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第二章 不幸な師団長

第13話―1 ファーストコンタクト

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 降下艇に乗り込むと、すでに中には歩兵型SSで一杯だった。

 一木が、乗り込んでいた大隊の大隊長に挨拶すると、周囲のSS達がちょこちょこと寄ってきた。何事かと思っていると、体のあちこちをペタペタと触りながら「師団長だ」「人間だ」「初めて見た」などと呟いている。

 どう見ても幼児のような反応に驚いていると、大隊長が申し訳無さそうに謝罪した。

「申し訳ありません師団長。一緒に師団長が降下艇に乗り込んだことなど初めてなもので。みな地球の人間にこんな間近で出会うなど初めてで嬉しいんです」

「初めて……じゃあ前任の師団長はどうやって指揮を執っていたんだ? 」 

「軌道上の軌道コントロール艦や旗艦からですね。地上の占領が完了して安全が確保されてから降下されていました」

 こんな健気に頑張るSSたちだけを地上に降ろして高みの見物とは……一木の胸中に怒りにも似た感情が浮かんできたが、殺大佐がそれを見越したのか諌めた。

「そんなに怒んなよ一木司令。確かに前任者はあんたと違って臆病で部下にも優しいとは言えなかったが、あんたと違って生身の人間だったんだ。こんな事は言いたかないが、普通の人間の感覚を意識するのを忘れないようにしな」

 殺大佐の言葉に一木は反省した。しかしだからこそ、機械の体を持っている自分が率先していかなければならない。

「みんな、ここに来てから仮想空間で訓練するばかりで済まなかったな。これからは一緒に地上で行動するから、未熟な私を支えてほしい。よろしく頼む」

 一木がそう伝えると、幼稚園児の様な、はーい! という歓声がおこった。

 演習中の様子と違うので気になって大隊長に聞くと、初耳の事情を話してくれ?た。

「演習中や実戦中は表層的な感情をオフにしますからね。感情をオフにするとそれぞれ特化した能力等の発揮に影響が出ますが、これくらいの作戦ならオフにして命令に忠実に動かした方がうまくいきますから。今は作戦前なので感情をオンにしてあります。そうするとどうしても製造後触れ合いの少ないSSはこういう幼い性格になってしまうんです」

 なるほど、と相づちを打ちながら、一木はすがりついていたSSを一人、両脇に手を入れて抱き上げた。笑顔ではしゃぐSS。周囲のSSがわたしもわたしもと騒ぎ出す。

「かわいいな……よーしよしよし」

 思わず顔を蕩かせる(表情など無いが)一木だが、その様子を見て殺大佐は呆れ顔だ。

「一ヶ月前まで自分の態度がどうこう言ってたやつがさー。そういう事するから変に好かれるんだよ」

「俺はもうそこらへんで悩まないことにしたんだ。実際問題こいつらは人類のため、必死に働いてくれてるんだから、俺はそれに精一杯応えていきたいんだ」

 そんな話をしていると、大隊長が号令を掛けた。

「さあお嬢様達! いつまで師団長閣下にまとわりついてるんだ。とっとと隊列を組め! 感情オフ! さあさあ、動けうごけ!」

 大隊長が急かすように言うと、先程まで子犬のようにじゃれついていたSS達はまたたく間に機敏な動きで所定の位置に配置についた。 

「さすがの練度だ。しかしちょっと寂しいな……」

「いつまでも浮ついてないで、もうハッチ空くぞ」

 殺大佐の言葉通り、ガコンという音と振動と同時に、艦のエンジン音が若干低くなる。

 ハッチ開放! という放送と共に、ハッチが開いていく。

「さあ急げ急げお嬢様! 上陸次第部隊は中隊ごとに配置について、ムーンの車両部隊の受け入れ準備に入れ! 」

 一木達は、そんな喧騒が一段落してからゆっくりと降下艇を降りた。

 全員夜目が効くアンドロイドとサイボーグのため、あたりは闇に包まれたままになっている。

 そして一木が降下艇を降りて降下艇が離脱していくのと同時に、ムーンがゆっくりと崖沿いに空中停止してホバリングする。

 あの巨艦をここまで丁寧に操るのは、ベテランのSAならではの腕前だ。

 そうして停止している間に、中から百近い車両SAの集団が現れた。

 さて、準備開始だ。

 一木は先振れとしてルニの街に向かわせるSSを呼んだ。

「アミ中佐! 」 
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