地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

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第四章 皇女様の帰還

第10話-1 クラレッタ内務参謀

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 太陽が黄色い。
 目覚めた一木が最初に抱いた感想はそれだった。

 そういった行為をしすぎた時、そのように見えるというある種の俗説だったが、まさか仮想空間の太陽でもそのように見えるとは思わなかった。

 そんな状態で起床した一木は、かろうじで二度寝の誘惑をはねのけると、やけに艶々として血色のいいマナに朝食を用意してもらった。
 そうして一緒に炊き立てのご飯とみそ汁、目玉焼きの朝食を仮想空間で食べると、現実空間でマナにブドウ糖を注入してもらい、部屋を後にした。

 時刻は朝八時。
 宿営地における一木の職務開始時刻だ。
 今日はこの後九時から、初めてグーシュをオブザーバーとして招いての会議が行われる。

 すなわち、晴れて現地協力者となったグーシュと共に、このルーリアト帝国を連邦加入条約に加盟させる具体的な工程を決めるのだ。

 八時半にはクラレッタ大佐もやってくる。
 グーシュが身支度を終えてくる前にあいさつを終えなければ。

 そんな段取りを考えながら、一木が会議室の扉を開くと、そこにはすでに席についている人影があった。

 腰まである金髪に、左右におさげにした髪を見事に縦巻きにロールした、いわゆるお嬢様の髪型の代名詞ともいえる縦ロール。
 異世界派遣軍の制服に、足首まであるふわりとしたロングスカートを穿き、本来地味なその制服を参謀モールや勲章で煌びやかに飾り立てた服装。

 最初の挨拶と業務連絡以来、長らく疎遠だった、クラレッタ内務参謀その人だった。
 一木が本来ここにいるはずの無いその姿に驚いていると、クラレッタ大佐は不敵に微笑みながら立ち上がり、スカートの両端を持ち上げながら、優雅に一礼した。

「予定より早い到着になり、驚かせて申し訳ございません。クラレッタ大佐、内務参謀兼外務参謀として、ルニ宿営地に赴任いたしました」

 思わぬクラレッタ大佐の存在と、その優雅な物腰に一瞬あっけにとられた一木だったが、背後に立つマナに、腰のあたりをコツンと叩かれると気を取り直した。
 部屋に入りクラレッタ大佐に近づくと、ややゆっくりとした動きで敬礼する。

「いや、構わない。よく来てくれたクラレッタ大佐。これからよろしく頼む」

 やや緊張したように一木が挨拶すると、クラレッタ大佐はにこやかに微笑んだ。
 まるで漫画から飛び出して来たようなその見た目に、一木は改めて驚いた。

「しかし早かったな? 今朝到着と聞いていたが?」

「ええ。ですが、少々やる事もありましたので、昨夜の定期便で宿営地に来ておりました」

 定期便とは、宿営地の補給物資や特注した物品、増援のSSを送り届ける輸送型カタクラフトによる航空輸送の事だ。
 確かにそれならば、わざわざ要人輸送の便を出さずに済む。

「そうだったのか。しかし、やる事とは? 急に決まった人事だったし、内務参謀がやるような事が本来の予定にあったかな?」

 一木の言う通り、内務参謀は宇宙空間でサーレハ司令の指揮で業務を行っていた。
 地上での内務参謀部の業務は、治安維持課課長兼憲兵隊隊長が中心となって行う予定だったのだ。

 それが急遽、昨日のミラー大佐の起こした事件により地上勤務となった事を考えると、地上で行う業務があるとは思えなかった。

 だが、一木の疑問に対し、クラレッタ大佐は不敵に微笑むと、手に持っていた扇子を広げて、口元を隠した。

「ああ、それでしたら……」

 と、クラレッタ大佐が言いかけた瞬間、一木の背後の扉が勢いよく開いた。

 驚いて一木が振り返ると、そこには息を切らしたグーシュと、目の下にいつもより濃い隈を浮かべて、死にそうな顔をしたミルシャが立っていた。

 なぜか、二人とも慌てた様子で、顔色は真っ青だった。
 入り口で数秒息を整えたグーシュは、そのまま勢いよく一木に走り寄ってきた。
 その後を、ふらつきながらミルシャが追ってくる。
 
「い、一木……お、お前……」

「で、殿下落ち着いてください……」

 グーシュに至っては声が震えていた。
 訳が分からず、一木は思わず後ずさった。

「な、なんだグーシュどうしたんだ? そんな剣幕で……」

「なんだもこうしたもあるか!」

 叫びながらグーシュは一木をポカポカと……いや、拳が砕けんばかりに叩きながら、涙まで流して責めだした。

 埒が明かずに、ミルシャの方を見る。
 すると、ミルシャは死にそうな顔で、かすれるように言った。

「お、起きて、部屋を出たら……み、ミラー大佐が……ジーク大佐に……」

 要領を得ないミルシャの言葉に、一木がモノアイをクルクルと回しながら困惑する。
 すると、少し落ち着いたのかグーシュが再び叫んだ。

「なぜ、なぜ殺した! わらわは気にしないと言ったではないか! それを……あんな惨い……」

 殺したという言葉に、一木とマナは驚き、絶句した。

「殺した……って、だ、誰が……」

「ミラー大佐だ! わらわ達が部屋を出たら……ジーク大佐が……ミラー大佐の、首を抱えて歩いていたのだ……なぜ……あんな……」

 グーシュの言葉に一木は衝撃を受けた。
 昨夜、見舞いで話した時のミラー大佐の様子が脳裏をよぎる。
 これからは、公私を分けて一木と接すると……ハンス大佐への思いを残したまま、一木とやっていくといっていた、姿がよぎる。

「あらあら……驚かせようと思いましたのに……鉢合わせとは間の悪い」

 呆然としていた一木は、背後にいるクラレッタ大佐の言葉を聞いて、怒りと困惑のまま振り向いた。
 クラレッタ大佐は、悪びれもせず扇子で口元を隠したまま、可笑しくてたまらないと言った風に笑っていた。

「クラレッタ大佐……ミラー大佐に、何をした」

 一木は、自分でも激しい憎悪が籠っている事を自覚したまま、言葉を発した。
 だが、クラレッタ大佐の表情は変わらない。

「ああ、ミラーなら……昨日の事件の責任を取らせましたの……ええ、不出来な末妹には、きちんと責任を取らせないといけませんもの……」

「その事は、もうすでにサーレハ司令と話が付いている! それなのに……」

「とは言いましても……皇女様へのケジメもありますし……やってしまった事ですから……」

 クラレッタ大佐がそこまで言った時、再び会議室の扉が開いた。
 クラレッタ大佐を睨みつける一同がそちらをむくと、そこにはジーク大佐が立っていた。
 片手には、抱えるようにして人間の頭ほどの大きさの丸いものを抱えていた。

 ミラー大佐の首だった。

 思わず絶句する一木達に、クラレッタ大佐が笑いながら言った。

「わたくし、少々折檻をやりすぎてしまいまして、このザマですのよ?」

 あまりにも冷たい、沈黙が訪れた。
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