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それからまた月日は流れ、蓮は高校三年生になり私は二十八歳になった。
「ねえ美哉、お見合いの話が来てるのよ。ちょっと会ってみない?」
唐突に母が釣書を持ってきた。
「ほら、美哉もそろそろ三十代が見えてきたじゃない? なのに彼氏の一人も連れて来たことがないし。このままほっといたら結婚なんてしそうも無いからね」
「だって母さん。私、知らない人と話すの苦手なんだもの。お見合いなんてその最たるものだわ」
「大丈夫よ。相手もきっとそんなタイプだからお見合いしようとしてるんじゃないの? 会うだけでも会ってみなさいよ。別に断ってもいいんだし、かしこまった形式じゃないから」
ほらほら、と釣書と写真を広げて見せる。
「この人、東京の〇〇大学出てるんですって。それから地元に戻って〇〇会社にお勤めでね。次男だからうちに婿養子になってくれるんじゃない? 顔も悪くないし、どう?」
確かに、ずっと地元にいたい私には最適な条件に思える。顔も、そんなに悪くない。というか、なんだか懐かしい感じがする顔だ。何故だろう?
「美哉の成人式の振袖写真を渡したらね、先方は凄く気に入ってくれて。ぜひ会いたいと言って下さってるのよ。ね、会ってみましょうよ」
「わかった。会ってみる。でも結婚するかどうかは別よ」
「もちろんよ。気に入れば、でいいんだから。じゃあ返事しておくわね」
母はすっかりご機嫌だった。今まであまり結婚をせっつかれた事はなかったが、やはり気にしていたんだろう。
(結婚かぁ……他人と一緒に生活するのってどうなんだろう? そもそも、誰かと付き合ったこともない私なのに、いきなり結婚話なんて荷が重いわ)
それでも、その日はやって来た。お見合いのためちょっと高いワンピースに身を包み、化粧もいつもよりは濃いめにした。
「あらあ、やっぱりいいじゃない。いつも美哉は地味にしてるから勿体ないと思ってたのよね。せっかくだからコンタクトにしておけばよかったわねえ。そのワンピースに眼鏡はなんだか野暮ったいわ」
「いいのよ、眼鏡で。もう私の顔の一部なんだから」
普段より高いヒールを履き玄関を出ると、ちょうど家から出てきた蓮と出会った。
「あら蓮くん。お出掛け?」
「あ、はい。ちょっと映画を観に。それよりどしたの、美哉。お洒落して」
「この子ね、今からお見合いなのよ」
「お見合い?」
「そう。相手がすごく気に入っててくれててねえ。美哉さえその気になれば結婚するかもしれないわ」
「もう、母さんたら。いいから、早く行きましょう」
「はいはい。じゃあね、蓮くん」
私は蓮の顔が何故か見れず、母の背中を押して駅への道を急いだ。
待ち合わせのホテルのコーヒールームには相手の男性と母親、そして仲人協会の人が和やかに談笑しながら待っていた。
「ごめんなさい、遅くなって」
「いえいえ、神野さん。私たちが早く着き過ぎちゃったんだから気になさらないで」
仲人協会の人は山本と名乗り、母より少し歳上のようだ。既に母とは面識があるようで、流れるようにスムーズに紹介され、そのまま五人で話を続けた。私以外の女性陣は皆喋り好きで、話題が途切れることはない。おかげで気がつけば私と男性とは何一つ話していなかった。
「あらあら、もうこんな時間。では、そろそろ私たちは退散致しましょう。光一さん、美哉さん、ホテルのお庭でも散策して。その後場所を移すならご自由に。ゆっくりとお話ししてね」
母たちはまだ賑やかに喋りながら店を後にした。
(よくあれだけ喋ることがあるものね……)
半ば呆れながら見送っていると、その男性、大川光一が呟いた。
「まったく、よくあれだけ喋ることがあるもんだ」
私は思わず彼の顔を見つめ、吹き出してしまった。
「あれ、僕何かおかしな事言いましたか」
「いえ、私も同じことを思っていたので」
光一も私の目を見て笑い出した。
「良かった、なんだか気が合いそうですね。実は僕、美哉さんの写真を見て一目惚れしちゃったんですよ。お見合いなんてずっと断ってきたのに、この人には絶対に会わなくちゃ、と思って」
「あ……ありがとうございます。私なんかでいいんですか?」
「もちろん! お会いして、物静かな雰囲気にますます惹かれています。ぜひ、良い返事をしてもらいたいと思ってますよ」
とりあえず場所を移そうと光一は提案し、庭から出口へ向かおうとした時、蓮が飛び出して来た。
「ねえ美哉、お見合いの話が来てるのよ。ちょっと会ってみない?」
唐突に母が釣書を持ってきた。
「ほら、美哉もそろそろ三十代が見えてきたじゃない? なのに彼氏の一人も連れて来たことがないし。このままほっといたら結婚なんてしそうも無いからね」
「だって母さん。私、知らない人と話すの苦手なんだもの。お見合いなんてその最たるものだわ」
「大丈夫よ。相手もきっとそんなタイプだからお見合いしようとしてるんじゃないの? 会うだけでも会ってみなさいよ。別に断ってもいいんだし、かしこまった形式じゃないから」
ほらほら、と釣書と写真を広げて見せる。
「この人、東京の〇〇大学出てるんですって。それから地元に戻って〇〇会社にお勤めでね。次男だからうちに婿養子になってくれるんじゃない? 顔も悪くないし、どう?」
確かに、ずっと地元にいたい私には最適な条件に思える。顔も、そんなに悪くない。というか、なんだか懐かしい感じがする顔だ。何故だろう?
「美哉の成人式の振袖写真を渡したらね、先方は凄く気に入ってくれて。ぜひ会いたいと言って下さってるのよ。ね、会ってみましょうよ」
「わかった。会ってみる。でも結婚するかどうかは別よ」
「もちろんよ。気に入れば、でいいんだから。じゃあ返事しておくわね」
母はすっかりご機嫌だった。今まであまり結婚をせっつかれた事はなかったが、やはり気にしていたんだろう。
(結婚かぁ……他人と一緒に生活するのってどうなんだろう? そもそも、誰かと付き合ったこともない私なのに、いきなり結婚話なんて荷が重いわ)
それでも、その日はやって来た。お見合いのためちょっと高いワンピースに身を包み、化粧もいつもよりは濃いめにした。
「あらあ、やっぱりいいじゃない。いつも美哉は地味にしてるから勿体ないと思ってたのよね。せっかくだからコンタクトにしておけばよかったわねえ。そのワンピースに眼鏡はなんだか野暮ったいわ」
「いいのよ、眼鏡で。もう私の顔の一部なんだから」
普段より高いヒールを履き玄関を出ると、ちょうど家から出てきた蓮と出会った。
「あら蓮くん。お出掛け?」
「あ、はい。ちょっと映画を観に。それよりどしたの、美哉。お洒落して」
「この子ね、今からお見合いなのよ」
「お見合い?」
「そう。相手がすごく気に入っててくれててねえ。美哉さえその気になれば結婚するかもしれないわ」
「もう、母さんたら。いいから、早く行きましょう」
「はいはい。じゃあね、蓮くん」
私は蓮の顔が何故か見れず、母の背中を押して駅への道を急いだ。
待ち合わせのホテルのコーヒールームには相手の男性と母親、そして仲人協会の人が和やかに談笑しながら待っていた。
「ごめんなさい、遅くなって」
「いえいえ、神野さん。私たちが早く着き過ぎちゃったんだから気になさらないで」
仲人協会の人は山本と名乗り、母より少し歳上のようだ。既に母とは面識があるようで、流れるようにスムーズに紹介され、そのまま五人で話を続けた。私以外の女性陣は皆喋り好きで、話題が途切れることはない。おかげで気がつけば私と男性とは何一つ話していなかった。
「あらあら、もうこんな時間。では、そろそろ私たちは退散致しましょう。光一さん、美哉さん、ホテルのお庭でも散策して。その後場所を移すならご自由に。ゆっくりとお話ししてね」
母たちはまだ賑やかに喋りながら店を後にした。
(よくあれだけ喋ることがあるものね……)
半ば呆れながら見送っていると、その男性、大川光一が呟いた。
「まったく、よくあれだけ喋ることがあるもんだ」
私は思わず彼の顔を見つめ、吹き出してしまった。
「あれ、僕何かおかしな事言いましたか」
「いえ、私も同じことを思っていたので」
光一も私の目を見て笑い出した。
「良かった、なんだか気が合いそうですね。実は僕、美哉さんの写真を見て一目惚れしちゃったんですよ。お見合いなんてずっと断ってきたのに、この人には絶対に会わなくちゃ、と思って」
「あ……ありがとうございます。私なんかでいいんですか?」
「もちろん! お会いして、物静かな雰囲気にますます惹かれています。ぜひ、良い返事をしてもらいたいと思ってますよ」
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