地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

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第四章 皇女様の帰還

第10話-2 クラレッタ内務参謀

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 困惑した表情を浮かべ、ミラー大佐の生首を抱えたジーク大佐。
 そして、それを真っ青な顔で見るグーシュとミルシャ。
 
 そして一木は、怒りで目の前が真っ赤になっていた。

 無残な姿になったミラー大佐の事を思う。
 どんなに、辛かっただろうか。
 一木は、怒りのまま再びクラレッタ大佐の方を振り向くと、拳を振りかぶり……。

「ひ、弘和君落ち着いてください! アンドロイドは首が取れたくらいでは死にませんから!」

 クラレッタ大佐を殴りつけようとしたその拳は、マナの言葉によりピタリと動きを止めた。
 ふと冷静になって考えてみれば、マナの言う通りだ。

 グーシュとミルシャには当然分からないことだが、アンドロイドは非常に頑強な作りになっている。
 その上、胸部にある防弾、耐衝撃構造のコアユニットと呼ばれる部位が無事ならば、接続可能なボディや機械さえあれば即座に行動可能なのだ。

 さらに、例えコアユニットが破壊されようとも、その内部にあるメインチップさえ無事ならば、そこからデータを吸い上げる事で記憶や人格をほぼ完全に復元することが出来るようになっている。

 ただし、逆説的に言えばメインチップが破壊されてしまえば、どんなに手を尽くしても修復不能だという事でもあるのだが……。

 そして、今の状況を考えてみる。
 マナが言ったように、生首だけのミラー大佐を見て一木とグーシュとミルシャは青ざめていたわけだが、そもそもコアユニットは胸部にあるので、生首を持ち歩いていても、つまりはミラー大佐を連れている事にはならない。
 ではなぜジーク大佐は、ミラー大佐の生首を持って歩いているのだろうか?

「あー、えーと……話してもいいかな? みんな落ち着いた?」

 一木の頭が冷えたのを見たからだろうか。
 おずおずとジーク大佐が口を開いた。

「いやさ、クラレッタも嘘は言ってないんだよ……昨夜来てすぐにさ……ミラーに折檻するって言って……素手でボコボコにしたんだよね。それでボディを修復しないと動けないくらいになっちゃって……」

 ジーク大佐の言葉に、一木はゾッとしてクラレッタ大佐から距離を取った。
 メタルアクチュエータをふんだんに使用した参謀型SSのボディを、素手で破壊する。
 尋常な事ではない。
 もしも、先ほど殴りつけていれば……。

「でもこのままじゃ、任務にも差し支えるからって、クラレッタがミラーのコアユニットを、これに入れちゃったんだよ……」

 そう言ってミラー大佐の生首を、目の前に差し出すジーク大佐。

 おぞましい光景にグーシュが顔を背け、一瞬ミルシャの背後に隠れようとするが、すぐに違和感に気が付いたのか、まじまじと生首を眺めだした。

 一木も、すぐに気が付いた。
 というか、生首ではなかった。

 大きさは直径二十cmほどの大きさのそのミラー大佐の生首……ではなく、ミラー大佐の顔をデフォルメした、ぬいぐるみのような柔らかい質感の物体。
 まん丸の輪郭にふっくらした頬っぺた。適度にデフォルメされた顔のパーツ。
 よくよく見れば、中々かわいい。
 マスコットのような造形をしていた。

 さらに言うと、その謎のマスコットの首の下には、頭と同じくらいの大きさの体がくっついていた。
 つまりは、二頭身のデフォルメボディということだ。

「いや……なにこれ?」

「……クラレッタお手製の、予備ボディだよ……」

「予備……ボディ?」

「そう……まあ、非常用っていうか、罰のためのボディなんだって……」

 困った様子のジーク大佐。
 すると、背後のクラレッタ大佐が、耐えきれないといった様子で笑い出した。

「申し訳ございませんでした、一木司令。そして、グーシュ皇女、騎士ミルシャ。驚かせようとしたのですが、少々やりすぎましたわ」

 そう言って深く頭を下げるクラレッタ大佐に、グーシュとミルシャは意味が分からないように惚けていた。

「えーと、クラレッタと言ったか? つまりは、ミラー大佐は無事なのか?」

 頭の上に ? クエスチョンマークを大量に浮かべてグーシュが聞くと、クラレッタ大佐は笑いながら頷いた。
 そして、笑いを堪えながら、デフォルメミラー大佐に声を掛けた。

「ミラー? いつまで黙っているの? さあ、グーシュ皇女に謝りなさいな?」

 そうクラレッタ大佐が声を掛けた瞬間、目を薄く開けたままだったデフォルメミラー大佐の目と口がゆっくりと動いた。
 一木とグーシュとミルシャが、びくりと体を震わせた。

「……なんでこんな事に……」

 深い絶望が籠った声だった。
 そんなデフォルメミラー大佐を、ジーク大佐が静かに床に降ろす。
 あまりにも細く短い脚だが、一応は自立可能なようだった。

 降り立ったデフォルメミラー大佐は、ポキュポキュと足音を立てて(いかなる仕組か、本当に聞こえた)グーシュとミルシャに近づくと、二人を見上げながら謝罪した。

「昨日は、大変申し訳ございませんでした……不出来なアンドロイドであるわたくし、ミラー大佐の所業を、お許しください……」

 死んだ目と口調でそう口にすると、デフォルメミラー大佐は頭を下げた。
 すると、大きすぎる頭の重さに負けて、まるででんぐり返しの様にコロンと一回転して、床に転がった。

「うぅ……身から出た錆とは言え、あんまりよ」

「何を言ってらっしゃるのかしら……要人に銃を向けて射殺しかけた者が、一時降格くらいで済むわけないでしょう? その人畜無害な身体でしばらく反省しなさいな」

 クラレッタ大佐の言葉に、ハタと一木は気が付いた。
 実のところ、一木としてもミラー大佐への処分は、グーシュの言葉に甘えたものだとは思っていたのだ。

 とはいえ、ミラー大佐に厳しい処分を下す勇気も、余裕も一木には無かった。
 そういった事を考えると、クラレッタ大佐は一木の尻ぬぐいをしてくれたとも言える。

「一木司令、別にクラレッタは深い事考えずにあれやってるから、変な感謝はしなくていいよ」

 まるで一木の心を読んだように言うジーク大佐に、一木はモノアイを向けた。

 そして、続いて優雅に佇む、クラレッタ大佐にモノアイを向けた。

 素手で参謀型SSを破壊し、ぬいぐるみのようなボディに詰め込む。
 どっちにしろ、一筋縄ではいかないSSのようだ。

「こ、こら、やめなさいってば!」

 すると、ミラー大佐の悲鳴が聞こえた。
 見ると、グーシュがデフォルメミラー大佐を抱きかかえていた。

「か……可愛いな! ははっ! なんだこれは一木! これが昨日のミラー大佐なのか? すごいな、これは……あ~、コロコロしてて可愛い……頬っぺたもモチモチだ」

「で、殿下ズルいですよ! 僕にも抱っこさせてください」

 グーシュとミルシャに挟まれるようにしてもみくちゃにされていたデフォルメミラー大佐は、しばらく短い手足をジタバタさせていたが、やがて諦めたのかおとなしく抱かれていた。

「あらあら、ちょうどいいわ。どうかしら一木司令? あのままミラーの事は、グーシュ皇女にお任せしては?」

「……」

 ミラー大佐が嫌そうであれば、やめさせようかと思った一木だったが、よくよく見ると、グーシュ達に抱っこされるミラー大佐はまんざらでもなさそうだ。

(人間が、本質的に好き……か)

 クラレッタ大佐の言う通り罰になり、グーシュ達への謝罪にもなる。
 そのうえで、ハンス大佐への思いを抱えて人間を避けて来たミラー大佐にとっては、異世界人とはいえ、いい人間との触れ合いになる。

 一木はそう思った。

「ミラー大佐。どうだ? ハンス大佐の件でダメそうならやめるが?」

 一木の言葉に、短く小さな手でミルシャの胸にしがみついていたミラー大佐は、小さく首を振った。

「……大丈夫」

「本当にか?」

「うん……」

 なおも心配していた一木だったが、地球人のハンス大佐や一木と、異世界人のグーシュ達ではカテゴリーが違うのかもしれない。
 アンドロイドは一見すると分からないが、接する対象のカテゴリーを厳密に区分しているのだ。
 なにより、本人がいいというのならと、一木は自分を納得させた。

『弘和君……ミラー大佐に相手されなくなるのが寂しいんですか?』

『ち、違うから……』

 マナからの無線通信によるツッコミを不器用に躱すと、一木はバタついた状況を仕切り直すべく、少し大きく声を出した。

「じゃあ、落ち着いた所で、いい時間だし会議を始めようか! マナ、殺大佐とシャルル大佐を呼んできて……」

 一木がそこまで言った所で、廊下を激しく走る足音が聞こえて来た。
 すると、クラレッタ大佐がしまった、という表情を浮かべた。

「なんだ? どうしたんだ?」

「申し訳ございません……あの二人に通信を入れるのを忘れていましたわ……」

 クラレッタ大佐がそこまで言った所で、殺大佐とシャルル大佐が部屋に飛び込んできた。
 
 同時に、慌てた様子で話し始める二人。
 案の定、大破してコアユニットを抜き取られたミラー大佐のボディを見つけて、通信を入れる余裕もなくして走り込んで来たようだった。

 結局、状況説明のために、再びグダグダな時間が過ぎていくのだった。
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