地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

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第二章 不幸な師団長

第11話―1 偵察、そして邂逅

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目的地に到着すると、一木は細かい作業から解放され、より具体的な作業に従事することとなった。

 具体的には、サーレハ司令を中心とした参謀長、兵站、艦務、内務、首席の五参謀がゲート周辺の防衛、衛星に各種工場の建設、ゲートから衛星、第二惑星までの航路確保、衛星軌道上の確保などの空間業務を。

 一木師団長を中心とした外務、文化、情報、作戦の四参謀に衛生課長、治安維持課課長を加えた地上派遣部隊の構成員が具体的な地上降下後の作戦を練っていた。

 そして今日も、一木は薄暗い部屋で艦隊の幹部たちと顔を突き合わせて会議に参加していた。
 会議を進行するのは、地上派遣部隊の副司令官を一木が任命した情報参謀のシャー大佐だ。
 160cmほどと小柄ながら、筋肉質で引き締まった体形に調整された体を持ち、長い髪を後頭部でまとめた姿はどこか格闘家めいた雰囲気を感じさせる。しかし名前と見た目とは違い気さくで姉御肌的なSSで、業務全般に不慣れな一木は、作業開始間もないうちから?頼りにしていた。
 そんな彼女が、会議室の前面に投影された地図を示しながら、今の議題である降下地点の決定を告げた。

「つーことで、部隊の降下地点は帝都西方の沿岸部にあるルニ子爵領に決定だ。ここなら帝都が近いから交渉もしやすい。距離がちょうどいいから圧力もかけられる。それでいて外様領主の領地だからそこまで失礼に当たらないと来てる」

 東西に長い楕円軽をした大陸の地図。その西側にある短い半島の付け根にある帝都。そのさらに西側に二百キロほど移動した先にある、海に面した小さな街を中心としたルニ子爵領。そこにポイント・ルニと表示が付いた。
 すると、香辛料の匂いがする人影が机に突っ伏した。大雑把に短く切りそろえた金髪と、どこかあか抜けない印象の素朴な美人。軍服の上からなぜか白いエプロンを着込んだ文化参謀のシャルル大佐だ。

「あー、やっぱり大陸東部に拠点を置く案はダメですか、そうですか」

 シャルル大佐の言葉に、殺大佐はサメの様な歯をむき出しにして叱りつけた。

「シャールールー! いい加減にしろよ。お前はどうせ狩猟採集調理がしたいだけだろうが! そもそも大陸中央の山脈から東側は人間が住めるような場所じゃねーんだ! そんなところに拠点作ってどうするんだ! 」

 殺大佐の言う通り、この海洋惑星の唯一の陸地である大陸、その東部には人間が全く居住していない。
 これはこの星の海に理由がある。
 この星の海には極めて狂暴かつ大型の生物が多数生息しており、海岸線がほぼ崖になっている大陸西部以外の地域に人類が居住することはほぼ出来ないのだ。

 海岸線がほぼ砂浜になっている大陸東部は、調査した第20独立旅団”サンルン”のSS部隊に未帰還者を出すほどの脅威に満ちており、その脅威は海岸線以外の河川周辺や、海洋から陸地に適応した生物により大陸東部全体に及んでいた。
 殺大佐の言葉を聞いたジーク大佐も、小さく挙手した後シャルル大佐に説明した。

「確かに帝国の目につかない東部に拠点を設けることによる利点は無くはないけど、正直デメリットの方が大きい。例えば東部にある一般的な河川……だいたい川幅が数キロあるのが普通なんだけど、ここには全長十メートル近い肉食性爬虫類や甲殻類が生息しているのが当たり前なんだ。”サンルン”のレポートだと、拳銃の5.5mmケースレス弾はほぼ通用しない。小銃の6.8mm樹脂薬莢弾で傷つける程度。強化機兵の火器でやっと安定した戦闘が可能……こんな所に駐留するなんて正気じゃないね」

 あげくの果てには、レポートにはさらに巨大な生物や狂暴な陸上生物。未知の好戦的知的生命体の存在をほのめかす記述まであり、今回の任務が帝国との連邦加入条約の締結である限り、わざわざ出向くような場所ではない。
 しかし、他の参謀から『料理に正気を捧げた』と言われるシャルル大佐には関係なかったようだ。

「そんな大きい甲殻類が! ああ、第076艦隊のソンヨン大佐からもらったヤンニョムダレに生きたまま漬け込んでケジャンを作ってみたい……やっぱり東部に基地作りません? 」

 一同ドン引きのその発言に会議室が沈黙に包まれる。
 それを破ったのは不機嫌そうに火のついていないたばこを加えている外務参謀のミラー大佐だ。

 正直、一木はこのミラー大佐が苦手だった。表面上は美人のキャリアウーマン的な雰囲気のSSなのだが、どうも逐一採点されているようで落ち着かない。目のやりどころに困る大きな胸と尻、それを強調したシャツとミニスカートもだ。構造的に見ている先がばれ易い一木にとっては目に毒そのものだ。

「この料理キチは放っておいて、降下後の事を話しましょう。子爵領に降下して、交渉使節として滞在を求める。その後交渉に臨む……のはいいけど、だらだら下っ端の官僚とやり取りしてたら時間かかるわよ? いつもみたいに護衛艦降下させて帝都上空を威圧して砲艦外交はしないって言うし」

 そういって横目で一木を見るミラー大佐。
 一木は一瞬たゆん、と揺れた胸に視線を奪われそうになるが、ぐっと我慢して答えた。

「ええ。今回は可能な限り相手の反発を抑えるような形で連邦加入条約の締結を目指したいと思います」

「なんで。言ったわよね? 護衛戦隊の空飛ぶ軍艦、そこから降下する強襲猟兵の巨大な姿……。これを見せれば大概の異世界は交渉を求めてくるわ。いちいち帝都からの距離なんか気にすることはない。スピーディーな条約締結をしない理由は? 」

「確かにそれで向こうの非戦派は交渉に応じるでしょうが、強硬派は不満に思います。強硬派が主流ならば戦争ですし、そうでなければクーデターの可能性すらある。よしんば強硬派を武力で押さえつけても、今度は大陸の諸侯や属国が反発します。戦争には勝てても、統治するには一個師団ではとても足りません。可能な限り向こうの正規の流れで交渉していきます」

「へー。それで結局連邦にたてつく非民主的な強硬派を見逃すの? 」

「いえ。交渉する中で、向こうから非合法に手を出すよう工作した上で殲滅します。血が流れないと血の気の多いやつが絶対に暴発しますからね。異世界相手は適度に瀉血すべし」

 そこまで言って、一木はミラー大佐から視線を外した。限界だったのだ。

「って、最後のは学校の受け売りですが……基本方針はこの流れでいきます」
 
 そこまで聞くと、ミラー大佐は火のついていないたばこを吸うしぐさをして、ふっと笑みを浮かべた。

「この師団長使い物になりそうね。前いたやつ、ジークにこの王都軌道砲撃して降伏させましょう、っていきなり言って私ブチ切れたのよね」

 その言葉に他の参謀達や課長が嫌そうな顔をした。
 どうやら、一木の思っている以上にこの組織は人材難の様だ。

「とは言っても、正攻法の交渉だけですんなり地球連邦に入りますって流れになるとは思えないのよね。私が丸め込んでも結局後で揉めるだけだし、情報参謀。なんかいい感じの奴いない? 」

 ミラー大佐の言葉に、一木は疑問を持った。いい感じ?

「なんですかいい感じのやつって? 」

「要はこちらの考えがわかるような奴、交渉の突破口になりそうなやつ。例えば改革派の王族とか、やたらと先進的な人権意識を持った政治家とか、逆に脅す材料たっぷりの皇帝の親類とか」
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