もう一度あなたの手を取れたなら

月(ユエ)/久瀬まりか

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それから紆余曲折はありながらも私たちは婚姻届を出し、蓮が大学に行く間私は仕事を続けた。とりあえず住む場所は安積家にしたが、隣という利点を生かして両方を行ったり来たりして過ごしていた。
 そして四年後、蓮は就職し、ようやく私たちは実家を出て二人で住むアパートを借りた。二人きりの新婚生活がようやく始まったのだ。その時蓮は二十三歳、私は三十三歳になっていた。

 十歳の歳の差はもちろん感じることもあるけれど、蓮はとても私を大切にしてくれる。前世でお春を失った後悔を、私を大事にすることで無くしていこうとしているみたいだ。


 そうして幸せに過ごしていたある日、私は夢を見た。



 家が……平屋の家が燃えている。そして目の前にはちょんまげに着物姿の蓮と同じ顔をした男が、血のついた刃物を持って微笑んでいる。私の足元には血塗れの……大川光一と同じ顔の男が倒れていた。

「きゃあーーーーっ!!」

 目の前で勘太が人殺しをしたショックで『お春』は泣き叫んだ。

「お春、こっちへ来い! 家が焼け落ちてしまう!」

「嫌よ、勘太! あんたが怖い。この人に復讐するために大罪の火付けを犯し、しかも刃物で殺すなんて……怖い! 一緒には行けない!」

「何を言うんだお春! 俺たちが一緒になるにはもうこれしかないんだ。二人で逃げよう! さあ、こっちへ! 逃げられなくなっちまう」

「イヤ……怖い……」

「早く! お春、早くするんだ!」

 お春はようやく、勘太の方へ震える手を伸ばした。その瞬間。

「お春ーーーー!」

 柱が倒れ、屋根が焼け落ち、そのままお春の意識はなくなった。


「……ハッ!」

 私は飛び起きた。全身にビッショリと汗をかいている。蓮は横でグッスリと寝ていた。

(思い出した……)

 そうだ。あの火事の火は、勘太が付けたのだ。そして逃げ出そうとした夫を包丁で刺し殺し、私を連れて逃げようとした。

(でも私は、怖くて。ためらっているうちに、焼け落ちた柱で動けなくなり死んだ。私を失った勘太は、それから十年間生きていたのね。蓮は、その事を……自分が人を殺した事を思い出しているんだろうか?)

 安らかに寝ている蓮の髪を、起こさぬように優しく撫でた。

(覚えていても、いなくても。私は蓮を愛してる。前世で取ることが出来なかったあの人の手を……私はもう離したりしない)

 いつの間にか蓮が目を覚ましていた。

「おはよ、美哉」

「……おはよう、蓮」

 私たちはそっとキスを交わした。

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