んぼ。一面田んぼ。なにこれコンビニすらない。」
屡鬼阿は自分の気持ちを率直に言葉に示した。
「…」
純鋭は相変わらず泣きそうな不安な表情で刀を握りしめた。
「…美衣奈が心配?」
「…」
「…この事件に関わって、次々と関係ない人が巻き込まれていった…俺が弱いから、守りたかったものも守れなかった…。」
屡鬼阿は冷たい視線を純鋭に向けた。
「それが裏だと…あなたは私に言っていたわ…。」
純鋭は屡鬼阿の胸ぐらを掴んだ。
「なに涼しい顔してんだよ!そもそもお前が何者かに狙われているからだろ!お前さえいなければこんな事件なかったはずなのに!この疫病神!」
純鋭の言葉が屡鬼阿の胸に刺さる。
屡鬼阿は胸ぐらを掴まれたまま一瞬悲しそうな顔をしもう一度真顔に顔を切り替えた。
「…守りたいものを守れなかったから人にやつあたりか?滑稽だな。守りたいものがあるなら気を抜かずに自分で守りきればいいじゃないか。…だが、それがみんな簡単にできたら、誰も悲しい思いをしなくて済む。…佳代だって…死なずに済んだはずだ…」
純鋭は屡鬼阿の言葉に自分の中のいら立ちがあふれそうになった。
屡鬼阿のつま先が地から徐々に離れていく。
「…終わらせたいなら、このまま手に力を込めるか、その刀を抜け。」
屡鬼阿は純鋭の気持ちを見透かしたように、静かに呟いた。
純鋭は自分が何をしているか我に返って気が付いた。
手の力を緩め、純鋭は屡鬼阿から一歩退いた。
「あなたは…生半可すぎる…。」
屡鬼阿は純鋭に背を向けた。
「だから…守れないのよ…。…………それは私もか…」
屡鬼阿は寂しそうな表情でどこか一点を見つめた。
二人の間に冷たい風が吹き抜けた。
純鋭は自分の頬を両手で叩き気合を入れた。
「ま、まずお前の親父さんを探さないといけないな。」
いつもの調子に純鋭は表情を繕い、二人は再び黒翼支部へと歩き出した。
光の入らないくらい地下の奥。緑色の光の下、試験管に液体を垂らす白衣の男。
「…」
足音がした方向に振り向くと男は喜びの表情を示した。
「いいところに帰ってきた。お帰り愛しのJoker。」
白衣を着た男が駆け付けて白髪の青年を抱きしめた。
何も感じない。
両手に鎖をつけたぼさぼさの金髪の女が自分に向かって泣きながら手を伸ばす。
「き……る…………る…き」
女の姿を見て青年は落胆した。
「我が息子よ。どうだっただろうか。私の至極のプレゼントは。あの男にも届いただろうか?」
白衣の男は自分の作品に酔いしれていた。
「この父が作り上げた最高傑作。そして、世界初の研究結果。あぁすべてが我が手元に。地位も名誉も女も強さも、切り札もすべてが私の手の中だ。」
青年は男を嫌悪した。
鼻を突き刺す鉄の臭いと腐敗臭。
獣臭さ。
呻き苦しむ人間か獣かわからぬ声。
鉄格子を揺さぶりたたく音。
実験台に、巨大な水槽。
フラスコや試験管の中の生命。
「日本にも送ったんだ…」
「あぁそうだよ。君がしっかり帰ってくるか試してみたんだ。」
青年はその言葉に殺意が湧いた。
「あと一つ手に入れるとしたら…。姉弟だな。あそうだ、パーティーに誘おう。なぁ。キル。」
キルに向けられたその笑顔に、キルはこの上ない恐怖と憤怒を心に感じた。
キルは一度唇をかんだ後、口角を上げて微笑んだ。
「そうだね。僕も本当のねーさんをみたいよ。父さん。」
金髪の女性はキルの言葉を聞いて発狂したように泣き出した。
「…」
キルはその姿に目を背けた。
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