地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

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第三章 出会いと契約

第5話 急変

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 結局、翌日行われた会談は、一方的に地球連邦側の要求が通る事となった。
 殺大佐は満足げだったが、ミラー大佐は自分の仕事が楽すぎたことに不満げだった。
 とはいえ、小規模領主相手に長々と交渉するような事態を避けれた事は良いことだ。
 
 この会談の結果決まったことは次の通り。

・ルニ子爵は地球連邦の使節団が駐留するための土地として、ルニの街西方の丘を中心とした土地を無期限で貸与する。
・地球連邦の人員が罪を犯した場合の逮捕及び裁判は地球連邦軍の憲兵連隊が行う。ただし、求刑においてはルニ子爵に意見を述べる権利が生じる。
・地球連邦は代価として、子爵領内の治安維持代行、道路の舗装、拡張。各種インフラの整備。食糧支援を行うものとする。ただしこれらはルニ子爵の事後承認を必要とする。
・ルニの街に衛生連隊及び憲兵連隊の一部を常駐させ、街の環境整備、治安維持の補助業務を行う。
・ルニの街に公使館を設置し、これの警備は外務参謀部警備課が行う。

 という内容が結ばれた。
 これを不承不承とはいえ一方的に反発もなく受け入れたあたり、殺大佐の策は見事に子爵たちの心を折ったようだ。
 そうはいっても、形式とは言え連邦の方が多くの対価を払っているのだ。子爵が後々本国に口出しされないような配慮はしてあるつもりだ。
 もっとも、ほんの僅かでも目端の利くものならば、この取り決めが体の言い侵略行為の一端でしかない事はすぐにわかってしまうだろう。
 しかし、いかにお人よしの一木とは言え、子爵達に言い訳以上の配慮を与えるほどではない。
 
 その一方で、一木達は民衆に対しては分かり易い飴を与え続けることを選んだ。
 子爵が状況の変化により、こちらに厳しい態度で臨んできたとしても、民衆が連邦の駐留を望むよう分断を図るためだ。
 民衆主義というこのレベルの文明としてはそこそこ開明的な体制をとっているとはいえ、現状愛国心など望めないこの国の民にとって、あくまで目先の利益を与えてくれる地球連邦こそが有益な存在となるように仕向けるのは容易いことだった。

 それと並行して、航空機の目撃制限が一部緩和され、力を見せつけることを兼ねた宿営地の建設が開始された。
 空を飛ぶ巨大な輸送船と航空機。大がかりの土木工事を瞬く間に行う重機と機兵達。ほんの数日で出来上がった星型要塞と組み立て式の宿営地本部施設は、ルニの領民に覆ることのない連邦への強い畏怖を与えた。

 そして宿営地が概ね完成し、落ち着いたころ。
 ようやく帝都に地球連邦の来訪が伝えられたのだった。

 一木はその報告を猫少佐から通信で受け取ると、今自分がやっている仕事により一層励むことを決めた。
 一木が今取り組んでいる仕事。それはこの星の住人、取り分け支配層に地球連邦という国家について詳しく知ってもらうためのムービー作りだった。

 どうやっても、この星のような中世から近世程の文明の住人に宇宙や空間湾曲ゲートの概念を理解させるのは難しい。
 そこで一木は、あらかじめ様々な視覚効果を駆使した説明動画を作り、それを見せることを思いついたのだ。
 幸い映像資料の類はそれなりにあるため、それらを組み合わせればMAD動画を作る程度の手間でそれなりのものが出来上がるはずだった。

 まずは開明的な考えを持つというグーシュ第三皇女とお付きの女騎士に、交渉の際見てもらう。
 そこでグーシュ皇女の反応を見てよさそうなら、他の皇族や庶民に広く視聴してもらうのだ。

 そんな皮算用を立てながら鼻歌など歌い一木は作業していく。
 猫少佐の連絡では、この後帝都では皇帝や実務者、有力貴族や皇族を交えた会議が開かれるという。

 殺大佐やミラー大佐の見立てでは、会議の途中にこちらが妙な構成の数千人からなる軍勢である旨が向こうに伝わるとの事だった。
 とすれば、いきなり全権を持つような者は避け、外交系の官僚や、貴族院の代表などのある程度の格を持った人間を最初に寄こしてくるはずだ。

 その一方で、こちらに甲冑を着込んだ(ように見える)一木がいることも伝えておく。この情報により、甲冑を着れるほどの地位を持った者を寄こせというメッセージだと、匂わせておくのだ。

 こうしておけば、最初に来た実務者連中を追い返し、交渉のイニシアティブをとるための布石を打てる。
 皇太子やグーシュ第三皇女がそこを読んだうえで、いきなり自分を交渉担当者として派遣してくる可能性もあるのではないかと一木は危惧していたが、殺大佐と猫少佐は自信があるようだった。

 なぜなら皇太子は文武両道で優秀と目されるものの、慎重、優柔不断、臆病のきらいがある。
 一方グーシュ第三皇女は高い洞察力と決断力を持つが、数年前に政治的な争いで溺愛しているお付きのミルシャという騎士が殺されかけて以来、政治的なことには極力かかわらないようにしている。

 このことからいきなりグーシュ第三皇女が全権大使になる事態は考えられないという。
 この点猫少佐は自信があるようだった。
 なんでも毎晩あそこまでお盛んになれるほど溺愛している騎士ミルシャを、再び危険にさらすようなことは絶対にしない、との事だ。

 それならば安心だ。
 実務者が来て、交渉して追い返す。
 これで一週間から二週間。
 帝都で再び会議をして、帝弟の人脈を使ってグーシュ第三皇女を全権大使にさせる。
 これに大体三日から五日ほど。
 そしてグーシュ第三皇女が馬車で子爵領につくまでの時間を五日ほどと見積もれば、一か月弱程の時間を連邦軍は確保できる。

 それまでには動画も、宿営地も、子爵領のインフラも、皇女様用のフルコースメニューもすべてが完成しているはずだ。
 そうなれば皇女様を圧倒する連邦の力を見せつけることが出来る。
 連邦が後ろ盾になる提案も通りやすくなるだろう。

 一木が機嫌よく動画を編集していると、猫少佐から緊急の連絡が入っていた。

 何事が起きたか、一木がその連絡を脳内で選択すると、猫少佐からのショートメッセージだった。

『グーシュ第三皇女、全権大使に決定。明朝出発』

 ……一木はこの文面を見て固まると、数秒沈黙した後大慌てで参謀達を呼んだ。

「なんでだ!!! グーシュ皇女は百合相手のミルシャが大事じゃないのか! マナ! 至急参謀達と課長二人を呼んでくれ!」

 にわかに宿営地が騒がしくなった。
 それは、全権大使決定の夜の事だった。
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