地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

文字の大きさ
22 / 116
第二章 不幸な師団長

第11話―1 偵察、そして邂逅

しおりを挟む
目的地に到着すると、一木は細かい作業から解放され、より具体的な作業に従事することとなった。

 具体的には、サーレハ司令を中心とした参謀長、兵站、艦務、内務、首席の五参謀がゲート周辺の防衛、衛星に各種工場の建設、ゲートから衛星、第二惑星までの航路確保、衛星軌道上の確保などの空間業務を。

 一木師団長を中心とした外務、文化、情報、作戦の四参謀に衛生課長、治安維持課課長を加えた地上派遣部隊の構成員が具体的な地上降下後の作戦を練っていた。

 そして今日も、一木は薄暗い部屋で艦隊の幹部たちと顔を突き合わせて会議に参加していた。
 会議を進行するのは、地上派遣部隊の副司令官を一木が任命した情報参謀のシャー大佐だ。
 160cmほどと小柄ながら、筋肉質で引き締まった体形に調整された体を持ち、長い髪を後頭部でまとめた姿はどこか格闘家めいた雰囲気を感じさせる。しかし名前と見た目とは違い気さくで姉御肌的なSSで、業務全般に不慣れな一木は、作業開始間もないうちから?頼りにしていた。
 そんな彼女が、会議室の前面に投影された地図を示しながら、今の議題である降下地点の決定を告げた。

「つーことで、部隊の降下地点は帝都西方の沿岸部にあるルニ子爵領に決定だ。ここなら帝都が近いから交渉もしやすい。距離がちょうどいいから圧力もかけられる。それでいて外様領主の領地だからそこまで失礼に当たらないと来てる」

 東西に長い楕円軽をした大陸の地図。その西側にある短い半島の付け根にある帝都。そのさらに西側に二百キロほど移動した先にある、海に面した小さな街を中心としたルニ子爵領。そこにポイント・ルニと表示が付いた。
 すると、香辛料の匂いがする人影が机に突っ伏した。大雑把に短く切りそろえた金髪と、どこかあか抜けない印象の素朴な美人。軍服の上からなぜか白いエプロンを着込んだ文化参謀のシャルル大佐だ。

「あー、やっぱり大陸東部に拠点を置く案はダメですか、そうですか」

 シャルル大佐の言葉に、殺大佐はサメの様な歯をむき出しにして叱りつけた。

「シャールールー! いい加減にしろよ。お前はどうせ狩猟採集調理がしたいだけだろうが! そもそも大陸中央の山脈から東側は人間が住めるような場所じゃねーんだ! そんなところに拠点作ってどうするんだ! 」

 殺大佐の言う通り、この海洋惑星の唯一の陸地である大陸、その東部には人間が全く居住していない。
 これはこの星の海に理由がある。
 この星の海には極めて狂暴かつ大型の生物が多数生息しており、海岸線がほぼ崖になっている大陸西部以外の地域に人類が居住することはほぼ出来ないのだ。

 海岸線がほぼ砂浜になっている大陸東部は、調査した第20独立旅団”サンルン”のSS部隊に未帰還者を出すほどの脅威に満ちており、その脅威は海岸線以外の河川周辺や、海洋から陸地に適応した生物により大陸東部全体に及んでいた。
 殺大佐の言葉を聞いたジーク大佐も、小さく挙手した後シャルル大佐に説明した。

「確かに帝国の目につかない東部に拠点を設けることによる利点は無くはないけど、正直デメリットの方が大きい。例えば東部にある一般的な河川……だいたい川幅が数キロあるのが普通なんだけど、ここには全長十メートル近い肉食性爬虫類や甲殻類が生息しているのが当たり前なんだ。”サンルン”のレポートだと、拳銃の5.5mmケースレス弾はほぼ通用しない。小銃の6.8mm樹脂薬莢弾で傷つける程度。強化機兵の火器でやっと安定した戦闘が可能……こんな所に駐留するなんて正気じゃないね」

 あげくの果てには、レポートにはさらに巨大な生物や狂暴な陸上生物。未知の好戦的知的生命体の存在をほのめかす記述まであり、今回の任務が帝国との連邦加入条約の締結である限り、わざわざ出向くような場所ではない。
 しかし、他の参謀から『料理に正気を捧げた』と言われるシャルル大佐には関係なかったようだ。

「そんな大きい甲殻類が! ああ、第076艦隊のソンヨン大佐からもらったヤンニョムダレに生きたまま漬け込んでケジャンを作ってみたい……やっぱり東部に基地作りません? 」

 一同ドン引きのその発言に会議室が沈黙に包まれる。
 それを破ったのは不機嫌そうに火のついていないたばこを加えている外務参謀のミラー大佐だ。

 正直、一木はこのミラー大佐が苦手だった。表面上は美人のキャリアウーマン的な雰囲気のSSなのだが、どうも逐一採点されているようで落ち着かない。目のやりどころに困る大きな胸と尻、それを強調したシャツとミニスカートもだ。構造的に見ている先がばれ易い一木にとっては目に毒そのものだ。

「この料理キチは放っておいて、降下後の事を話しましょう。子爵領に降下して、交渉使節として滞在を求める。その後交渉に臨む……のはいいけど、だらだら下っ端の官僚とやり取りしてたら時間かかるわよ? いつもみたいに護衛艦降下させて帝都上空を威圧して砲艦外交はしないって言うし」

 そういって横目で一木を見るミラー大佐。
 一木は一瞬たゆん、と揺れた胸に視線を奪われそうになるが、ぐっと我慢して答えた。

「ええ。今回は可能な限り相手の反発を抑えるような形で連邦加入条約の締結を目指したいと思います」

「なんで。言ったわよね? 護衛戦隊の空飛ぶ軍艦、そこから降下する強襲猟兵の巨大な姿……。これを見せれば大概の異世界は交渉を求めてくるわ。いちいち帝都からの距離なんか気にすることはない。スピーディーな条約締結をしない理由は? 」

「確かにそれで向こうの非戦派は交渉に応じるでしょうが、強硬派は不満に思います。強硬派が主流ならば戦争ですし、そうでなければクーデターの可能性すらある。よしんば強硬派を武力で押さえつけても、今度は大陸の諸侯や属国が反発します。戦争には勝てても、統治するには一個師団ではとても足りません。可能な限り向こうの正規の流れで交渉していきます」

「へー。それで結局連邦にたてつく非民主的な強硬派を見逃すの? 」

「いえ。交渉する中で、向こうから非合法に手を出すよう工作した上で殲滅します。血が流れないと血の気の多いやつが絶対に暴発しますからね。異世界相手は適度に瀉血すべし」

 そこまで言って、一木はミラー大佐から視線を外した。限界だったのだ。

「って、最後のは学校の受け売りですが……基本方針はこの流れでいきます」
 
 そこまで聞くと、ミラー大佐は火のついていないたばこを吸うしぐさをして、ふっと笑みを浮かべた。

「この師団長使い物になりそうね。前いたやつ、ジークにこの王都軌道砲撃して降伏させましょう、っていきなり言って私ブチ切れたのよね」

 その言葉に他の参謀達や課長が嫌そうな顔をした。
 どうやら、一木の思っている以上にこの組織は人材難の様だ。

「とは言っても、正攻法の交渉だけですんなり地球連邦に入りますって流れになるとは思えないのよね。私が丸め込んでも結局後で揉めるだけだし、情報参謀。なんかいい感じの奴いない? 」

 ミラー大佐の言葉に、一木は疑問を持った。いい感じ?

「なんですかいい感じのやつって? 」

「要はこちらの考えがわかるような奴、交渉の突破口になりそうなやつ。例えば改革派の王族とか、やたらと先進的な人権意識を持った政治家とか、逆に脅す材料たっぷりの皇帝の親類とか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

処理中です...