姉はすべてを支配する。さればわれらも姉に従おう。

さいきごそ

文字の大きさ
65 / 126
年上のひと

親友Ⅲ

しおりを挟む
 本音をいえばシーナとふたりきりになりたかったけれど、貰い泣きした挙句にまるで自分のことのように落ち込んでいるティナを省くというのはさすがに酷というものだろう。
 店の中だと不測の事態・・・・・になったとき困るので、見通しのいい公園で話を聞くことにした。
 途中、コンビニで調達した飲み物を各々手にして、ベンチに陣取る。
 シーナが自発的に話すまで待つつもりであった。仮に何も話さなくても、それはそれでよかった。
「……昨日」
 シーナは500ミリリットルのミネラルウォーターをひと口飲んだ後、静かに、時折り自分を落ち着かせるように会話を中断しながら語った。
 昨晩、自宅近くのコンビニへ向かう途中、公園の噴水前で一ナナギと女性が抱き会ってる場面に遭遇したのだという。シーナはコンビニに行く際、問題の公園をショートカットとして使っているのは知ってはいた。ただ、シーナには夜の公園――特に今頃の時期――は何者が潜んでいるかしれないから、面倒でも通りを使って行くように普段からいってはいるのだけれど、今回は別の意味での危険に遭遇したカタチになったようだ。
「一さんもやるな」
 ティナがそうつぶやいたのを聞き逃さなかったけれど、あえてスルーした。ティナからすれば別に衝撃的でもないのだろうけれど、シーナはそうもいかないだろう。
「聞き間違いじゃなかったら、その……赤ちゃんとか妊娠とか、そんな会話してて」
 なんとも生臭い話になってきた。さすがのティナもここで勢いよく顔を上げる。
「いやいやいや、シーナ。それはないって」
 シーナはそう思いたいけれど、と口にすると力なくうな垂れた。
 ただ抱き合ってたのではなく、前後にそんな会話が交わされ、さらに一ナナギは相手の女性のお尻に手を這わせているように見えたという。パニックになるなという方が無理というものだ。今日一日、学校での放心状態から考えて、そんなショッキングな場面を見せられた直後のシーナの気持ちを思うと胸が潰れそうになる。
「相手ってどんな感じの人なの」
「すごいミニスカートだったよ。下着が見えそうなくらいの」
 微妙に噛み合っていない親友同士の会話に吹き出しそうになる。
「……そうじゃなくって、私等と同じくらいの人なのか年上なのか、そういうこと」
 ティナの言葉にシーナが躊躇いを見せる。
「まさか知り合い?」
 その変化はティナも察したらしい。カップのカフェラテをベンチに置くと、食い入るようにシーナを見つめる。
「……あ、あそこの、一さんがアルバイトをしているお店でよく見かける人」
「同僚かー!」
 天を仰ぐようにティナが仰け反ってみせる。安堵か絶望か、知り合って三年ちょっとの巨乳とエキゾチックな顔立ちが自慢の親友だけれど、その心までは読めない。
「確かにあそこは若い女の人けっこういるもんなあ。一さんみたいな若くてかっこいい男子がいれば誘惑されちゃうだろうし納得だわ」
 ……いやいや、納得をするしないじゃ解決したことにならないんだって。ティナはそこのところ分かってるのだろうか。
「けっきょく一さんとその同僚の……ねえ、その人って学生なの?」
「たぶん違うと思うよ。大人の女性って感じがするもん」
 ティナともども近所のシーナほどではないにしろ、伯父さんが貸している土地ということは抜きにしてもあの店はたまに利用してはいる。だいたいなら、学生じゃない大人の女性従業員は特定できる。
「ねえシーナ。その人って御希衛おきえ町にあるファミリーレストランで働いてる人じゃない?」
「……う、うん」
「え~、誰よ誰よ」
 頷くシーナに取り残されたカタチのティナが勝手に話を進めるなと割って入ってくる。
「図書館近くの公園手前にあるコンビニでも働いているよね?」
「……ああ、そういえば。うん、あの人、よく見る」
「だ、か、ら、誰よって!」
 痺れを切らしたティナにシーナがお母さんみたいな口調で懇切丁寧に解説する。多少の余裕を取り戻したのか、シーナの表情は明るかった。これを狙っての憤慨だとすればティナもなかなかの策士である。
「あー、あの人か。いかにも仕事好きって感じがするよねえ。口元のほくろが超エロいし、一さんもあれにやられたのかー」
 せっかくの笑顔がシーナの貌から一瞬で消え去る。やっぱりシーナをリラックスさせる意味での演技というわけではなかったらしい。デリカシーのないティナを肘で軽く小突くと、シーナに向き直る。
「シーナはどうしたい?」
 私の問いかけにシーナは一瞬、目を見開くと、あとは黙ってしまった。
 平日の夕方の公園はウォーキングやらジョギング、犬の散歩をする人がちらほら見える意以外は閑散としているといっていいレベル。女子高生はよくも悪くも目立ってしまう。
「問題は」
 沈黙を破ったのはティナ。
「本当にやっちゃったのか、未遂なのか。やっちゃったとして、結果、デキちゃって責任がどうこうで揉めていたのかそこをはっきりさせないと」
 確かにそうだけど、ただでさえウブなのにさらに傷心しているシーナの前であまり猥雑で刺激的なな発言は控えるべきだと思うんだけど。
「でも、まあ」
 カップのカフェラテを片手に立ち上がったティナはずずっと大きく啜ると、シーナに笑いかけた。
「一さんに限ってそれはないんじゃないかね。彼、シーナ並にウブだし。まだ数えるくらいしか会ってないし、どういう人なのかクシナから聞いた話でしか正直、分からないけれど、オトコを見る目は同世代に比べたらあるって自負はしてる。一さんはそんなことできるオトコじゃない。おそらく、一方的に迫られている途中だったと見るべきだと思うわけだよ」
 演劇で観客に向かって訴えかけるかのような仰々しくも頼もしい発言はただシーナを励ますつもりでその場限りの発言をしているのではないという、嘘偽りのなさの証みたいなものなのだろう。
「……なんだかお腹空いちゃったね」
 ティナは本来シーナが昼休みに食べる予定であったサンドイッチをかばんから出してむしゃむしゃと食べ始めた。ずっと押し込んでいたためになんとも歪なカタチになっている。
 一ナナギが女性と抱き合っていたという話の真相は概ねティナと同じ考えであった。伊達にオトコ遍歴を重ねてはいないなと感心する。
 大見得を切ったティナがいい精神安定剤になったのか、シーナは朝から漂わせていた陰鬱さは微塵も感じさせることはなく、普段通りの笑顔を取り戻していた。
 ティナとふたりでシーナを見送ったあと、あの人ってさとつぶやく声が聞こえた。
「例の一さんと抱き合っていた人、指輪してなかったっけ」
 そう、そこは私も引っかかっていた。ファミリーレストランや一ナナギのアルバイト先では付けていなかったけど、コンビニで何度か見かけた際、左手薬指にはプラチナのリングが光っていた。
「そういう関係にはないって思うけどさ、相手が相手だし、やったやらない以前にけっこうやばくない?」
 知ってしまった以上、知らん振りはできない。何よりシーナのためだ。やばかろうとなんだろうともう後に引くつもりはなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...