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第二章 不幸な師団長
第13話―2 ファーストコンタクト
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呼ばれてやってきたのは、演習の時にも世話になったA連隊連隊長のアミ中佐だった。
「一木司令、お呼びでしょうか? 」
やってきてキッチリと敬礼したアミ中佐を見る。凛々しいその表情や物腰からは、先程の幼女のようにじゃれていた歩兵型SSの面影は感じられない。
性格等の個体差や戦績を考慮して個体は昇進していく。そして班長、分隊長、小隊長と立場が上がって行った末に、個体によってはアミ中佐や艦隊参謀のようになるのだ。
一木は思わず、幼女のように振る舞うアミ中佐や殺大佐を思い浮かべてしまった。
と、そんな感傷にどう気がついたのか、ミラー大佐が一木の足に蹴りを入れる。
「変な妄想してないでとっとと指示出しなさいよ。中佐が困ってるでしょうが」
「す、すいませんでした。アミ中佐もすまなかったな」
「いえ、構いません。それで何でしょうか? 先触れの準備であれば予定通りバイクの準備が……」
アミ中佐の言う通り、このあとアミ中佐と護衛の歩兵型SSはバイクでルニの街に向かう予定だった。
しかし、一木は予定を変更することにした。
正直言って、先程の降下艇の中のSS達の振る舞いが堪えていた。
「いや、予定を変更する。一個機械化小隊を預ける、それを率いて向かってくれ」
「一個機械化小隊ですか? 」
一個機械化小隊とは、三両の歩兵戦闘車とそれに搭乗する歩兵型SS一個小隊二十名からなる部隊の事だ。
歩兵戦闘車は指揮車でもあり四名搭乗可能、装甲目標への対処可能な百二十ミリレールガン搭載の50式歩兵戦闘車一両。八名搭乗可能で、四十ミリ速射レールガン搭載のM5マッカーサー歩兵戦闘車二両で構成されている。
正直言って、この星の軍相手には過剰戦力もいいところだ。
「一木司令さあ……」
背後で殺大佐の非難する声が聞こえるが、一木としては譲る気は無かった。
何事も中途半端は良くない。
どのみち後で主力を見れば威圧も何も無いのだ。一木は最初から万全を期することにした。
「そうだ。アミ中佐、至急準備にかかれ」
「ハッ」
敬礼をするとアミ中佐は揚陸された車両部隊に向かっていった。
見送る一木の背中に、各々の準備のため移動する参謀たちが通りがけに声を掛けていく。
「部下に対して過保護過ぎない? 」
と殺大佐。
「そうそう、バンバンこっちの優位性と恐ろしさを知らしめましょう。あとで楽だし」
とミラー大佐。交渉担当の癖に恫喝と威圧しかしない気なのか……。
「一木司令は優しいね、ぎゅっ」
とジーク大佐。今軽くハグして行ったような……。一木は気が付かないふりをした。
「よーしマナ。俺たちも準備しよう。指揮車を呼び出してくれ」
「了解しました。強化歩兵用の指揮車を用意してあります。しばらくお待ち下さい。私も準備をしてまいりますので」
「マナの準備? 」
「はい。これから戦地に行くのです。私を隊長とした護衛班を結成しますので、私も武装します」
そう言えば、そんな決済をしたような気もする。記憶フォルダを検索すると、たしかに護衛班を警護課から人員を抽出して編成するとある。
しかし便利な体だ。一木は感心する。忘れていた事も検索すればすぐに分かる。生身ではとてもではないがこの仕事をこなせなかっただろう。
「了解した。行っておいでマナ」
自分でも驚くほどに優しい声が出た事に驚いていると、マナはキョロキョロとあたりを見回してからギュッと一木に抱きついてきた。
「ごめんなさい。嫉妬など、嫌でしょうが……」
そんなマナ大尉の頭を、一木は無言で撫でた。それを見るとマナ大尉は驚いた様な顔をした後、ゆっくりといつもの顔に戻っていった。
「ありがとう、ございます。では、行ってきます。そこの歩兵、私が戻るまで司令のお側にいなさい」
近くにいた二人の歩兵に指示を出すと、小走りで備品を積んだ車両にマナ大尉は走っていった。
「未だに自分がラブコメみたいな事してるのが信じられん……」
一木はそう呟くと、やってきて直立不動で警護する二人の歩兵に話しかけた。
「えーと、足並み揃うまで少し暇だからな。二人とも、感情オンにしていいよ」
一木がそう声をかけると、二人はお互いに顔を見合わせた後、一木に近寄ってきた。
「師団長、いいんですか? 」
「かってにしだんちょうとおはなしすると、しょうたいちょうにおこられないかな? 」
片方の娘は舌っ足らずでどうにも可愛い。
しかし小隊長が怖いのか。小隊は、四名の歩兵型SSからなる班。二班からなる一個分隊。二個分隊に小隊本部班四名を加えた二十名から編成されている。
いい師団はこの小隊長がしっかりしているかどうかで決まる。以前兵站参謀のポリーナ大佐に言われた事を思い出す。
ポリーナ大佐は身長二百三十センチの背の大きなSSで、ロシア帽に口元を隠したマフラーが特徴のSSだった。司令部での通称「みんな大好きポリーナちゃん」
というのも、見た目は確かに大きな美少女なのだが、どうにも包容力と優しさがにじみ出るような空気感を持っていて、一木など何度か「お母さん」と呼びかけた程だ。
そんな彼女はSSの製造工場の設営とその製造。そして訓練も担当している。そんな彼女曰く。
「小隊長がしっかりしていると、その師団はいい師団になる。班長や分隊長が幼くて感情をいつもオフにしてるような部隊でも、小隊長がしっかりとしてネットワークを結んで管理していればどんな相手でも苦戦しないし、捕虜や難民にも対処できる。カルナーク戦線みたいに製造してすぐのSSを編成してどんどん前線に送ると、すぐにボロが出る。見た目は一線級の戦闘部隊でも、すぐスキが出来て、敵に付け込まれる。私達は成長できる機械だけど、だからこそしっかりとした体制で運用しないと私達は機械と生き物の利点をどちらも活かせなくなる。だから一木代将は製造したての娘がいい小隊長になれるようにしっかり見ててあげてくださいね」
一木がその話を聞いたときは、SSの戦闘能力だけに意識が向いていたのであまり実感が無かったが、今日現場のSSの本当の姿を見て、言われた事の意味がやっとわかった。
こんな幼い内面のSSを、前線に感情を持って考える事を覚えた指揮官も無しに投入すれば、それは使い捨ての機械に戦闘させているのと同じだ。
参謀達のように個性を持ち、考え、悩む様なSSを育てる事を意識しなければならない。
「怒られないように後で私が言っておこう。だが、小隊長は君たちの事をしっかりと見てくれているんだ。上官の言うことを聞いて頑張るんだよ」
「はーい」
「は、了解しました」
五分ほどそうして二人と遊んでいると、崖下から降下艇が一隻勢いよく飛び上がってきた。
何事かと思って一木がそちらを向くと、例のバニフの死体を一頭吊り下げている。
しかもそのバニフの上にはシャルル大佐が乗っており、手には身の丈程のクジラ解体用の刃物を持っていた。
どうも、かなり慌てているようだ。
「あ、一木さーん!? ニ、三頭獲ってくれって言われましたが、すいませ~ん無理でーす! 」
降下艇はバニフを下ろすと、上空の揚陸艦に戻っていった。
降りたバニフの死体の上で、シャルル大佐は鮮やかな動きでバニフの首筋を切りつけた。凄まじい生臭さがあたりに広がる。
一木は臭気センサーをオフにしてバニフに近づいた。シャルル大佐は楽しそうに強化機兵を呼んで首を下にして持ち上げさせていた。どうやら先程の切り口から血抜きをするようだ。
「どうしたんだシャルル大佐? さっきはあんなに楽しそうにしてたのに、どうして無理なんだ? 」
「あれ見てくださいよ」
そういってシャルル大佐が指差した方を見る。崖から見えるのは深夜の漆黒の海……だが、薄っすらと光の筋が見える。かなり長く、大きい。
「なんだ、あれは? 」
光の筋は、うねうねと動きながら、不気味にこちらに近づいてきた。
「一木司令、お呼びでしょうか? 」
やってきてキッチリと敬礼したアミ中佐を見る。凛々しいその表情や物腰からは、先程の幼女のようにじゃれていた歩兵型SSの面影は感じられない。
性格等の個体差や戦績を考慮して個体は昇進していく。そして班長、分隊長、小隊長と立場が上がって行った末に、個体によってはアミ中佐や艦隊参謀のようになるのだ。
一木は思わず、幼女のように振る舞うアミ中佐や殺大佐を思い浮かべてしまった。
と、そんな感傷にどう気がついたのか、ミラー大佐が一木の足に蹴りを入れる。
「変な妄想してないでとっとと指示出しなさいよ。中佐が困ってるでしょうが」
「す、すいませんでした。アミ中佐もすまなかったな」
「いえ、構いません。それで何でしょうか? 先触れの準備であれば予定通りバイクの準備が……」
アミ中佐の言う通り、このあとアミ中佐と護衛の歩兵型SSはバイクでルニの街に向かう予定だった。
しかし、一木は予定を変更することにした。
正直言って、先程の降下艇の中のSS達の振る舞いが堪えていた。
「いや、予定を変更する。一個機械化小隊を預ける、それを率いて向かってくれ」
「一個機械化小隊ですか? 」
一個機械化小隊とは、三両の歩兵戦闘車とそれに搭乗する歩兵型SS一個小隊二十名からなる部隊の事だ。
歩兵戦闘車は指揮車でもあり四名搭乗可能、装甲目標への対処可能な百二十ミリレールガン搭載の50式歩兵戦闘車一両。八名搭乗可能で、四十ミリ速射レールガン搭載のM5マッカーサー歩兵戦闘車二両で構成されている。
正直言って、この星の軍相手には過剰戦力もいいところだ。
「一木司令さあ……」
背後で殺大佐の非難する声が聞こえるが、一木としては譲る気は無かった。
何事も中途半端は良くない。
どのみち後で主力を見れば威圧も何も無いのだ。一木は最初から万全を期することにした。
「そうだ。アミ中佐、至急準備にかかれ」
「ハッ」
敬礼をするとアミ中佐は揚陸された車両部隊に向かっていった。
見送る一木の背中に、各々の準備のため移動する参謀たちが通りがけに声を掛けていく。
「部下に対して過保護過ぎない? 」
と殺大佐。
「そうそう、バンバンこっちの優位性と恐ろしさを知らしめましょう。あとで楽だし」
とミラー大佐。交渉担当の癖に恫喝と威圧しかしない気なのか……。
「一木司令は優しいね、ぎゅっ」
とジーク大佐。今軽くハグして行ったような……。一木は気が付かないふりをした。
「よーしマナ。俺たちも準備しよう。指揮車を呼び出してくれ」
「了解しました。強化歩兵用の指揮車を用意してあります。しばらくお待ち下さい。私も準備をしてまいりますので」
「マナの準備? 」
「はい。これから戦地に行くのです。私を隊長とした護衛班を結成しますので、私も武装します」
そう言えば、そんな決済をしたような気もする。記憶フォルダを検索すると、たしかに護衛班を警護課から人員を抽出して編成するとある。
しかし便利な体だ。一木は感心する。忘れていた事も検索すればすぐに分かる。生身ではとてもではないがこの仕事をこなせなかっただろう。
「了解した。行っておいでマナ」
自分でも驚くほどに優しい声が出た事に驚いていると、マナはキョロキョロとあたりを見回してからギュッと一木に抱きついてきた。
「ごめんなさい。嫉妬など、嫌でしょうが……」
そんなマナ大尉の頭を、一木は無言で撫でた。それを見るとマナ大尉は驚いた様な顔をした後、ゆっくりといつもの顔に戻っていった。
「ありがとう、ございます。では、行ってきます。そこの歩兵、私が戻るまで司令のお側にいなさい」
近くにいた二人の歩兵に指示を出すと、小走りで備品を積んだ車両にマナ大尉は走っていった。
「未だに自分がラブコメみたいな事してるのが信じられん……」
一木はそう呟くと、やってきて直立不動で警護する二人の歩兵に話しかけた。
「えーと、足並み揃うまで少し暇だからな。二人とも、感情オンにしていいよ」
一木がそう声をかけると、二人はお互いに顔を見合わせた後、一木に近寄ってきた。
「師団長、いいんですか? 」
「かってにしだんちょうとおはなしすると、しょうたいちょうにおこられないかな? 」
片方の娘は舌っ足らずでどうにも可愛い。
しかし小隊長が怖いのか。小隊は、四名の歩兵型SSからなる班。二班からなる一個分隊。二個分隊に小隊本部班四名を加えた二十名から編成されている。
いい師団はこの小隊長がしっかりしているかどうかで決まる。以前兵站参謀のポリーナ大佐に言われた事を思い出す。
ポリーナ大佐は身長二百三十センチの背の大きなSSで、ロシア帽に口元を隠したマフラーが特徴のSSだった。司令部での通称「みんな大好きポリーナちゃん」
というのも、見た目は確かに大きな美少女なのだが、どうにも包容力と優しさがにじみ出るような空気感を持っていて、一木など何度か「お母さん」と呼びかけた程だ。
そんな彼女はSSの製造工場の設営とその製造。そして訓練も担当している。そんな彼女曰く。
「小隊長がしっかりしていると、その師団はいい師団になる。班長や分隊長が幼くて感情をいつもオフにしてるような部隊でも、小隊長がしっかりとしてネットワークを結んで管理していればどんな相手でも苦戦しないし、捕虜や難民にも対処できる。カルナーク戦線みたいに製造してすぐのSSを編成してどんどん前線に送ると、すぐにボロが出る。見た目は一線級の戦闘部隊でも、すぐスキが出来て、敵に付け込まれる。私達は成長できる機械だけど、だからこそしっかりとした体制で運用しないと私達は機械と生き物の利点をどちらも活かせなくなる。だから一木代将は製造したての娘がいい小隊長になれるようにしっかり見ててあげてくださいね」
一木がその話を聞いたときは、SSの戦闘能力だけに意識が向いていたのであまり実感が無かったが、今日現場のSSの本当の姿を見て、言われた事の意味がやっとわかった。
こんな幼い内面のSSを、前線に感情を持って考える事を覚えた指揮官も無しに投入すれば、それは使い捨ての機械に戦闘させているのと同じだ。
参謀達のように個性を持ち、考え、悩む様なSSを育てる事を意識しなければならない。
「怒られないように後で私が言っておこう。だが、小隊長は君たちの事をしっかりと見てくれているんだ。上官の言うことを聞いて頑張るんだよ」
「はーい」
「は、了解しました」
五分ほどそうして二人と遊んでいると、崖下から降下艇が一隻勢いよく飛び上がってきた。
何事かと思って一木がそちらを向くと、例のバニフの死体を一頭吊り下げている。
しかもそのバニフの上にはシャルル大佐が乗っており、手には身の丈程のクジラ解体用の刃物を持っていた。
どうも、かなり慌てているようだ。
「あ、一木さーん!? ニ、三頭獲ってくれって言われましたが、すいませ~ん無理でーす! 」
降下艇はバニフを下ろすと、上空の揚陸艦に戻っていった。
降りたバニフの死体の上で、シャルル大佐は鮮やかな動きでバニフの首筋を切りつけた。凄まじい生臭さがあたりに広がる。
一木は臭気センサーをオフにしてバニフに近づいた。シャルル大佐は楽しそうに強化機兵を呼んで首を下にして持ち上げさせていた。どうやら先程の切り口から血抜きをするようだ。
「どうしたんだシャルル大佐? さっきはあんなに楽しそうにしてたのに、どうして無理なんだ? 」
「あれ見てくださいよ」
そういってシャルル大佐が指差した方を見る。崖から見えるのは深夜の漆黒の海……だが、薄っすらと光の筋が見える。かなり長く、大きい。
「なんだ、あれは? 」
光の筋は、うねうねと動きながら、不気味にこちらに近づいてきた。
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