地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

文字の大きさ
11 / 116
第二章 不幸な師団長

第2話 着任

しおりを挟む
 地球の月面軌道上にある、直径百二十キロの鏡面をくぐるとたどり着くのが、エデン星系である。
 太陽とほぼ同規模の恒星を中心に、十二の惑星が巡る星系で、恒星は幅数百キロにも及ぶ部品で構成されたダイソン球によって取り囲まれている。

 ダイソン球とは簡単に言うと、太陽全体を覆うように発電装置を取り付け、太陽から発せられるエネルギー全てを余すこと無く利用するための巨大な装置の事だ。

 厳密にいうと、このエデン星系のダイソン球は網目状になっているため、全てのエネルギーを取り込んでいるわけでは無い。

 それでも無線送電システムで数割ロスした上でも、太陽系全域に地球の年間消費量の数億倍という膨大なエネルギーを送り続けていた。

 そんな重要な場所だけあって、宇宙軍と異世界派遣軍の艦隊が厳重な警戒をしいているため、あちこちに航宙艦が行き交う。

 ここはまさに人類の心臓とも言える場所であった。

 そんな星系の第三惑星が、星系名にもなっている惑星エデンだ。
 エデンは地球型の惑星で、呼吸も可能で居住も出来るが、微生物を除く動植物が一切存在しない砂漠と岩だらけの不毛の星であり、数箇所ある密閉型の気密都市に数万人の軍関係者が居住するだけの茶色い星だ。

 そんな名前とは真逆の星の衛星軌道上にあるのが、異世界派遣軍の本部衛星である。
 SF映画に出てくる宇宙要塞さながらの直径数十キロに及ぶ球形の施設だ。

  その本部衛星のとある通路を、一機の55式強化機兵が身長180cm程の大柄のSSを連れて歩いていた。

 強化機兵とは、要は強化外骨格の中身をSAに切り替えた歩兵支援用の機動兵器である。

 身長3m程で、15mmアサルトライフルや30mmライフル、60mm迫撃砲やレールガンを装備して歩兵や戦車の支援を行う、陸軍でも採用されている兵器だ。

 この55式は2155年採用の機種で、サイズを2mとコンパクトにして扱いやすくすることを目指した物だが、従来の武装が扱えない事等から普及せず、生産中止となった不遇の機種だった。

 なんにしろ、本部施設の廊下を歩くような物ではない。
 その不可思議な強化機兵は、目当てと思しき部屋にたどり着くと、しばし深呼吸するような動作をした後、意を決してインターホンを鳴らした。

「失礼いたします。一木弘和いちぎひろかず代将、参りました」

 強化機兵から発せられた声は若い男のものだった。

「入りたまえ」

 答える声は年配の男のもの。
 一木と名乗った強化機兵は、扉が開くと同時にすばやく入室した。

「本日付で第049機動艦隊の第四四師団長に配属されました。一木弘和代将であります。只今をもって着任いたしました」

 名乗ると同時に、部屋にあるデスクに座るアラブ系の将官が顔を上げた。
 猛禽の様な目つきの男だったが、続いて聞こえてきた声は意外なほど温和で物静かなものだった。

「よく来たね代将。着任を歓迎するよ。艦隊司令のアブドゥラ・ビン・サーレハ大将だ。そこにいるのは副官のスルターナ少佐だ」

 そう言われて初めて、一木と名乗った強化機兵は扉の真横に、黒いヒジャブを被った人影がいることに気がついた。
 目元以外は全身を隠していて表情などは窺えず、その上一言も喋らず、静かに敬礼するだけだ。

「よろしくおねがいします。ああ、こっちは……マナ、君も名乗りなさい」

「一木代将の副官を務めさせていただく事になりました。マナ大尉であります」

 一木が促すと、ぎこちなくついてきた少女が名乗った。
 表情や動きはどこか硬い。

「ああ、事情は聞いている。大変だったね、一木くん」

 サーレハ司令はマナ大尉を見ると、何かを察したように一木を気遣った。

「……いえ……情けない話です……ですが、同期の仲間や恩人のお陰で立ち直りました。このマナを新しいパートナーとして、粉骨砕身頑張っていく所存です」

「マナ大尉も頑張ります」

 大きな体でペコリと頭を下げる一機と一体。

 ここで、この強化機兵、もとい一木弘和について語らなければならない。
 この、不幸な男の事を。

 話は、2020年。
 今から145年前に遡る。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...