姉はすべてを支配する。さればわれらも姉に従おう。

さいきごそ

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拳塔町に行くの巻

息抜

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 今回の旅行で俺たちに与えられただだっ広い三人部屋は今回不参加だった五月女と長話している五百旗頭のさわやかボイスに占領されていた。
 今、身体を横たえているいかにも堅牢で豪奢なベッドの心地のいい沈み具合はいいところを見せるつもりが、左衛門三郎のお嬢様いうところの末代まで語り継がれるような無様な醜態を晒すはめになった俺を慰めてくれている。
 五百旗頭との会話の端々から今日は瓊紅保で買い物をしたという五月女はなぜかナナミさんを苦手としていて、たまに居合わせても目を合わせないようにしているし、今回みたく事前にナナミさんがいると分かっている場合は姿を現さないなど徹底的に関わらないようにしていた。五十棲のようにくっつき回られるよりはいいが、あそこまで頑なだと妙な勘ぐりをいたくもなる。
「なあ、五月女ってなんでナナミさんが苦手なんだよ」
 ベッドから身体を起こすと、五十棲を見遣る。本来なら口も利きたくないが、相部屋だし、なによりナナミさんの水着姿を堪能できた余裕がらしくない気まぐれを起こさせていた。
「特に聞いたことはありませんなァ」
 五十棲は今日撮影しまくったナナミさんの写真をチェックしている。
「お前ら、仲いいんだろう。つき合いも長いんだし、知らないのかよ」
「単純に知り合った期間というだけなら、一氏の方が長いですぞ。何よりナナミ殿と姉弟なのですし、我輩よりも一氏に訊いた方がよいのではありませんか」
 それはとっくに訊いてる。ナギも知らないからお前に振ったんだろうが。
「ならば、五月女氏本人に訊くのがよいでしょうなァ」
 そういや、ナギが例の事件で休んでいたとき、あいつはあいつでかなりナギのこと心配していたな。
「どのみち五月女氏は何かやることがあるということでしたし、ナナミ殿のことは抜きにしてもおそらくは不参加だったと思いますぞ」
「なんだお前ら、仲違いでもしたか」
「何から何まで揃いも揃って趣味が同じというわけでもありませんからなァ。ヲタクを十把一絡げに捉えるのは一般人の悪い癖ですぞ、六反園氏ィ」
 カメラのモニタからそっと顔を上げると、神妙な顔で継ぐ。
「六反園氏が一氏としょっちゅう遊んでいるわけでもないのと一緒ですな」
 そういやそうだ。高等部に上がってからは休みの日は別々に遊ぶ方が多くなった気はする。交友関係が多様化するに従って、つき合いも変化していくのはしょうがないんだろう。こいつらだけじゃなく、俺だってナギに限らず、こうやってみんなでどこかに行くことはどんどんなくなっていくのかもしれない。
 しんみりした気持ちを振り払うように自販機で何か飲もうと部屋を出た。
 広めの自販機コーナーの真ん中にはソファーが二列に並べてあり、壁際にはぐるりとさまざまな自販機が囲むように並んでいる。
 コーナーの奥にはテーブルセットがあり、なぜか割り箸入れと薬味の小瓶があった。
 ソファーに見知った背中をみつけた。
「よう」
「あ、ロクちゃん」
 談笑していたシギヤと三苫ちゃんがこちらを向く。シギヤの着ているショートのオーバーオールは小中学校時代は好んで着ていた馴染みのものだ。けっこう際どい格好している一方でこういう子供っぽさも残っていることに妙な安心感を覚える。このぐらいが大人と子供の嗜好がせめぎ合う繊細な時期なのかもしれない。
 無邪気に手を振るシギヤの隣りで丁寧にアタマを下げる三苫ちゃんは相変わらずのミニスカにタンクトップという露出度の高い格好だった。もはや反則レベルの胸も相変わらずボリューミー。タンクトップの生地が悲鳴を上げてるようだ。
「三苫ちゃんは左衛門三郎のお嬢様たちと一緒じゃないのか」
「……い、いつも一緒というわけじゃないです」
「そうなの? ひょっとして今ごろ、お嬢様は就寝前の全身マッサージを三次にしてもらってるとか」
「……ミ、左衛門三郎さんはそういうことはしませんよ」
「ロクちゃん、テレビの観すぎだよ」
 ………お、おう。
「しかし、最近、ふたり仲いいよな」
「うん。三苫さんも食べ歩きが好きだから、よく情報交換してるんだよ。さっきもいっしょにホットサンドを食べたの」
 ホットサンド?
 シギヤの言葉にあらためて自販機群を見やると、なるほどドリンク類だけじゃなく、食い物系も充実している。胡散臭げなヒゲ親父のイラストがまぶしいハンバーガーや切り絵チックなパネルがいい味を出しているそばやうどん、シギヤたちが食したといういかにも昭和といった雰囲気を醸してる写真をパネルにあしらったサンド系、カップ麺にお菓子なんてのまである。
 こういう食い物の自販機はその昔、ドライブインとかで大活躍だったらしいが、コンビニ等の進出が進むにつれて淘汰されたと聞く。
 まだ地方に点在するこういう自販機を求めて物好きな暇人、もとい好事家が訪れたりするらしいが、興味のない人間からすれば酔狂以外の何ものでもない。
 聞けばそばも食べようかとふたりで話していたところらしい。
 なるほど、テーブルとその上のモノの意味が分かった。
 そういや三苫ちゃん、夕方にみんなで食べる前にシギヤと屋台でいろいろ食べたといってたが、けっこう食いしん坊なのだろうか。その栄養を享受しているかもしれない、けしからんほど豊満な胸に思わず目がいく。
「三苫さんのおっぱい、大きいよね」
「な、七ツ役さん……やだ」
 うつむき、真っ赤になる三苫ちゃんは本当にかわいい。つか、シギヤもおっぱい大きいとかストレートだな。
「ロクちゃん、じっと三苫さんのおっぱい見てたよ」
「えっ?」
「……あっ、い、いや」
 本当、シギヤはよくも悪くも素直だから、こういうときは困る。しかし、赤ら顔に胸を隠すような身をよじる定番ポーズの三苫ちゃんも、実にかわいい。
「ナギちゃんも一緒に来ればよかったのになあ」
 シギヤの声に反応したのは当然、三苫ちゃん。
 ホームでアツミさんから告げられたナギの不参加に気落ちする三苫ちゃんが甦る。それまではきっと遅れて来るのだと思っていたんだろう、改札口の方をちらちらと健気に何度も確認していただけに胸が締めつけられるようだった。
「ね、三苫さん」
「………は、はい」
 ごく自然に返答したとアピールするかのような三苫ちゃんが痛々しい。
「ああ、いたいた」
 声に振り返ると、ノースリーブのブラウスを着たアツミさんだった。見るからに清潔な白いブラウスに際どいダメージ仕様のデニムホットパンツの組み合わせが新鮮だった。夏の開放感が大人しい服装のイメージが強いアツミさんを大胆にさせているのかもしれない。
 アツミさんは迷うことなくいちごミルクを押す。
「シギヤちゃん、なかなか帰って来ないからどこに行ったのかと思っちゃった」
「ごめんなさい。三苫さんがいたからお話してました」
 ひと口飲んで、いちごミルクの缶を組み合わせた両手に持ったアツミさんは壁に寄り掛かるとシギヤたちをまぶしそうに見つめた。
「いいのよ、お友達と何気ないおしゃべりしているときがいちばん楽しい時期だもの」
「アツミさんは、違うんですか」
 皮肉のつもりではなかった。ただ、ちょっぴりさみしげな表情が気になった。
「うーん、社会人になっちゃうと、どうしても、ね。今回はたまたま長期の休みがお互いに取れたけど、ナナミとは休みの日が合うこと自体少ないし、もうひとり仲がよかった子もお母さんになるし、学生時代みたいにはいかないわね」
 考えたこともなかった今、謳歌しているはずの学生時代以降のことがリアルに突きつけられた気がした。もちろん、アツミさんには他意はないだろう。
「せっかくの旅行だったけど、今回はナギ君の都合が悪くて残念だったわね」
 シギヤも三苫ちゃんもさみしそうだけど、気のせいかアツミさんがいちばんナギの不参加に気落ちしているようだった。
「六反園君はナナミの水着姿をしっかり堪能できたのかしら」
「えっ、あっ、いや」
 ごまかすみたいなアツミさんの振りに戸惑ってると三苫ちゃんが控えめに、しかし羨望の眼差しをアツミさんに向けた。
「に、一さんのお姉さんとアツミさんはすごくスタイルがよくてうらやましいです」
「あら、私は三苫さんの素敵な胸がうらやましいわよ」
 同意。ミニマムボディにこの胸はすばらしい。
「……そ、そうですか?」
「ええ」
 窺うような三苫ちゃんに微笑みかけるアツミさんはいいお姉さんであった。
「五百旗頭君と五十棲君はお部屋?」
「はい。えっと、ナナミさんは」
 といいかけて、今、アツミさんとシギヤがここにいることに戦慄を覚える。それはつまり、今現在、部屋に残っているのはナナミさんと羽二生ということ。ナナミさんがレズ属性女とふたりっきりとかどんだけデンジャラスだよ。
「ああ、ナナミは出かけたわよ」
 泡を食ってる俺に浴びせられた発言は思いもよらないものだった。
「海の家のオウミさんだったかしら、あのセクシーな店員さんに呼ばれて」
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